プロローグ4 「新米女神セレスちゃん」
世界観とセレスの可愛さを押し出すために書きました。
トゥルルルルルル…ガチャ。
『はいタナトス。デーメーテール…いや、新米セレスか?』
「あ、もしもし…はい、こちらセレスです」
『どうした?』
「その、先程私が天獄に送った青年なのですが、彼のご遺族や友人に…その、何というか、よろしく言っていただくことって、できないでしょうか?」
『あぁ、成程。そうだな、直接強く干渉する権限は持ち合わせていない。
…が、彼らの悲しみを和らげる程度のことでよければしておこう。』
「あ、ありがとうございます!是非よろしくお願い致します!」
『気にするな。死者や遺された者たちを落ち着かせるのも、死に関する総てを権能とする俺の仕事だからな。』
「ホント、タナトス様にはお世話になってばかりで…是非、また今度何かお返しをさせていただきます!」
『ふむ、それでは素直に謝礼は受け取らせて貰おう。俺は早速仕事に取り掛かるとする。ではまた。』
プツッ。
「あ、切れてしまいました、もう少しお話したかったのですが…。
でも、これで一応、彼との約束をしっかり果たせたでしょうか。」
私はセレス。女神セレス。天界で女神として働いています。悪人なら魂を浄刑場に送り、善人なら選択肢を与えるお仕事です。
しかし私はまだ17歳。つい先程、初めて死者を天獄へ送り出したところです。
内心緊張しつつも、無事初仕事を追えることができて少しホッとしています。
彼ーー、シンヤさんと約束したことも、私にやれることはできたでしょう。
タナトス様に任せるしかなかったのは、少々歯痒いところではありますが。
「それにしても、緊張は表に出てなかったでしょうか?私は女神としてしっかり振る舞えていたでしょうか…?
いえ、自信を持ちなさい、セレス!
私は、豊穣と大地の女神の名を偉大なる先代様から受け継いだ女神、セレスなのです!」
しかしそう考えると、偉大な先代セレス様に名前負けしてしまうのではないか、という不安も出てきてしまいます。
…いえ、もうマイナス方面のことを考えるのはやめましょう。自信を持って、もしさっき上手く振る舞えていなかったとしても、次の仕事からしっかり女神然とできればそれでいいでしょう!よし!
「さて、と。はやく次の仕事に移らないと。早急にシンヤさんに向けて視界を飛ばさなくてはなりません…!」
新米女神は、始めて天獄へ送った相手を目印に天獄を覗き、転移者の一生と周りの人々を観察し、人族のことを学ばねばならなりません。学園で人族についてはある程度学んだのですが、実際に人々を視ることで色々得られるものがある、ということなのでしょう。
「神は、死者の善悪を絶対的に判断し、死者を正しく導かねばならない。
故に人の知性を、能力を、情熱を、欲望を、憎悪を、愛情を、恋慕を、…そして、全てを知らねば、神の仕事を全うするに能わない。
常に善悪の揺るがぬ基準たる神であれ。常に人々に寄り添える神であれ。」
学園の、そして神々の綱領ともなっている、偉大なるゼウス様の御言葉です。
新米女神から一流の女神となるべく、私はこの仕事をしっかりと果たさなくてはなりません。
学園を卒業しただけの私は、全く人々や彼らの世界とまだ全く触れたことがありませんし、自分が実際に様々な人々を視てみたい、という気持ちもあります。
「さてさて、シンヤさんは…」
良かった、無事に転生できたみたいですね。見渡す限りの草原の中で軽く体を動かしてます。人里から近い場所とは思えませんが…まぁいいでしょう。大海原のど真ん中とかにならなかっただけ、調整が上手くいったというものです。
『やっぱりここが…異世界、なのか。天獄とかいう名前には相応しくない清々しい雰囲気だ』
たしかに、天獄という名前はかなり殺伐とした雰囲気を想像させてしまいますね。いかにも死者であふれていそうな感じがします。
でも、世界の名前などはどうでもよいでしょう。私がすべきなのは彼を通じて人々について学ぶことなのですから。
頑張りますよ、私!目指せ麗しの月女神様、です!!
『か…め…は…め…破ーーー!!』
ん?シンヤさんは何をやっているのでしょうか。ふむ、心を読んで確認してみましょうか。
異能 ──「読心の神眼」。
…あぁ成程、異能がないか確認しようとしているのですね。
せっかくなので何かしら異能を持っていると、私も視ていて楽しいのですが。
『滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器。
湧き上がり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる』
……彼は異能の有無を確認していたはずなのですが、一体何を言っているのでしょう。何らかの魔術の呪文、でしょうか?
なんと言うか、カッコよくはありますが、聞いていると少々恥ずかしくなってきますね。なんでしょうかこの呪文は…。
しかし、学園を首席で卒業した私が知らず、彼が知っている呪文があるとは思えませんが。
『───体は剣で出来ている。
血潮は鉄で 心は硝子。 』
あぁ、分かりました。彼の母国の誰かが考えた空想の呪文か何かですね。少なくとも私たちの天界や天獄の魔術体系における呪文とは明らかに違うものでしょう。
それにしても、こんな呪文(?)を詠唱したところで異能が発現するとは思えませんが…。
……
………
まぁ目覚めませんよね。それにしても、諦めるまで中々時間がかかりましたね、10分程度でしょうか。ここから彼がどう動くか、期待するとしましょう。
『さて、どうするか…とりあえず歩いて最寄りの人里から離れると最悪だな。どこかにヒントがないものか…
まぁ、せめて、山が遠そうなこっち側へ歩いてみるか』
「へぇ、シンヤさんも馬鹿ではですないんですね。」
適当に歩き出してもおかしくはない気がしますが、なるほど。平野となっていそうなほうへ歩き出しましたか。
天界での不敬な振る舞いから、彼はあまり頭がよろしくないのかと思っていましたが、そうでは無いのかもしれません。勿論、だからといって不敬な態度が許される訳ではないのですが。
※ ※ ※
……ハッ!!いけません、寝ていました…。
先程立派な女神にならんと自身に誓ったばっかりなのに、こんな調子でどうするのです、私!!
『ハァ、ハァ……くそっ、もう飲まず食わずで6時間は歩き続けているぞ…。何か食べるか飲むかしたいんだがな。水辺はどこだよ、生き物も虫以外何も見ていないぞ…。』
え、もうそんなに経ったのですか?……ホントだ、私が最後に時間を確認してから6時間も経っています。
最近は仕事の引き継ぎ業務等であまり寝れてなかったとはいえ、こんなに長時間も眠ってしまうとは何と恥ずかしい…。
決して、この仕事が暇という訳では、ないのですよ?シンヤさんを眺めてても学ぶことがあまりないなぁとか思っている訳ではありません。
『──グルルルルルル…』
「おや。」
シンヤさんの後ろに魔物がいますね。あれは…おぉ!三叉狼ですね!
天界で飼われている変異種なら見慣れているのですが、生きた三叉狼そのものを実際に見るのは初ですね…!
「何だアレは…尻尾が、三本!!?」
とんでもない驚きようですね。でも、当然のことですか。彼の生きてきた世界には、尻尾が三本に別れて四足歩行する動物などいないのですものね。
『ガアアァァァァッッ!』
『ッ!クソッ!!』
おや、三叉狼に狙われだした途端に逃げ始めてしまいましたね。
色々考えながら逃げているようですが、何故黙って返り討ちにしてしまわないのでしょう。殺生を嫌っているのでしょうか?
『』そっ、やっぱり襲ってきやがった!!このままじゃマジでやべぇぞ…どうするどうするどうする…!?いっそカウンターで返り討ちを狙うか!!?』
そうです、襲ってきたのは向こうです。返り討ちにしてもバチは与えませんよ。弱肉強食、強き生命が生き残るのは自然の摂理なのですから。
…あれ?どうやら返り討ちを諦めてしまったようですね。返り討ちは自分では不可能と結論を出したようですが……あっ!
そうか、シンヤさんはただのひ弱な人間ですものね。
武器も無く、魔術も異能も使えない状況こんな状況では、下級魔物である三叉狼を倒せなくてもしょうがないでしょう。
あれ、ということは…
「あーー!このままだとシンヤさんが!!」
死んでしまいます!このままでは人々や世界のことなんて全く学べません!人々を視る仕事ではなくシンヤさんだけを見る仕事として終わってしまいます!
「シンヤさん!すぐ右に曲がってください!!」
『右!?右に行けばいいんだな!!』
え、あれ?聞こえてるんですか!?え、えと、先輩方から聞いてた話と違いますね、こちらからは一切合切干渉できないと、確かに聞いた筈なのですが!
いや、確かに聞こえたらいいな〜みたいな感じで声を出してしまいましたが…。
いえ、今はそれどころではありませんでした!!右手前に別の群れの三叉狼が1匹、確認できます。そのまま右に走ってくれれば…
ガサガサガサッ!
『ガアアァァァァァァァッッ!!』
『ッッ!!?』
よし!上手く2匹が出会いました!彼らの性質的に、このままシンヤさんを無視して争い合うことでしょう!
「いいですよ!左!そのまま左に行ってください!」
このまま2匹からシンヤさんが離れれば、逃げ切れるはずです…!
※ ※ ※
『ハァ、ハァ、ここまで来ればもういいだろ…』
シンヤさんの言うように、三叉狼はもう追ってこないでしょう。互いに重症な筈ですし、鼻もそこまで良くはなかったと思います。
『何とかシンヤさんが生き残ってくれました、良かった良かった!
いやー、やはり私が女神として最初に送り出した人ですもの、そう簡単に死なれては困ります。』
おや、シンヤさんが何か難しそうな顔をしていますね、心を読んでみますか。
ふむふむ…あ、やっぱり私の声聞こえてたんですね。でも、こっちの心までは読めてないみたいですね。
…いやーーー、良かった〜〜〜。心を読まれるのは流石に恥ずかしいですしね!まぁこちらが心を読んでいるのは気にしない方向で。女神の仕事ということでどうかひとつ…。
『セレス様ーー!?あのー、アドバイスありがとうございます!!もしかして、ずっと監視なさっていたんですかーー!!?』
あ、シンヤさんから話しかけてきました。声が私のものってのもさっきので気付いちゃいましたかね。まぁ、私を敬っているようですし、別段困ることもないのでいいですが。
「はい、そうですよ〜!それが新米女神としての私の仕事なのです!!ところでシンヤさん、先程から心を読んでいて思ったのですが、私の声、届いてますよね?」
一応確認しておきましょう。これに返答が帰ってこれば会話が成立するレベルで私の声が届いているということになりますね……面白いことになってきました♪
『そうです、聞こえていますよ。おかげで助かったのですし。改めて、ありがとうございます。』
ふむ、改めて感謝されると悪い気はしませんね…。
『いえいえ、女神として転生者を案ずるのは当然のことです!
それにしても…そうですか、本当なら女神が天界から何を言っていようが聞こえることはないらしいのですが。もしかしたら、これがシンヤさんの異能かもしれませんね!私、女神セレスの天啓が聞こえてくるという!』
実際このような特殊な事象は、異能関連でもない限り起きないでしょう。私の異能に該当するものがない以上、シンヤさんの異能と考えるのが適切なはずです。
『でも、もし本当に俺の異能がセレス様の声を聞くことなら、中々いい異能ですね!今回のように事前に危機を察してくれたり、とても有難いです!』
「ふふふ、もっと褒めてくれてもいいのですよ!シンヤさんは出会ったときから私に対する敬いが足りないのです!やっと私の有難みがわかったようですね…!」
『はいはいありがとうございます(3回目)。ところで、どうやって俺を助けてくれたんですかね?』
『敬いかたがやはり雑、というか、まず敬っているのでしょうか…?
うーー、まぁ、そうですね…シンヤさんの周りを見てたら三叉狼がもう1匹いるのに気付きまして。彼らは別の群れの個体同士の争いを何よりも優先する魔物なので、互いに争わせようとシンヤさんに呼びかけてみたんです。まさか本当に声が届くとは思っていませんでしたが。』
本当に声が届いてよかったです。私も人々について学び続けることができますし、彼としても2日連続で死を味わわないで済みましたし。
『拗ねながらも教えてくれるセレス様優しい!
なるほど。それにしてもあの狼(仮)、三叉狼とか言ったか、やはり魔物だったのか。この世界には他にもあーいった感じで魔物が生息しているのだろう。
さて、ありがたいことにセレスのナイス判断で助かったのだ。せっかくだし、ここからどっちに向かえばいいかの判断も仰ぎたい。』
『セレス様、ここから最寄りの人里はどこか分かりますか?』
お、シンヤさんが女神たる私を頼っているようですね。ふふ、それでいいんですよ、シンヤさん。人間が神に頼るのは当たり前なんですから。少々舐められている気もするのですが。まぁその、ただ…
『あー、うーん、その、ごめんなさい。どっちに人里があるかはわからないんです。私が見えるのはシンヤさんの周りだけ、せいぜい半径100メートルってところでしょうか。』
そうなんですか。でも、半径100メートルと言っても、洞窟やダンジョンでもあったら便利そうですね。暗所で見通せて貰えたらとても楽に進んでいけそうです。
「あ、私視力1.0ですし、夜目が利く訳でもないので暗闇は普通に見えませんよ?」
『正直、使い道が正直薄い異能な気がしてきましたが、気の所為ですかね?
この異能でやれることは、今の状況みたく暇つぶしにセレスと会話することぐらいとなってしまいますね。
セレス様、せっかくだし野宿する場所でも探しながら、この世界について色々教えて貰えませんか?』
いきなりかなり否定的に考えてきますね、この男。まぁ正直暇なお勤めなので別にお話するくらいはいいですが。
「女神と話せるとこをもっとありがたく思って欲しいところなのですが!異能ももっと賞賛してくれてもいいと思いますし!全員が持ってるものではないのですよ?
ですが…まぁ、私も暇してたのでお話くらいはいいでしょう。野宿するなら、ほら、向こう…左に少し大きめの木がありますよね?そこを使うといいと思いますよ。」
『あ、ホントだ、いい感じの木がありますね。丘に隠れて気づかないところでした。』
……ふむ、木に向かい始めたのはいいのですが、何かおかしなことを考えていますね。ゴソゴソ……?先程も一瞬考えていましたね、少し気になってしまいました。お話しようと持ちかけてきたのは彼なのですし、少し聞いてみることにしましょうか。
「先程も言ってましたが、ゴソゴソして何をするんですか?遊びでしょうか?私もできるなら混ぜてください。暇なんです〜。」
『元々少なかった女神の威厳がマッハで崩れ去っていきますね。というか察してください。えーっと、その、オ○ニーのことですよ。』
……
………彼について学ぶことがあまりないと言いましたが甘かったようですねまさか人間のオスがこんな下劣なことを常に考えて生きているとはおもっていませんでしたいえ常に考えている訳ではないのかもしれないのですがそれにしてもいくらないんでも今は他に考えるべきことがあるというか非合理的すぎるというか云々かんぬん『あれ?セレス様?おーーい。』
はっっ!思考がみだれてしまいました。いえ乱れただけで淫れた訳ではなくというか私は誰に言い訳をしているんでしょうかというか言い訳ではなくじじつなのですがっ!全く!上手く言葉が出てこないのですがそれもこれもシンヤさんのせいですぅ〜〜っっ!
「っ〜〜!んなっ……!い、言いたいことは色々ありますがっ…ハ、ハレンチですよ!!そんな、オ、オオ、ナ……なんてっ!!!」
ぬぬぬ…こんな態度では女神の威厳が…やはりまだまだ私は未熟なのでしょうか…。
『え、その、女神なのにそこで恥ずかしがられるとこっちまで恥ずかしくなってくるんですが…。何か女神だったら、そーゆーのは達観して軽く流して欲しいところなんですけど。
というか、普通の男子にとってはどう足掻いても死活問題なんですって。せめて3日に1度くらいは自由が欲しいところです。』
「だから、えっと、そそ、そんなこと言われても…シンヤさんのヘ、ヘヘ、ヘンタイ!!
それに、先程も言いましたが、シンヤさんの監視が私の女神としての仕事なんです!新米女神は初めて転生させた相手の一生を監視する任に就くんです!」
『い、一生!?一生監視され続けなきゃいけないって言うのか!?
ぬぬぬ、じゃ、じゃあせめて夜だけでいいですから、こっちが見るなっていったら見ないような感じにできませんか!?』
う、ううぅぅ……
『ま、まぁそれくらいなら…こっちもずっと視てろと言われても困ってしまいますし…。』
くぅ、予想だにしていない障害が生まれてしまいました。しかしこうなった以上、定期的に彼のプライベートを覗かないようにしなくてはなりません。こっちまで被害を被ってしまう訳にはいきませんからね…。
※ ※ ※
さて、シンヤさんがさっき言った木の下に辿り着きましたね。何もないところで眠るよりは、木の下で眠る方がいいでしょう。
さてさて…シンヤさんは……
『まず水を集めなきゃいけないが…たしか水を集めるために朝露を集めるという方法があったような。うーむ、それぐらいしか知識がないな。』
水の確保に悩んでいるようですね。学校で教えて貰えなかったことに恨み言を漏らして(思って)いますが、そうなるくらいなら自分で学べばよかったのです。勉強する機会はいくらでもあったでしょう。まぁ、私も特に知識がある訳ではないので何も口出しはしないのですが。
『食料、は…水以上に全くわからん。まずここら辺異様に生き物が少ないからな。草を食べたとしても、いい具合なタンパク質の取りようがない。そして見つけたとしても、三叉狼みたいに捕らえようのない相手な可能性が高いだろう。』
食料についても悩んでいるようですね。私ならさっきの三叉狼を火の魔術で焼いて食べるのですが…アレ、美味しいんでしょうか。せめて付け合せにサラダが欲しいですね。
『しょーがない、明日以降は虫を食べるのも視野に入れるか…。』
「虫を食べるんですか!?うわぁ……」
本気ですかね、この男。確かに何も食べないよりはマシかもませんが。
『今日は草でも食べて飢えを凌ぐとしよう……うわぁ、マッズ……』
「草はもう食べてますね!?うっっわぁ……」
この男、今まで比較的生活水準の高い国でそこそこの生活をしてきたんですよね?よくもまぁ躊躇なくそこら辺の草を食べれるもんですね。私なら、付け合せのサラダが欲しくてもお腹が空いていても、草をスラッとは食べれませんよ…。
『酷い言い様だ。こっちだって好きで食べようとしている訳では無い。栄養を摂らねば歩けなくなるから苦渋の決断を敷いたのだ。
全く、もっと人里に近いところに飛ばしてくれれば、今頃水くらいは手に入っていたと思うんだが。』
「理不尽ですね…こっちからは転移先の座標もあまり干渉できないんですよ!頑張って普通の陸上にしただけ有難く思ってください!!」
私だって頑張って門を開いたんです!こんなこと言われても困ります!!
『そうかそうか、確かに深海や大空のど真ん中よりは全然マシだろう。セレス様には感謝せねば──』
『─と、思う訳がない。それぐらいは前提ではくては困るのだ。
そんなところに飛ばされたら、水圧か落下の衝撃で即天界に後戻りだろう。そうなったら、また3つの選択肢からどれか選ばされるのだろうか。
それは勘弁して欲しい。この世界が地球と同じつくりなら、いい感じの陸地とかに辿り着く確率は限りなくゼロに近いだろう。
そんなことでは異世界に辿り着くには何回も天界でRe:ゼロから始める必要が出てきてしまう。心が折れるのが先に違いない。』
むむ、むむむ、何か怒涛のひとり語りでまくし立ててきましたが、女神としてここで引き下がる訳にはいきません!いきませんが、いかないのですが…うぅ、何か言い返さなくては……
「言わせておけば…いや、たしかにそうなのですが…あ、その、魂というモノの性質上、2回連続で天獄へ転生することは出来ません。」
せめてものの言い返しをするつもりだったのですが、全くダメでした…。
『尚更ダメですよね。転生に成功できる者はうんと減りますし、そしたら天獄が元に戻る可能性も大きく下がっちゃうと思うんですけど。』
「そ、そうですよね…うぅ…」
完全に納得してしまいました…そうですよね、頑張って門を開けるのなんて前提ですよね…。
『…そんな声をしないでくださいよ。まるで俺が悪者みたいじゃないですか。美人や美少女は好きですけど、お生憎様、虐めて楽しむ趣味なんて持ち合わせてないんですから。』
『…び、美人?私、美人に見えましたか!?』
『はて、嫌味だろうか?それとも本当に、セレスは自分の見た目に自信と自覚がないのだろうか?美人というよりは美少女といった見た目だったが、彼女の容姿は、例え天界にいなくとも女神と喩えられてもおかしくない程ものだった。願わくばもう一度会いたいものである。』
シ、シンヤさんの心の声が…っ!!よ、読まれてることを理解してるんですかね?面と向かって美しいなんて言われたことはなかったので、嬉しさもあるのですがそれ以上に恥ずかしさが…!!
「えっと、その、ありがとうございます……///」
『はて?セレスは今何か言っただろうか』「な、何も言っていませんよ?」
き、聞こえていませんでしたか…恥ずかしいので、そのままなかったことにしてしまいましょうか…。
『そうですか。それならいいんですが。女神の言を聞き逃すとは何と不敬な人ですか!!とでも言われるかと思ってしまいました。』
「わ、私を何だと思っているのですか!?」
『勿論、女神セレス様ですとも。』
…むぅ。
『さて、今日はもう疲れたし、空は既にこれ以上先に進めるほど明るくはない。今夜はもう寝るしかないだろう。セレスに色々聞きたいことはあるが、今の状況では早めに寝て体力を温存する方がいいと思う。溜まっていないわけではないが、するのは体力があるときでいいだろう。』
………
「えっと、その、聞こえているのですが……それしか頭にないのですか?」
今の私の顔はウジ虫を見るような顔でしょうか。決して誰かに見せていい顔ではないことは分かります。
『申し訳ございません、ちょっとからかいたくなってしまっただけですよ。
というか監視だけで別に心は読まなければいいじゃないですか。いちいちこっちだって心覗かれたくはないんですけど。』
「貴方がもっと普通のことを考えて普通に私を敬えば、覗かれたところで問題はないはずですが!!」
彼の心を読む必要性はさっき言いましたし、3日に1度ほどプライベートを守るという条件で妥協して欲しいものですが。
『この女神、傲慢である。何故そこまで俺の心を視たがるのだろうか。
ハッ!セレス、もしかして俺の事……///』
ふざけていますね。さすがに少々ムカッときました。
「もうあなたに話すことは何もありません。一方的に視ていますね。では。」
『くっ…もう冗談は言いませんのでお許しを…!』
というか女神にこんな冗談を言ってくるとは中々肝が据わっていますね。シンヤさんはやはり私を舐めていますよね…
『まぁとにかく、おやすみなさい、セレス様。また明日、この世界や転生についての話を聞かせてくださいね?』
…まぁ、これくらいの冗談はいいでしょう。女神が短気では人間に示しがつきませんからね。
「全く……はい、おやすみなさい、シンヤさん。あなたに月女神様の御加護があらんことを」
『セレスは女神っぽくないが、こーゆー節々にどうも女神らしさを感じ』「女神な私をずっと舐めてると明日何も教えてあげませんからね」『ごめんなさい。』
さて、私も寝るとしましょうか。明日はシンヤさんが起きるよりも早く起きてしっかり観察を続けていくとしましょう。
おやすみなさい。
※ ※ ※
これは、彼ら2人が異世界『天獄』を旅する物語です。平凡な青年と新米女神が得るものは、さて。
イトウ・シンヤ
異能「????」
セレス
異能「読心の神眼」等
おまけ:神話体系はギリシアやローマ神話を採用しております。