60話目 もっとだ。もっと酒を
今回も一ヶ月とちょっとで書けました(白目)。
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「あの洟垂れ小僧がデカくなったもんだなぁ。しかも騎士になって帰ってくるとは、人生ってのは分からねえもんだ。なあエイド」
「恐縮です、ガレッザ族長」
「そう畏まんなって。こんな立派な獲物を狩ってきたんだ。誰も文句は言えねぇからもっと踏ん反り返っておけ!」
ガハハと豪快に笑う赤ら顔の大男が、元騎竜騎手・エイドリックの杯になみなみと馬乳酒を注ぎ、肉を削ぎ取った亜竜の大腿骨で肩をバシバシ叩いた。
この親戚のおっさんみたいに馴れ馴れしい男、高原の二大部族の一つを纏め上げ率いる族長なのだが、さっきから興奮しっぱなしで顔が鼻血塗れになっており、エイドにドン引かれている。
ただ、他の参加者やエイドも彼が酒を搔っ食らうのを止めないあたり、いつもの事なのだろう。誰もが苦笑いで醜態をスルーしている。あの惨状でよく死なないな。
足元には既に空の酒壺が幾つも転がっており、大男の宮殿に甘ったるい酒精の匂いを漂わせる。ただまあ、自慢するだけあって美味しいので、浴びるように飲んでしまうのも仕方のないことか。
(あ、このラム美味い。久し振りに食べたが、やっぱりこの口の中に残る薫りが独特で良い)
ちなみに俺ことアーデも、主賓から少し離れた位置で二壺ほど相伴に預かり、饗された羊肉の料理もツマミに貰って楽しんでいた。
──平原に着陸した後、トラブルなく雪の舞う高原の地に着陸した俺とエイドは、遊牧民の人々によって大きな歓声とともに歓迎された。
彼らはアディシという部族の遊牧民で、残念なことにエイドの故郷の部族ではなかった。しかしエイドが持ち寄った亜竜の土産を見るや否や、大喜びで酒宴の準備を始め、気が付けば部族全体参加での大騒ぎが始まっていたのだ。
それで主賓のエイド(あと、ついで扱いのアーデ)は、旧知の仲らしい大柄なガレッザ族長の住居に招かれ、羊丸々一頭を使った歓待を受けているわけだ。
(しっかし、外で雪が降ってるとは思えないほど暖かいな。雑魚寝しても風邪ひかなさそうだ)
甘い酒を口にしつつ、周囲を見回して建物の詳細を確認しておく。
中央に建てられた太い柱、その頂点から傘の骨組みのように広がる羊毛の屋根と壁。肌触りの良い毛皮の絨毯。知らない魔獣の頭部剥製。
大仰な武具や鎧こそ飾られているが、常に移ろいながら暮らす関係からか、壊れ易い贅沢な調度品は見当たらない。間取りの広さを除けば、族長でもそこまで豪奢な生活をしている訳ではないらしい。
「しかし驚きました。アディシの一族がここまで大きくなっていたとは。十年前は人も羊もこれほど多くはなかったと記憶していますが……」
物珍しい住居の内装に目移りしている俺を余所に、エイドはここを訪れてからずっと気になっていたと思わしき疑問を口にする。詳しいことは不明だが、どうも彼の記憶していたアディシ部族とは、規模がかなり違うらしい。
「まあ若い時にここを出たお前さんは知らんか。今はとある事情で部族同士身を寄せ合っているのさ。──グニラと、ドゥカティのとこの部族とは合併なんだが……いや、実情は吸収みたいなものか」
少し寂しげな表情で杯を呷るガレッザ族長は、その伸ばし放題な顎髭を扱き、隣の老人へと目線を寄越す。
「…………」
痩身痩躯。細く長く伸びた白い顎髭が特徴的な、仙人みたいな姿のご老人だ。
ギョロリとした眼窩は深く落ち込み、所々抜けた歯の噛み合わせが悪くカチカチと音を鳴らして杯に口を付ける禿頭の格好は、どうも落ちぶれた武者を彷彿とさせる。体格も相俟って強そうには見えないが。
「すぐ近くの川を遡った渓谷がドゥカティ部族の長殿だ。ただ一昨年の大雨の時に、羊が呪いに掛かって全滅してな。人死にが出なかったのは本当に幸運だったよ」
「そんな事が……」
ドゥカティ部族はこの地域で三番目にあたる規模の集落だったそうだが、根拠地である渓谷に呪いが蔓延して動植物が死滅したらしい。その呪いが気付かぬ内に放牧していた羊に罹り、部族長が調査を始めた時には既に、ほぼ全ての羊が呪いを受けてしまっていたそうだ。
その時点で土地の放棄を決断し、呪いの蔓延する根拠地を焼き払ってから二百人程の部族民を率いてアディシ部族に合流したのだとか。
「まともな処置も施せずに部落を潰したこの愚かな年寄りを笑ってくれ。アディシの娘婿が合流を認めなければ、儂は守るべき家族さえも死なせていたのじゃ」
「そんなことはない! 大父の迅速な決断が無ければ、間違いなく誰かが死んでいた。そうなればオレは義妹にも、義弟にも会えなかったかもしれんのだ。
だからどうか、そう自分を卑下しなさんでくれ」
自嘲する老人に唾を飛ばして反論するガレッザ。
義父にあたる老人の判断と悔恨は、同じく族長として民を纏める彼の立場からしたら、痛いほど良く理解できるものなのだろう。ちらりと周囲を窺えば、宴に参加している数人も悔し涙を浮かべ、頷く姿がちらほらと目に入る。
しかし呪いか……。幾らファンタジーな世界とはいえ、家畜が罹る伝染病の方がよっぽど可能性も高い気がする。
ただ、ここには治癒士ギルドや薬師ギルドといった専門家が拠点を構えている訳ではないだろうから、呪いと病魔の分類わけが為されていないだけかもしれない。
「話が逸れたな。で、後はグニラのとこの部族なんだが。……壊滅したよ」
「は。……今、何と?」
壊滅。壊滅とはまた物騒な表現だ。唖然と問い返したエイドの心情も理解出来る。集落の盛衰に使う表現として、「壊滅」ほど不吉さを感じさせる言葉はないだろう。
「──そのままの意味だ、エイドリック。八十人を抱える部族が一夜で全滅した。羊も、住居も全てが焼き払われてな。生き残りは口の利けぬ娘一人だけ。下手人も判らんから、こうして小規模な部族を集め警戒している。これからハドヌスに向かうみたいだが、……道中も気を付けろよ?」
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「あぁ、久し振りにこんな飲んだ……」
「にしては酔ってませんねアーデさん。一升瓶サイズの酒壺二つ開けて、さらに完徹してへっちゃらとか、前世はうわばみの末裔だったりします?」
──変なものを見る目の妖精を肩に乗せた俺は、酔い醒ましも兼ねて早朝の草原へと涼みに出ていた。
夜通し降り続けていた雪は既に止み、丈の短い草地に吹く高原の冷風が火照った身体に心地良い。暫し、風に吹かれるがままに身を委ねる。
「対照的にエイドさんはあっさり酔い潰れてましたね。意外です」
「まあ人それぞれだし、むしろあっさり酔えるのは個人的に羨ましい」
途中暗めな話はあったものの、族長が仕切り直しの音頭をとって酒宴は終始騒がしく、参加者の大半が酔い潰れるまで執り行われた。
宴に用いられた住居は酒と野郎どもの熱気で色々と酷くなっていたので、早起きな女性達が泥酔して眠りこける男どもを外に放り投げ、手馴れた様子で片付けている最中だ。雑な扱いだが風邪引いたりしないのだろうか?
「あらあんた、昨日エイドの倅と一緒に外から来た子かい? まだ朝餉を食べてないならこれを持っておいき」
「ありがとうございます」
俺とエイドに宛てがわれた羊毛製テントの前を通り掛かった年配の女性に、何やら羊羹に似た固形食を手渡される。おばさん曰く、芋と挽き肉、それと山羊の乳を混ぜて練った携帯食らしい。
一口齧ると、パサついた食感と独特の甘さが口の中を満たした。栗きんとん、よりも若干薄味で固く、そこそこ腹にたまる。美味しい携帯食というのは珍しいので、これは純粋にありがたかった。
「他の街のものより、断然これの方が美味しいです。ただ、水が欲しくなりますね……」
「そりゃあ仕方ないね。でも水は貴重だからほら、この酒で我慢しな」
「えーと、……どうも」
戸惑いつつもおばさんから酒入り水筒を受け取る。朝から酒……? と思わなくもないが、ここは異世界。元いた世界とは文化も常識も違う。それに俺は元から「酔えない」タチなのだ。
つまり親切心から勧められた以上、朝酒を楽しんでも許されるだろう。言うまでもなく、朝っぱらから酒を飲んでも咎めようとする者はいないのだから!
「(まだ飲むつもりなんですか……)」
襟の裏から聞こえる呆れ声は、聞こえなかったことにした。
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携帯食の残りを齧りつつ雑然と並ぶ住居の合間を縫って歩き、その度にすれ違う部族の人達と挨拶を交わす。老若男女問わず、大小の荷物を抱えて行き交う彼らは皆忙しなく働いていた。
仕事していないのは族長の天幕前に放り出された男どもだけだ。良いのかそれで。
「アーデさん、彼らの仕事に興味がおありで?」
「まあ、見ていて飽きない」
羊毛から糸を紡ぐ女性達を天幕の隙間から覗き見たり、露天で金属細工に勤しむ老爺の作品を見物しながら集落の外周を目指す。旅人というか外から来た人間が珍しいのか、遠巻きに俺の様子を窺う子供達もいるが、まだ距離が離れているので声は掛けないでおく。
そうこうしている内に集落の外周部、見晴らしの良い草地へ足を踏み入れていた。朝霧に薄っすらと羊や馬の影が浮かぶ牧歌的な風景を視界に収めながら、手近な位置で羊の手入れをしていた男性に声を掛ける。
「おはようございます。お仕事中ですか?」
「ああ、おはよう。……君は昨日空から降りて来たっていう旅人かい? 僕は見ていないから分からないけど、ドラゴンに乗って来たんだってね」
羊の毛を刈る手を止め、腰に提げた水筒で喉を潤し一息ついた男に頷き返す。正確には鷲獅子に乗ってきたわけだが、訂正するほどのことでもない。
「はい。ただ、昼頃にはここを発ってしまいますから、その前に見学を……って、うわっ」
ふと横を見た俺は、メエェと呑気に鳴く羊と間近で目が合い、思わず顔を仰け反らせる。
「ははは、君はヒツジを見るのは初めてなのか。可愛いだろう?」
「え、いえ……」
そう自慢気に笑う男性より、その羊は巨大だった。
頭部が既に140前後の俺の身長に匹敵しており、背中の羊毛まで含めると優に二メートルは超えている。まるで馬に毛を巻いたような体格だが、顔はヒツジ。つぶらな瞳がとてもチャーミング。しかしデカい。
昨日、遠目に眺めていた時には既に違和感を覚えてはいた。しかしまさかここまでとは。馬や牧羊犬のサイズは元の世界とほとんど変わらない癖して、羊(と山羊も)は何故巨大化したのか。……謎だ。
試しにおっかなびっくり縮れ毛に腕を埋める。と、なんと肘まで埋まってから漸く体表に手が届いてしまった。これ、この量を丸裸にしないといけないのか……。
「故郷のヒツジはもっと小さい……私の腰辺りまでしかなかったもので」
「へえ! 毛が取れる量は少なそうだけど、腰には良さそうだね」
腰て。爺さんかよ。
何ともおっさんらしい感想を述べた男性に別れを告げ、集落の外周沿いにぐるりと回り込むようにして歩く。とはいえ、件の巨大羊が壁になって平原の方向は少々見通しが悪い。
もう少し丘の上、集落寄りに散歩するかと顔を上げた俺は、──丈の長い草地に座る少女と目が合った。
「…………」
「おはよう」
少女は黙したまま、こくりと頷いた。
亜麻色のショートヘアに小麦色の肌と、この集落では見掛けなかった珍しい容姿だ。しかし今は全身の至る所に血の滲む包帯が巻かれ、痛々しい姿を晒している。
──この少女が例の生き残りか。
族長が話していた、グニラの部族が焼き払われたという事件。そのたった一人の生き残りが、彼女なのだろう。包帯の隙間から僅かに覗く肌すら酷く爛れ、火傷を負った患部の惨状が容易に想像できてしまう。
「……痛い?」
「…………」
再び少女は首を縦に振った。当たり前だ。不躾な愚問を口にした自身の無神経さを呪い、そして次に何と言葉を掛けるか迷う。
同情・憐憫、……違うな。そんなものは露にも思ってないし、慰めるために近づいたわけじゃない。
「火傷、治せるなら治したい? 痛みを消したい?」
「…………」
三度首肯する少女。そこで漸く、この子は口が利けないことに思い至った。そういえば宴席で、族長がそんなこと言っていた気もする。集落の惨状のことばかり気になって完全に失念していた。
これでは聞き込みが出来ない……わけでもないか。
「君がいた集落が襲われた時の話を聞きたい。その代わりに火傷を治す。質問に対する答えは、正しいか間違っているかだけでも良い。どうする?」
「…………」
頷いた少女の頸に、そっと手を伸ばす。頬から首筋、背中まで広がる爛れた傷から俺自身の魔力を葉脈の如く染み込ませ、身を強張らせた少女の身体の状態を隅々まで調べ上げる。
足が動かないリリィの症状を把握するために、魔力を擬似的な感覚器官として利用しようと編み出した使い方なのだが、これで分かるのは異常か正常か、のみ。
異物や損傷を排除・治療するのは『風霊の癒し』の役目だ。
「…………!」
「少しだけ我慢。辛ければ俺にしがみ付いて良い」
魔力が肌の火傷を掠める度、少女は声にならない悲鳴を上げ、身を震わせる。リリィ曰く「全身を舐め回されるよりも悍ましい感触」らしいが、……我慢してくれ。
「……! ……っ!」
少女は出せない悲鳴の代わりに掠れた吐息を漏らし、小さな掌がローブの裾を強く握り締める。
(……あれ?)
俯いた頬は上気し、焦点の定まらない瞳は半開き。だらしなく開いた口からつつ、と涎が垂れて顎を湿らせた。
包帯で顔が隠れているとはいえ、幼い少女の艶姿を目の当たりにした俺は、思わずごくりと生唾を呑む。
(な、何かいかがわしい雰囲気に……!?)
いや、確かにリリィも「中にまだ残してたりしない? なんだかムズムズするわ」とは言っていた。おそらくこの少女も、他人の魔力という異物の感触をもろに味わい、感覚器が混乱しているのだろう。魔力による探査が、決してよからぬ影響を及ぼしているわけじゃない、筈。
……リリィで試した時は、ここまで大袈裟な反応はされなかったのだが。
「辛いだろうけど、じっとして」
「……!? ……!」
辛うじて悪魔の誘いを跳ね除けた俺は、力の抜けた少女の身体を抱えて支え、魔力による探査を再開する。
(まあ、怪我のほとんどは火傷だよな。後はちょっとした擦り傷だから『風霊の癒し』で事足りる……)
火傷の跡は上半身の肌のほぼ全てに至り、無傷な皮膚を探すことの方が難しいくらいだ。ただ、この程度なら十二分に治癒が効く範囲でもある。
その他に内臓まで届く損傷なども見当たらない。あまり待たせるのも悪いので、錫杖を手に『風霊の癒し』を掛けようと構え、──その直前、少女の奥底で蠢く何かを感知した。
「え?」
“ソレ”は特段何をするわけでもなく、ただ身体の深い位置に「在った」。何故気付けなかったのか不思議なほどに、堂々と身体の中に巣食っていた。
存在を感知されて尚、ソレは微動だにしない。不用意に触れた魔力を蝕むことも、暴れ出すことも、その場から離れようともせず堂々と滞留し続けている。
俺はソレの放つ気配に心当たりがあった。
(これ、……まさか呪詛か?)
ベイレーン城を悪夢に陥れたローズリンデの生み出した、生死を問わず人間を取り込む怨嗟の集合体、カースキマイラ。
迷宮水路を造り上げた黒幕、呪魂の悪魔ことガメスオード戦の直前に俺を襲った、呪いの泥濘。
少女の奥底に潜む澱んだ塊は、この二つと非常に酷似した悪意を有していた。唯一の相違は、宿主に、周囲の人間にまだ危害を加えていないこと。
この世界における呪いがどのような扱いを受けているのか、俺は知らない。だが実体を伴って対象を襲う呪いが存在する以上、カタチ無き呪いが人に危害を加えないとは考えられなかった。
「君は……いや、先に治しておく。『聖界断禊』」
光属性の回復スキルを使用し、まずは少女に巣食う呪いから解呪する。奥底に留まっていた呪いの塊は、デバフ解除のスキルによって跡形も無く消滅した。結局呪いの正体が何だったのか判らず終いだが、下手に藪を突いて惨事を引き起こすよりはマシか。
続けて『風霊の癒し』を行使し、火傷で爛れた皮膚を治療する。こちらも、問題なく効果を発揮して少女の身体は健康的な小麦色の肌を取り戻した。
「……? ……! !」
初めは不思議そうに身体を擦っていた少女だが、俺が不要になった包帯を解き、元通りの姿を取り戻した二の腕を晒してみせると、──ポロポロと大粒の涙を零して泣き出した。
「え、あれ。どこか痛かった……?」
嬉し泣き? とは思いつつも念のため尋ねてみるが、少女は首をブンブン横に振って否定する。良かった。既にそれなりの人数に使ってるから、今更人命に関わるような副作用が出ても困る。
「…………」
「ん?」
涙でキラキラと瞳を輝かせ、両手で俺の掌を包むように握る少女。そのまま互いの顔を見つめ合うが……何だコレ。俺が喋らないといけない流れか?
「えーと、約束通り襲われた時の話を聞いていいかな?」
「…………」
いたたまれなくなった俺は、羨望の眼差しを向けてこくこく頷く少女から視線を逸らす。ここまで純粋な視線を向けられるのは久し振りで、……少し辛い。
「誰に、何に襲われた?」
まずは最も気になっていた下手人の正体を尋ねる。が、少女は悲しそうに首を横に振って拒絶した。……まあこれは分かりきっていたことだ。
犯人の正体を知っていればこの部族の人に先に話しているだろうし、そうなると族長が正体不明だなんて言う訳がない。
例外として、この部族が犯人だった場合は話が変わるが……、それならそれで態々この子を生かして口止めしておく意味もないだろう。
それに犯人探しは大事だが、俺の、俺達の目的とは何ら関係ない話なのだ。「もしかすると道中で襲われるかもしれない」ことだけを念頭に置いていれば、奇襲に対する心構えになるだろう。
「次。君は自分が呪いを掛けられていたこと、知ってた?」
「……?」
少女は不思議そうに、何のことか理解していない顔で首を傾げた。
「じゃあ呪いが何か分かる?」
首肯。
「最近、無理矢理変な物を、……普段口にしないものを食べさせられたりしたことはある?」
否定。
「最後。集落が襲われる前の日に、お腹が痛かったり、むず痒かったりした?」
「…………」
否定、かぁ……。結局判明したのは、グニラってとこの部族は少女に呪いを掛けておらず、滅ぼした側の存在が掛けたことだけか。他は不確定要素が多過ぎて、それを前提に動くのは不安が残るし。
(………………まあ、いっか)
何か企んでる奴がいる、ことが分かっただけでも御の字。むしろ少女一人から手に入れた情報量としては破格と言える。
そもそもたった一度の聞き込みで解決するほど世の中に蔓延る陰謀とやらは甘くないのだ。後は他の人から得られる手掛かりを擦り合わせ、繋ぎ合わせて正体を暴かなくてはならない。
「ありがとう。すごい為になったよ」
感謝を込めて、少女の亜麻色の髪を撫でる。風呂に入っていない所為で若干ごわごわしているが、心地良くされるがままの少女を眺めていると、それも気にならなかった。失礼な話だが、小動物をあやしている気分だ。
「(甘々ですね〜。値段吹っ掛けて借金させて、奴隷として売っ払えば良いじゃぐえっ……)」
妖精のド畜生発言は、襟を叩いて無かったことにした。
ア「ちなみに酒は?」
(●ω|「あまり飲まない」
ア「はい」
骨付きの羊肉は旨い。




