41話目 サベレージ最強との顔合わせ
6月中にはと言っておきながら、未だに三章クライマックスにすら差し掛からない現状。はい、予定は未定でした……oh。
で、では、どうぞ。
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「はぁ、やっぱり来なきゃよかった……」
ベイレーン城の城壁の手前で馬車を降りた俺は、目の前に広がる無残な光景に溜息を吐いて項垂れた。自分のしでかした事で胃が痛くなるのは、何気に初めての体験だった。
「アーデ様、お身体の調子が優れませんか?」
「そういう訳じゃない。馬車の通行を城壁の手前までに制限した騎士団を呪いたいだけ」
俺のことを心配してくれるサクに感謝しつつ、もう一度顔を上げようとしてーー無理だった。俺がやり過ぎてしまった爪痕は、城門から見えるだけでもかなり残っていたのだ。
まず最初に目に入ったのは城の手前に広がる花壇と噴水が綺麗な中庭……だったもの。今は戦いの余波で全ての花が枯れ果て、噴水から噴き上がる水は堀から溢れて砕けた石畳の道を無秩序に流れている。
とは言えこれは別に俺がやったことではない。花壇の花を踏み荒らし、瘴気で枯らしたのはローズリンデが呼び出したゾンビ達であり、噴水が壊れたのも俺が外で戦う前の話だ。多分。知らないけど。
(……ははっ、まさに抉り取られたって表現がぴったり来る光景だ。……はぁ)
問題はその奥、ベイレーン城そのものだ。100年以上前の勇者が魔法で建てたという壮麗な威容を誇っていたベイレーン城だが、俺が放った流れ弾ーー流れ魔法? を何発か被弾してしまったが故に、正面玄関及びその周辺が綺麗に倒壊してしまっているのだ。
ゲロビこと『彗星光条』は、正直なところ城の練兵場程度の閉所で撃つには些か過剰過ぎるスキルだった。
地形破壊が存在しなかったゲーム時代なら兎も角、現実…である今の世界では簡単に物を破壊出来てしまう。いつの間にか元の状態に戻っていました、などという事にならないのは目の前の光景から明らかだ。
「その2人、これより先は一般市民には開放していない。然るべき書簡またはギルドカード、もしくは家紋を提示せよ」
所々が崩れている城壁を横目に門兵が立つ城門前まで近付くと、当然と言うべきか制止の声が掛けられる。しかし身分証か……Dランクのギルドカードだと多分門前払いされるよな?
(アーデ様。大賢者・ユグリース様の書簡を提示するのが良いかと。イルデイン卿とユグリース様は確か友誼を結んでいたはずですから)
まあそれが一番良いか。ベイレーンに来たばかりの時もあの書簡は便利なものだったし。
「これで?」
俺が懐から取り出した巨大な樹が描かれた印を目にした門兵は、目を剥いて慌てて居住まいを正した。
「……な。だ、大賢者殿の直印……!? 失礼しました。お通り下さい」
まるで王侯貴族に接するような態度に戸惑わないわけでもないが、まあ大賢者というのはそれだけ偉大なんだろうなと適当に納得して要件を伝える為に再度口を開く。
「今、イルデイン公爵…様とは面会出来る?」
「公爵閣下とですか……。現在怪魔討伐の事後処理の為の書類を整理しておりますので、大賢者殿の紹介状を持つ貴女であったとしても、面会に応じてくれるかどうかは判りかねます」
……ご苦労様です。事後処理を全部任せてしまって本当に申し訳ナイ。何か差し入れでもしておいた方が良いかな。
「そこまで時間は取らせない。幾つか確認したい事を聞いて、ちょっと差し入れを渡すだけ」
「分かりました。では確認を取りますので、城内でお待ち下さい。ああと、迎賓館の廃墟の付近には大穴が開いておりますから、落ちないようくれぐれもご注意を」
「助かる」
門兵は城内に建てられている仮設の詰所に顔を覗かせ、休憩中の兵士に門前の警護を任せて走り去る。……さて、大して時間は無いが領城(廃墟)観光と洒落込むか。
「しかし、あいつはベイレーンを蹂躙して、後のことはどうするつもりだったんだろうか?」
枯れた花が並ぶ花壇の道を歩いていた俺は、自然とそんな疑問を口にしていた。ここ一週間の間、ずっと気になっていた謎なのだ。
確かに超再生を可能にする能力は厄介だ。しかし、死者を魔物の肉体として構成した以上、光属性や雷属性の魔法には滅法弱くなってしまっていた筈。
それに移動速度も芳しくはなさそうだった。そうなればベイレーン付近の村を廻っているという勇者一行に情報が入る。彼らは苦戦こそするだろうが、あれくらいなら十分討伐可能な範囲だ。
つまりベイレーンの街を滅ぼして、それで終わり。あれを創り出すのにどれだけの金を掛けたのか俺は知らないが、街一つではまず割に合わないと思うのだが……。
「アーデ様。サベレージ王国の王族について、どの程度把握しておりますか?」
「この国の、王族について……?」
俺の独り言を聞いていたサクが、不意にそんな問いを投げ掛けてきた。王族と言われてもレティシアくらいしか知らないんだが。本が読めない所為で歴史系の情報を得る機会がさっぱりないし。
「第三王女までいるくらい」
「そうですね。王子が三人、王女の方は第二王女が若くして亡くなっていますので現在二人となっています。
そしてその現国王の直系五人全員が王位継承権を有したまま破棄を宣言していないのです」
ふむ。五人で王位を争っているってことか。他に候補がいるとしても、大した影響力はないーーうん?
「アーデ様の「何故ローズリンデ=ベイレーンはあの魔物を召喚し、街を蹂躙しようとしたのか」という疑問の答えですが、おそらくあの女の狙いはーー
「陛下の実弟であり、大貴族の筆頭として王位継承に最大の発言権を持つ私の抹殺。そういうことだろう? ハーフの少女よ」
不意に背後から声を掛けられた。目つきを鋭くしたサクが俺を庇うようにして前に立ち、僅かに腰を落として片手を腰に当てる。正面からは見えない位置でナイフを握っていることから、サクが臨戦態勢に移ったのが分かる。
「そう警戒せずともよい。君達を害するつもりなど毛頭ないからな」
「未婚の淑女の背後に無言で忍び寄る殿方の、どこに信じられる要素があるのでしょうか?」
騎士鎧姿ではなく、文官風の姿で現れた厳しい顔つきの男を前に、サクの声音は依然として冷たいままだ。しかし折角あちらから出向いてくれたのだから、さっさと話を付けておくべきだろう。
「サク、別にいい」
「アーデ様。しかし……」
「態々あちらが顔を出してくれた。ならさっさと本題に入っても構わない?」
「良いだろう、と言いたいところなのだが……。私としては尋ねたいことが少なからずある。話はあちらの陣幕の中でも構わんか?」
「勿論」
踵を返そうとした男だったが、何かに気がついて再びこちらに振り返った。その刃物のように鋭い瞳の奥には、若干の好奇心が混ざっているような気がした。
「そういえば自己紹介がまだだったな。ーー私の名はイルデイン=ヨークスコーツ。公爵家の当主にしてサベレージ王国の騎士団を預かる身である。
此度の大怪魔の討伐、騎士団の長として、個人として礼を言わせて頂く。もし良ければ、恩人である君の名を教えてもらえるかね」
そう悠然と名乗りを上げるイルデイン。まあ誰なのかは既に枠を見て知ってたけどな。とはいえ、俺の方はしっかり名乗らなければいけないだろう。
なのでいつも通りの自己紹介をしておく事にした。
「アーデフェルト。魔導師と薬師をやってる普通の人間」
ああ。誰が何と言おうとただのEランクの薬剤師であり、ベイレーン在住の小市民ですとも。
「普通の人間、だと……?」
だからそんな「何を言ってるのだ、コイツ」みたいな目で見ないでくれ。サクまで笑いそうになるのを必死に堪えてるし……。
(●ω●)「とあるストラテジックシューターにハマってしまった。ファンタジー世界が一番の大好物だけど、ロボット物もやっぱり捨て難い!」
アーデ「……」
(●ω|「乗らない?」
ア「私は魔導師です」