46話目 エリマキトカゲ
題名が思いつかなかったという理由で■■■の部分に入る文字をサブタイトルにする作者は、「なろう」広しといえど多分私だけ、なんだろうか?
つまり何が言いたいかと言えば、サブタイは本文に大した影響はありません。忘れてしまって大丈夫、ということです。
では、遅くなりましたがどうぞ!
__________________
闇が広がる下水道に、火、水、風、土、雷、氷、闇、光、竜属性の9本の光の束が美しい直線を描く。
際限なしに湧いては襲い掛かってくる蜘蛛の魔物だったが、石積みの隙間から這い出したその瞬間、色鮮やかなブレスに直撃してこの世から消滅する。
「……カラフルだな」
呼び出した使い魔のお陰で手持ち無沙汰な俺は、ヒューちゃんが雑魚相手に無双する光景に消化不良な気分で思わずボヤいていた。
今は『飛翔』を使ってダンジョンの奥へと前進中。足元や水路からの奇襲やトラップに備えて一応魔導書こそ起動してはいるが……今のところ出番はない。
「さてはて、物量こそ正義だというのは認めるけど、もう少し工夫するつもりはないのやら……。ヒューちゃん、ありがとうな?」
チー、チー!
俺の前方を警戒する頭の一つに声を掛ければ、嬉しそうな鳴き声を上げて二又に分かれた舌を伸ばす。多分喜んでいるのだろう。蛇の感情を表す仕草なんて知らないが。
(多少重いのを除けば、かなり優秀なやつだ。他のペットと違って小回りも利くし持ち運びも楽な部類。ま、見た目はちょっとアレなんだがな……)
他に使用可能なペットと比較しつつ、自身の華奢な身体を見下ろす。己の好みによって創造されたその起伏に乏しい身体には、ヒューちゃんの1メートル近い胴体が幾重にも巻き付き、その長い身体を支えていた。
ヒューちゃんの九つの首がまるで花弁のように展開する光景は、まるで■■■■■■■のようだ。
……別に蛇に巻き付かれて興奮するとか、そっちの気があるわけではない。ヒューちゃんの移動方法がこの長い胴体で地べたを這いずるというものである以上、流石に床から湧き出す蜘蛛への対処が遅れてしまう。
それを避けるため蛇の胴体を俺の身体に固定、そして俺が通路の中央を飛ぶことで九つの頭が上下左右斜めに分散警戒を行う今のミニチュア要塞が完成したのだ。
まあ大した力を持たない蜘蛛に集られる程度で多頭水蛇がダメージを負うことはないとは思う。なので念の為でしかなかったのだが……思っていた以上に便利だ。
……端から見れば蛇に巻き付かれる美少女という構図なので、万人受けするとは限らないのだが。あとヒューちゃんの体重は軽く20キロは超えているので、Lv.250のステータスがなければ宙に浮くどころか碌に動けなかったかもしれない。
そんなわけで、全周から襲撃を仕掛ける蜘蛛の群れは九種類もの属性のブレスに舐めるように溶かされ、為す術なく消滅という憂き目に遭っている。まあ俺が直接手を下す必要もない物量しか運用できないのでは、こうなるのは必然か。
「……む、まさか本当に品切れ?」
気がつけば、同族を踏み潰しつつ幾重にも重なるほどいた蜘蛛の大群はごっそりと消え失せ、石造りの床や壁がちらほらと見えるまでに激減していた。
前進する速度は維持しつつ背後を振り返れば、正面と同じく追い掛けてくる蜘蛛はだいぶ疎らなもので、それすらもヒューちゃんのブレスを浴びて溶けるように消滅していく。
(一応奇襲の警戒はしておくとして……、地下に行くための順路を探るか)
現在俺が進んでいる階層ならば、オリベルと視察した際にある程度マップを把握し得ている。こちらに来た時に反応を返さなくなった枠のマップ機能こそ使えないものの、その代わり魔導書の一ページに今まで通った道順が自動的に刻まれていくようになっていた。
街中をマッピングする素振りは見なかったので、おそらくダンジョン限定……でも無いか? 少なくとも勇者と潜ったミノタウロスがボスのダンジョンでは、魔道書が勝手にマップを描くことはなかった。
……まあ、あそこはダンジョンという名称が適切かと言われると……微妙な造りだったが。なにせ一本道だし、トラップも無く、ボス以外のモンスターは弱い。地図の必要性が特になかったのが原因だろうか?
魔導書の機能は兎も角、あのダンジョンとここを造ったダンジョンマスターとやらは、おそらく同一の存在。ツバキという名の青年とちみっこい妖精コンビだろう。
ダンジョンマスター自身は大した能力を持っていないはず。Lv.100と、この世界の人族では敵わないかもしれないが、それでも俺の二分の一にも満たない。正面から戦うことになれば、まず負ける要素は無いだろう。
問題はダンジョンマスターの元に辿り着けるのかという事と、そもそも彼らを倒すためにここに潜り込んだわけではないこと。
畢竟、マロンさえ返してもらえれば、それ以上の干渉はまったく考えていない。……手勢を根こそぎ殲滅され、大人しく引き退るかどうかは別として、だが。
思索に耽る余裕すら保ちつつ、分岐した水路の一方へと浮遊した状態で進む。と、水路の奥からページの明かりとは異なる光が、散発的に明滅しているのが目に入った。僅かにだが、何か硬いものがぶつかり合う音も遠く離れている俺の耳にも届く。
こんな場所で活動する存在となれば、水路を徘徊する魔物か、もしくはそれを討伐しに潜り込んだ探索者だけだろう。
「オリベルと騎士団、両者が戦ってないことを祈っておくか……」
もしそうだったら止めるの面倒だなぁ……と、小さく嘆息する。オリベル自身に骸骨の姿を隠す気はまず無いだろうし、騎士団がスケルトンそっくりのあいつを逃すとかといえば……まあ有り得ない。
そんな状況を思うと若干憂鬱になってしまいそうだが、敵の敵は味方という格言もあるので、止めないわけにもいかない。出来れば余計なトラブルを起こさないで貰いたい。
『飛翔』の速度を上げ、戦闘中と思わしき水路の突き当たりーー大部屋まで一気に距離を詰める。魔物の襲撃は完全に途絶えて久しいので快適な飛行には何ら障害はないが、トラップを仕掛けられていないとも限らないので、最低限の警戒はしておく。……魔導書が。
「見えた。……っ、杞憂だったか」
やがて目視でも大部屋の様子を確認可能な距離にまで達しーーそこでの戦闘が最悪のものではないことにホッと安堵の息を吐いた。
「オオ来タカ。遅カッタジャナイカ!」
細剣を振るうオリベルがこちらに気付き、嬉しそうな声を上げてカラカラと笑う。彼が相対する相手は騎士団ではなく、サソリもどきの大型の魔物。体長が3メートル弱で尾の棘が4本あったりするが、まあ多分サソリの仲間だろう。
Gyuーーーー!!
「カカッ。遅イ! 鈍イ! 温イ!!」
オリベルは尾棘による連続刺突を華麗に避け、ハンマーのように叩き付けられた鋏を飛び越えた勢いのまま鮮やかな刺突を脚の付け根へと繰り出す。
Gyuu……!
「オット、コノ手ノヤツハヤタラ頑丈デ大変ダナ」
巨大な甲殻を支える脚の一本を深く抉られたサソリは、大きくバランスを乱してその場に崩れ落ちた。しかしこれまた堅そうな二つの鋏を振り回す悪足掻きに、オリベルは追撃を諦めて大人しく距離を取って体勢を整える。
(合流するなら今だな)
そう考えて『飛翔』の速度を上げた瞬間、オリベルの背後で座り込んでいた少女が慌てたように起き上がって慌てて叫ぶのが見えた。
「この部屋に入ってはダメ! 魔法を使えなくする罠が仕掛けられているわ!」
ふむ? ーーああ、そういうことか。
左目を眇め、ちょっとした講堂サイズの大部屋を視れば、確かに薄っすらと青い線のような模様が微量ながら発光しているように見えた。だが似たような輝きは二度、既に見たことがある。
即ち、魔封じの腕輪と同一のもの。ならばやることは一つ。
「ちょっと……!?」
散らばっていたページを魔導書に仕舞い、足から着地できるよう姿勢を整えて大部屋へと飛び込む。その途端、身体を支えていた不可思議な浮遊感が消失し、重力に引かれて床へと接地。
「んっ……と」
ズザザッ! と、ブーツと石畳が擦れる音を立てつつも、なんとかバランスを崩すことなく着地に成功する。バランス感覚があって良かった。お陰で転ばずに済んだ。
「ヒューちゃん、オリベル! そいつの足止めよろしく」
チー、チー!!
「ヒュ、ヒューチャン? ……ヒュドラノ……幼体ジャナイカ!? ……聞キタイコトガ増エタガ、今ハソノ役目ヲ果タシテヤロウ!」
立ち上がりそうな素振りを見せる巨大サソリを一人と一匹に受け持ってもらい、その間に俺は床の紋様にそっと手を重ね合わせる。
魔封じの紋様の実態は、魔力そのものを封じるのではなく、魔力の操作を阻害するというもの。つまり魔力を雑に、適当に放出するだけなら特に問題は無かったりする。
一応多少の魔力なら吸い上げる機能も持っているようではあるが、どんな容器にも容量の限界というものが存在する。風船に空気を注ぎ込み過ぎてしまえば、破裂するのは自明の理。
つまり、仕組みがまったく同じである以上、この部屋の魔封じのトラップも魔力を叩き込めば何れ壊れるというわけだ。……小さな腕輪と大部屋では容量自体は三つか四つくらい桁が違うと思うが。
(ま、そうだとしても、俺の保有してる魔力を全て入れ切るには足りなかったようだな)
予想外に速いペースで赤く染まる魔封じの紋様。多少時間が掛かってはしまっているが、懸念していたサソリの襲撃もヒューちゃんとオリベルが巧みに翻弄してこちらに矛先を向けさせないようにしている。
ピシ、ピシピシッ…………パキンッ!!
やがて硝子に罅が入ったような音が部屋全体から響く。悲鳴のようなそれに構わず魔力を注ぎ込めば、直接触れていた紋様部分が赤熱化し、ついに澄んだ音を立てて砕け散った。
「熱っ」
ちょっとした放熱に危うく火傷しかけたが、これで障害は消え失せた。再び魔道書を開き、ページを部屋中へとばら撒いていく。
「『詩篇城塞』。ーーさて、まずは『大剣射出』、ランク3、8本」
片手を掲げる合図とともに、サソリの周囲に展開したページから8本の大剣がせり出す。現れた剣の一本一本が、小柄な俺の二倍近い刀身を持つ巨人の剣。
「ナッ、危ナイナ!?」
そしてその光景に慌てて後退したオリベルと、暴れるサソリとの距離が十分に開いたのを見、ーー腕を振り降ろす。
ガガガガッ!!
Gyaa………!?
高速で射出された大剣が胴体を支える六本脚の付け根を正確無比に撃ち砕き、両断する。残りの二つは堅い鋏に弾かれて有効打には至らなかったが、まあ相手の防御性能を知れたことを良しとしておこう。
Gyeeeeee!!
あっさりと脚を断たれ動けなくなったサソリだが、尚も足掻こうと4本ある尾の棘の標準をこちらへと定める。このまま放っておけば針を飛ばして来るのだろうが、別に大人しく攻撃をもらう必要もない。
「追加。4本」
説明不足とも言える端的な指示にも拘らず、主の意図を正確に読み取った魔道書は鋭敏に反応し、ページから新たな大剣を撃ち出す。
Gya……aaa!!?
大剣の質量エネルギーが直撃した全ての尾が、グチャりと鈍い音を立てて圧壊した。移動手段と、鋏以外の攻撃する手段を失ったサソリの魔物は、それでも自身の急所を守るため頭上に巨大な鋏を掲げて防御の姿勢を取ろうとする。
確かにあの硬い鋏であれば、並大抵の攻撃は容易く跳ね除けるだろう。ーー並大抵の物なら、だが。
「『長剣射出』、ランク5『貫甲鋼剣』」
新たに取り出したのは、鈍色に輝く無骨で鋭利な長剣。丈夫かつ修理費用が安いので、前衛職の駆け出しプレイヤー御用達のメジャーな武器だった。
何の飾り気もないこれの性能は確か……甲殻系の防御の性能を数パーセントダウンさせるものだった、はず。あと虫系のモンスターには固定の追加ダメージも与えられる、気がする。……戻ったら調べておくか。
この世界において、ゲーム時代の武器ステータスがどのような影響を与えるかは未だに正確な情報を掴み切れていないが、そもそもランクが二つ違う。脆い箇所とはいえ、ランク3でもやつの防御を超えられたのだ。
「征け」
ならば間違いなく鋏の護りを破れる、その確信があった。
ガッッ……!!
果たして、長剣は鋏をバターのように軽々と貫通し、その勢いのままサソリの頭部に深々と突き刺さる。
Gya……、gy……………。
串刺しにされ、動かない鋏をカチカチと鳴らしていた巨大サソリだったが、やがてその生命活動は完全に途絶え、その鈍重な体格で小さな砂埃を巻き上げつつゆっくりとその場に崩れ落ちた。
(●ω●)「久し振りの出番だ。夜想曲には友情出演させてもらえないからな」
アーデ「はよ、こっちの更新はよ」
(●ω|「待て、しかして何とやら」
ア「11月のvitaの新作……あっ(包丁)」
(●ω|「やめてくれ! 徹夜で終わらせるから!!」
次も一ヶ月以内に更新出来るか、今から不安ですが何とか頑張ります。