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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第3章 黒衣の探索者と転移者の迷宮水路
32/64

32話目 親バカと石像の雄叫び

エイプリルフールのみの短編を書いていたら、大変遅くなりました。現在非公開に設定していますので閲覧出来ませんが、……いつか公開できればいいなぁ。



では、短いですがどうぞ。

__________________



「にわかには、信じ難いことだ……」


一週間前のことを粗方話し終えた俺の前で、ソファーに身を預ける、武骨な金属鎧を着込んだギルガスが愕然とした表情で項垂れていた。


それは彼の隣に座っている冒険者ギルドのマスターであるガンディールという男や、後ろで直立不動の姿勢を貫いていた優男風の青年にも伝染しているのが、少しだけ滑稽だった。


本人達からしてみれば、到底そんな風に考える余裕はないのだろうけどな。


「あの魔物が……元は人間、だと……?」


「水晶……確か。あの王子の魔法は____」


「アーデフェルト殿が、あの魔物を倒したというのか?」


三者三様の反応を見せる男達に頷き返した俺は、砂糖たっぷりの紅茶を口に含んで一息ついた。


「では、リリィくんはこの5年間、ローズリンデ=ベイレーンに地下で囚われていたと」


「はい、そうなります。ギルガス卿」


車椅子に座ったままのリリィに頷かれ、守備隊隊長だという老騎士はますます深く項垂れた。今の話が余程ショックだったみたいだ。


まあ、知り合いが実験に巻き込まれて魔物の一部になっていました、なんて話を聞かされて、平静でいられるわけもないか。


「この話は、……他の誰かに話したかね?」


ふむ、サクとケイは当事者みたいなものだから省くとして、大まかに今回の話を伝えてあるのはオウビ婆さんだけだ。


といってもベイレーン城に囚われていたリリィを助け出した、としか言っていない。当然ケイを蘇生させたことや、カースキマイラについての詳しい話は口を閉ざしている。


「まあ、詳細を伝えた相手はいない。リリィの親戚に城からリリィを連れ戻したとだけ」


「ううむ。その程度ならば問題はない、か……。公爵閣下にどう報告すべきか……」


頭を抱えて悩みだした老騎士と対照的に、大剣を傍に置いているガンディールが身を乗り出して来た。


「アーデフェルト殿。俺たちが受けた報告では、あのモンスターの侵攻は正体不明の黒騎士が止めていることになっている。なにか心当たりはないか?」


黒騎士……ああ、ウルスザのことかな? あいつの鎧黒いし、馬の部分の毛並も黒毛だし。


「心当たりはある。あなた達が見たのは契約しているケンタウロスナイトのこと?」


「あ、ああ。確かに報告では人馬族の騎士だと聞いている。彼は今どこに?」


「今から喚ぶ?」


ギルドマスターの部屋の中は広い為、スペース的な問題もない。喚び出したと途端に頭が天井にめり込みました、とかなったら流石に不憫だしな。


「何? いや、姿を隠したいのなら別に今でなくてもーー」


「来い、ウルスザ」


ガンディールが何か口にするよりも早く、虚空に向かって呼び掛ける。


キィィ……


その直後には入り口近くの床に魔法陣が出現し、中から漆黒の鎧に身を固めた人馬の騎士が姿を現した。


「ウルスザ、呼び掛けに応じ参上致しました。マスター、此度は如何なさいましたか?」


大きく目を見開いた三人に視線を向けたウルスザだが、長大なランスを今は手にしていない。狭い室内では取り回しが悪いからなのか、それとも突然襲い掛かるようなとんでもない性格をしていないだけか。


出来れば後者だとありがたいな。


「この三人に、カースキマイラの足止めをしたウルスザに会いたいと言われて。迷惑だった?」


「そんな事はありません、マスター。私は貴方様の騎士。いついかなる時でも万難を排し、馳せ参じましょう」


馬の脚で片膝? をついたウルスザは……ああ、一週間前とほとんど何も変わってないな。俺に向けて頭を垂れる姿は、まるで高貴な身分に仕える近衛騎士のような精錬さが垣間見える。


「貴方がウルスザ殿か……。凄まじい闘気だ」


ガンディールはウルスザの闘気に当てられて少しだけ冷や汗を掻いていた。微塵も隙が見当たらないウルスザに対し、少なからず驚いているらしい。


ガンディールが黒騎士の実力を見極めようと目を眇めていると、彼の隣に座っていたギルガスが不意に立ち上がり、唐突に頭を下げた。


「ウルスザ殿。この度は魔物の脅威から街を守っていただき、誠に感謝しております。あなた方のお陰で、ベイレーンの民が血を流さずに済んだのです。この街の貴族の一人として、礼を言わさせていただきたい」


頭を下げたギルガスに続いて、ガンディールと青年の二人も慌てて頭を下げた。守備隊隊長とは、ギルドマスターよりも目上の存在なのだろうか?


「我が武勇は全て私のマスター、アーデフェルト様あってのもの。あなた方、若き戦士が主を害さない限り、私もあなた方に槍の矛先を向ける事はないでしょう」


ウルスザは神々しい威厳を放ちつつそう告げた。なんだろう、主人より立派な聖人君子してる気がするんだが……。


「感謝します。アーデフェルト嬢」


「……気にしないで良い。他に話がないなら、これで失礼するけど? 『送還』」


「あ、少しだけ待ってもらえませんか?」


ウルスザを送り還しつつ立ち上がると、ガンディール達の背後に立っていた青年が慌てて俺の事を呼び止めた。


「何か?」


「昨日暴漢に襲われたという依頼主とは、あなた達の事ですよね?」


冒険者に絡まれた時の件だろうか?


「なにぃ!? 二人とも、け、怪我は無いか!?」


「「おわぁ!?」」


ガタッとソファーを蹴飛ばして立ち上がるギルガス。その拍子にソファーが吹っ飛び、当然座っていたガンディールと背後に控えていた青年がそれに巻き込まれて壁際へと転がっていく。酷ぇや。


しかしギルガスにはその光景は見えていないらしく、目を血走らせてリリィに怪我が無いかその姿を凝視している。なんなんだ……この騎士。


「見ての通りです。ギルガス様」


か細い肢体を凝視されても、引くことなく僅かに顔を綻ばせて微笑んだ。なんて社交性に長けた少女なのか。俺だったら家まで全力で飛んで逃げているところだ。


「おお、良かった……。リリィよ、危ない目に遭いそうな時は、迷わずこの老いぼれを頼ってくれ。儂は今回の一件で隠居することが決まっておる。オウビ婆さんと一緒に、儂の命と引き換えにしてでも守り抜くぞ」


「あ、ありがとうございます。でも、無茶はなさらないでくださいね?」


重い。重すぎますよギルガスさん。笑顔で頷いているリリィでも、微妙に顔を引き攣らせてるし。


「絶対じゃぞ! どんな些細な事でも儂に相談するのじゃぞぉ〜」


エコーを伴い背後へと消えて行くギルガスの声。……うん、俺は何も見ていない。キャラ崩壊したギルガスなんて見てないんだ。


さっさとギルマスの部屋を出た俺は、階段を降りる為にリリィの座る車椅子を抱えた。上りはギルガスが車椅子を担ぎ、俺がリリィをお姫様だっこと若干楽に運べていたのだが。


しかし片割れが頭の病気の今、俺がどちらも運ばなくてはいけない。ちなみにギルマス室は5階である。


「飛んで降りたら楽そうかな?」


この程度の高さなら、『飛翔』を使えば容易く降りられる。仮にリリィくらいの重さの荷物を抱えたとしても、空中での機動に弊害が起きることもない。


「そんなことしたら……すごい悪目立ちすると思うけど大丈夫?」


「………」


リリィに言われて思い至る。滅多に使い手がいないらしい飛行魔法を使って広場に降り立てば、確実に大騒ぎが起きる事に。


「……やめておく」


ああ、むしろそっちの方が疲れるな。となれば、大人しく階段を使うしかない、か。


「エレベーターが恋しい……」


「アーデ、何か言った?」


「なんでもない」


文明の利器に対する懐かしさを覚えつつ、階段を降りようとしてーー


GyaaaaaaAAAAAA!!!


「も、モンスターだ!! に、逃げろぉ!?」



人の悲鳴と、人外の咆哮が俺の耳朶を叩いた。



「………魔物?」


守備隊によって守られている街で、聞こえるはずのないない声を聞いた俺は、悲鳴の位置を探そうと窓枠から顔を出して探る。


「ーーあれか!」


市場の広がっている正門前の広場。城壁側にほど近い屋台が建ち並んでいる区画に、そいつはいた。


鷲の頭に人の胴体、背中には猛禽類の翼。そしてなりよりも特徴的なのはーー全身が石で出来ていることか。


「ガーゴイル……!? 嘘、どうして迷宮の魔物(・・・・・)が地上に!?」


抱えていたリリィからも驚嘆の声が洩れる。そして彼女が呟いた台詞の一つに俺は目を見開き、やがてこれの原因を理解した。


(ダンジョン、マスター……!!)


……どうやら、同じ異世界の人間との決着を着ける時が近づいてきているようだ。

(●ω●)「早くダンジョンに潜り込まなければ……」


アーデ「『暫く日常回です』とは一体……?」

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