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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第2章 白髪緋眼の魔本使いと呪いの狂宴
14/64

14話目 拐かしと金鞭

謎サタそ4。


生きる意味とは何ぞや。


……特に深い意味はないです。(´・ω・`)



では、どうぞ。

「あの少女、お前はどう思う?」


『オーガルスト娼館』の2階、窓に面している部屋には、2人の男がいた。


1人は扉の近くの壁に寄りかかり、もう1人は窓越しに見える、白髪の先を大きな紅いリボンで結んでいる目を疑うような美少女に視線を向けて佇んでいた。


「さあな。ここで働かせれば稼げるんじゃないか?」


「ふん、考えてすらいない事を言って楽しいか? ケイ」


この地区で用心棒兼何でも屋として活動している青年ーーーケイは、その言葉に不機嫌そうな舌打ちで返した。


「なら、『鬼』にはどう見えてるんだ、オーガルスト」


長く伸ばした紫髪を首元で結ぶ、顔の彫りが浅い男ーーーオーガルストは、口元に浅い笑みを浮かべて振り返った。


「そうだな……どんなに強い隷属を強いたとしても、それを拒み、死ぬまで孤高を詠う鷲獅子、の雛鳥。といったところか」


「雛鳥?」


「そう。あの少女は地に足をつけ、羽ばたく術を知っていながらも、何故走るのか、何故空を飛ぶ必要があるのかを知らない」


娼館で働く少女と話して笑う白髪の少女。だが、その笑顔の下にある冷たい仮面(無関心)は隠しきれていない。


「おそらく、生きる目的を持っていないのだよ、あの少女は」


「生きる、目的を………?」


オーガルストが告げた言葉を反芻するケイ。その手には、小さなロケットが握られている。


「………リリィ」


バタリと、扉が閉まる音が聞こえる。1人になった室内で、オーガルストは少しだけ期待の眼差しを向けて、アーデフェルトという少女の事を見つめ続けていた。


「もう一度彼女と顔を合わせてみれば良い。お前の願いも、彼女が生きる目的も、同時に達成できるかもしれないぞ?」



__________________



「ありがとう。ここまで来れば、道は分かる」


「本当に大丈夫? 助けてくれたお礼なんだし、ちゃんと馬車乗り場まで送るよ?」


人の流れが全く途絶えることの無い、正門に続く大通りにやっと辿り着けた俺は、ここまで道案内をしてくれた少女、シャイナに頭を下げた。


「問題ない。話、色々聞けてよかった」


最近食べた料理や泊まっている宿、最近東地区にやって来たという興行団の話など、他愛のない雑談ではあった。しかしそれでも此方の人の話は、彼方での会話よりも新鮮に思えた。


「なら良いんだけど。あ、今度うちの店に来てよ。精一杯お返しするから! ……あまり可愛い子があの辺りで彷徨いていると危ないんだけどね。アーデちゃんなら強いしきっと大丈夫!」


危険なのに勧めるのか……。シャイナの無茶振りにも戦々恐々するが、どちらにせよあそこに迷い出たのは偶然なので、次にあそこに辿り着くのは厳しいのではなかろうか?


「んー、大丈夫!あそこに見える鍛冶屋さんの、隣の道を真っ直ぐ進めば『オーガルスト娼館』には簡単に辿り着けるから。それに、近くまで来てくれたら私が見つけてあげるからね!」


なんかもう、今度会う約束みたいになってしまっているよ……。なんて上手な客引きなのか。いや、俺が流されやすいだけか?


「か、考えておく。それじゃあ、また今度」


「はーい。またね!」


元気溌剌娘からようやく解放された俺は、手を振り返してから馬車乗り場の元にまで辿り着く。といってもここにはつい先日来たばかりだ。


「あれ、お嬢様じゃないですか? また何かうちの詰所にご用ですか?」


そう言って馬車の点検をしていた顔を上げたのは、守衛兼伝令兼御者役のレージだった。簡単な作りの作業着を油で汚したその姿は、何故か様になっている。


てかこいつ、修理屋も兼ねてるとか、本業は一体なんなんだ。


「馬車を利用しに来ただけだけど……」


「あーなるほど。ならすぐに着替えてきますから、少しだけ待っていてください」


そう言って馬車乗り場の隣にある守衛の詰所に去ってしまったレージ。目の前で平然と仕事をしてるってことは、公認なのか……。


「ふむ、見るからに荒くれ者って感じのやつが多いな」


レージがわざわざ着替えに行ってしまった為、他の馬車を利用するのもなんだか悪い気がしてしまう。なので彼が戻ってくるまで、なんとなく人通りの多い正門前の風景を眺めてみることにした。


まだ朝……9時頃だからか、正門から入ってくるのは馬車が多く、逆に出て行く者は武装した集団が多い。


チラチラっと此方に視線を向けてくる冒険者や商人は割といるが、すぐ近くに守衛隊の詰所がある所為か、ちょっかいを掛けようとしてくる者はいない。


(………見られてるだけってのも、なんだかムズムズしてくるな。しかも手を出すやつがいる訳でもないから……放置プレイか?)


自分で自分に惚れてしまうくらいには、容姿に優れている自信はある。実際に、今まで徒歩で進んできた道では、幾度となく人が俺の方に振り返っていたし。


まだ幼く、平坦なので情欲の対象にはなり難いとは思うが、将来性は多分、ある、はず。


「おいっす。準備出来ましたぜ、お嬢様」


ままならない感覚に悶えていると、汚れに強そうな革のコートに身を包んだレージが、片手を上げて俺の名を呼んだ。彼方の世界の乗馬服? に似たデザインだ。


「じゃあもう一度城まで送ってもらいたい。幾ら掛かる?」


「城にですかい? それなら……往復銀貨3枚だよ。また領主様に呼ばれたりしたんですか?」


「まあ、似たようなもの。それより、領主よりも嫌な雰囲気を垂れ流してる、ふとましい貴族っぽい男のこと、知ってる?」


前回使った来賓用の馬車とは異なる、もっと簡素なタイプの馬車に乗り込んだ俺は、窓にガラスが嵌め込まれてないのを良いことにレージに向かって直接話し掛けた。


「この街で太ってるとなるとゴープ男爵か。先代が一年で大商会を築き上げ、他にも幾つかの功績によって貴族として受勲された割と新しい貴族です」


「永代貴族?」


「いえ、先代が凄かっただけで、本来なら一代限りの叙勲だったとか。けれど爵位はお金さえ払えばその子孫に引き継ぎが可能ですから」


金で地位を買える世の中か。まるで中世日本みたいだな。あの時代は武将が没落貴族から買っていたわけだけど。


「しかし、あの男爵がどうかされましたか? ……まさか、ああいうのが好みで⁉︎」


「やめて」


元の記憶が男なのに、さらにあれにやられるとか救われない。しかし貴族か……面倒な存在がこの街には複数人いるわけか。


「他にも貴族はいる?」


「主だった貴族なら……ベイレーン伯爵を筆頭に、我ら領軍の指揮を執っているヤグート子爵、冒険者ギルドや治癒士ギルドの活動を援助しているザリフ子爵、そして先ほど話した商業ギルドを牛耳っているゴープ男爵。

そういえば、今は王都から騎士団を率いて視察に来たサベレージ陛下の弟である、ヨークスコーツ公爵もこの街にいらっしゃる」


ふむ、称号に無かったから分からなかったが、あいつ公爵だったのか。王族の筈なのに爵位を持っているという事は、王位継承権を捨てたという事か?


「薬剤師ギルドは誰が?」


俺の所属している薬剤師ギルドの名前が挙がらなかったので尋ねてみると、レージは馬に鞭を当てると同時に微妙な表情で振り返った。


「お嬢様。自分の所属する組織のトップの名前くらい把握しておきましょうよ……」


ごもっとも。


「この街の薬剤師ギルドと盗賊ギルドは特殊でして、それぞれのトップが領主様の支配から独立して運営してるんですよ。薬剤師ギルドの長の名前は確か、オーリアス様だったかな」


「助かった。色々と参考になった」


特に面倒臭いことになりそうな貴族との縁を切ってくれたオーリアスという方には感謝だ。名前的に女性だろうか?


「そりゃあ良かった。……そういえばお嬢様は魔法使いなんですかい?」


流れていく景色を眺めていると、今度はレージから話題を振ってきた。先ほどの質問に答えてくれた礼もあるし、外を見ながらでも話せるので付き合うか。


「あってる」


「なら、夜はなるべく出歩かないようにしてくださいね? 最近東区画に住んでいる女性や子供の誘拐が断続的に発生していまして、注意勧告を出しているんですよ。流石に日中は我々も巡回していますし、実行犯も何人かは捕縛に成功しているんですがね」


何人かは、ということは誘拐犯は複数人いると。なかなか物騒な世の中だ。


「誘拐されてこの街から出て、他の領地に連れ去られてしまえば、こちらもどうにも出来なくなりますからね。後は奴隷として貴族や悪徳商人の慰み者になるか、娼館で働くくらいの末路しかありません」


ベイレーンの正門前で見た、奴隷馬車に載せられた少女達を思い出す。あの子達も他の街から連れて来られたのだろうか?


「用心しとく」


「まあ、誘拐犯達を指揮している大元さえ分かれば、流石に領軍も本気で動きますからね。それまでの辛抱です。

もし止むを得ない事情で夜に外出するのでしたら、用心棒を雇っておくと良いですよ? 冒険者ギルドでもそういった依頼は常に受け付けているようですし」


用心棒か。ふと娼館の用心棒だというケイの事を思い出す。何でも屋だと言っていたし、頼んでも良いかもしれない。


……レベル的に全く必要ない気もするけど。



__________________



「着きましたよーお嬢様。起きて下さ〜い」


馬車が止まった時に起きた揺れとレージの呼び掛けで意識が覚醒する。ああ、馬車に揺られたのと早起きした所為で、仮眠を取っていたんだった。


前を見れば、昨日も見た豪奢な白亜の城が聳えていた。思ってたよりも着くのか早かったな。


「ありがとう。それじゃあ、帰りも送ってもらえる?」


「構いませんよ。では昨日と同じあの場所で待っていますから、用事が終わったらそこに来て下さい」


そういって指をさした場所には、既に幾つかの馬車が停まっていた。城の正面で馬車を停め、少し離れた場所で馬車に乗る。……高級ホテルみたいなものか。


レージと別れ、城の入り口まで進むと正面玄関前に立っている二人の門兵が、斧槍を交差させて道を遮った。


「入城の目的と身分証の提示を」


「報酬の受け取り。これで問題ない?」


薬剤師ギルドで新たに作成したカードを見せると、門兵は少し目を瞠った後に納得したように頷いた。


「あなたがアーデフェルトさんでしたか。ゾルト卿から聞き及んでおります。どうぞお通り下さい」


おお、ゾルト伯爵ナイスな手配だ。そして出来れば報酬を受け取る為の財務部の位置を教えてくれれば尚良かった。


「財務部で直接報酬を貰えと言われた。財務部の位置を教えて欲しい」


「おおそうでしたか。財務部の窓口は一般に開放されていますので、入り口から直進して突き当たりで左折してすぐの場所にあります」


「ありがとう。……仕事、頑張って」


「! はっ、了解であります!」


仕事に忠実な門兵達に笑顔でお礼を言うと、何故か顔を赤らめ、やたらハイテンションな敬礼を返された。何故だ。


門兵達の間を通り過ぎ、高そうな額縁に入れられた絵が飾られていたり、金箔が貼り付けられた壺などが置かれた通路を進む。どうでも良いが盗まれないのだろうか?


正面通路の突き当たりで左折すると、門兵の言う通り事務所の窓口のような受付が見えた。その部屋では何人かの女性が働いていて一人が受付、他の女性がデスクワークと書類の整理を行っている。


この辺は元の世界とあんまり変わらないんだな、と思いながら近寄るが、受付には既に先客がいた。


「ふふ、あなた綺麗ね。どうかしら、今晩私の部屋でお茶でもどうかしら?」


「あ、あの………」


ナンパだった。困惑している受付の女性は中々美人だし、ナンパされてもおかしくはない。


しかし誘っている方も女である。こちらはカールのかかったプラチナブロンドの髪を、肩に掛かるくらいまで伸ばしたツン系の美少女だ。


つまり百合。受付の女性が困惑しているところを見るに、一方的なお誘いのようだ。南無。


「も、申し訳ありませんローズリンデ様。母が病に伏しておりまして、仕事が終えたらすぐに家に戻らなくてはいけないのです」


「あら、そうなの。そういえばこの前はお父上が病だったかしらね。城下街では疫病でも流行ってるのかしら?」


「い、いえ……」


「ふふ、それにあなたが病に罹ったら大変だわ。あなたのお母様は代わりに私の部下が看病させるから、今夜は私の______………


(……終わるまで待つか)


一向に終わる気配のない言葉責めの嵐を傍観しながら、特にする事もないので貴族っぽい少女のステータスを覗き見てみた。


ローズリンデ=ベイレーン、17歳

Lv.7

職業 ・調教師

称号・領主の娘、嗜虐趣味、拷問趣味、百合


アカン、これ。関わってはいけない類の人だ。


迷わず踵を返して立ち去ろうとしたのだが、それよりも速く少女が振り返ってしまった。


「あら、そんなところに立ってどうかしたの?」


「いえ、財務部に用がありましたので」


俺は何にも特徴のない女。俺は何にも特徴のない女。俺は何にも特徴のない女………


「あなた、凄く綺麗ね……。ねえ、今から私と楽しいことしてみないかしら?」


しかし俺の自己暗示も虚しく、危ない少女に目を付けられてしまった。獲物を見つけた蛇のように目を細め、唇許が意味あり気に歪んでいる。


楽しい事って、そっちだけが感じる一方的なものだろ! ええい、美少女じゃなくて普通の男の方が良かったと思ったのはこれが初めてだよ!


「失礼、この後も仕事が入ってますから」


「ふふふ。良いのよそんな事気にしなくて。私ーーーローズリンデのところに来れば、すぐに気持ち良くなれるのだから。それにね、私のお父様はこの街の領主なの。だから私がお父様に口添えして貰うように頼むから、安心してイきましょう?」


全く安心出来ない。ほら、あなたの後ろにいる受付の人達も顔を青くして首をブンブン振ってますよ? いつも何やってるんですかあなたは。


「申し訳ありません。オーリアス様から直々の強制依頼なので、拒否するのはちょっと……」


当然大嘘である。薬剤師ギルドには強制依頼もないし。


「オーリアス……、あの女狐め、いつも邪魔ばかりしてくれるな……」


突然顔を下に向けたと思えば、そんな物騒な事を呟いていた。豹変し過ぎだろう……。そして本人にしか聞こえないような囁き声でも拾うことが可能な聴力。Lv.250の身体能力様々である。


「それなら仕方がありませんね。では、また今度こちらにいらして下さい。美味しいお菓子を用意して待っていますから」


「ご配慮、感謝します」


すっと頭を下げると、城の奥へと体を向けたローズリンデが、俺にしか聞こえないような声で呟く。


「私、欲しい物はどんな手を使ってでも手に入れてきたのよ。そして、それを壊す瞬間が一番好きなの」


瞬間、ゾワリと全身に鳥肌が立った。今すぐにでも目の前の少女の存在を塵も残さず消し去りたい衝動に駆られるが、流石にここだと拙い。今にも動いてしまいそうな体を必死に抑え込む。


「それじゃあ、今度はもっとありのままの姿で会いましょう? 綺麗な白髪のお姫様」


先程よりも一層不気味な笑みを浮かべて去っていくローズリンデを見送り、ひとまずこの場は乗り切ったとホッと溜息を吐いた。


(……ふう。慣れない女口調はやっぱ厳しいな。それと、この城にはもう二度と来ないことにしよう)


受付に向かう途中でローズリンデの背中を一瞥し、心の中で固く誓ったのだった。

ローズリンデ「ふふ……首輪、手枷……それに三角木馬……ふふふふふふ………」


(●ω●)「悪いがここはノクターンじゃないんでな」


ロ「あら、着けるだけなら抵触しないのではなくて?」


(●ω|「っ⁉︎」


ア「やめてください」

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