5話目 ポーションと肉
謎のサブタイその2
悲しい事に、一度執筆して完成したデータが消し飛びました。
その為作中に登場する、無駄にハイスペックなお爺さんの出番がごっそり消え去り、全く別の話になってたりします。(´・ω・`)
では、どうぞ。
2/25:計算ミスの訂正をしました。
「いらっしゃいませ。……あら、ここでは見ない顔ですね。旅の方ですか?」
集会所の古ぼけた扉を押し開いて中を覗き込むと、村の中心部という割に人影はカウンターに座る女性だけと、閑古鳥が鳴いていた。
それほど大きな村でもないから、冒険者が常駐する理由もないのだろう。
「そう。ポーションを売りたい。売ることは可能?」
俺としても人目がないのは気が楽で良い。暇そうにしていた受付の女性へと歩み寄り、事前に取り出しておいた幾つかの小瓶を並べる。
「あ、はい。それならまずは種類と等級、それに販売個数を教えて頂けますか? ギルドでは質の如何により買取価格を調整しております。なので薬剤師ギルドの印章がない場合は質の確認のため、手数料として毎回一つ無償で提供してもらうことになります。よろしいでしょうか?」
品質を保証してくれるブランドの証がなければ適正な価格で売れるか分からない、といったところか。まあ、普通の店なら買い取ってくれないだろうから、ポーション一つで確認して貰えるだけ温情と言うべきか。
「構わない。……そちらから見て右側から、治癒のポーションのランク1、2、3。買い取れるほど質が良くないならもう少し上のランクのポーションもある」
「細かく等級を区切られているのですか。当ギルドでは最下級、下級、中級、上級、最上級と区分けしていますので、異なる品質の物でも同じ等級になるかもしれません」
「勿論、等級はそちらの都合に合わせる」
宿代が欲しいだけなので、別に高く売れなくても問題ないので。ただ、売り物になりませんとか言われたら、とても困るが。
「ありがとうございます。では、確認させていただきますね」
ギルドの受付嬢(で正しいはず)は断りを入れて、受付の奥の棚から何やら摩訶不思議な道具を取り出し机の上に置いた。
形状は……あれだ。学校の実験室に置いてあった簡易版遠心分離機に似ている。
「ポーションの品質を確かめるための魔道具です。これと比較表を見比べることで等級の確認を行っています」
「なるほど」
俺の不思議そうな表情に気が付いたのか、受付嬢は丁寧に機材の解説をしてくれる。結構便利そうな魔法の道具もあるんだな。一つ欲しいかも。……まず使わないだろうけどな。
「それでは。――『解析』」
俺が渡した小瓶の中身を試験管に移し替え、受付嬢は聞き覚えのない魔法を唱える。すると空気とは異なる何か――おそらく魔力か何かだろう――が試験管の中の紅い液体に吸い込まれ、……特に何も起こらないな。
「ランク1のポーションのは下級ランクですね。それでは続けて2と3のポーションも調べさせていただきます」
しかし受付嬢には変化が判ったのか、比較表に記載された色と見比べ、ランク1のポーションについての情報を紙に記入している。……ん、最下級じゃないのか?
「ランク2のポーションは中級。ランク3のポーションは上級ですか。……あの、先程もう少し上のランクのポーションもお持ちになっていると仰っていましたよね? 失礼でなければ、お見せして頂いても宜しいですか?」
……困った。最高でランク15等級のポーションを持っているのだが。間違いなく見せたら面倒ごとに巻き込まれるよな。
「これより上は貰い物で、しかも数に限りがある。だからそう簡単に使い捨てるのは遠慮したい」
嘘は言っていない。それにこの世界で新しくポーションを自作出来るか分からない以上、易々と手放すのは拙い。
「なら、そのポーションを拝見するだけでも構いませんか? 先程の三つは比較表と寸分違わぬ着色をしてありました。小瓶から間接的に拝見するだけでも、今後の参考とさせていただきたいのです」
……面倒な。俺はただ、ポーションを売りたいだけなんだが。
「リムよ。御客人に無理を押し付けるものではないぞ。嫌そうな表情を浮かべておるではないか」
そう言ってカウンターの奥の扉から姿を現したのは、もっさりとした白い髭を顎に蓄えた、かなり歳を召した人族のお爺さんだった。
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リフール、71歳
Lv.60
職業・長老/戦士
称号・ビスマ村の御意見番、不屈の老兵
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勇者のパーティーにいるエルフとは比べられないが、結構歳取っているな。今は木の杖を突いているが、レベルと称号から見るにかなり強いんじゃないか?
「お爺ちゃん。……申し訳ございません。ギルドによる個人へと過剰な干渉は禁止されているというのに、……深くお詫びいたします」
「気にしない。それで、どの位の値段で買取を?」
「はい。薬剤師ギルドに加入していない場合は買い取り価格が5分の1となっておりますが、ギルドカードはお持ちでしょうか?」
「ない」
成程。正しくギルドを運営している訳か。そう考えれば規模も相当大きい筈だ。
「分かりました。ではこの場合下級ポーションは10銅貨。中級ポーションは1銀貨。上級ポーションは取り扱っている数が少ないため通常の買い取り価格と同じ10金貨となります」
「なら下級ポーションを一つ。中級ポーションを10個。上級ポーションを一つで宜しく」
ローブの懐から取り出す振りをして12本のポーションを取り出す。小瓶は等級によって装飾が異なるので見間違う事もない。
……中身だけを他の等級と入れ替えたらどうなるのだろうか? 商売は信用が大事ともいうし、騙すメリットも無いのでやろうとは思わないが。
「では、金貨10枚、銀貨10枚、銅貨10枚になりますね」
リムと呼ばれていた受付嬢は素早く計算すると、カウンターの内側に備え付けられた鋼鉄製の箱に触れる。
魔力を込めた掌でそれに触れた瞬間、鉄箱は淡く魔力と光を放ち硬質な音を立てて受け皿に硬貨を吐き出した。……何というか、想像以上にハイテクな道具だった。というか、レジじゃないか……。
「数え間違いがないかご確認ください」
金銀銅に光る硬貨がトレイの上に重ねられて差し出された。全ての硬貨に印章が刻まれていて、思っていたよりも手間を掛けて鋳造されている。
「……あ」
小さな硬貨を握りしめた俺は、遅まきながら財布の準備を忘れていたことに気付く。ポケット……は流石に不自然か。だからといって魔導書から財布を取り出す方がよっぽど怪しい気もするが。
「硬貨を入れる袋、貰えますか?」
最初からストレージに入っていた物は自由に取り出せるのは確認しているが、まだ此方の物を出し入れ可能かどうか未確認だ。それにストレージの存在が特別だった場合、面倒なことになるのは目に見えている。
「え、『魔法鞄』をお持ちではなかったのですか? では少々お待ち下さい。倉庫に無料の袋が置いて有りますので、すぐに取ってまいります」
「ほれ」
俺の言葉に驚いたように目を見開いたリムさんだったが、すぐに平静を取り戻して席を立った……が、後ろに立っていたお爺さんがリムさんに向かって革袋を差し出していた。手際が良いな。
「あ、ありがとうお爺ちゃん。……ではこちらをお使い下さい」
「助かります」
受け取った新品の革袋に硬貨を入れ、ローブの中に着込んでいたショートパンツのベルトに括り付ける。
そこまで重くはないが、違和感はある。宿を取ったら早急にストレージに叩き込められないか確認しなくては。
「お金を入れる『魔法鞄』は安いものなら金貨数十枚で買えますよ。もしくはギルドに登録してお金を預ければ、手数料は掛かりますがこの国のどの街でも自由にお金を引き出すことが出来ます。是非ご利用くださいね」
銀行みたいなものか。経済学には詳しくないが、この世界の流通は結構上手く成立しているのかもな。
「ありがとう」
「またのお越しをお待ちしております」
「ほほ、困ったことがあればまた来ると良い」
世話になったリムとお爺さんに一礼して集会所の扉に歩を進める。すると扉に手を掛けようとしたところで扉が勝手に開き、見覚えのある女性が室内に入ってきた。
「お姉ちゃん、お爺ちゃんただいま!」
「リル! あなたあれ程森には入るなって言ったのにまた入ったんでしょ!? 心配したのよ!」
木の魔物に襲われていた少女が元気な声で受付嬢のリムの所へ向かっていった。……リムとリル。ああ、姉妹だったのか。道理で名前がややこしかったわけか。
「えへへ。トレントに襲われたんだけど勇者様に助けてもらったんだ。……勇者様、格好良かったなぁ」
「勇者様に迷惑を掛けたの!? 全く、だいたいあなたは――
これ以上家族の団欒を邪魔しても悪いので、扉を静かに開いて外に出る。いやまあ、他人の説教を聞く意味がなかったのが一番の理由だけどさ。
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村に着いた時点で日は暮れ始めていたが、今はもう斜陽も山陰に遮られ、夜の帳が辺りを支配していた。屋根の下の生活の光が、外を照らす唯一の光源だった。正直暗い。足下の視認すら覚束ない。
転移? 転生? にあたって暗視の能力は付けて貰えなかったらしい。
「宿屋は……あれか」
それでも集会所の真正面にある建物に、小さな灯りに照らされたベッドが描かれた看板が目に入る。建物の大きさ的にも他に適合しそうな建物はなかったので、闇を掻き分けるように小走りで宿屋に近付き、扉を開く。
「いらっしゃい! おや、こんな可愛い子が田舎の村に来るなんて珍しいねぇ、泊まりかい?」
扉の先の室内はそのまま食堂のような場所で、幾つかの長机と椅子が置かれている。その奥にあるキッチンで皿を洗っていた恰幅の良い女性が俺に気付き、こちらに笑顔で向かってきた。
「ひとまず一泊で。部屋は空いてますか?」
「勇者様達以外誰も泊まってないから空いてるよ。一泊1銀貨。食事は一回50銅貨だよ」
「では、2銀貨で」
明日の朝食と昼食の分も纏めて渡す。今日はもう色々あり過ぎて疲れた。すぐにでも固くても良いからベッドでゆっくり休みたかった。
「まいどあり。今日の夕食はシチューだから熱いうちにお食べ」
「……ってあれ?」
いつの間にか長机の前に座っていた俺の前に、木製の深皿に盛られたシチューがドンッ、と置かれた。立ち上がろうにも香草の良い香りがきゅぅ、と腹の虫を鳴らして邪魔をしてくる。
「残り物を出しただけだからタダでお食べ!育ち盛りなんだから食事を抜くような真似は駄目じゃないか」
どうやらおばちゃんの好意らしい。というか、こんな良い香りを嗅いでしまっては到底寝れる気がしなかった。
「いただきます」
「うん? あいよ!」
これから頂く食材と、作ってくれたおばちゃんに感謝の意を示し、一口程度に切り分けられた芋をスプーンで一掬いして、口に含む。
(熱っ……。けど、旨いなぁ畜生)
よく煮込まれた具材に染み込んでいたスープの旨味が、じんわりと口の中に広がっていく。とりわけ絶品というわけではない筈なのに、どこか懐かしさを感じる味。
(ああ、昔食ったお袋の料理と似てるのか……)
一流のレストランで料理人が丹精を込めて作り上げた美味しい料理とは異なる、屋台や身近な人が作った旨い料理。このシチューはそんな味がした。
親の名前すら思い出せないのに、その料理の味は覚えていた事に自然と涙腺が緩くなってしまう。涙は目尻で無理矢理堪え、ただひたすらに口と手だけを動かした。
気が付けば、かなりの量があった筈のシチューは残り僅かにまで減っていた。少女の姿でもこれくらい食べきることは簡単だったか。
「む。……この肉って何ですか?」
そして残していた幾つかの肉を口にして味わうが……豚か? 普通の豚より濃厚というか美味しいというか――……ぁ、あ。ま、まさか?
「その肉は今日勇者様が倒したオークのやつだよ。この辺りのオークは数が少ない代わりに肉が引き締まってて他の地域より旨いのさ!」
「…………Oh」
緩んでいた涙腺はすぐに引っ込み、思わず気が抜けて机に突っ伏してしまった。結局、食べてしまったかぁ……。いや、美味かったけどさ。
アーデ「この村でのんびりと生活するのも悪くないか?」
(●ω●)別に構わないけど?
アーデ「本当か⁉︎ なら
(●|ただし用を足す時は下水道に垂れ流し、食事は肉も出るけど9割が魔物の肉、そして娼館なんてあるわけがないのできっと男達の欲望のはけ口に………
ア「止めておく」
今はもうやっていないのですが、少し前まではNPCのお店でHPポーションやMPポーションを買えないオンラインゲームをやってました。
回復職で尚且つポーションも自作していたので困りませんでしたが、プレイヤー同士の取引所の価格を見るに、ポーションを買うだけで結構な出費になる気がします。それでもケチるわけにはいかないのは、ままなりませんね。
………オチはありません。