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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第1章 名を失った転生者と異世界の勇者
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7話目 詩篇を詠う、魔本使い

ダンジョン内の探索をほとんどカットしたのに、文字数は増えた。何故なんでしょう……


そしてまたデータが消えた……。消えるのは千字程度なのでまだ余裕はありますが、これで半分とか消えた暁には………。


で、ではどうぞ……。

「ユグリー爺さん、灯りを頼む」


「心得た」


 地下へと続く階段を降りた広間は、地上の光が届かない暗闇に包まれている。勇者の指示で爺さんが光源となる魔法の灯火を使い、ようやく広間の全容が見渡せる。


 古ぼけた石造りの壁と床は、数百年前に造られたと言われても納得してしまうほど風化具合しており、ヒビや崩落した箇所がいくつも点在していた。……これがつい先日観測された、最新のダンジョンなのだから驚きだ。


「本当に最近出来たダンジョン?」


「そうだね。まだ中の空気は澱んでいないし、強敵の気配もなし。様々な形でダンジョンは現れるから、迷宮の構造は新旧に関係ないよ」


 聞けば地下に大きな草原という形のダンジョンや、完全に水没したダンジョンもあるそうだ。……ダンジョンが造られた時点で、そういう雰囲気も一緒くたにされて生成しているのだろうか?


「この扉を開けて一歩踏み出せば、容赦無しに魔物が襲い掛かってくるぜ。油断して足元を掬われるなよ?」


 猫人族の拳闘士、アーニャが不敵に笑いながら扉をコンコンと叩く。口元に砕けた笑みこそ浮かべているが、その目は一切笑っていない。


「隊列はいつも通りの配置で、アーデはユグリース爺さんの隣で僕とアーニャの援護を宜しく。レティ、何時ものように深呼吸して周りに意識を配るんだ。何かあっても必ず僕が守るから」


「う、うん。頼りにしてるからね?」


 この中で一番レベルの低いレティシアは、不意の範囲攻撃に巻き込まれないようにするため、最後尾で後背からの襲撃を警戒する役目を負っている。


 緊張した表情を若干朱に染めて頷く姫騎士の少女。しかし、どうしてこんな危険な任務についてきているのだろう?ダンジョンの攻略だけなら、おそらくレティシアを同行させる必要性はないと思うが。


(ま、今考えても仕方ないな。案外迷宮探索に役立つ魔法とかスキルを持ってるのかもしれないし)


 勇者達が納得してるなら、別に文句を言う話でもない。今は初めての迷宮探索で自身の足を掬われないよう気を付けておくべきか。


「アーデ、何か質問はあるかい?」


「罠の有無と、ダンジョンで非推奨の魔法」


 道中で今回の任務の説明は受けたが、ダンジョン攻略に必要な常識は何も持っていない。


 だがまあ、Lv.250のステータスがあれば並大抵の障害は問題にはならない。一人では抜け出せなくなるタイプの罠に引っ掛かったり、火魔法を使ってガス爆発が起こってしまいました、などのアホな事が起きないようにしっかりと聞いておくべきだ。


 それに、異なる場所のダンジョンに入らないとは限らないのだ。迷宮内での常識を得ておいても損はしないだろう。


「罠についてだけど、今回は無いと考えてる。よくて死んだふりをしたアンデットの奇襲程度だろうね。勿論アーニャが警戒するから、余程上手く隠された罠でなければ僕らの行動範囲に危険物なトラップは飛んで来ないよ」


「任せときな!」


 アーニャは猫人族の鋭敏な感覚を活かした斥候も兼ねているみたいだ。トラップを探知するスキルなんて持っていないので頼りにさせて貰おう。


「他は良いかな? なら、――行くよ」


 パーティーメンバーの視線を一身に受けた勇者は真剣な面持ちで頷き、ダンジョンへの扉を一気に押し開いた――



________




 扉の先は書庫、――図書館を模した迷宮だった。


 天井まで届く高さの本棚が壁のように視界を遮り、全体を見渡す事を遮っている。通路の幅こそそれなりに広いものの、開放感が無いためか圧迫感を覚える。


「うへぇ、見てるだけで頭が痛くなりそうな量の本だな。こいつが今回のダンジョンってわけか」


 アーニャは勉強が苦手なのか、ずらりと並ぶ本を見ただけで嫌そうな表情を浮かべている。俺としては大量の本が存在するこのダンジョンは歓迎したいところだったが、手近な本を取り出そうとして、本とは思えない感触に目を瞬かせる。


「どれも、本物じゃないのか……?」


 本棚に納められた無数の蔵書は、まるでプラスチックのように無機質な質感をしていた。紙や革のざらついた感触はなく、軽く小突いても硬質な音が虚しく返ってくる。


「ダンジョンが創造したものだからね。ぱっと見では似てるような家具や道具、建物を造るけど、全てがハリボテ。実際にはほとんど持ち帰ることが出来ないものだよ」


 なんだ。期待させておいて落とすとはダンジョンも中々趣味が悪いな。呪文書の素材を入手し放題だと思ってたのに。


「アステリオ、いたぜ。本のダンジョンらしく本の魔物が相手みたいだな」


「モンスターブック。妥当なところだね」


 アーニャの視線の先を追えば、百科事典程度の大きさの本が本棚の間をふわふわと飛んでいた。実に摩訶不思議な存在だが、ここがファンタジーの世界だと思い出してそんなもんかと自分を納得させる。


モンスターブック

Lv10


 弱いな。まだ一階だからなのか?


「レベル10くらい、かな? 一階にしては高い方だし、もしかすると五階くらいで迷宮の主に出会えるかもね」


「『生まれたて』にしては深いの。皆の者、ちと気を引き締めて行くぞ」


 ……くらい、か。勇者は曖昧ながらも、相手のレベルを何となく把握できるらしい。ユグリース爺さんでも使えたなら、俺を試すことなく臨時加入を受け入れていただろうし。勇者限定のスキルか何かなのだろう。


「アーデ。モンスターブックは火が弱点だけど、使うとモンスターブックの紙を採取出来ない。なるべく他の魔法を使ってくれないか?」


「わかった」


 いそいそと魔導書を取り出す俺を見ていた勇者が、思い出したようにそう付け加える。なんでも、アレの死骸でもある紙の束は高値で売れるのだとか。この世界で紙がどの程度貴重かはわからないが、大量にあって困る事もないだろう。


「来ます。――『聖盾』」


 ソフィアがいかにもな聖杖を掲げ、パーティーメンバーと魔物を隔てる半透明の障壁を展開する。それに構わず突貫したモンスターブックが激突し、鈍い音を立てて弾かれた。


「はっ!」


 本の体勢? が崩れたその隙を、勇者が長剣で一閃。たったそれだけで、空中を漂っていた本がポトンと地に落ち微動だにしなくなった。


(っ、……今のは)


 形を保ったまま床に転がったそれを観察してみると、革張りの表紙に鋭角的な切れ込みが入っている。おそらく、勇者の一撃は嵌め込まれていた宝石のみを砕き、報酬となる紙には一切の傷を付けずに倒したのか。


 だが、俺が驚いたのは魔物の生態にではない。こちらを見て得意げな笑みを向ける、勇者の剣速に、だ。


(……剣筋がまったく見えなかったんだが。躱すとかそんな次元じゃない。もし敵対したら、指を動かす前に斬られないか?)


 レベルの差は実に180だというのに、勇者の振るった剣の軌跡を全く目で追えなかったのだ。あれ、これユグリースの爺さんには大口叩いたけど、実際に戦ったら拙くないか?


 幾らワンパンで倒せたとしても、当てられなかったらダメージなんて通らない訳で。そもそもあんなの避けられないから、魔法を放つ暇も無い気がする。


 仮にやるとしたら、絶対に近寄らせずに戦わなくては。


「流石です勇者様」


 そんな俺の内心を余所に、レティシアが瞳を輝かせて勇者のことを褒め称える。それに照れて、そっぽを向いて後ろ髪を掻きつつ誤魔化す勇者だが、誰が見ても喜んでいるのが見え見えである。


「そんなことないさ。まだ浅い階層で、しかも一冊だけだったしね。師匠なら宝石も綺麗にくり抜いてただろうし……」


 なにその師匠。勇者より上がいるとか、是非とも会いたくない。


「アステリオ、この階層は暫く一本道だ。モンスターは疎らにいたが、トラップの類は無かったぞ」


 曲がり角からダンジョンの奥を覗き込むアーニャの偵察結果に勇者は少しだけ黙考し、少しだけ真剣味を帯びた声音でメンバーを見渡す。


「……分かった。皆、今日中に最下層まで行くからそのつもりで」


 随分と強行軍で進むんだな。初見のダンジョンなわけだし、もう少し慎重に行っても損は無いと思うが。


「アーデ、この先は少し小走りで進むよ。このダンジョンは――普通のとは違うから」


「はあ……」


 シリアスな表情で話すのは良いのだが、こちらは初めてのダンジョンアタックなのだ。そんなこと言われても、困る。


 なので頷くだけで疑問は胸の中に留め、小走りに駆けて行く勇者達に黙ってついて行く事にしたのだった。



________



「あいつがボスか。レベルは50程度……。レティシアは下がって。後方の警戒は任せるよ?」


「分かったわ。勇者も気を付けてね」


 あの後、結局特筆すべき出来事もなく最下層まで辿り着いてしまった。一階層につき2〜3回程度しかモンスター(全てモンスターブック)に遭遇せず、それも最高でLv.40だったので俺やユグリースお爺さんの出番すらなかった。


 ダンジョン攻略がこれほど楽に済むとは思っていなかったので、割と拍子抜けだ。


(しかもミノタウロスがボスモンスターか。これなら勇者達の目的とやらもすぐに終わりそうだな)


ミノタウロス

Lv.51


 最下層に続く階段を降りきった先の広間に座すのは、傍に巨大な戦斧を置いた牛頭の怪人。体高5メートル近い巨躯がレベル相応の威圧感を放って鎮座していた。とはいえLv.51。勇者ならそこまで苦戦せずに倒せるだろう。


「あいつを倒せば今回の任務も終わり?」


「正確にはあの奥の扉の向こう側が、僕達の調査する必要のある場所だよ。あのミノタウロスが最後の障害であるという意味では正しいけど」


 確かにミノタウロスが座る広間の奥には、更に向こうへと続く鋼鉄製の扉が存在している。ダンジョンの終着点となれば、宝箱部屋とか何かだろうか――


「痛っ。……?」


 扉を眺めていると、突然空間が歪んだような、既視感を覚えた時の、あと少しで思い出せそうで思い出せない感覚に襲われる。


 向こうに何があるのか、俺は知っている?俺の手掛かりが扉の先に――


「アーデさん? 大丈夫ですか?」


「えっ? ……いや、なんでもない」


 後ろに下がっていたレティシアに声を掛けられて、思索に沈みかけていた意識が現実に引き戻された。そうだ、今は目の前の敵に専念しなくては。


(とはいっても、俺がやると一撃で決まってしまいそうだけどな)


 Uruuuuu……


 勇者がミノタウロスの感知範囲内に入り、牛頭の怪人が戦斧を両手で掴み立ち上がると、威嚇するように唸り声を上げた。


 腹の底に響くような音圧が風のように身体へ押し寄せ、左右へと別れて消え去っていく。


「行こう」


 勇者の合図にそれぞれが頷き、一斉に散開する。


 前衛の勇者がミノタウロスと真っ向から正対し、アーニャが急所や死角を狙う為に側面へと回り込む。


 後衛のソフィアが勇者の真後ろから少し逸れた位置で防御魔法を勇者達に付与し、ユグリースが狙いやすい距離・角度から『炎の槍』の構築を始める。


 この世界には残念ながらフレンドリーファイアが無効とか、便利なシステムは存在してなかった。つまり範囲魔法を使えば当然前衛もそれに巻き込まれる。


 なので、おそらく単体攻撃魔法や自動追尾(ホーミング)系の魔法を使って攻撃するのが効率的にもちょうど良いだろう。

俺も安全な射線を確保する為、ユグリースお爺さんとはまた別の魔法を放ち易い位置に移動しようと駆け出した、のだが。


 Uruuu……UraaaAAA‼︎!


「ん? な……ぁっ!?」


 勇者の神速の斬撃を戦斧で弾き、アーニャの地を割る拳を頑強な肉体で防いでいたミノタウロスが駆け出した俺を牛目で視認したその瞬間、勇者達の攻撃を無視して俺に向かって一度の跳躍で一気に肉薄してきたのだ。


「アーデ!!」


「くっ、『防御システム』!」


 まだ何もしていない俺にタゲが変わったことには驚いたが、大跳躍だけに幾分か時間に余裕はあった。魔導書を起動すると同時に、魔導師の基本的な防御魔法のスキルを発動して待ち構える。


 Uruoooooooooooo!!


「っ、怖………」


 体重と慣性を乗せた戦斧の一撃が、魔導書から飛び出した一枚のページと激突、鈍い音を立て眩い閃光が生じる。斧と紙が鬩ぎ合う異常な光景に思わず息を呑むも、レベル差が十分に働いていることが分かれば動揺を消し去ることも容易だ。短く息を吐き、反撃に移る。


 UraaaAAA!!


「五月蝿い!」


 ギリギリと押し通ろうとするミノタウロスの胴体に『風の矢』を放つ。下手すれば即死だろうが、その時はその時だ。勇者には適当に言い訳すれば良い。


「……っ!?」


 しかし、ほぼゼロ距離で直撃した筈の風の凶槍は、ミノタウロスが身に着けている腕輪に吸い込まれて消え去った。当然、牛頭の怪人は無傷。意にも介さずページの守りを突破しようと斬撃を振るい続ける。


「アーデに手を出すな!」


 俺がミノタウロスの攻めを凌いだのを確認した勇者一行は、大きく陣形を変えて動き出す。


まずは熾烈な斬撃を繰り出し続けるミノタウロスの側面から勇者が奇襲し、胴を深々と抉り取った。

 更にミノタウロスの頭部へと炎の槍が追撃とばかりに襲い掛かったが、それは先程と同様に腕輪へと吸い込まれ傷付けるに至らない。


「魔封じの腕輪とはのう……。厄介な代物を持ったやつじゃな!」


 魔封じの腕輪、か。ゲームにはそんなぶっ壊れのアイテムは無かったから、多分こちらの世界の物か。そんな思考を他所に、勇者とユグリースお爺さんの援護を利用して後方に跳躍する。


 魔導書の防御が破られる事は無いだろうが、あの巨体が目の前にあるのは、それだけで圧迫感を感じてしまう。その為の後退で、十分な距離は取っておきたかったのだが。


 UraaaAAA!!


「なっ、アーデしか狙ってない……!?」


 しかしミノタウロスは脇腹の怪我どころか、勇者すら無視して俺に突っ込んでくる。流石にここまで粘着されるとは思っていなかったために、ミノタウロスの一撃に反応が遅れるが、再び魔導書から飛び出したページが自動的に戦斧の一撃を防ぐ。優秀な魔導書で助かった。


(腕輪の恩恵で魔法使い相手に強気で出ているのか? ……甘く見たな)


 魔法しか持っていなければジリ貧になるだけだが、俺はその程度でまともに戦えなくなるような魔導師(キャスター)ではない。


「このっ、しつこい! 『詩篇城塞』、『長剣射出』ランク3!!」


 新たに発動したスキル『詩篇城塞』によって、数え切れないほどのページが魔導書から飛び出す。それは俺を守り、襲撃者を排除する城塞となって周囲に展開する。


 ガガガッ!!


 Uruuoooooooooooo!?


 その内の4枚から実体を持った長剣が出現、超高速で射出される。その内の二本がミノタウロスの肉体を貫通し、残りも深々と突き刺さったことで苦悶の声を上げさせることに成功した。


 ポーションと武器のランクが統一されていれば、上級クラスの長剣がミノタウロスの各所に突き刺さっている事になる。そしてその内の一本は右脚の太腿に突き刺さり、自由な歩行を阻害している。


 Uruuu……


「本当にしつこいな……」


 しかしそれでも俺に向けて斧を振り翳しながら、足を引きずってこちらに近づいてくる。執念というよりは狂気に近い色を帯びた目が俺の事を見据え、その巨腕を振り上げる。しかし、


「アーデを誰かに傷つけさせる事なんて、絶対にさせない」


隙だらけのミノタウロスの背後から、風のように疾って来た勇者が剣を閃かせた。


 Uruooo…………ooo


 袈裟懸けに左肩から腹の中心まで長剣で切り裂かれたミノタウロスは、脱力して戦斧を取り落とす。が、膝を地に突きながらも俺に手を差し伸ばしていた。


 理性を取り戻したかのように深海色へと変色した瞳の奥に、何かを訴えるような、嘆願の意思が宿っている……気がした。


 そこでミノタウロスは力尽き、ものを言わぬ亡骸へと変わる。それに伴って先程までの緊迫した空気も波が退くように霧散し、勇者達もそれぞれの得物を下ろして息を吐いた。


「アーデ! 怪我はない!? 痛いところがあればソフィアに治して貰うんだよ!?」


「ぁ、……っ。大丈夫。特に怪我もしてない。それより体を拭いて」


 慌てた様子で俺に迫る、返り血で体を染めた勇者を押し退ける。グロ耐性はあっても全身血まみれの男に迫られるのは流石に嫌過ぎる。


「汗を掻いたのかい!? なら僕が拭いてあげふぅ!?」


「お前の体だよ……!」


「ぐはあっ!?」


 馬鹿なことを言いながらタオルを取り出した勇者に拳を二発ぶち込む。それなりに吹っ飛んだが、幾らレベル差があっても本気で殴った訳でもないし、魔導師の筋力なら大したダメージにならないだろう。


「い、良いパンチだったよ。アーデ」


 ……割と痛そうだ。殴られた腹を抱えて地面を転がっている。


「ご無事ですか、アーデさん。一応『治癒』を掛けておきますね」


「助かります。ソフィアさん」


 微笑ましそうな表情を浮かべたソフィアさんが、俺と勇者にヒールを掛けてくれた。少しだけ疲労した体を治癒の魔法が優しく癒してくれる。


「まさか魔法を無効化する魔道具を装備してるとはのう、アーデフェルト嬢が物理攻撃の手段を持っていなかったら、かなり危なかったの」


「アーデさんが足止めして最後に勇者がトドメを刺す連携、格好良かったですよ!」


 レティシアも含めて、他の面々も俺と勇者のやり取りに苦笑しつつ近づいて来ていた。レティシアの尊敬の眼差しがこそばゆい。


「しっかし、アーデはすげぇ良い剣を持ってるんだな。しかもそれを躊躇いなく使い捨てる戦法とか、贅沢な戦い方だな。一本くれよ」


 アーニャはミノタウロスに突き刺さった長剣の一本を引き抜いて、感心したように様々な角度から眺めている。

 彼女は名品だと褒めているが、4本とも全て大量生産品だ。鍛冶スキルの熟練度を上げる為にかなりの数を鋳造しているので、割と大量に余ったままの不良在庫でしかない。


 ランク3なので売るにしても二束三文の値段だったし、先程のように使い捨ての攻撃としてしか使い道が無かった。無強化の武器はアイテム欄を一つしか使わずににストック出来たから、折角なので残しておいただけだ。


「別に構わないけど、使うの?」


「いや、あたしは拳で戦うからな。やっぱいいわ」


 笑いながら返された長剣を魔導書の中に吸い込ませる。これで長剣はストレージの中に戻っている。因みに朝の宿屋で検証して気が付いた収納法だ。昨日のポーションを売って稼いだお金もしっかり入っている。


「相変わらずがめついなぁアーニャは。それじゃ、ボスの装備をいただいたらあっちの扉を調査するよ」


 ヒールで痛みが治まった勇者は立ち上がり、ミノタウロスの下に向かう。そしてミノタウロスの取り落とした戦斧を苦もなく拾い上げて、明らかに入りきらないサイズの小さな鞄に入れてしまった。


 成る程、あれがリムさんの言っていた『魔法鞄(マジックバッグ)』というやつか。あれはあれで便利そうだな。


 その他にも勇者一行は剥ぎ取りを進め、破損してない幾つかの装備をミノタウロスから取り外し、皮や肉も無駄なく解体して剥ぎ取っていく。


……うん。彼らが残した残骸だけでは、ミノタウロスの亡骸とはまず分からないな。



________



「さて、この扉の先の事なんだけど。……アーデに言っておく事がある」


 扉の前で立ち止まった勇者が、俺の方に振り返って真剣な表情を見せる。さっきのおちゃらけた表情とは凄いギャップだ。


「なにか?」


「これからこの扉の向かうの部屋に入る。部屋には多分、人に似た何か(・・・・・・)がいると思う。けどそいつは人じゃない。迷宮を操って人族を喰う――敵だ」


 不意にダンジョンマスターという単語が頭に思い浮かんだ。ダンジョンを造り、その中で人を殺す事によってダンジョンをより成長させる者。


 この世界では実際にそんな人がいるのか。というか、何となく転生者がなるイメージがあるが、……人じゃないのか。


「人の姿をした敵を殺すのを躊躇ってしまうなら、ここで待っていて欲しい。ダンジョンマスターを討伐する事は、魔王討伐よりも優先されるんだ」


 何だそれ。魔王より優先度が高いとは、どれだけヘイトを集めればそんな事になる?


 しかし、そのダンジョンマスターが転生者だった場合、色々な情報を共有しておきたい。


 あちら側が問答無用で襲い掛かって来たら仕方ないが、もし非好戦的な性格の場合は、何とかして無力化で抑えてもらえるように交渉しなくては。


「問題ない。その時は、戦う」


 取り敢えずは魔導書を構えた状態で頷いておく。すぐに放つため、状態異常付与のスキルを幾つか頭に羅列しておく。勇者がダンマスを殺すよりも速く、俺が無力化する。


「分かった。……行くよ」


 勇者は仲間達が準備出来ているのを見て頷くと、勢い良く扉を開き、中へと飛び込んだ。


 それに続けて仲間達も次々と扉を通り抜けて行き、最後に俺も扉を潜り抜けた。


「……ここは一体?」


「部屋、と言って良いものかのう?」


 勇者達は少し戸惑ったように室内を見渡している。先程までの本棚や石畳とは違い、壁にはしっかりと薄水色の壁紙が貼られ、床にはカーペットが敷き詰められている。


「嘘、なんで……?」


 が、この部屋の内装に見覚えのあった俺は、一瞬目の前に広がる光景が理解出来ず、扉の前で立ち止まってしまった。


 先程のミノタウロスのいた大広間と、同じ程度の広さを誇る大部屋。


 天井は吹き抜けとなっており、『飛翔』を使える魔法職ならば2階と3階の作業部屋までショートカットして行くことが出来る。


 広すぎる大広間には、中央に居座る長机と椅子を除けば、衣装選択用のクローゼットと素材を入れる為のアイテムボックスがポツンと置いてあるのみ。インテリアも盆栽とサボテンが窓際に並んでいるだけと、殺風景な内装だ。


 だが、だからこそ、俺はこの無趣味な部屋に見覚えがあった。


「マイ、ルーム。俺の部屋がなんでここに……」




 ――本当に俺がダンジョンマスターだったのか?

アーデが持つ魔本からは、残念ながら某金ぴかさんと違って武器か魔法しか発射できませんよ!


ストレージからは自由に取り出せるので関係ありませんけども!

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