表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第1章 名を失った転生者と異世界の勇者
9/64

9話目 崩壊と黒髪

寒いですね。手と足が冷たくなって辛いです。



次で第1章は終わり。暫く勇者達とも会うことはないでしょう。



では、どうぞ。

「魔力の接続が切れた………。つまりこれは」


激闘が繰り広げられたマイルームの床にへたり込んだ俺は、魔力が体の中で暴れている感覚を覚え、茫然と呟く。


すると、疲労困憊といった風の勇者が剣を杖代わりにして頷いた。


「ああ、ミノタウロスが身に付けてた物と同じ、魔封じの腕輪だよ。これには身に付けている者に対して魔法が効かないだけじゃなく、装備している者の魔力を封じ込める力もあるんだ」


つまり最初からこれを狙っていたと。殺すという言葉も、聖剣をわざと外したのも、全てこれの為の布石だったと………



「はあ………、本当にアホみたいな勝ち方だ。けど、こちらが負けたのも事実。好きにすれば良い」


久し振り………リアルでは初めての対人戦で酷く疲れたこともあり、気が抜けてしまった。


何せ俺の魔法が直撃して勇者やアーニャの腕や脚が引き千切れたりしているのに、ソフィアの回復魔法を貰って治したらすぐさま戦線に復帰するのだ。


まるでゾンビのように迫って来る光景は若干怖かったりする。まあ殺さないと決め、そういうポーションを飲んだ俺の自業自得だが。


「じゃあまずこのダンジョンを廃棄してくれないか。この時期にダンジョンが存在してるのが他の国にバレると、結構拙い状況なんだ。無かったことにしたい」


はあ、ダンジョンが外交に影響を及ぼすとは、面倒なことになってるんだなぁ。………しかし、


(ダンジョンって、どうやって廃棄するんだ?)


「取り敢えず、やってみる」


へたり込んだ体勢から立ち上がり、先程障害物を撤去した際に使ったコンソールを弄ってみる。


が、ダンジョンを操作するような項目は、特に増えていたりしなかった。続けてステータスを開いて調べてみたのだが、『マイルーム召喚』以外の項目を除けば何も増えていない。


………元から心当たりのないダンジョンだったが、まさか俺と全く関係無かったりするか?


「分からない」


「え? アーデがダンジョンマスターなんじゃ無かったのかい?」


「『そうだと、したら?』としか言ってない」


まあ俺も半信半疑で、尚且つ頭が混乱していた訳だけど。


「それじゃあ、このダンジョンは自然に生成された物だったってことか?」


「そうなる、のかな?」


アーニャと勇者が気の抜けたような会話をしているが………なんだか体が熱い。運動して体が火照ったのか?


「って、熱っ⁉︎」


「ど、どうしたのアーデさん⁉︎」


体が火照っただけかと思ってたら本当に熱い。熱を発しているのは、左手首に付けられた魔封じの腕輪の近く。あれ、刻まれた刻印が赤熱化してる………?


パキッ!


「わっ⁉︎」


刻印が欠けて出来た罅はどんどん広がっていき、終いには綺麗に真っ二つとなって裂けてしまった。


そして溢れ出してきた魔力が、髪をはためかせる程度の風を起こして周囲に散っていった。


「なんと! 魔封じの腕輪がいとも容易く砕けるとは。………それに、何という魔力量よ。およそ魔王でもここまでの魔力は持たない筈………」


唖然としたようにユグリースお爺さんが呟くが……まあ、Lv.250だしな。封印できる魔力限界を超えてしまったのだろう。


「………結局、このダンジョンはどうする? 何ならお詫びとして物理的に崩壊させても良いけど」


これ位の規模なら、必殺技クラスの魔法を使えば何とかなりそうな気がする。神の力で破壊不能になってたら無理だけど。


「どうしようか………。僕も色々起こり過ぎて疲れちゃったし、最悪それで良いかもね」


勇者まで投げやりな表情で検討し始めた時、グラリと、地揺れのような振動がマイルームを襲った。


「何⁉︎ まさか地震?」


「いや、これは………勇者、ダンジョンが崩落するようじゃぞ!」


「何だって⁉︎」


扉を開けて一つ前の広間を見たユグリース爺さんが焦るように告げた。ここから見ても大きな瓦礫が落下し始めている光景が目に入ってくる。


うん? ダンジョンが崩壊してるってことは、つまりダンジョンマスターはもう死んでたってことか? 疲れた所為でしっかりと思考を巡らすことが出来ない。


「『転移』であの広場まで戻る! 皆この魔法陣の中に入るのじゃ!」


「分かった! ほら、アーデも早く!」


「え?」


勇者が差し出した手を見ても、意味が分からずに首を傾げてしまう。何でこのタイミングで俺も連れてこうと思うのか。


「急いで! ここもじきに崩れる。君だって生き埋めにはなりたくはないだろう⁉︎」


いや、このマイルームだけは瓦礫どころか砂一粒落ちたりしてないから。そう考えるとダンジョンとこの部屋は本来全く別物だった………?


「なん、で……?」


「ああもう、そんなこと良いから。失礼!」


「あ、ちょっ⁉︎」


膝裏を掬われるようにして抱き抱えられ、既に他の面々が集まった魔法陣の中まで運ばれてしまった。


思わず勇者の顔を眺めようとして、かなり近い距離にある勇者の顔に驚いて思わず目を逸らした。


「なんで、助ける?」


「それは勿論、ダンジョンマスターじゃない事が分かったわけだし。それにさ、僕らはこのダンジョンをたった6人で攻略した、仲間だろう?」


つい先程まで敵対して戦っていたと言うのに、仲間だと笑顔で言い切った勇者。


ふと周りを見渡せば、信頼の笑みや苦笑いだったりと少し異なってはいるが、皆笑って頷いている。


「はぁ………、呆れた。けどまあ、」


ーーー悪くはない。


俺がそう呟くと同時にユグリースの魔法が発動し、マイルームからその姿を消した。



________



勇者一行と、そして彼らと戦っていた白髪緋眼の少女が姿を消したことにより、一時の静寂が訪れたアーデフェルトのマイルーム。


広々とした一階の部屋の片隅にある、ポツンと置かれたクローゼットが、バンッ! と中から蹴り開けられた。


「「し、死ぬかと思ったあああぁぁぁあああ‼︎?」」


そして中から一人の青年と言えるぐらいの若さの男と、背中から透明な羽を生やした10センチ程の人間風の少女が飛び出して床をゴロゴロと転がっていく。


「ち、チビってしまいましたぜアニキ! あたいもう気絶するところでしたんだぜ!」


小さな体をブンブンと振り回してそうまくし立てたのは、こぶし大のサイズの体に羽を生やした妖精族。


「そいつは奇遇だ、俺もなんだ。しかし俺たちは生き残った。そう、この豪運のツバキ様ならどんな死地だって生き残れるさ‼︎」


立ち上がり、腰に手を当ててハッハッハと豪快に笑う黒髪の男。


「流石ですアニキ! けどあたいはもうあんな怖い目に遭うのは御免ですぜ!」


やたらテンションの高い2人組が他人の部屋に無断で立ち入って大騒ぎしている。


明らかに不法侵入だったが、ここに唯一干渉できるのは先程の白髪緋眼の少女だけであり、その少女も何処かへ行ってしまった今、彼らを咎める事は誰にも出来なかった。


「しっかしあいつら、俺のダンジョンを滅茶苦茶にして行きやがって……。初見殺しのLv.100ジェネラル(・・・・・)ミノタウロス(・・・・・・)まで殺されるとか、完全に大赤字だ」


アーデが確認したミノタウロスのステータスとは全く異なるステータスを口にしたツバキは、困ったように胡座をかいて床に座る。


「勇者達が来てしまったことはしょうがありませんぜ。奴らダンジョンマスター絶対殺すパーティーに見つかる事なくやり過ごせただけでも豪運と言えますぜ」


やたら口調がやさぐれている妖精族のような何かが、気落ちする青年をよいしょする事で慰めている。


こう描写すると実に健気に思えるが、実際は空中で寝っ転がりながらピーナッツを齧っているので、誰かがこの妖精の事を覗いていたら幻滅間違い無しの仕草である。


「あーそうだな。勝手にダンジョンマスターの役を引き受けてくれたあの子には感謝しても仕切れねえな」


「そうですけどねぇ………。で、アニキ、これからどうすんですかい? ここのダンジョンは勇者達の気を逸らす為に崩落させちまったからもう使い物にはなりませんぜ?」


とっておきのミノタウロスを殺された恨みもあっさり忘れて感謝する青年を見て、一瞬だけ素に戻った妖精もどきだったが、首を振って意識を切り替えると、今後の事についてツバキに尋ねた。


「そうだな。あの勇者達が去った後に、すぐ近くにあった遺跡を利用してダンジョンを造ろうと思ってる。滅ぼされた迷宮を利用すれば、コストも掛からないしな!」


自信満々に見当違いの方向を指差したツバキ。妖精もどきは、ゴブリン使って事前に周囲の偵察くらいしろよ、とか思ってたりするが決して口に出す事はない。


「流石ですアニキ! じゃあ早速あの遺跡に向かいましょうぜ!」


「おう! そうだ、な………?」


妖精もどきの元気そうな声に頷いたツバキはその勢いに任せて扉を開け放とうとするが、開かない。ビクともしない。


「あー、こりゃあダンジョン崩落させてましたっけアニキ」


「ぐっ、仕方なかったんだよ、この部屋はダンジョンマスター権限の管轄外だからダンジョンの干渉を受けない、と知ってるのは俺だけだったんだから。仕方ねえ。ポイントが勿体無えが、脱出口をパパッと、造……って、え?」


悔しそうな表情を浮かべたツバキは、ダンジョン作製スキルを発動して、手っ取り早くここから脱出しようと通路の一覧を見て、固まった。


「どうしましたアニキ?」


その姿に不穏な空気を感じ取った妖精もどきがツバキの手元にあるリストを覗き込み、同じように固まった。


《所有ダンジョンポイント:10P》


「やべえ、使い過ぎた………」


この瞬間、普通の魔法が使えない二人にとって、この部屋は天国から牢獄へと一瞬で切り替わったのだった。

さて、新たな転生者が出て来ましたが、彼はまだアーデが転生者だとは気が付いてません。


ついでに言えば、ステータスは肉眼でなければ閲覧不可なのでアーデが超高レベルの魔導師である事も分かっていません。良くて60程度、とか思ってたり。




ツバキ「ダンジョンチートでハーレム築いてやるぜ!」


(●ω●)カキカキ…(何か……転生者アーデを送り込みたくなってきた。ついでに勇者にダンジョンマスター絶対殺すマン設定も追加しておこう)


ツ「………………」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ