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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第3章 黒衣の探索者と転移者の迷宮水路
31/64

31話目 依頼と騎士

クエストを継続的に発行する物語って少ないですよね。まあ、最強系主人公は人に頼まなくても集められますからね。



では、どうぞ。

「さて、良い買い物が出来たわけだし、冒険者ギルドに行こうか?」


「そうね。今日の手際は中々良かったよ、アーデ」


30個入りのポンカン3袋分を懐ーーストレージに入れ込んだ俺は、涙目の店主に見送られつつ再び車椅子を押して元来た道を遡っていた。


目的地は先ほど通り過ぎた冒険者ギルド。今度はリリィの用事を済ます為だ。


冒険者ギルド。数多くの才ある人材を輩出してきた、最も規模の大きな相互扶助組織。その規模を見せつけるかの如く、それは正門前の露店市に面した土地に建てられていた。


石造りで五階建てのそれは、三階までは■■■■■神殿の如く白亜の石柱が聳え立っており、その隙間からギルドの中の様子が少しだけ垣間見えたりする。


「リリィ、持ち上げるからちゃんと掴まっててね」


車椅子にストッパーを掛け、片手でハンドルを、もう一方の手で椅子の骨子を掴んで持ち上げる。体格の関係から若干こちら側に傾いてしまっているが、その程度でリリィが文句を言う事もない。


150に満たないか細い少女が、同サイズの少女を軽々と持ち上げる光景に思わず振り返る通行人もいるが……まあ、今更だろう。


「アーデって見た目以上に力持ちよね。一応その年で魔法使いなんでしょ?」


「魔法使いじゃなくて魔導師キャスター。ここ、試験に出るから気を付けて」


「それ、一体何の試験で出るのよ……」


呆れた風のリリィの言葉を訂正しつつ、車椅子を階段の終着点まで運びきった俺は伸びをして体を解した。


幾らレベルによる筋力値のブーストがあるとはいえ、意外と同サイズの荷物を抱えて運ぶのは大変だったりするのだ。


「さて、今日は流石に絡まれないよね?」


「そもそも依頼主に冒険者が難癖付けたって事自体が、ギルドにとって大問題なんだからね? 軽くあしらわれた冒険者も問題だけど……」


少しだけ口元に笑みが浮かべた俺を窘める彼女も、僅かにだが苦笑いを浮かべている。


そう。俺達は先日、冒険者ギルドでは定番とも言えるガラの悪い冒険者に絡まれたのだ。しかも二回。


まず初めは斥候風のチャラ男。受付で依頼を発行していた最中の俺達に割り込むと、勝手にナンパを始めたのだが、仲間と思われる女戦士に殴られて引き摺られて消えた。……結局何がしたかったんだ?


次は依頼を発注し終えた俺達とぶつかりそうになった荒っぽいスキンヘッドの男。


リリィの座る車椅子に自分から当たりにいった癖して、こちらに難癖を付けようとしたので文句を言ったらいきなり掴み掛かってきた。


が、その行為は魔導書の自動防御システムに引っ掛かってしまったらしく、勝手に魔導書のページが放った『風槌』によってギルドの外まで放り出されてノビていた。うん、ご愁傷様。


別に俺としてはこれで満足だったのだが、ギルドの方はそうもいかなかったようだ。


ギルドの職員にひたすら頭を下げられたり、蛮行に及んだ冒険者は厳しく処罰する旨を告げられた。ギルド内で依頼主に手を出したとなれば、ギルド自体の沽券にも関わるらしく、副ギルドマスターを名乗る優男風の青年にも謝罪をもらってしまった。


「ま、リリィの事はしっかり守るから、安心して大丈夫」


ローブの上から胸を叩いてそう宣言すれば、リリィも頼もしそうに笑って頷いてくれた。


「アーデに護衛してもらえるなら、私は車椅子の上でうたた寝してても大丈夫かしら?」


「依頼の発注は自分でやって」


依頼を発注する勝手なんて分からないので、困る。


「冗談だからね? それに、アーデに依頼の発注を代行してもらったら、支払うお金が凄いことになりそうだし」


「……まさか」


失礼な。否定出来ないけど。



「いらっしゃいませ! こちらは冒険者に対する依頼を発行する為の……あ。あなた達は昨日の……」


そうこうしている内に、俺とリリィはクエストの発行専門の受付の前にまで辿り着いていた。昨日と同じ受付嬢の方が俺らの姿を認めると同時に、受付嬢達でお揃いの帽子を被った頭を深々と下げてきた。


「先日の一部・・の勝手な冒険者の蛮行、ギルド全体として謝罪します。街の人を助けるという義務を果たすべき冒険者が、その対象を害しようとしたこと。二度と起こらないよう冒険者達に広く周知しました」


ふむ、対応が早いな。……なんかこう、ファンタジー風の世界だと「自己責任」とか言われて終わりそうな気がしていたのだが。もしくは絡んできた冒険者が奴隷落ち? になって万事解決。


「お二人に暴行しようとした元冒険者は冒険者としての資格を剥奪。そしてベイレーンの街からの永久追放という処罰を下しました」


あー、村八分というわけか。確かにそれはそれで厳罰な気もする。


何せ身分を保証してくれていた組織のバックを失い、さらに魔物も徘徊する街の外へ放り出されるのだ。どんな手練れだったとしても、補給無しには戦えない。


他の街に逃げ込むにしても、ここから一番近い街までは約一週間掛かる。村を探すのならもう少し短くなるのだろうが、それでも身一つでは厳しい状況に追い込まれるのだろう。


「まあ、ギルドがしっかり対処してくれたのなら、別に良い」


特に被害を受けた訳でもないし。結局のところ、魔導書が勝手に吹き飛ばして終わったわけだしな。


「ありがとうございます。アーデさんとリリィさんには後日、元冒険者から没収した所有物を売ったお金から見舞い金が支払われます。何かギルドカードのような、身分を証明する物は有りませんか?」


おお、冒険者がどんな物を持っているのかは、ちょっと興味がある。ファンタジーな武器や道具があったりするんだろうか?


「このギルドカードで良い? 薬剤師ギルドで発行したもの」


リリィと一緒にEランクのギルドカードを受付嬢に渡すと、彼女は黒曜石のように黒い箱にカードを翳した。


僅かに魔力の反応があることから、おそらく生体認証か何かの機械というか魔道具なんだろうが……、登録した血で判別出来るって、相当なオーバーテクノロジーじゃないか?


「……はい。ありがとうございます。後日薬剤師ギルドの方に送りますので、あちらでお受け取り下さい。この度は誠に申し訳ありませんでした」


まあ貰えるものは貰っておこう。面白そうな物は一つくらいあるだろうしな。


「もう気にしてないから。さ、行こうリリィ」


車椅子の取っ手を掴んだ俺がそう言うと、こちらに振り向いたリリィが呆れたような眼差しでポカリと俺の頭を弱く叩いた。何故?


「待ちなさいアーデ。ここに来た元々の目的を忘れてるわ」


え? 元々の目的って……あー。


「リリィの依頼を発行しに来たんだっけ?」


「そうよ。お婆ちゃんな年じゃないんだから、忘れないで。と、いうわけでいつもの薬草10本の採取の依頼、お願い出来ませんか?」


「畏まりました。ーー依頼主は薬剤師ギルドのリリィさん。依頼目的はポーション作製用の薬草採取の代行。この依頼ですと依頼難易度はランクEになりますので、仲介料は必要ありませんね。報奨金は銅貨50枚でのお支払いとなります」


依頼難易度というものは……なんか達成率とかギルドの方で溜め込んだ情報から色々鑑みて付けられるランクらしい。詳しい説明は聞いていない。


ランクが高い程、冒険者に対する斡旋の手数料を取られるとかなんとか言ってた気がする。


「では銅貨50枚お預かりします。では、これまでの通り、おそらく明日までには依頼が達成されているかと思いますので、薬剤師ギルドの方でお受け取り下さいね」


リリィから渡された銅貨を受付嬢が黒い箱に入れると、代わりに読めない文字の書かれた羊皮紙が中から出てくる。あの黒い箱、一体何で出来てるんだ……?


「お願いします。さ、アーデ。行きましょう」


「分かった」


契約書を受け取ることで、ようやくクエストの発行は完了になる。羊皮紙をポーチの中に仕舞ったリリィに頷き返し、俺は車椅子の取っ手を握り直した。


「他に用事はない? ギルドがこれ以上混む前に出たいところ」


クエスト発行用の受付以外には、既に冒険者と思わしき屈強そうな人達がズラリと並んでいる。


ギルドの一階は酒場も兼ねている為か、かなり広いスペースが確保されているというのに、最後尾は危うく入り口から溢れ出しそうな程並んでしまっている。入り口の幅が広くなければ、車椅子で外に出るのはかなり困難だったかもしれない。


「大丈夫。後は家に帰ってアーデにポーションの作製を伝授してもらうだけよ」


「そんな大層なものじゃない」


そう言われて恥ずかしくなった俺は、ニコニコと笑みを浮かべるリリィから目を逸らす。


俺は何故かリリィの薬剤師としての師匠ということになってたりする。確かにゲームでの消費アイテム製作の熟練度がこの世界でも持ち越しが出来ており、懸念していた定期的な収入源の確保も可能になった。


パソコンの画面の向こう側の技術を、一体どうやって体得したかについてはーー


「おっ…と」


「あ、すいません」


階段から降りてきた騎士鎧の男が、車椅子の前に割り込む形で立ち塞がる。といっても故意ではなかったようで、子供が泣き出しそうな鋭い瞳をほんの少しだけ見開いていた。


「と、その、ごめんなさい」


めっさ怖い老騎士にガン見されるのは、相手の強弱関係なく結構怖かった。車椅子がなければ仰け反っていたかもしれない。


「いや、こちらこそすまなかった。私の不注意が原因で君には怖い思いをさせてしまったね」


厳つい顔にしてはかなり柔らかい表情の老騎士は、膝立ちになって車椅子に座るリリィと目線を合わせて微笑んだ。


……いや、怖い思いをしてるのは俺なんですが。出来れば早くどっかに行ってもらって、リリィに慰めてもらいたい。


「お久しぶりです、ギルガス卿。今も変わらずご壮健なようで何よりです」


しかしそのリリィはというと、久し振りの再会を懐かしむように俺とそっくりの顔に笑顔を咲かせていた。まるで旧知の仲であるかのようだ。


「うん? ……まさか。君は……リリィくん、なのか?」


始めは訝しげにリリィの事を眺めていた老騎士だが、やがて何かに気が付いたかのように声を震わせてリリィと俺を交互に見返した。よく分からないが、二人は顔見知りらしい。


「知り合い?」


「うん。正門守備隊長のギルガス様には、ケイお兄ちゃんがいつも世話になってたから。アーデもこの街に来た時に会ってたりしない?」


うーん、そういえばいたような気がする。特徴的である怖い顔だが、その直後に見掛けた剣帝の方が怖かったので、印象に残らなかったのかもしれない。


「ゴホン。……リリィくん。君はこの5年間、一体どこに行っていたのかね? 君がいない間のケイは、それはもう見るに堪えない惨状だった。もう彼には会ったのかい?」


「ちょっとストップ」


矢継ぎ早に質問を繰り出すギルガスと、少し困った表情を浮かべるリリィとの間に割り込む。


久し振りの再会に水を差すのは気が引けるが、このまま話を進めれば恐らくベイレーン城での出来事を話さなくてはいけなくなる。そうなれば、既に耳目を集め始めている現状が更に悪化する可能性があった。


「君は……確か勇者達の紹介でこの街にやって来た子だね? その君とリリィは一体どんな関係が


「詳しい話は別の場所でお願いしたい。……ベイレーン城での話はそちらも隠したいのでは?」


巨大な怪物の出現とベイレーン城が半壊した一週間前の出来事は、当然街中で話題になっている。だが、ベイレーン領主が秘密裏に進めていた魔物の研究が暴走した。それを正体不明の黒騎士が討伐した、程度の曖昧な噂しか世間一般には流れていないのだ。


おそらく何らかの方法で情報統制が行われているからなのだろう。そんな話をこんな場所(冒険者ギルド)で話されては困る。


「……了解した。ならばこの上で話をしよう。ギルドマスターは確実に信頼出来る男だから、彼も話に混ぜてくれ」


(近い。それと怖いからもう少し離れてくれ……)


真剣な(怖い)顔のギルガスにそう言われてしまえば、俺はただコクコクと頷くことしか出来なかったのだった。

(●ω●)「見える。私にも見えるぞ! 剣帝が過労死寸前の未来が!!」


アーデ「やめたげてぇ!」

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