第182話 【里・1】
里へと着いた俺達は、門兵から止められる事も無く無事に中に入る事が出来た。
里の中は、瓦屋根の家が建ち並び何となく、日本っぽさを感じる場所だった。
「それでは、このままジン様の所へご案内しますね」
チトセさんはそう言うと「こちらです」と言って、ジンさんが居る建物へと案内してくれた。
ジンさんが居る建物は、人通りが多かった所から大分離れた所にあった。
建物の中へ入ると、チトセさんはジンさんが居る部屋へと案内してくれた。
「ジン様、レイディア様をお連れしました」
「分かった。入ってよいぞ」
部屋の中からジンさんの声が聞こえ、俺達は扉を開けて中に入った。
部屋の中には俺達だけで、チトセさんは案内を終えたので部屋に入らず「また会いましょう」と言って去って行った。
「数日振りじゃな、レイ君」
ジンさんは優しい口調でそう俺を出迎えると、座布団を用意してくれた。
「ありがとうございます。……それにしても、この里は昔の日本がそのまま来てるかってくらい、再現度が高いですね」
「そう言ってくれると儂も作った甲斐があるの……最初は本当に何もない場所じゃったが、作っていくうちに楽しくなっての気づいたらこんな里が出来上がって居たんじゃ」
ジンさんは、昔を思い出すかのようにそう言った。
それからジンさんに里の思い出を聞くと、嬉しそうに色んな話をしてくれた。
最初は、本当に何もない所から始めたジンさんは、仲間を集い、畑を作り家を作り、川から水を引いて田んぼを作ったり色んな事をしたらしい。
「凄いですね。機械とか無いですから、自分達の手でやったんですよね?」
「うむ、まあ機会が無い分この世界には魔法があったからのう。それに前世の知識もあったし、言う程難しくなかったの」
「そうなんですね。あっ、そう言えば一つ聞きたかったことがあるんですが、ここってジンさんの国の一部なんですか?」
「うむ、そうじゃよ。本国はもうちっと大きな場所にあるんじゃが、ここは主に獣人族が暮らす場所じゃよ。前にも話したじゃろ、権力争いで色々とあったと」
ジンさんの言葉に、俺は「聞きましたね」と返した。
するとジンさんは、木箱から地図を出して何処に国があるのか見せてくれた。
「儂等が今居るのは〝隠れ里・ヤマト〟という場所で森の中にある所じゃ、それでこの山の向こうにあるのが〝忍び里・ヤマト〟で、この場所にあるのが本国である〝武人国家・ヤマト〟じゃ」
「全部、ヤマトなんですね……」
「国王が儂じゃったからな。それに、隠れ里と忍び里に関しては、嫁に貰った狼族と魔人族の元故郷で、儂と婚姻後名前を変えたんじゃ」
そう説明された俺は、そう言えば目の前に居る人はハーレム持ちの人だった事を思い出した。
まあ、そのハーレムで色々と問題が起きたらしいので、羨ましいとは思わない。
それに今の話を聞いて、シズクの境遇が益々酷かったのが想像できる。
この里には獣人族しかいない、しかしシズクの故郷はこの場所だと言っていた。
「シズク、色々とあったんですね……」
「うむ、儂もあの子は可哀そうな子じゃと思って、他の子よりも様子を見ておるんじゃよ」
俺の言葉に空気が重くなり、少しの間無言が続いた。
それから少しして、話は修行についての話題になった。
「それと、レイ君の修行についてだけど、イアラ様から頼まれてちょっと難しい修行を用意しておるよ」
「えっ、ジンさんの修行って王都に居た時も大分きつかったんですけど……」
「王都じゃと、周りに迷惑も掛かるから少し抑えめでやっていたんじゃよ? この地は、儂の国の領土じゃからな遠慮などせずに思う存分修行に専念できるぞ」
ジンさんの言葉を聞き俺は内心、修行を付けて貰える嬉しさと厳しいんだろうなと不安感でいっぱいだった。
その後、里の案内をしてくれる事になった。
「おっ、この子達がレイ君の従魔のウルフの子とスライムの子かの?」
「はい、ウルフがラルでスライムがライです」
「ほほう。中々良く鍛えられている子達じゃな」
ジンさんは感心しながらそうラルとライの頭を撫でると、ラル達は誇らしげな顔をしてジンさんに撫でられていた。
それから里の大通りへと出て、ジンさんに里の中を案内してもらった。
道中、ジンさんとあった獣人族の人達はジンさんに頭を下げ、親しげに話しかけていた。
「慕われているんですね」
「まあ、そうじゃのう。こうして皆の者に慕われておるが、家族の問題を解決できない愚か者じゃがのう……」
ジンさんは寂しげにそう言い、俺は掛ける言葉に悩み「俺も頑張りますね」と声を掛けた。




