第171話 【旅立ち・2】
時は、レイが【保険】を失って、イアラから説明を受けた後に戻る。
レイが神界から消えた後、その場に1人の青年が入れ替わる様にイアラの部屋へと現れた。
「それで、どうします?」
「そうね。大変な事になったわ、もし今あなたがレイ君の体に戻ったら耐え切れずに……」
「ああ、うん。はい、そうですね。やっぱり、まだその段階まで成長していませんもんね」
イアラと話をしている青年、それはレイが異世界に転生する前の体の形をした。
〝前世の姿をしたレイ〟であった。
この青年は、レイが転生する際にイアラがレイの力が強すぎて赤ん坊の中に入り切れない分の魂を【保険】に封じ込めた方のレイだった。
魂を分離したせいで異世界に転生レイとは違い、前世の〝道塚 浩太〟の姿をしている。
「と言いますか、イアラ様。俺を保険の中に封印したのは良かったんですが、あの時よりまた能力成長してますよ」
「更に状態が悪化したのね……」
イアラは、青年の言葉に突っ伏す様にテーブルに倒れた。
「まあ、異世界に行った俺も頑張ってくれるみたいですし、俺がここで消えても大丈夫じゃないですか?」
「いいえ、それは出来ないわ……魂を半分でも〝黄泉の世界〟に送ったら、もう半分のレイ君まで黄泉の世界に渡ってしまうわ……」
「そうなんですか? でも、どうします。今も結構な力で俺、引っ張られてるんですけど」
前世のレイの姿をしている青年は、少し苦しそうに言った。
イアラは青年の言葉を聞き「ちょっと、待ってね」と言い、障壁で前世のレイの体を覆った。
「ありがとうございます。もう少しで行っちゃいそうでしたよ」
「どうしましょう。私の障壁も魂を引き留めるのには長く持たないと思うわ……」
イアラは、困った顔をし考えていると突然、イアラの部屋に扉が開くと1人の女性が現れた。
「セラ!?」
「困っている様じゃな、イアラ」
現れた女性、というには姿的におかしく正しく表現するのであれば少女は、笑みを浮かべながらイアラへ近づいた。
「何で、貴女が私の所に来たのよ。貴女とは、もう会わないって言ったでしょッ!」
「そう、怒らんくてもよいじゃろうに妾は、ただ困っている友達を助けに来たじゃけじゃよ」
「なら、その変なお爺ちゃん言葉止めなさいよ。その口調の時は、私を揶揄ってる時のでしょッ! 何百年、貴女と付き合ってたと思うの!」
イアラは、「セラ」と呼んだ少女に対し今までレイにも他の神、セーラやリュアンにも見せた事が無い怒った顔でそう言いきった。
「すまん、すまん。久しく誰とも会話をしていなかったらのう。この口調が素になってしまったんじゃ、昔見たいにおちょくっておるわけではないんじゃ。信じて欲しいんじゃ」
「……それで、今更何で出て来たのよ。【あの時】貴女は、「もう、部屋からは出ない」と私に言ったでしょ」
「じゃから、さっきも言ったじゃろう。友達が困っておる様じゃから、助けに来たと妾じゃって友が困っているのを黙って見過ごすほど落ちぶれてはおらぬ」
「よく、ぬけぬけとそう言えるわね。アルが、ああなったのは貴女のせいじゃないッ!」
「仕方ないじゃろう。あれが議会で決めた結果じゃ……まあ、今じゃその議会の奴等さえ居ないがのう。こっちの世界では、既に姿が消えた者も居るようじゃしな」
「……それで、セラ。どうやって、今の状況を助けてくれるの?」
「簡単じゃ、あっちに転生した器が間に合わないんじゃったら、こっちに居る方の力を制御出来るようにすればよかろう」
セラの言葉を聞き、イアラともう1人のレイは「制限?」と首を傾げた。
「イアラよ。妾は、これでも創始の神じゃよ? 魂への干渉位できるんじゃよ」
「……そうだったわね。貴女が創始の神だって事、とうの昔に忘れていたわ」
イアラがセラの言葉に普通に返していた時、もう1人のレイは凄く驚いていた。
「それで、セラ。その、魂の制限って大丈夫なの? もし、それでレイ君が消えてしまったら貴方の敵になるわよ?」
「大丈夫じゃ、と言いたいのじゃが1つだけ問題がある。妾もさっきの【保険】を破壊したシーンを見ていたのじゃがあれは【創始の邪神】である。アルの力が大分使われておる。もし、あのナイフで魂の制御を破壊されたら2つの魂が一気にレイ本体に流れるじゃろう」
2つの魂が一気にレイの体に流れる。
それは、つまりレイの体に魂が耐え切れずに———死んでしまう可能性があると言う事だった。
「……あの、すみません。この話、もう少し待ってもらえますか?」
そう言ったのは、もう1人のレイだった。
「さっきまで一緒の体の中に入っていたので分かるんですけど、転生した方の俺は今から修行に入ると思うんですよね。だから、今焦って入れても余り意味が無いと思うんですよ」
「でも、今の貴方を繋ぎとめるだけの力が無いのよ?」
「いや、でもそのセラ様? って、魂に干渉出来るって事はこっちに繋ぎとめる事も出来るんじゃないですか?」
「……出来ない事は無いが、持って1カ月くらいしか持たんぞ? それ以上は、魂が元に戻ろうとして、どちらかの魂に引き寄せられるんじゃ」
セラがそう言うと、イアラが「えっ、出来るの!?」と驚いた声を上げた。
「始祖の神とは、そういった常識外れの力を持っているんじゃよ。じゃから、アルはイアラ達の常識を覆すほどの力を使用しておるじゃろ?」
「確かに言われてみれば、セラもアルも私達とは別格の力を持っているわね……」
セラの説明に、イアラが納得していると〝もう一人のレイ〟は、その間に自分の中で決めた事をイアラ達に伝えた。
「1カ月有れば、転生した俺の方も少しは成長すると思います。それに俺も、ただ能力が上がっただけであっちの俺に戻っても、役に立つか分かんないです。なのでセラ様、俺に修行を付けて貰えませんか?」
そう言ったもう1人のレイに対し、セラは少し驚いた顔をした。
「ふむ、成程のう。……なら、妾が修行の先生になってやろう。始祖の神である妾から教われる事、感謝するんじゃよ」
「セラ?!」
「なんじゃ、良いじゃないか別に〝修行をしたい〟と言っておるんじゃよ。無理に魂を戻しても、良い事も無いじゃろう。それに危なくなったら当初の予定通りに魂を制御して戻せばよいんじゃからな」
イアラにそう言ったセラは、「ほれ、それじゃ行くぞ」と言って、もう1人のレイの腕を掴み部屋から出て行こうとした。
「それじゃ、俺も頑張ってきますね!」
そう言い残して、前世の姿をしたレイとセラはイアラの部屋から出て行った。
そして、残されたイアラはレイにこの事を伝えるべきか数日考えた末に「一応、伝えないとね」と思い。
レイが修行の場所として選んだ領地の戻った際に、自分の部屋に呼び説明をした。