33話目 騒ぎ
短いっ。しかしこれ以上書いてしまうとキリが悪くなりそうなので。
今話で出てくる冒険者は初登場です。話に絡ませる予定ですが、お気を付けください。
では、どうぞ。
GyaaaaaaAAAAAA!!
「くそっ、なんなんだよこいつは!?」
突然の魔物の出現によって、大混乱に陥った正門前広場。
その原因となった異形の怪物ーーガーゴイルが振るう石槍を、得物のサーベルで受け止めた荒っぽい姿の男が舌打ち混じりに叫ぶ。
「ヴァーニス! もっとそっちに引き付けないと商人達が巻き込まれる!」
「もうやってるっての!!」
ヴァーニスと呼ばれた男は、次々と放たれる石槍の刺突をいなし、隙あらば魔物の胴体にサーベルの斬撃を叩き込んでいく。が、
「ちっ、なんの石で作ればこんな硬くなるんだよ!」
ヴァーニスのサーベルによる攻撃はガーゴイルの硬い胴体に阻まれ、一切の手傷も負わせることが出来ていなかった。Cランク冒険者であるヴァーニスは普通の岩程度、拳でも砕ける筈なのにだ。
「そのガーゴイル、魔鉱石で出来てるみたい。剣にエンチャント掛けるからそれまで持ち堪えて!」
「早くしろよジャスティ!」
長年の相棒に叫び返したヴァーニスは、渾身の一撃でガーゴイルを吹き飛ばして距離を開ける。
(くそ、レベルはこの石の方が高いのかよ。これだから魔物ってやつは……)
ヴァーニスは石像との間合いを慎重に測り、ガーゴイルが動いた瞬間、直ぐに動けるよう姿勢を低く構える。僅かに格上の相手が見せる、僅かな隙を見逃さないよう目を凝らす。
Garuuu……aaaAAA!!!
ガーゴイルは唸り声を上げて刺突を繰り出した。単調で何の捻りもないただの突き。だが圧倒的に速い。ヴァーニスには槍の穂先をサーベルで逸らすことしか出来なかった。
「外敵から身を守る、神秘の壁を。《障壁》」
屋台の陰に隠れていたジャスティがヴァーニスの危機を察し、練り上げていた魔力を防御魔法に回して放った。
バランスを崩していたヴァーニスの前に、透明な魔力の壁が展開される。それはガーゴイルの突き出した槍を受け止め、罅が入りながらも何とか持ち堪えた。
「悪い、助かった!」
「後で奢ってよ? ーー来るわよ!」
GyaaaAAA!!
攻撃を邪魔された事に激昂したガーゴイルは石槍で障壁を激しく殴りつける。
「っ。ヴァーニス、退いて!」
「おうよ!」
激しい殴打によって障壁の罅は絶えず広がっていき、やがてガラスの割れるような音を立て、砕け散った。
しかしそれは、ヴァーニスがその場から退く為には、他の冒険者が駆け付けてくる為の時間には十分過ぎた。
「今だ! 撃てぇ!!」
「「「おうっ!!」」」
上等な防具を身に付けた男が屋根の上から号令を掛ける。それと同時に物陰に隠れていた弓使いの冒険者達がガーゴイルに向けて矢を射掛ける。
Gruuuu……
矢は鋼鉄並に頑丈なガーゴイルの体に虚しく弾かれる。だが、絶え間のなく降り注ぐ矢の雨を嫌ったガーゴイルは背中の石の翼を広げて宙へと逃れようとした。
「凍てつく柱、魔を退けなさい。《氷槍》!」
ジャスティが練り上げた魔力は周囲の空気を冷やし、氷の槍を生成した。十分な硬度に達したのを確信した彼女は、ガーゴイルに向けて解き放ち、見事翼を撃ち抜いた。
GyaaaAAA!!?
バキバキバキッ!
バランスを崩したガーゴイルは、付近の屋台を巻き込みながら墜落。土煙に紛れた魔物にトドメを刺す為、冒険者達は砂煙が晴れるのを待ち構える。
「にゃ、ニャんだぁ!?」
しかし突然上がった悲鳴に動きが固まる。ーー逃げ遅れた者がいたーーそれだけで冒険者達は下手な手を打てなくなってしまった。
ここが城壁の外、危険な魔物が跋扈する森の中ならば、逃げ遅れた者を巻き添えにして攻撃する選択肢もあっただろう。
目撃者はほとんどおらず、己の命が最優先というのが鉄則の冒険者ならば情状酌量の余地もあり、罰則も比較的軽いものになったりする。……勿論それを隠れ蓑にした盗賊行為は極刑だが。
だがここは街の内側。街を守る為の冒険者が街の住人を殺してしまえば、理由の如何に関係なく大問題になる。
冒険者や守備隊が、街を守る為の仕方ない犠牲だと割り切ったとしても、民衆がそれを許さない。
全を守る為に一を切り捨てるには、正門前広場は目撃者が多過ぎるのだ。
「ジャスティ! この土煙を払えるか!?」
「出来るけど……あいつが先に見つけたらどうするの!?」
魔物が冒険者よりも早く見つけ出してしまった場合、狙いが逃げ遅れた人に向かう可能性がある。そうなれば今までの努力も水の泡である。
「一か八か、俺が鈍臭い野郎の首根っこ捕まえて離脱する。後は任せるぞ」
「ヴァーニス!? 幾ら何でもそれは無茶よ! 守備隊が来るまでの時間稼ぎで良いじゃない!」
ジャスティは彼を引き止めようとサーベルを握る腕を引くが、ヴァーニスは目を閉じて首を振る。
「ジャスティ、俺がどうして冒険者になったか、教えたろ? ガキの頃に街の外で魔物に襲われた時、冒険者に助けてもらったって」
「……ええ」
ジャスティは突然の昔話に訝しみながらも頷くと、ヴァーニスは無精髭を生やした顔に真剣な表情を浮かべ、ジッと彼女の瞳を直視する。
「……な、なによ?」
近い距離で見つめられる事に耐えられなくなった彼女は、頬を染めて視線を逸らす。気の許せる相棒だろうと、直近で相対しては恥ずかしいものは恥ずかしい。
「結婚しよう、ジャスティ」
「……な、ななななな!!??」
突然のプロポーズにジャスティは一瞬固まった後、顔だけでなく首筋まで真っ赤に染める。何か言おうと口をパクパクさせているが、残念ながら言葉になっていない。
「おーい、聞こえてるかー?」
突然始まった桃色の空間を引き裂こうと、指揮を執っていたリーダー冒険者が声を掛ける。が、駄目。お互いを見つめ合った二人に他の人間の声は届かなくなってしまっている。
GyaaaAAA!!!
リア充の気配を察知したのかーーもとい視界を遮る土煙に辟易したガーゴイルが凶声を上げる。それと同時に土煙を元にした砂塵の竜巻がガーゴイルの周囲を囲み込んだ。
「っ、後退! 身を屈めて何かに掴まれ! 体を持ってかれたらひとたまりもないぞ!!」
GyaaaAAAーー!!
屋台の骨組みや並べられていた商品が巻き上がっていくのを見たリーダー冒険者が、退避命令を出したのと同時にガーゴイルは叫ぶ。
それは勝利を確信した勝鬨の叫びであり、
ドンッ!
ーーAAAaaa……a?
いつの間にか宙へと浮かんでいた自身に対する、困惑の叫びでもあった。
ガンッ! ガガガガンッ!!
GyaaaAAA!??
刹那、無防備に空へと浮き上がったガーゴイルの右腕が消し飛んだ。続けて左足、無事だった方の翼、右足、そして槍を握っていた右腕が、閃光の如く迫ってきた細長い物体によって吹き飛ぶ。
「な、一体何が……?」
「ジャスティ……」
「ヴァーニス……」
サーベルの刃を通さなかったガーゴイルの体が砕けていく光景に冒険者達(2人除く)が唖然とする中、最後に残ったガーゴイルの胴体も撃ち抜かれ、粉々に砕け散った。
「Cランク冒険者ですら苦戦する魔物が、一瞬で……」
リーダー冒険者の小さな呟きは、誰の耳に入ることもなく人々の歓声に呑まれて掻き消える。
後に残ったのは、荒らされた露店市とガーゴイルの残骸。そして地面に突き刺さる、大量生産品のような特徴の無い長剣だけだった。
(●ω●)「このままだと頭が煮えそうだから、新しい小説を書いてリフレッシュするか……」
アーデ「(そっと包丁を取り出す)」
(●ω|「待ってくれ! まだ投稿すると決めたわけでもないし、10話程度で完結させる予定だから見逃しーー
ア「問答無用 (ブンブンブン)」
(●ω|「うわあぁぁああ!!?」
……投稿するとしたら、新しい方を不定期更新にします。
4/6追記:後書きを若干修正しました。




