第178話A4 【従魔】
レイが長達を従魔に迎え、パーティーをしている頃、とある所で激しい激戦が行われていた。
場所は〝湖のダンジョン〟と呼ばれている湖の地下にあるダンジョンだ。
湖の下まで潜り潜入しなければいけたい点から、殆どの者がこのダンジョンに来る事は無い。
そんなダンジョンに、とある者達が挑んでいた。
「バズ! 避けろ!」
「はい、タブ様」
ダンジョンに挑んでいる者達の名は、タブとバズ。
以前、レイに手を出した事で実家を追い出されたタブと、タブに付いて来た執事のバズだった。
「我の敵を切り刻め【風の暴風】!」
接近戦を得意とするバズか魔物を集め、魔法使いのタブが一気に倒す。
このやり方で二人は、これまでダンジョンを攻略して来た。
たった二人でこのダンジョンを攻略しているのは、信頼が厚く息が合った連携が出来るからだ。
普通であれば、少数でこのダンジョンの攻略は不可能だと認識されている。
その理由は他のダンジョンに比べ、倍近くの魔物が集団で襲ってくるからだ。
一歩間違えれば、10名以上のパーティーでも苦戦する様な場所だ。
しかしながら、そんなダンジョンをたった二人で攻略しているタブ達は、既に30層を突破した所まで攻略している。
「ッ! タブ様ッ!」
「くッ!」
バズの声にタブは、自身に襲い掛かるモンスターを視界に捉えた。
そのモンスターの攻撃を避けようと、バズから習った体術で回避を試みた。
するとそのモンスターは、タブの後ろから伸びた剣により首を切り落とされた。
「何者だッ!」
タブは襲い掛かったモンスターを殺した相手を見ようと、後ろを見るとそこにはこの場所には相応しく無い者が居た。
湖のダンジョンと呼ばれ、場所も湖の下にあるこのダンジョンには水棲系魔物しか存在しない。
しかしタブの後ろから現れたその者は、全身から肉という肉が消え骨だけの生物。
「スケルトン?」
その者の種族を言うと、スケルトンは「カラカラカラ」と笑った。
そしてそのスケルトンは、タブとバズを交互に一度目線をやるとタブが殺し損ねたリザードマンの集団へと飛び込んだ。
スケルトンの奇行にタブ達は、その場から動く事が出来なかった。
「……」
「……」
「……カラ?」
スケルトンはリザードマン達との戦闘が終わると、タブ達の所に戻って来て不思議そうにタブ達を見つめた。
数秒間見つめ合い、このスケルトンが自分達に危害を加えないとわかったタブはスケルトンに近寄りお礼を言った。
「どういう意図かは分からぬが、私達を助けてくれたのは間違いない。感謝する」
「カラカラカラ」
タブの言葉に、スケルトンは笑い骨を鳴らした。
その光景を見たバズは、タブに耳打ちをした。
「……どうやらこのスケルトン。通常のスケルトンとは違うようです」
「どういうことだ?」
タブに仕える前から色んなモンスターと戦って来たバズは、目の前のスケルトンの異常性に感づいていた。
そしてその異常性の中で最も異常な所、自分達の言葉を理解している事にバズは気が付いた。
その事を伝えられたタブは、自分もそう感じており直接スケルトンへと尋ねた。
「私達の言葉は理解しておるのか?」
そんなモンスターが居るのは珍しい、しかしながら自分も一度は目にした事がありそんなモンスターが存在している事は知っている。
レイの従魔を思い出しながら、スケルトンへとタブは尋ねた。
「カラ」
スケルトンはタブの質問に対して、縦に首を振って返事をした。
スケルトンが人間の言葉を理解している。
その事に驚いていると、スケルトンが手を伸ばすと手先が空間の中に吸い込まれるように消えた。
「スケルトンが異空間能力を持っているだと!?」
スケルトンの行動にタブは声に出して驚き、バズも声に出さずにいたが同じように驚いていた。
そしてそんな二人に対して、スケルトンは一枚の紙きれを異空間から取り出し、タブ達に渡してきた。
「何だこの紙は?」
「カラカラ~」
受け取った紙を見て不思議そうにしているタブに、スケルトンは〝読んで〟と紙をトントンと指先で叩いた。
そんなスケルトンの行動にタブは理解して、紙に書かれている文字を読んだ。
その紙に書かれていた文字には、〝私を仲間にしてください〟と書かれていた。
バズにもその紙を見せたタブは一度、スケルトンから離れ二人で話し合った。
「どうしますか?」
「……そうだな。今回のダンジョン報酬で【使役】スキルを取るつもりだったし、良いんじゃないか? 途中で襲って来てもバズならやれるだろ?」
「……そうですね。先程の動きが最大でしたら、対処は簡単ですが。本気では無かった場合は、タブ様だけでも逃げてくださいね」
直ぐに話し合いは終わり、再びスケルトンの所に戻った。
そして待って居る間、倒したリザードマンの死体を回収していたスケルトンにタブは話し合いで決まった事を伝えた。
「今は【使役】スキルを持っていない。このダンジョンをクリアした際に、報酬で得ようと考えている。その際、私の従魔になるのであれば仲間として連れて行こう」
その言葉にスケルトンは、「カラ」と骨を鳴らしてタブが差し出した手を取りブンブンと振った。
「さて、まだ正式に私の従魔になった訳では無いが。呼び名が無いと不便だな……おっと、聞くのを忘れていたな。お前は、名前は持っているのか?」
「カラカラ!」
タブの質問に、スケルトンは首を横に振り名前が無い事を伝えた。
「名前は持っていないようですね」
「そうみたいだな、そうだなここは未来の主である私が付けるのが道理だろう。……そうだな、幼少期に見せて貰った冒険物語に出て来た者の名を借りて〝スケイル〟というのはどうだ?」
スケイルとは、有名な冒険物語の一つに出て来る冒険者の使役していたスケルトンの名前。
そのスケルトンもまた目の前にいるスケルトンの様に、人間の言葉を理解している。
強さを求め、主である冒険者を危機から何度も救い、互いに成長していくその物語は子供に人気のある話の一つ。
タブもまたその冒険物語が好きで、その時にいつか自分も魔物を従えて強さを求めようと思い始めたと思い出した。
そんな昔の事を思い出したタブは、目の前で名前を告げられて放心状態のスケルトンに「嫌か?」と再度尋ねた。
「……カラカラ。カラッ!」
その言葉にスケルトンはブンブンと横に首を振り、タブの目の前で膝をついて忠誠を誓う時にするようなポーズを取った。
「どうやら、気に入ったようですね。タブ様」
「そうみたいだな……これで彼奴に一歩近づいたな、これから頼むぞスケイル」
「カラッ!」
タブの言葉に今度は遅れる事無く、スケイルは返事をした。
そんなスケイルに、タブは笑みが零れた。
その後、休憩を取り再び〝湖のダンジョン〟の攻略を再開した。




