ダンジョンは自衛に最適です。
考えれば虫が良すぎる話だったんだろう。
気が付いたら神様を名乗る変な爺さんが出てきて、好きな世界で連れってってやるから質問に答えろとか言って来て。
素直に答えたらそのままファンタジーの世界に飛ばしてもらったんだが………
誰がホモばっかの世界に飛ばせって言ったよ! 普通のファンタジーでいいんだよ! 変な要素付けるなよ!
確かに俺は女嫌いだよ! 彼女作るより男友達とバカやってる方が楽だし楽しいよ!
でも俺はホモじゃねえよ! ふざけんなよ神様《くそ野郎》! もの元の世界に返せよ!
そもそも俺が女嫌いになったのは変に俺の容姿が優れていたらしいのが原因だ。
中学校に上がった頃には女子に声を掛けられたり告白されることが増えはじめ、知りもしない上級生から勝手に彼氏呼ばわりされ、それを否定したら逆切れされた、みたいなことが何度もあって、高校生になる頃にはすっかり女嫌いになっていた。
ていうかほんとにめんどくさい。
告白を断るたびに何で自分じゃ駄目なの? とかいちいち詰め寄られるのもめんどくさいし、下手に冷たくすると文句を言われたから優しくしたらそれでまた告白されて断ったら文句を言われてって、俺にどうすればと?
そんな俺が友人と呼べるのはほんの数人だけだった。
俺としては漫画やゲームも結構好きだからそういうのが好きな奴とも仲良くしたかったんだが……モテる奴は死ねって何? 好きでモテてるんじゃねえよ! 俺出来れば変わって欲しいわ!
この世界に来て告白される対象が女子から男に変わった。
文にすればたった一文だがこの変化は死ぬほどキツイ。
女嫌いとか言ってて御免なさい。男に迫られるよりは1000倍はマシです。
神様が付けてくれたチートのお蔭で何とか無事だが……正直言って死ぬほどきつかったです。
夜寝るのにも怯える(貞操的な意味で)俺は考えた。
どうすれば安全に過ごせるか……
家を買って閉じこもる作戦も毎日のようにやってくる訪問客のせいで全く心休まらなかったし、家に押し入られた時は身が縮む思いだった。
そんな俺が悩んだ末にとった方法……それはダンジョンに立てこもる。と言う事だった。
この世界のダンジョンは個人の持つスキルで作ることが出来るのだ。
そしてそれも貰ったチートの中に入っている。
ダンジョン自体は一瞬で出来た。貰ったチートはハッキリ言って起きてる間は、ほぼ何でもありみたいな代物だからだ。
起きてる間だけって所に並々ならない悪意を感じるんだが……
まあそれもダンジョンを作ったお蔭でしばらくは快適な睡眠を得る事が出来た。
何でしばらくかって言うと……俺がこのダンジョンにいると知った男たちが攻略しようと躍起になっているからなのだ。
はっきり言ってこのダンジョンの難易度はチートを使いまくって作っただけあって、あり得ないほど高い、だがこの男たちは不屈の歩みを進めている。
中には魔王や勇者などと言った人外レベルの強さを持った奴までやって来るので油断は出来ない。
そして今日も俺はダンジョンを攻略しようとやって来る男どもと戦う。
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「くっ、俺はもう駄目みたいだ、後は任せたぞ」
「済まない……」
「お前の事は一生忘れない……」
剣士が罠に掛かり、これ以上の攻略は不可能になった。
それを見て魔法使いと盗賊は悔しそうな表情をした後、前をみて先に進み始める。
今日、ダンジョンにやって来ているのは剣士と魔法使い、そして盗賊の三人組だ。
実はこの三人、挑戦するのは初めてでは無い。既に58回目だ。
あの三人は42回は今みたいなやり取りをし、残った16回は「お前の事、嫌いじゃ無かったぜ」みたいな事を言って倒れていた記憶がある。
まあこの三人についてはそれ程脅威では無い。
今三人がいるのはこのダンジョンの8階で、このダンジョンは1286階層まであるからだ。
当然、下に行くほど難易度は上がって行き、罠やモンスターについても鬼畜と呼ばれても仕方が無いレベルまでなっているのだからだ。
あ、そんな事いってる間にまた一人罠に掛かった。
そんな三人組を眺めていたら(ダンジョン内は何処でも映像が見えるようになっている)ブ~ブ~っと警報の様な物が鳴った。
これは一定以上の強さを持った。敵が侵入した合図だ。
「くっ、いまいましいダンジョンめ、どこまで俺のあの麗しき人への思いを邪魔すればいいんだ」
いや、このダンジョン創ったのは俺だし……っうか麗しき人って何だよ。
やって来たのは巷で勇者とか呼ばれている奴だ。さらさらの金髪に細身の体躯、黄金に輝く剣を持った、まさに絵本とかで出てきそうな勇者だ。
この勇者、魔王を倒すための旅をしていたらしいのだが、俺を見て一目ぼれをし、付き合ってくれとか妄言を吐いてきた奴なのだ。
その為にハーレムパーティー(全員男)も解散し、逃げた俺を追って日々ダンジョンの攻略に精を出す始末なのだ。
前回は598階層まで進んだが、食糧切れによってリタイヤしたが過去二番目まで進んで来た危険人物だ。
400階層目から、魔法封じのエリアで空間魔法による食糧の補給を防ぎ、ひたすら時間を稼ぐ兵糧攻めのエリアなのだがこの勇者、一週間以上飲まず食わずで進み600近い階層まで進んだ猛者だ。
挑戦数はこの一年で三桁を超える……その執着の対象が俺じゃ無かったら素直に凄いって称賛出来るんだが……
今回は前回の失敗を考慮してか、背中に大量な食糧を背負っているようだが無駄だな。
そう来ると思って食糧を消費せざるを得ない仕掛けを大量に設置したからな。
ブ~ブ~
勇者の動向を確認していたら再び警報が鳴り響いた。
あれは……勇者の元パーティーメンバーだな
俺と直接の面識は無いが、前のダンジョンで勇者と修羅場(全員男)を形成していたのを覚えている。
ここに来る目的は勇者に本来の目的を思いださせるため……という名目で俺に嫉妬しているらしい。
俺としては迷惑極まりない勇者を連れ帰って欲しいのだが……会うたびによりを戻す戻さないと言い合ってるだけで成功する見込みは薄い。
ブ~ブ~
……今日は客が多いな
やって来たのは魔王だった。魔王と言っても見た目はほぼ普通の人だ。
無駄に整った顔をしていて服装は黒い鎧に黒いマント、魔王の名に相応しい強さを持ったこのダンジョンの最下層記録保持者だ。
ただ、ダンジョンに集中するあまりに、自分の国の事を疎かにしまくっていて、部下と思わしき人が何度も国へ戻って下さい。と必死に説得していたのを覚えている。
あ、勇者と魔王が出会った。
「お前、魔王! まさか俺の麗しきの人に手を出すつもりか」
「くくく、また会ったな勇者よ、あれは俺のものだお前ごときが手を出していいものじゃない」
あ~、このやり取りの何度目だっけ? 確かメモが……54回目だな。
こいつら二人ともかなり頻繁にダンジョンに潜るから何度もこんなやり取りをしてるんだよな。
俺のもの俺のものって否定するのもいい加減突っ込むのも疲れてきたは……
あ、バトりだした
まあ魔王が勝つだろ。今までの戦績も魔王の全勝だし。
「はぁはぁ、ふん流石勇者だ、前よりも更に強く……ぐわっ」
二人がバトルと楽でいいな。勇者は毎回地味に善戦するから終わって隙が出来た時に魔王を襲えばいいし。
ふ~、今日はこれくらいかな。後はクリアの可能性があるやつもいないし。
よし! やっと寝れる
数年後、ホモばっかりの世界で男に飢えた女たちが、ホモでは無いダンジョンマスターの噂を聞き押しかけて来た事によって、主人公の女嫌いが再発するのはまた別の話。