ぼくの夏休みの宿題
日記
『ぼくの夏休みにあった出来事』
五年一組 飛田 正文
八月二十九日
夏休みの宿題はお盆の前に終わらせたけど、日記があることを忘れてた。でも絵日記はうそを書いちゃだめだって先生が言っていたので、夏休みの終わりくらいに思い出しながら書くほうがいいと思います。
八月二十八日
この日は、コウセイくんと遊んだ。朝早くに家の近くの神社で待ち合わせて、話をした。ぼくが神様の話をすると、コウセイくんは「神様はいるんだね」と言った。いつも笑っているコウセイくんだけど、そのときは少し元気がなかった。だからぼくが「元気出しなよ」と言った。そのあとに「神様に頼む?」と聞くと、コウセイくんは笑って「頼めないよ」と言った。やっぱり、元気がなかった。でもぼくは凄く元気だった。もうどこも痛くなかった。
八月二十五日
警察が家に来た。すごく恐い顔のおじさんと、お兄ちゃんっぽい若い男の人だった。お母さんと話をしていた。そのあと、お母さんがぼくを呼んで、警察の人たちと話をした。おじさんが目をぎょろりと動かしてぼくを見ると、「キミは八日前、何をしていたかな」と言った。ぼくは怖くなってだまっていると、横に座っていたお母さんが優しい声で「正直に言いなさい」と言った。なのでぼくは「コウセイくんと近くの公園で遊んでた」と言った。でもぼくはその日、コウセイくんと遊んでいなくて、神様にお願いをしていた。でもそれを言うとよくないと思ったので、言わなかった。
八月二十三日
夜、リビングでお母さんが泣いていた。綺麗になった床に寝転がって、天井を見ながら泣いていた。ぼくがそこに近づくと、お母さんがぼくに気づいて、「ごめんね」と謝った。ぼくは笑いかけて、「いいよ」と言った。するとお母さんは起き上がり、ぼくの体を触った。「ケガはだいぶなくなったね」と言った。ぼくはそんな優しいお母さんは好きだった。
八月十八日
朝、お父さんがリビングの床で寝ていた。でも寝ていたんじゃなくて、お父さんは血で赤くなって死んでいた。警察がいっぱい家に来た。かっこよかったけど、その中に神様はいなかった。でも、神様はいたんだとわかって、ぼくは嬉しくなった。いまから探しにいこうと思ったら、お母さんと警察の人と一緒にパトカーに乗った。はじめて乗ったパトカーは、プレステの新品のゲームのデイスクのにおいがした。
八月十七日
ぼくは神社でお願いをした。この神社で神様にお願いをすると、その願いが叶うらしい。コウセイくんが言っていた。だからぼくはここで昨日コウセイくんにも話したお願いを自分の中でもう一度言った。そしたら、急に風が吹いた。たぶんたまたまかもしれないけれど、ぼくはいまだにあれは神様なんじゃないかと思っている。神様がぼくのお願い事を受け取ってくれたのだと思っている。ぼくは次の日が楽しみになった。でもその日は神社でコウセイくんと遊ぶ約束をしていたのに、コウセイくんは来てくれなかったので、少し残念だった。
八月十六日
この日はコウセイくんと遊んだ。いつものように神社で待ち合わせて、二人で鬼ごっこやセミ捕りをした。夕方になると、コウセイくんと、学校の先生のことやほかの友達のことの話をした。それからふたりのお父さんとお母さんの話にもなってたとき、コウセイくんはぼくの方を見て、「大丈夫か」と言った。ぼくはコウセイくんに心配されたことが嬉しくなって、強がりを言った。でもすぐにぼくは、それがかっこ悪くなって、「お父さんが嫌い」と言った。そしたらコウセイくんが「神様に頼んでみよっか」と言った。だからぼくは大声で「お父さん消えろ」と言った。でも大声を出してすぐに恥ずかしくなって、「やっぱりいまのうそ」と言った。コウセイくんは笑っていた。うでと足を蚊にかまれて痒かった。
八月十五日
コウセイくんと遊んだ。コウセイくんは神社でお願いをすると、それが叶うと言う話を聞かせてくれた。すごくおもしろいと思った。コウセイくんはぼくのことを見て「おまえはないのか」と言った。「そんなにお父さんに殴られたりして痛くない?」と言ったので、ぼくは笑ってごまかした。でもコウセイくんは笑ってくれなくて、「もしお願いがあったら、おれがいる前で声に出して言いなよ」と言った。ぼくはうなずいた。