第67話 【街の人達】
「レイ君、いきなり目を瞑れって言ったけどもう大丈夫?」
「ああ、うんもう大丈夫だよ。ごめんね、いきなり目を瞑ったまま歩かせて」
学園の門で、変な奴らに絡まれてから5分位歩いて王都の町中に入ったところで、シズクに目を瞑るのを止めさせ今迄目を瞑っていたので手を繋いでいたが手を離した。
「あの、何でいきなり目を瞑れなんて言ったの?」
「んっ?いや、目の前に変質者が出たからシズクには見せられないと思ってね。ごめんね、何も言わず目を瞑れなんて言って」
「ううん、レイ君が私に見せないためにやったんならいいよ。それより、レイ君学園長と何を話したの?」
「ああ、俺が邪竜討伐したのは知ってるよね?あれの件で少し聞かれただけだよ」
本当は、俺の正体が転生者かどうか確認の事だったのだがシズクには関係ない事だし、言うとしてももう少し後だろう。俺は、そんな事を考えながら学園から離れ出店が並ぶ商店街に着いた。
「おっ、レイ坊ちゃんこの間言っていた野菜取り寄せておいたよ」
「そう、なら今買うよ。いつも、ありがとうおっちゃん」
「レイちゃん、この間教えて貰った魚料理主人に好評だったわ~」
「それは、良かった。また今度新しい料理教えるよ」
「「「レイ~、【ウォーターボール】!」」」
「うわっぷ、こらっ!街で魔法は放つなって約束したろ。約束を守れないなら、もう魔法は教えないぞ」
「「「ごめんなさい、レイ兄ちゃ~ん!」」」
いつも、お世話になっている八百屋のおっちゃん、手料理を磨きたい新婚のお姉さん、学校には通えないが魔法の才能がある3人組の孤児達が商店街を歩く俺の周りには、この街で仲良くなった人達が寄って来た。
「おや、レイ坊ちゃん隣に居るのは彼女かい?やるねえ、レイ坊ちゃん」
「ち、ちがうわい」
「「「え~、でもさっき手を繋いでるの見たよー」」」
「見て、見てたのかよ。だが、違うもんは違うぞ、なっ、シズク」
「う、うん、まだ彼女じゃありません…」
「うふふ、『まだ』ねぇ~、レイちゃん女の子は早めに取らないとほかの子にとられちゃうわよ」
新婚のお姉さんは、おれにそう耳打ちした。俺は、顔が赤くなり「もう、行くから!おっちゃんまた今度来るからそれまで野菜は取っててね。さっ、行こうシズク」と言って俺はシズクの手を取り速足で家を目指した。
「ん~?レイか、久しぶりだな~」
「あっ、ディッズさん最近見なかったんですけど何処かに行ってたんですか?」
「ああ、ちょっとパーティーメンバーが怪我してな少し遠い所に薬の原料を取りに行ってたんだよ。この後、調合士の所に行って薬を作ってくるんだよ」
「そうだったんですが、あの僕の力で良ければ後で回復魔法を掛けに行きましょうか?」
「おお、レイの回復魔法は効果抜群だから頼めるならしてくれ…ところで、レイ横に居る女の子は誰なんだ?ッ!もしかして、レイにも遂に彼女がッ?!」
「だぁ~、もうなんでみんなそうやって彼氏彼女にしたくなるの、シズクは友達だよ。ディートリアで友達になって俺がこっちに来るときに離ればなれになったけど、シズクも学園に入学しに来てたから今家まで案内してるんだよ」
「そうだったのか、それじゃ、俺は薬を作りに行ってくるわ。また、明日からギルドに居ると思うから、居たらそん時声をかけてくれ」
「ああ、分かった。じゃあね、ディッズさん」
俺がそう言うと、ディッズさんは「またな~」と言って調合屋がある方へと歩いて行った。俺達も、これ以上絡まれるのも面倒だと思い、早く家に着いてくれと思いながら速足で向かった。
…そして、俺は今自分の家の前に着いたのだが、そこは朝行く時とは全く違う外見になっていた。行く前は、庭に多少の庭園で木が生えているだけの我が家だった筈なのに、今は家よりはるかに高く育っている木、そして家を包み込んでいる蔓…
「…エルダぁぁ!!」
俺は、従魔魔法でエルダを呼びつけた。エルダは、家の屋根から飛び降り俺の前にスライディング土下座をした。
「これは、どういう事?」
「あの、えっと…遊びすぎました。」
「うん、何でこうなったのかな?」
「…ディー君達に頼まれました。」
エルダがそう言った瞬間、玄関の方でゴンッと何かが当たる音がした。
「ディー、マール居るなら出て来て、そうじゃないとこれ以上に俺の怒りのボルテージが上がるから」
「は、はい!」
ディーとマールは、玄関から急いできてエルダの横に正座をした。
「それで、どうして家がこうなっちゃたの?」
「あの…」
「あっ、えっと…」
ディーとマールに追求しようとしたが2人とも俺の顔を見て怖がり声が出せない様だった。俺は、未だ土下座のエルダに対し従魔魔法で強制的に何があったのかを問いただした。
「ディー君とマールちゃんが、私達の寝てる小屋に来てハンモックを見て「私達も寝てみたい~」と言ったので2人分のハンモックを作ろうとした時に誤って魔力を流し過ぎてしまい蔓が急速に成長して、あんな風になってしまいました…」
「…そうか、事故だったんだね。なら、仕方ないよ。エルダなら、あの蔓とか退かせるよね?」
「怒らないんですか?」
「事故なら、仕方ないよ。故意でやったのなら、今後一切俺が作った料理・お菓子禁止をしようとおもったけど、事故なら仕方ないよ」
「き、禁止ッ!」
「うん、でも事故だったんでしょ?なら、いいよ。ほら、ディー達もいつまでも正座なんてしてたら服が汚れるから」
俺は、そう言って2人の手を引っ張り立たせた。その後、俺とシズクとディー達は家の中に入り、エルダは蔓や葉っぱを退かす作業に入った。まあ、ディー達には言ってないが、エルダはこれで2度目なので一週間お菓子禁止を命じた。泣きながら、作業をしていたが、ディー達には見せないように家の中に入った。




