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怠惰な魔本使いの見聞  作者: 炬燵天秤
第2章 白髪緋眼の魔本使いと呪いの狂宴
12/64

12話目 白裸とオムレツステーキ

謎サブタイその3。


少し遅くなってしまい申し訳ありません。お詫びのシャワーシーン。



では、どうぞ。

_


結局、報酬の件については、ギルドに登録してからもう一度この城に来るように言われた。まあ、普通に考えればそうなるよな。


むしろ報酬を渡さないとか言われてもおかしくない状況だった気がする。ゾルト伯に感謝しなくては。


「おう、お嬢様。お話は終わりましたかい?」


一階正面玄関までメイド少女に送ってもらい外に出ると、守衛兼伝令役を自称するレージが馬車に寄り掛かって立っていた。まさか俺の事を待っていたのだろうか?


「どうかした? サボり?」


「失礼な。寝床まで送り届けるのが伝令役兼送迎係の俺の役目なのさ。宿、決めてないんでしょう?」


「あなたに正門から寄り道せずに、城まで送ってもらったから」


てか、また役職が増えたな。


「そりゃそうでした。んじゃ、良い宿を知ってるからそこまで送りましょっか?」


俺の指摘を笑って誤魔化したレージだったが、宿の斡旋までしているとは驚きだ。本当にただの守衛なのかこいつ。


「どんな宿?」


「一泊三食付きに加えて、風呂あり鏡あり清潔な洗面所あり柔らかいベッドあり! これでなんとお値段たったの2金貨! どうだい? 泊まりたくなったでしょう!」


「いや、出会ったばかりの相手に、高級宿を推そうとするのはどうなのか?」


ビスマ村の宿は、一泊二食付きで風呂なし洗面所なし固いベッドでたった2銀貨程度しか掛からなかった。つまり百倍近い値段の宿を、目の前の男は勧めているのだ。


「うん? お嬢様ならそれくらい簡単に稼いでると思ってたんだが……、違うんですか?」


「いや、払う分には問題ないけど……、そこまで求めてないというか……」


確かに清潔な洗面所は魅力的だ。衝立しかない下水に垂れ流すという行為を、このアーデでやる事にはかなり抵抗があった。というか、今の話で思い出してしまった所為で、ちょっと、ヤバいか………


「なんてこった! お嬢様ほどの美少女が! 体の清潔さを気にしないと⁉︎ それはいけませんよおじょ


「その宿で良いからよろしく」


「あ……、りょ、了解です」


長くなりそうなレージの演説を叩き切って催促する。まずいな……これは城で借りた方が良かったか……?


レージのいう宿が城から離れていない事を願いながら、俺は馬車に乗り込んだのだった。



__________________



「では、こちらが21号室の鍵となります。失くさないようご注意ください。それでは、ごゆっくりと」


「分かった」


3日分の宿代と引き換えに部屋の鍵を手渡される。


雰囲気の良い、木造建ての宿の階段を上がってすぐ横にある21号室の部屋が今回割り当てられた寝床だ。


その部屋に小走りで駆け込んだ俺は、扉の鍵を閉めた瞬間には既に洗面所の鍵も閉めていた。今のところレベルの所為で無駄に高いがあまり使う機会のなかった敏捷ステータスを、初めて有用に使うことが出来たのだったーーー



__________________



「ふう……、危なかった」


水洗の設備が整っていたトイレで全てを出し切った俺は、気張っていた体の力を抜いてベッドへと倒れ込んだ。柔らかいベッドの感触が眠気を誘うが、まだやる事があるので、眠るわけにはいかない。


「さて………、体を洗うわけなんだが……まあ、今日はシャワーだけで良いか」


洗面所のすぐ隣にある風呂場を覗き込み、シャワーの形をした物があるのを確認しておく。流石に今から風呂を入れるのは面倒なことだし、特別風呂にこだわりがあるわけでもない。


無駄に掻いた冷や汗を流す為、という理由で己を正当化し、まずは白髪を結ぶ大きなリボンを解き、次々に服を脱ぎ捨てていく。


そしてなるべく下を見ないように心掛け、シャワー(仮)から湯を出す為に、赤と青の石に同時に魔力を流し込んだ。


すると始めは冷たい水しか出て来なかったが、やがて温くなり、最終的には適温の熱いお湯が出てきた。時間差でお湯が出るところとか、無駄に元の世界のと似通ってるな。


白髪を備え付けの壺に入っているシャンプー(仮)で洗い、ストレージから取り出した綿布で体を擦る。まあこうして3日分の汚れを洗い流せた訳だし、レージには感謝しておこう。身の周りが落ち着いたらポーションでも差し入れにいくか。



「ふう……これが、俺。か………」


風呂場に備え付けられた鏡を見て、しっかりと俺の今の姿を確認する。裸体を惜しげもなく晒した、アーデフェルトの姿を。


水を吸い、風呂場の仄かな明かりで煌めく、腰まで届く長い白髪。


鏡で見る薄い緋色の瞳からはあまり明るい印象を受けない。


隠さず全てを晒け出した、少女特有の未成熟な肢体は、触れるだけで崩れてしまいそうな脆さを醸し出している。


俺が元の世界で恋い焦がれた、ゲームの姿アバターと寸分違わぬ、いや、むしろそれ以上に美しく儚げな印象を齎す容姿が間違いなく目の前にある、のだが。


「何かが、違う……? 一体、何が」


だが、今の俺は、この容姿に対して違和感を感じている。俺がかつて求めていたものと異なる、決定的な何かを。


それがアーデフェルトという存在に自身がなってしまった所為なのか。もしくは、そもそも_________


「………上がるか」


いつの間にか湯が出て来なくなっていたシャワーに気づき、頭を振って冷たい水滴を払う。そのままもう一度湯を出す気分には到底なれず、結局髪を絞って水気を抜いてから上がることにした。




「魔法って便利だな〜」


これまた備え付けの櫛を使って髪を梳き、『熱風』という風魔法系のスキルを使って髪を乾かしている。


最初は調整が上手くいかずに髪が逆立つ結果になっていたが、しばらくやっている内に魔力の調整も何とかマシなレベルには落ち着いて、心地良い温風が髪を揺らしている。


「替えの服は………あと2種類、か」


魔法書が自動で髪を乾かしている間に、コスチュームというか着替えの準備をしていたが、少し困ったことがあった。替えの服や下着が少ないのだ。


この三日間着ていた服は、流石に着替えることにした。一応試しにストレージに戻してもう一度取り出してみたのだが、綺麗な状態で出てくる事はなかった。皺も汚れも付いたままだ。流石にそこまで都合は良くなかったらしい。


そんな訳で宿に洗濯を頼む予定だ。しかし、もしそんなサービスをしていなかった場合はどうするか。


(こっちの服を幾つか買って、……あとは洗濯代行屋かそういう系に頼むとするか。拠点がないと、慌ただしくなるのはどの世界でも一緒か)


取り敢えず今は新しい服を着てベッドに入る。明日の事は、明日考えることにしよう。出来れば金を稼いで借家でも借りる事が出来ればーーー『マイルーム』を再配置する事が出来る。


未だにビスマ村近くの花畑の下に埋まっている、色々と便利なマイルームのことに思いを馳せ、緩やかな眠りに落ちていった。



__________________



翌朝。カーテンから洩れ出た朝陽で目が覚めた。


「んっ、………さて。今日はギルドを探すことにしますかっと」


彼方の世界を含めれば数年ぶりの快眠で、とても気分が良い。柔らかいベッドの上で体をほぐし、体の異常の有無を確かめてから勢い良くベッドから飛び降りて床に着地する。


「〜〜〜♪」


まず乱れた髪を整える為にシャワーをさくっと浴び、昨日と同じように髪を梳いて『熱風』で乾かす。


パジャマ代わりのネグリジェをストレージにしまい、新しい服を取り出して着替えた俺は、最後に大きなリボンで長い白髪を纏めて洗面所の鏡で変なところがないか確認する。


寝癖なし。服に皺なし。よし、出掛けるか。


ベッドの横の机に無造作に置いてある魔導書を掴み取り、体の大半を隠す愛用の黒ローブを身に纏う。


このローブはゲームの頃から気に入ってアーデに着せていた最上級レア装備で、他に身につけている装備の例に漏れず魔力量増加と自然回復の効果が付与されているだけでなく、魔法効果延長の能力まで付与されている貴重な一品物だ。


しかし実際に身につけてみると、その触り心地も中々良いものだ。羽のように軽く、全身を隠しているというのに動きを阻害しない。流石高ランク。


「今度鎧も試してみるか」


部屋に置き忘れがないのを確認して部屋を出る。ストレージを使えば基本的に手荷物はなくなるので、表に出しているのは懐に仕舞ってある魔導書と、ベルトに括り付けた小銭入れの硬貨袋程度だ。


念の為ベルトに通したポーチには、各種ポーションや手拭きが入っている。並大抵のことは魔導師のスキルで補えるので、ポーションが必要になるほどよっぽどの事が起きるとは考え難いが、用心に越した事はない。


「おはようございます。今日の朝食は卵料理ですが、お食べになりますか?」


一階に降りた俺を見つけた初老の女将が朝食の必要不必要を尋ねてきた。食堂を覗けば、バターの香ばしい香りが漂ってくる。


きゅるるっ……


食欲をそそる香りに抗えず、アーデの凹んだ腹から可愛らしい腹の虫が聞こえてきた。Oh………


よく考えてみれば、昨日の朝食から城で出されたお菓子を除けば何も食べていない。そりゃあ体に訴えられても仕方がないか。


「……よろしく」


「ふふ、ではお好きな席に座ってお待ち下さい。すぐにお持ち致しますね」


営業スマイルにしては微妙な笑顔を浮かべ、調理場へと去っていく女将。俺は頬が熱いのを感じながら、やけくそ気味に手頃な席に座った。


「………商人もここを利用するのか」


端の方の席に座り、この食堂にいる客の種類を確認してみると、目立った武器を持たず、恰幅の良い男性が話し合ってるグループが2組。


武装した女性達のグループが1組。男女混合のグループが1組。


身なりの良い男達はおそらく商人だろう。今も悪い顔して口元を隠しながら不気味な笑みを浮かべている。


今のLv.250の俺なら耳を澄ませば話の内容を聞き取れるかもしれないが、やめておこう。聞かなければフラグだって立たないはずなのだ。フラグが歩いて来たら諦めるしかないが。


武装したグループは十中八九、冒険者だろう。少なくとも騎士や山賊の類には見えない。逞しい肉体の戦士がいれば魔女帽子を冠ったスタイル抜群の魔法使いもいる。


そういえば女性に人気の宿だとレージが話していた筈。冒険者でも女性は清潔さを気にするものなのだろうか?


「お待たせしました。こちら兎肉のステーキに鶏卵の溶き卵掛けでございます。熱いので此方のフォークをお使い下さい」


「………………」


卵、料理………??


目の前に出された料理を見て、思わず首を傾げる。出された料理は、熱せられた鉄板の上に、一口サイズに切り分けられた兎肉を載せ、さらにその上にどっぷりと溶き卵をぶっ掛けたものだった。


真っ黄色に染まった鉄板に絶句してしまったが、まだ続きがあったらしく、女将が鉄板の上に手を翳した。


「では、失礼します。ーーー炎の精霊の恩恵よ、『加熱』」


俺の知らない魔法が発動したらしく、女将の掌に少しだけ魔力が集中している。


暫くすると、トロリとした黄身が泡立ちながら固まっていき、最終的にオムレツのように兎肉を覆った。なんとも摩訶不思議な作り方だ。


「魔法………」


「お客様くらいの年までは魔法学校で勉強していまして、親が病に倒れたので家業を継いだのですよ」


成る程、魔法を使えるが故の工夫という訳か。魔法の応用はなかなか奥が深いものと見える。


それに学校もあるのか。異世界の学校がどのようなものかは、一度覗いてみたいかもしれない。


「いただきます」


「ご丁寧に。では、ごゆるりと」


一口サイズに切り分けられた兎肉と、表面だけが固まり、中はとろぉ…としたオムレツをフォークで重ねて口にする_________


「美味い。とろっとろ……」


口内で溶けるようにして広がった甘い黄身と肉汁が絡み合い、これ以上ない絶妙なテイストを引き出している(適当)。つまり一言で言えば、美味い。


(朝から肉料理なのはあれだと思ってたが、これなら今食えて良かった。………おかわりは、良いんだろうか?)


結局、昨日の分の栄養を補給する為に3皿食べたのだった。朝から。

シャワーシーン(鬱)。どうしてこうなった……。



アーデの真っ白なお腹の上にオムレツを載せて、スプーンでいただきた_________アーデが火傷しそうだから止めてとこう。(●ω●)

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