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誰が為の日々  作者: 織田
3/15

かくれんぼ







 森厳(しんげん)とした神社。遠くの方で声がする。


「もーういいかーい?」


 わたしはごそごそと忙しなく周囲を整えながら、「まーだだよ」と呟く。するとほとんど間もなく、また同じ声が辺りに響く。それからしばらく静かになり、ふたたびお馴染(なじ)みの掛け声が発せられると、今度は別の言葉になった。


「みゆちゃーん! どこー?」


 かくれんぼだというのに、その問いかけは無粋ではなかろうか。胸の内で思うも、わたしはその微笑ましい鬼の少年を、茂みからあたたかく見守っていた。

 ここから見当違いの方へ走っていく。手水舎の裏をみると、今度は参道から()れた樹の陰に。唸っているのか、顎に手をやりながら拝殿の方へ。


 わたしはそこから少し外れた、末社に続く飛び石脇の茂みに身を隠している。ここにくるには拝殿前で吽形(うんぎょう)の狛犬へ方向転換し、木々の間へ足を踏み入れなくてはならない。その道程にあるのが落ち葉で隠れた飛び石。

 まあ隠れたといっても、大したカモフラージュでもない。それによくここで遊ぶあの少年なら、ここに来るまでもう時間の問題であろう。


 案の定、拝殿前から逸れてこちらにやって来た。


 落ち葉を踏み、ぱきりと枝を踏み折る乾いた音。近づく気配にわたしの心臓はどきどきと脈打つ。息が荒くなっている気がする。


「みゆちゃーん!」


 都合よく、少年は声を発した。わたしはおおよその距離を掴み、また心臓の鼓動を速くする。

 さて、そろそろ移動しようか。

 そう思った瞬間、わたしの足元でかさりと音がした。落ち葉を握り締めた(・・・・・)ような音だ。

 まずい、と察したときにはすでにもう遅かった。


「みゆちゃん?」


 ああ見つかった。当然のことだ、茂みと細い樹を隔てただけなのだから、距離にしてほんの数メートルもない。


「またそこー? みゆちゃんそこに隠れてばっかりだね!」


 そうなのだ、みゆちゃんはいつもここに隠れてる。

 わたしが頷いていると、幼い足音が一気に近づいた。歩幅の小さな、頼りない足音……。


「みゆちゃんみーつけ――」


 樹の陰から茂みの中へ、勢いよく顔を覗きこませた少年。必然、わたしと目が合う。

 きょとんと、濡れた目を丸くした愛らしい表情。口をぽかんと開け数秒の空白、やがて視線は何気なく外され、わたしの足元に注がれた。


「……みゆちゃん……?」


 名を呼ばれたみゆちゃんは返事をしない。だから代わりに、わたしが答えてあげた。


「まーだだよって、言ったのに」




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