4話目 無口系美少女と小さな村
兎にも角にも主人公をあちらこちらに移動させたくなる不思議な欲望。
今回はちゃんとした拠点でひきこもり生活を目指す(出来るとは言っていない)予定なので、発症しないように心掛けなくては。
ではどうぞ!
「レティの事を助けてくれてありがとう。アーデ」
ことのあらましをレティシアから聞いた勇者アステリオが、頭を下げて感謝の言葉を紡いでくれたのはまあ、良い。しかし勇者よ、何故俺ですらまだ決めてない愛称で、しかも呼び捨てで呼べるのか。
「構わない。オークとかの死体もそっちで処分してくれると助かる」
死体を見て吐き気を催す、とかそういう事は一切ないが、流石に死体に触れるのはあまり気が進まない。なので全て勇者達に押し付ける事にする。
「良いのかい? ゴブリンは兎も角、オークの肉は食べても美味いし、売ればそこそこのお金にはなるよ?」
(げ、食えるのか、あれ)
ちらりと赤髪の美女が解体中のオークを覗き見る。豚顏を除けば、ただのでっぷり太った人間にしか俺には見えなかった。まあ意思疎通は出来そうになかったが。
「遠慮しとく。人肉を食ってる気分にはなりたくはない」
「あれは歴とした魔物であり、人では決してありません。ですからそのような事で気に病む必要はありませんよ?」
横から口を挟んできたのは、如何にもな修道服を着たこれまた妙齢の美女だった。どことは言わないが、デカい。
「おっと。アーデの名前は教えて貰ったのに、みんなの紹介が遅れたね。こちらの可憐なシスターがソフィア。骨折くらいならすぐに治してくれる優秀なヒーラーだよ」
「ソフィア・アクトベルです。アクトベル修道院はサベレージ王国の各地にありますから、もし近くに来られた時は是非よろしくお願いしますね。アーデフェルトさん」
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ソフィア・アクトベル、27歳
Lv.45
職業・神官/治癒師
称号・アクトベル流師範、守銭奴、女神の狂信者
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うん。この人の前で宗教の話は絶対にNGだ。やはり神官に喧嘩を売るのはリスクが高いな!
しかし人の年齢すらも確認できるのか。……ステータス表示も業が深いな。
「それでこっちのじじ……爺さんがエルフの六大長老の一人にしてエロじじ、もとい大賢者。ユグリーの爺さんだよ」
「相変わらず男に対しては口が悪いのう! だがそうとも、この儂こそっ、かの大賢者エフィードの末裔にして大賢者の名を継ぐ者、ユグリース・
「はい次行こう。レティシアはもう自己紹介しちゃったんだよね?」
「ええ」
「話を聞いてくれよぉ〜。勇者よ〜」
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ユグリース・エフィード、285歳
Lv.75
職業・大賢者/魔法使い
称号・大長老、始祖大賢者の血族、変態紳士エルフ
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あんまりな扱いを受けるユグリースなんちゃらさんの爺さんだが、誰も爺さんを慰めないのを見るにいつもの事なのだろう。まあ今のやり取りと称号で爺さんの人となりはよく分かったから、別に良いや。
因みに背は縮んでいるようだが、背中はピンと伸びており、まだまだ現役である事を如実に示していた。
「リルさんはビスマ村の村人だから別として、じゃあ最後に紹介するのは僕の幼馴染であり、猫人族としては初の去年の闘技大会優勝者であるアーニャだよ」
「ははっ、つってもあの時はアステリオが出てなかったからな。アーニャだ。得意なのは拳で戦う事。よろしくな、アーデフェルト」
「よろしく」
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アーニャ、21歳
Lv.55
職業・剣闘士/拳闘家
称号・拳の覇者、解放奴隷
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ふうむ。奴隷制度もある、もしくはあったか。文明レベルはいまいち判然としないが、姓があるかないかの違いは、出身となる拠点があるかどうかによって別れてるのだろうか。その辺りは後で確かめればいいか。
「話を戻すけど。僕たちはリルさんをビスマ村に送り届けないといけないから、日が落ちる前にここを出発する。アーデはどうするんだい?」
「……む」
まあ、異世界に来ていきなり野宿は遠慮しておきたいところだ。ピー子に寄り掛かって寝れば快眠出来そうではあるが、それはまたの機会にしておこう。
「寝床は確保しておきたい」
「そうだね。なら僕たちがビスマ村まで案内するからアーデも付いてくるといい。これでも勇者だから、並大抵の障害なら僕が退けるよ」
「……分かった」
どんどんアステリオの思い込みで話が進んでいくので、言葉足らずでも会話が楽に進むな。これだけは幸いだったかもしれない。長話をすれば何処かでボロが出かねんからな。
(これからは無口系美少女で通していくか。……いければいいなぁ)
そんな事を考えつつ、出立の準備が整った勇者御一行プラス一名の後をついて行くのだった。
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「リルっ、無事で良かった……!! 勇者殿、本当にありがとうございます! このお礼は必ず!」
日が沈み赤く染まったビスマ村の正門で、真っ先に勇者達を迎えたのは、滂沱の涙を流してリルを抱き締めた50前後のちょび髭の男性だった。同じようにリルさんも再会の喜びから目尻に涙が滲んでいたが、ソフィアさんまでもらい泣きしてるのはよく分からなんだ。
「村長、僕は出来ることをやったまでです。お礼なんて要りませんよ。それと、リルさん捜索の際に、件の情報も確かだと確認が取れました。明日には挑戦するつもりです」
「なんと……分かりました。街の方には私の方で報告致します。今夜は明日に備えてごゆっくりと英気を養ってください。……それで、そちらのあなたは?」
村長の娘を助けたんだし宴とか開かないものなのか? とか思っていたら、いきなりこちらに話を振ってきた。ちょ、まだ何も考えてなかったんだが。
「アーデはーー
「アーデフェルト。勇者に道に森で迷っていたところを助けられた、通りすがりの魔導師」
俺のことを紹介しようとしたアステリオの言葉を遮って、自分で自己紹介をする。
……何か嫌な予感がしたのだ。勝手に勇者達の仲間にされてしまいそうな面倒臭そうな予感が。
「お若いのに魔法使いとは凄いですな。ではアーデフェルトさん、ようこそビスマ村へ。特徴も何もない村ですが、精一杯あなたを歓迎いたしましょう」
村長は邪気のない笑みを浮かべてこちらに一礼した。よく考えたらこちらで使えそうなお金を持っていなかったので、あのまま勇者の言葉に便乗してもーーいや駄目だ。お金が必要ない代わりに、絶対厄介な事件に巻き込まれるに決まってる。
「そう、なら作った薬を売って路銀を稼ぎたい。何処かで売れるところは……ありませんか?」
なので一番手っ取り早く売れそうなポーション類を売って今夜の宿代を払うことにするか。
「薬を、ですか。万年不足しがちですから、ありがたい話です。買取ですが、あの大きな建物が見えますね? あの集会所の中に設けられたギルドの受付で行っております」
「そう、助かる」
村長は俺の話し方に不思議そうな表情こそ浮かべたが、幸いにも不審者を見るような目ではなかった。警戒されている訳ではないようで良かった。
「魔導師だけじゃなくて薬剤師のクラスも持ってるんだ。アーデさんてまだ若いのにすごいのね」
単調な会話を終えて振り返ると、レティシアが感心したように口に手を当てて頷いていた。いや、君も同い年くらいだろうに。
「ふむ? アーデフェルト嬢はグリフォンを使役しておったような気がするのじゃが。獣使いのクラスを持っているのでないのかの?」
え?
「クラスは二つまでしか同時に成れません。なのにアーデフェルトさんは三つクラスを持っている……?」
うん?
何だそれ、クラスはおそらくステータスの職業の事だろうが、多分俺が持ってる職業は魔導師だけだぞ。ポーション作製も騎乗用召喚獣にしてもクラスとは全く違うシステムだったわけだし。
「多芸は人を助く。魔導師はその理を知る為にも、色々なことに手をつける必要があった」
よし、今思いついた超適当な言い訳を並べてこの場を立ち去ろう。これならアドリブにしてはかなり上出来な部類に入ると思う。
「薬を売って寝る。また明日」
「あっ、アーデ! ちょっと待ってくれないか」
うん。俺には何も聞こえない。今この場で追及されたら絶対に話に解れが出て怪しまれる。つまりは逃げるが勝ち。
「夕食は宿屋の食堂で食べるから、良ければ一緒に食べよう!」
うん。夕食はどこかで買って部屋で食べるか。もし無ければ、今夜は夕食抜きでも構わない。
他にも勇者が何か言っていた気もするが、意図的に耳に入らないよう努めて無視を続け、足早に彼らから離れる。
「宿もっ、宿も二人部屋を取っておくからーー
聞こえない、聞こえないから!
耳を塞いだ俺は背中に走る悪寒に素直に従い、村の中心に建つ一番大きな建築物ーー集会所へと逃げ込んだ。
(●ω●)最近寒いですね。手が凍りそう。