第175話 【話し合い・1】
あの後、洞窟拠点に帰宅した俺達は話し合いの準備に取り掛かった。
まず最初に初めてのは、話し合いの場所決めだ。
「って言っても、ここにある家って誰か使ってたりするのか?」
「見栄えと練習で作っただけで、誰も住んでませんよ。偶に休憩で使ったりしてましたけど、基本的に私達は森か洞窟の中で暮らしてましたので」
「そうなのか? 洞窟は外からしか見てないけど、中も改築してるのか?」
「してますよ? 見ますか?」
エルダにそう言われた俺は、場所決めの前に洞窟拠点の中に入った。
出て行く際、全て燃やして出て来た洞窟内部は、綺麗になっていて更には外の外観と同じく木造で内装も整えられていた。
以前俺が使っていた時よりも使いやすそうな内装を見て、なんだか敗北感を味わった。
「凄いな、これエルダが作ったのか?」
「はい、森の整備とかが終わって暇だったので、いつか使うだろうと思いまして、勝手にやって駄目でしたか?」
「いや、こんなに良く作って貰ってるのに怒る訳無いだろ、逆に凄いって感動してるよ」
俺の言葉にエルダは「良かったです」と言い、嬉しそうな顔をしていた。
一通り洞窟内部を探検した後、本来の目的の話し合いの場所を決める事にした。
その結果、数件あるうちの一軒を話し合いする為に少し改築して使う事にした。
今の扉だとウルフ族の長が入れないので、扉を大きな物に変えて、内装も少し広くした。
「流石、ご主人様ですね。たった数分で、こんなに変えちゃいましたね」
「まあ、王都でもちょくちょくこういった事をしてたから慣れたんだよ。それより、次はテーブルを作るから資材置き場を場所を教えてくれ」
「はい、分かりました」
エルダにこの拠点の資材置き場へと案内をして貰い、俺は着々と準備を進めて行った。
テーブルの作成中、トレン達と遊んでいたクレナが戻って来た。
「ご主人様、何作ってるの?」
「ああ、ちょっと話し合い用にテーブルを作ってるんだよ。後から、ここの森に住んでる種族の長達を集めて話し合いがあるんだよ」
「話し合い?」
「そうだよ。まあ、クレナは関係ないから向こうでラル達が遊んでるし、遊んでていいぞ」
そう言うと、クレナはラル達の方を見てそちらへと歩いて行った。
クレナとの話が終わった後、俺は作り終わったテーブルをアイテムボックスに入れて家の中に設置した。
その後、話し合い中に小腹が空いてもいい様に、軽食を作っていると長ウルフと数匹のウルフが拠点に姿を見せた。
「良い匂いがすると思いましたら、レイが料理をしていたんですね」
「ああ、話し合い中に手軽に食べれる物と思ってな。まだ他の種族の長達は来てないようだし、少し味見するか? ラル達は普通に食べてたから、魔物でも食べれると思うけど」
俺がそう言って、クッキーが入った容器をウルフ達の前に置くと長ウルフをおいて、我先にと食べ始めた。
そして、そんなウルフ達を押しのけ長ウルフがクッキーを食べると「美味しいですよ。レイ」と言ってガツガツ食べ始めた。
その後、他の種族の長とその連れが続々と集まって来て俺達は、今後の話し合いを始めた。
✤
レイ達が話し合いを始めていたころ、神界ではレイディア・マグラットの前世の姿をしているもう1人のレイ、道塚 浩太は床に倒れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……きっつ~」
「なんじゃ、もうへばっておるのか?」
「いや、もうってコレ初めて1時間以上経ってるんですけど!?」
浩太は顔を上げ、自分を見下ろしている創始の神セラへ向かって叫んだ。
自身の体力が無いとかでは無く、かなりキツイ訓練を既に1時間した後だと言った。
その言葉に対して、見下ろしていたセラはニヤッと笑い。
「ほう、叫ぶ元気があるなら続きをせんかい、時間はお主達にとっては有限じゃろう」
セラはそう言うと、浩太の体を浮かせ立たせた。
「この地獄が終わったらぶん殴る……」
無理矢理立たされた浩太は、セラを睨みながらそう言った。
そして、己の魔力を集中させ体全体に魔力を通し始めた。
「セラ、これって何をしているの?」
「イアラ、来ておったのか? これは、故奴の方の魔力量と魂のレベルを上げて向こうの魂と融合する際に、入り易くする為に鍛えておるんじゃよ」
「そんな事が出来るの!?」
「出来るんじゃよ。というのも、この空間を作った時にそう作ったからのう。ここでは、魂のレベルを上げる事しか出来ないようにしたんじゃ」
「ほんと、貴女は何でもありね……」
セラの言葉に、イアラは溜息を吐きながらそう言った。
イアラは、セラとその会話以降何も話さず、ただ魔力の流れを感じている浩太を数分見届けた後、自分の部屋へ帰った。
「……のう。浩太、主はどうしたい? このまま、転生したお主と融合したいか?」
訓練を続けていると、不意にセラがそう浩太に尋ねた。
尋ねられた浩太は突然の言葉に魔力の集中が切れ、セラの問いに答えた。
「したいって言うよりそれが本来あるべき姿だからな、戻るのが俺としても本望だ。俺は普通、存在してはいけない存在だと自分でも分かってる。だから俺は早く、魂のレベルを上げて本体に戻れるようにしたい。それが今出来る、俺のやるべき事だからな」
セラから敬語は止めろと言われている浩太は、そう自信の考えをセラに聞かせた。
浩太の考えを聞いたセラは、暫く黙り「そうか」と呟いた。
「儂は少し、野暮用を思い出した。ちゃんと、訓練を続けておくんじゃよ」
「了解」
セラの言葉にそう返事をして、浩太は訓練を再開した。
訓練を再開した浩太を確認してセラは、部屋から出て行った。