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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第2章 白髪緋眼の魔本使いと呪いの狂宴
17/64

17話目 ここがあの女(私)のハウスね!

バレンタイン? ええ、普通にイベントのチョコを集めてましたが何か?(白目)


では、どうぞ……。

__________________



「ええと……、あと必要なのは掃除用具と桶、それに水瓶も買っといた方が便利なんだったか。ああ、思ってたよりも日用品は結構いるんだなぁ」


あの家を購入する事にした俺は、オウビ婆さんが購入手続きの書類を整理するとかで出来た時間を利用して、家に最低限必要な家具や雑貨を集める為に大通りの雑貨店を物色していた。


「『マイルーム』があるから本当に最低限で良いんだけど……、シャンプーやら石鹸やらの使い切りの日用品は買い込んでおいた方が良いか……」


しかし、いざ雑貨店で品物を探していると、必要の無いものにまで手を出してしまいそうになる。料理なんてほとんどしないのに■■鍋なんて買ってどうするんだ、俺。


「箒にタオルと。替えの服は……面倒だしまた今度にするか」


頭の中に生活必需品をリストアップしていくが、どうにも今日中に集めきれる気配がない。一応ストレージを使えば荷物を纏めて持って帰る事こそ可能だが、家に帰らなければ足りない物が分からないことに変わりはない。


結局雑貨店で購入した日用品の合計は、銅貨50枚程度で収まってしまった。これぐらいの品質の物で満足していると、もしかしたら一生かけても郵便配達の報酬を使いきれないかもしれないな。


きゅるる……


一度家に戻って足りない物を確認する為に先ほども通った石畳の道を歩いていると、屋台から肉の焼ける良い匂いが漂ってきた。それと同時に腹の虫も空腹を訴え騒ぎ始める。


……よくよく考えてみれば、お婆さんの長話を聞いていた所為で昼飯をすっぽ抜かしてしまっていた。こっちに来て以来、落ち着いて1日3食食べる機会が少ない気がする。


まだ一週間も経っていないのだ。食事の時間を惜しんでこちらに馴染む努力は必要とはいえ、小腹を満たすくらいの軽食は必要だろう。


屋台に近づいて中を覗き込むと、額に鉢巻を巻いたおっさんが肉を串に刺して焼いているところだった。焼鳥屋かな?


「これ……焼き鳥、ですか?」


「うん? まあ食ってみれば分かる! 嬢ちゃんは可愛いし一本だけまけてやるよ! 美味かったら何本か買って行ってくれよ?」


おっさんは言い終わるよりも早く俺に肉串を押し付けてくる。肉串からタレが垂れてしまう前に俺は慌ててかぶりつくと、内容物不明のタレと正体不明の肉汁が舌の中で良い感じに絡み合って味蕾を刺激した。


(うーむ、肉はパサパサしてるけど、これはこれでイケる、かな。タレは文句なしに絶品なんだけどなぁ)


何というか、肉で損してる気がする。これがビスマ村で食べたオークの肉だったらーーはっ⁉︎ あ、危ないところだった………。


「このタレ、旨いですね。それに肉は鶏とも豚とも違うみたいですけど、何の肉なんですか?」


食べた事のない味に首を傾げる自身に、何故か既視感を覚えた。何かつい最近も同じようなやり取りをしたような気がーーー


「おう、こいつはゴブリンの肉だ! 駆け出しの冒険者は上手く解体することが出来ないからな。素材として買い取って貰えなかったゴブリンの死体はこうやって屋台の方でクズ肉として買い取ってるんだ。どうだい、一本銅貨一枚だからどんどん食いな!」


「………………Oh」


資源の無駄使いを無くす良い工夫ですねー。駆け出し冒険者の為の救済もしてるなんて優しいんですねー。感心してしまいますー。


……ああ、やっぱ食べる前に食材を確認する事は最優先にするべきだな。結局5本ほど持ち帰りで買ってしまったけど。


しかし肉串に浸けているあのタレ、まさか肉の香りと味を誤魔化す為にわざと濃い味付けにしてるとか……じゃないよな?



__________________



「お、戻ったのかい。後はお前さんが書類を確認してくれれば契約は完了さね。さっさとこれに署名しな」


肉串の最後の一本を食べ終わったタイミングで家の扉を開けると、オウビ婆さんが作業場の椅子の一つに座って寛いでいた。


いやまあ、この婆さんは大家さんみたいなものだし、まだ正式な手続きは終わっていないのだから別段おかしいわけでもない、か……?


「えーと、これに署名すれば良いん……あ」


「どうかしたかい? 今から分割払いの変更なんてややこしい事言いださないでおくれよ?」


「いえ、こっちの文字、読めませんので」


さっきギルドで手続きでもやったやり取りだよちきしょう。しかし言葉は通じるのに、どうして文字だけ違うのか。謎だ。


「あんた、良いところのお嬢さんじゃなかったのかい? 貴族の娘が勘当かなにかでこの街にやって来たのかと思ってたよ」


俺の発言にはお婆さんも驚いたようで、椅子からずり落ちそうになった体を慌てて起こしている。しかしそんな事を言われても、俺は貴族でもなんでもないのだ。


「結構遠い街からやって来た。言葉は通じるけど、文字はあっちと違う」


「遠い街から? まあそれなら自分の知ってる文字でここに署名しておくれ。本人がサインしたことが大事なだけで、文字が読めなくても契約自体には弊害はないさね」


それなら良いのだが。……まさか外人部隊に送り込まれるような契約書だったりしないよな? これ。


「変な心配しなくて良いさね。元々あんたなら読めるもんだと思って持って来た契約書だし、人を騙して生活しなくちゃならないほど金には困ってないからね」


呆れられた表情でお婆さんに窘められたのだが、なんか最近心を読まれる事が多い気がする。顔に出てるんだろうか?


「……失礼した。では」


「んじゃ、ここに名前を書いておくれ」


お婆さんの言葉を信じることにして、差し出されたインクとペンを使って皺の多い指で示された箇所に『アーデフェルト』とカタカナで記す。



……どうでも良い事だが、この契約書として使われている紙、モンスターブックの紙質と同じ気がする。ギルドで使われているという安物の羊皮紙とは違い、モンスターブックの紙は元の世界の製紙と肌触りがかなり近く、高く買い取ってもらえるようだ。


勇者も魔物から採れる紙は貴重品だと言っていた。こういう大切な書類には、高級品を使う仕来りでもあるのかもしれないな。



「これで大丈夫?」


「ふむ、……永く生きている私でも見た事ない文字だねぇ。いや、つい最近似たような文字を見た気がしないでもないか……?」


え、まさか他にも日本人がいたりするのか? どうしよう。酷く扱いに困る案件が出来てしまった。


「ま、今はこの家のことさね。ああ、これで契約は完了したよ。ほれ、これがこの家の予備の鍵さね。

半年後に残りの7金貨を払えば、この家は正式にあんたのものになる。かつての持ち主に化けて出てこられたくなかったら大事に使うんだよ」


「縁起でもない」


もしかしたら生きているのかもしれないのに。しかし新婚生活を始めようとした間際に行方不明扱いとは、その夫婦も不憫だな。


「それじゃ、後は自分一人で頑張るんだよ。……重たい荷物を運びたいと時はケイを頼れば良いさね。何でも屋だから引っ越しの手伝いも当然仕事の内に入るからね」


残念ながら俺はストレージという超絶便利機能を保有しているのだ。それにおそらくだが、Lv.35の元冒険者であるケイよりもLv.250の魔導師である俺の方が筋力値は高いと思う。箪笥なら片手で持てたとしてもおかしくはない。


……どちらも気軽に見せびらかす事が出来るようなものでは無い気もするが。


「それじゃあ、くれぐれもケイにはリリィについて話したなんてこと告げ口するんじゃないよ。あいつの妹に対する兄妹愛は些か拗らせていたからね」


婆さんが勝手にベラベラと喋ったのに箝口令を言い渡すとは随分身勝手な。それにあなたが話した事の大半は、世間話として扱われるようなものばっかりだったぞ。


「……考えておく」


「全くこれだから若者は。……冒険者ギルドや薬剤師ギルドには文字について学べる絵本が幾つか置いてあった筈だよ。こっちの文字を学んでおいたって損はない。借りれば良いさね」


ほう、文字を学ぶための絵本がギルドには置いてあるのか。今度訪れた時にでも確認してみよう。


「色々教えてくれて、助かりました」


「良いさね良いさね。あたしも暇じゃないから、困った時はケイにでも頼むと良いさね。じゃあ、元気に生きるんだよ」


バタンと扉を閉め、元気そうな足取りで去って行ったオウビお婆さん。……やけにケイの事を推していたが、なんでだろうか?


「……ま、いいか」


兎に角『マイルーム』設置してから後のことは考えることにしよう。今日は色々あったから疲れた。早く寝たい。


掃除用具をストレージから取り出して作業場の端に寄せておく。大掃除は……明日で良いや。今日は換気だけしておく事にしよう。


一階の窓を少しだけ開けて外の空気が流れ込んでくるようにしてから、木で造られた階段を上がる。まだ新しいお陰か、軋む音はそこまで酷くはない。


「『マイルーム』の位置は……ここで良いか」


家財道具を買う前にも一度下見した二階だが、玄関から見て左に走る廊下の右にある扉から三つの個室へと入る事が出来る造りだ。


個室の内二つが私室と思われる8畳程度の広い部屋で、残りの一つが3畳程の広さの物置部屋だ。これで金貨15枚が高いのか安いのかは分からないが、生活する分には不便がなさそうなので問題はない。


そして、家の左端に廊下がある構造から廊下の左端は壁というか隣の家とで出来た隙間になる訳だ。しかし、だからと言ってこのスペースを使ってはいけないという事にはならない。


「ステータス、オープンっと。……これか。『マイルーム移動』」


久し振りにステータスウィンドウを開き、元の世界のゲームでは限られた場所でしか使用出来なかったマイルーム関連の設定項目を開く。


タッチパネル式のそれに従って入力し、『設置場所確認』の項目に触れると、体から魔力が流れ出すような感覚とともに目の前の壁に靄のような塊となって集まっていく。


「おー」


暫く魔力を垂れ流しにして観察していると、やがてそは実体を伴った無機質な扉となって壁にピタリと貼り付いていた。


「これでもう完成なのか? 地味すぎるような気もするんだが……」


恐る恐る扉に触れてみる。スベスベした手触りだ。木造の家では悪目立ちしてしまいそうな亜麻色の扉は、木や石といった自然のものではない無機質な材質で作られている。


試しにノックしてみると、コンコンコンと割と軽い音が廊下に響く。外せるか分からないが意外と軽い材質なのだろうか?


「………………ふう」


金属製のひんやりとしたドアノブを握り、一呼吸おいてから一気に捻って扉を一気に開く。


「……ただいまー」


「ア、アニキ……扉ガ…開キマシたゼ……」


「ほ、本当じゃネェが……よ、ヨウヤク外ニ…出れ、ル……」


「えっ、……ひゃっ!?」


扉の向こう側、つい最近見たばかりの自室マイルームから人の声が聞こえてきた事に思考が停止する。


そして目を凝らして見ると、とても人が浮かべてはいけない顔をした大小の人影が這いずってこちらへと迫って来る光景が目に入り、思わず悲鳴を上げてしまった。


元男としては上げたくなかった類の悲鳴すら気にする余裕さえないホラーな光景に、呆然と廊下の壁に背中をつけてへたり込んでしまう。


「嗚呼、光だ……太陽の光をようやく浴びる事が出来た。俺たちは今、極限のその先にまでたどり着く事が出来たんだ……!」


「ア、アニキ……。輝いてますぜ……!」


幸運と言うべきなのか、人族と思われる痩せこけた黒髪の男と萎びた羽を生やした妖精族っぽい小人には眼中になかったようで、座り込んだ俺の目の前を素通りして廊下の突き当たりにある窓へと這いずって進んでいく。


何故マイルームにいたのかとか、不法侵入だとか指摘したい事は幾つもあるのだが、突然のホラーに考えている事を上手く言葉に出来ない。


「あ……、ここ、二階……」


何とか頑張って捻り出した言葉も、かなり的外れなものになってしまった。しかし、その言葉も窓を開けて外へ出て行こうとする男には聞こえていなかったらしい。


「ああ、太陽に感謝を! やっぱ人間陽の光を浴びないとあーーーーーーぐぇっ!」


「アニキぃッ!?」


窓枠に足を掛けた男は、奇妙なポーズを取ろうとして結局足を滑らせた。男の隣に浮かんでいた小人の悲鳴が耳に入った事で俺もやっと我に返り、慌てて窓際まで駆け寄る。


「だ、大丈夫か?」


窓の外は雑草が生い茂る空き地だったようで、大の字に寝転ぶように落ちた男は、頭を振って普通に起き上がった。地味に頑丈だな。


「うーん……はっ!? 俺は一体何を?」


「流石アニキ! 豪運と頑丈さだけはピカイチですぜ!」


正気に戻ったらしい男は辺りを見回しーーふと俺と目線が重なる。それと同時に、男のものと思われるウィンドウが表示された。


ツバキ、18歳

Lv.100

職業・ダンジョンマスター/土魔法使い

称号・異世界からの落とし子、豪運


ヤバい。対して多くない筈の情報量なのに、考えなくてはいけない事が多すぎる。


「ダンジョン、マスター……」


回らない頭でそれだけはどうにか口に出すと、その呟きが聞こえたらしいツバキという男は「しまった」という顔をして一目散に逃げ出した。


「げ。……逃げるぞ相棒!」


「あいさっ」


「あっ……、待て!」


木造の家が乱立しているこの区画で距離を離されてしまえば確実に見失う。一瞬だけ躊躇った後に意を決して窓から飛び出し、土が剥き出しになった空き地へと飛び降りて着地する。


「痛くないな……、ってそれよりも」


Lv.250の身体能力に感心するのも程々にして、二人が逃げ去って行ったボロ屋の方に向かって俺も駆け出す。この世界で肉体的な本気を出すのは初めてになるが、その辺の体の慣れは特に必要なさそうだ。実に馴染む。


「確かこっちに………っ!?」


男が曲がって行った筈の家まで辿り着き、同じように曲がろうとして、足を止める。魔導書がいきなり懐から飛び出し、立ち塞がるかのように進路を遮ってきたのだ。


「なんで……。あ、この魔力は……?」


魔導書の行動に困惑しながらも、その向こう側を確認してみるが既に同郷の男の姿は見当たらない。


そしてそれを理解するのと同時に、魔導書のすぐ奥の地面から不気味な魔力が立ち昇っている事に気がつく。


「まさか……『風の矢』」


目の前に浮かぶ魔導書を手に取り、その地面に向けて手軽なスキルを放つ。するとその衝撃によって、偽装された地面がボコリと剥がれ、深い空洞が姿を現した。


「魔導書がなければ即死だった……か?」


落ちてしまえばただでは済まなかったであろう深い落とし穴を覗き込み、思わずボヤく。逃げる最中にトラップを仕掛けられる判断力を持つ相手に対して、この複雑に入り組んだ街は危険だ。これ以上の追跡は止めておくべきか。


(目立つ事に目を瞑って『飛翔』を使えば、そんな問題も無いんだろうけどさ……。しかし)


「本当に厄介事ばかり増えていってる気がするな……」


ツバキという男が逃げ去って行った道を眺め、また増えた問題に頭を抱えることしか出来なかった。

ツバキ君の出番は第3章からの予定です。今回も顔見せだけという事で。




■14日の深夜


(●ω●)「(ベッドで寛ぎながら)バレンタインss書こうにもまだ全然人が揃ってないからなー」


??「(脳内に直接電波を送ってきた)前作の閑話でやれば良かったんじゃない?」


(●ω|「…………あ」


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