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01 初めての/かつての/置き土産

相変わらずの召喚物です。もう一本やって召喚三部作にしたい。ネタ無いけど。



 ………。


 ……?


 ……何だろう、この痛みは。


 ……ジリジリと、ジワジワと、鈍痛を感じる。


 ……まるで性質の悪い風邪のようだ。頭痛が痛い。いや、頭が痛い。



 ―――嫌な予感がする。嗚呼、目を開けたくない。



 ……と言う訳にもいかず、俺はゆっくりと目を開いた。そこには薄暗く、高い天井。当然ながらこんな場所は見た事が無い。


「……知らない天井だ」


 近くで誰かがアホな事を言っているが、スルーしてゆっくりと目を閉じる。先程までの頭痛は呼吸が浅かったせいなのか、今ではすっかり無くなっている。

 それと同時に、吸気と共に感じる充足感。久しぶりの感覚だったが、体に染みついたソレはいとも呆気なく昔の自分を呼び起こす。

 ……ふざけんじゃねぇ、と言いたかったが、体は勝手に動き出していた。


「スゥ……ハァ……」


 一呼吸ごとに手足に力が行き渡っていく。冷え切った体で暖かい風呂に飛び込んだような、痺れと共に安心感に包まれる感覚。

 そう言えばこの感覚自体は嫌いでなかった事を思い出し、ようやく頭が回り始める。全身に力を込め、特に行動に支障が出るような怪我が無い事も確認できた。


「ここは……?」


 上体を起こして周囲を見渡すと、そこには見慣れた格好のクラスメート達。皆、不安そうに周囲を窺っている。

 部屋そのものは非常に大きく、縦横50メートル、高さも10メートルはあるだろう。そこに規則正しく柱が立っており、その中心部にある舞台か祭壇のような所に俺達は転がっていた。


 その場に立ち上がって更に周りを見ると、壁の一か所にだけ扉が有るのが解る。パッと見の印象ではまさしく生贄の祭壇って部屋だ。

 天井近くには採光用らしき窓がズラリと並んでおり、外が昼間なのだと解る。しかしそれでも丁度俺達の真上の天井が暗く、よく見ればそこだけドーム状に凹んでいるのが解った。


 ……まあ、そんな見ただけで解るような情報よりも、さっきからビンビンに感じる『コレ』の方が大事だ。別に寝起きだからって愚息が張り切ってる訳じゃない。


「………。」

「………。」


 そっと視線を巡らせ、目当ての人物が居た事に少し安堵する。向こうからずっと見られてたっぽい事はスルーしよう。後が怖いし。

 ともかくアイツが居れば安心だ。情けなくはあるが、何かあった時に俺では対処できない可能性が高い。こちとら、それだけのブランクとトラウマを抱えているのだ。

 それに、こっちを見ていたって事はアイツもこの状況に俺と同じ感覚を持ってるという事だ。多分。


「な、なぁ……何だよこれ……?」

「知らないよ……映画の撮影?」

「俺達さっきまで教室に居た筈……だよな?」

「やだ、怖い……」


 周りの皆も状況を把握し始めたのか、疑問が産まれては更なる疑問を呼ぶ。しかし、それに答える声は何もない。

 薄暗い部屋を見渡しても俺達以外の姿はなく、壁や床に反響した声がサワサワと音を残すだけだった。


 そんな中、唐突に話し声以外の音が耳に入る。何かと音の出所を見れば、それはこの部屋唯一の扉だった。


「ですからこのような事をせずとも……」

「くどい。貴方達が頼りにならないのが原因でしょう。第一、もうそのような事を言っている段階ではありません。

 ……ああ、お目覚めですか?」


 重厚な扉の開く音と共に聞こえたのは、そんな声。一つは年齢を重ねた男性の物で、もう一つは若いながらも張りと言うか威圧感のある女性の物だった。

 扉からの逆光で顔は見えないけれど、扉から入って来た大小二つの影が声の主だと言うのは一発で解る。その小さい方が俺達に話しかけてきていた。


「あの、これは……?」

「皆様を御呼び立てしたのは私ですわ、異世界の勇士様方。どうか御力を御貸し下さいませ」


 ……駄目だ、嫌な予感しかしない。



 事の始まりは六年前。この国――カクタン朝西テンセイ帝国――の秘宝「天元黄玉」を城内を探検していた幼い公主、つまりこの国のお姫様が壊してしまった事だと言う。

 大粒の宝石として美術品としての評価も非常に高かったソレは、ただの宝石ではなかった。封魔の力を持ち、「百邪」と呼ばれる無数の化け物を封印した物だったのだ。


 天元黄玉が割れ、中に封じられていた百邪は力の限りに暴れ回った。病や災害の力を持つ百邪の力は凄まじく、国土は荒れ、人々は病み、あと一歩で国が崩壊する所だった。

 しかし、割れた天元黄玉から作られた四つの秘宝「南天朱玉」「北天玄玉」「東天蒼玉」「西天白玉」の力を使い、百邪を世界の彼方の果てへと追放する事に成功する。


 辛うじて平穏を取り戻した西テンセイ帝国だったが、それも僅か一年足らずで崩れてしまう。追放した筈の百邪の一部が戻って来てしまったのだ。

 再び追放しようにも、四つの玉は百邪と共に彼方の果てへ行ったきり。幸いにも百邪は消耗していたために体勢を整える事はできたが、それ以来延々と戦いは続いている。


 ……つまり、


「私達にその化け物と戦え、と……?」

「身勝手な願いである事は承知しています……ですが、我々にももう手段が残っていないのです。どうか、お願い致します……」


 両手を祈るように組んで縋るような上目使いで俺達を見てくるのは、天元黄玉を壊した第一公主の妹であると言う第二公主。

 幼いと言っていいような年頃の美少女の涙交じりの懇願。話をするからと移動してきた会議室の小さな窓から漏れる光が淡い水色の髪を輝かせ、その姿を幻想的に魅せていた。

 その姿が、あの頃の彼女によく似ている。まあアイツは誰かに頼るような奴じゃなかったけど。結構メンドクサイ性格してたよな、アイツも。


「そ、そんな……無茶苦茶です! こんな拉致まがいの方法で―――」

「……いけませんか?」

「―――ッ! た、確かに困っているのであれば助けたいとは思いますが……」


 ……オイ。今何した? 先生とお姫様の視線が合った途端に先生の態度が軟化したぞ? 先生の目も何か虚ろになってるし……ヤバいなコレ。


「ま、まあどうしてもって言うなら……」

「わざわざ呼んだって事はそうするだけの意味があるって事だろ?」

「み、皆がやるって言うなら……」

「ロリ姫……ハァハァ……」


 ……これはもう口出しできる状況じゃないな。下手に騒いで目立つのはまずいし、さっきのが「効かない」とかもっとまずいだろう。

 アイツの方を見ると、俺と同じ事を考えていたのか小さく頷いてきた。俺はともかくアイツなら何とかなりそうだけど、慎重に行動した方が良いな。


 俺達はそう思っていたが、まだ冷静になってない奴は居た。例えばアイツの隣とかに。


「戦うとかできる訳ねーじゃん……嫌だよ、帰りたいよ……!」

「ミサキ……ね、ねえ! 帰る方法ってないの!?」

「……ご安心下さい。百邪に勝利した暁には、必ず」


 ヒステリックに叫び出した桂木を宥める為か、アイツが希望の材料となるような質問をする。自然とそれに答えるお姫様の視線はアイツに向いていた。

 まずいな……お姫様がアイツをロックオンしてる。効くにしろ効かないにしろ、さっきのを喰らえばまずい結果になるのは目に見えている。


 お姫様の威圧感が高まる。やばい、と腰を浮かしかけた瞬間、その行動は無駄に終わった。

 ―――会議室を爆音が包み込んだのだ。


「きゃああああああっ!?」

「な、何だぁ! 地震か!?」


 クラスの連中は俄かに騒ぎ出し、何人かは机の下に慌てて隠れる。が、これは地震じゃない。音源が少し遠いが、これは間違いなく地上での爆発だ。


「姫様! 御怪我はありませんか!?」

「ええ、大丈夫です。しかしまずいですね、このタイミングでとは……」


 お姫様と騎士らしき恰好をした男性の会話が耳に入る。あまりにもタイミングが良過ぎて仕込みを疑う程だが、今はそれどころじゃない。

 アイツを見ると、先程よりも強く頷いた。アイツは腕の中で泣き喚いている桂木を一度強く抱き締め、近くにあった窓へと駆け寄る。俺もそれに続くと、視界の隅に黒煙が上がっているのが見えた。


「あそこか……ここ、何だろ。お城かな?」

「むしろ砦っぽいな。城壁の上に兵士が一杯居る……やれるか?」

「まずはギリギリまで様子見かな……そっちは?」

「……悪い」


 俺の返事にそう、とだけ呟き、アイツ―――木角晶子は油断なく窓の外へ視線を向ける。事情を聴いてこないのは晶子の優しさであり、厳しさなんだろう。

 体はこの異常事態に対応して動いているってのに、気持ちだけは動かない。黄ばんで歪んだ質の低いガラスの向こうでは、兵士達が吹き飛ばされて……死んでいるというのに。


「ヒァーッハッハッハァ! 雑魚に用はねぇんだよ! 大人しく死んどけぇぁ!」


 ゆっくりと飛行しながら周囲へ射撃型の魔法を撒き散らす百邪。いかにも悪者です、と言う黒と鋭角まみれのフォルムは解りやすい「敵」だった。

 一方、俺達が窓から外の様子を伺っていると後ろからお姫様の声が聞こえてくる。と言うか、避難しなくても良いのか?


「……ランドゲイル。アレを起こして来なさい」

「なっ!? い、いけません! ただでさえ連日の戦闘で疲弊している上に彼らの召喚で魔力が底をついています! 死んでしまいますよ!?」

「……では、あの百邪を止める手段が他にあるとでも? 犠牲になるのは兵達ですよ」

「そ、れは……」


 ……随分と胸糞の悪くなる話のようだ。さっきの催眠術らしき事といい、あのお姫様はどうも好きになれそうにない。大義名分もあるし、本人は全て正しい事だとでも思って行動しているのだろう。


「駄目だね……一方的にやられてる。こっちに被害が来るのも時間の問題かも」

「そうか……晶子、頼めるか?」

「うん……名前、久々に呼ばれた気がする」

「ああ、俺も久々に呼んだ気がする」


 久しく見ていなかった晶子の柔らかい笑みは、晶子自身が開け放った窓からの風に消える。視線は上空、口元は引き締められ、眉は逆ハの字に吊り上がった。

 染められた金髪と、襟元から引っ張り出された青い玉付きのネックレスが風に揺れる。これを見るのも何年ぶりだろうか。


「な……貴女、一体何を!?」

「見ていられないので―――変身っ!」


 窓から空中へ身を投げ出した晶子を、ネックレスから迸る光が包み込む。やはり久しく見ていなかった光景だが……あんな風だったか?


「ッ!? 何だ、奴か!?」

「……誰の事だかは知らないけれど、確か会った事はあるよね? 確か……十月の終わりだったっけ?」

「な―――ま、まさか貴様はぁっ!?」

「多分、そのまさか。フォースターコイズ・ブロウ。貴方に風穴、開けちゃうよ? ……物理的に」


 違う。いや、決め台詞は違わない。ただ、それ以外が致命的に違う。と言うか何だその名前は。ブロウィアウラじゃなかったか?

 恰好もまるで違う。風になびくパーツの多かった服は体にピッチリと貼り付き、鱗のような模様を描いている。パッと見では同じ「魔法少女」とは解らないだろう。


 ……そう。アイツは『魔法少女』だ。


「奴が出てこないと思えば、まさか貴様とはな! 残り二人も纏めて血祭りにあげてくれるわ!」

「こっちは事情もよく解らないんだけどね……でも、今アンタを野放しにしちゃいけないって事はハッキリ解るよ。ウィンドブラスト!」


 ブロウィ……いや、ブロウの翳した左手から突風が吹き荒れる。これはただの風ではなく、無数の魔力の刃が風と共に相手を切り裂く技だ。

 百邪は咄嗟に身を縮め、両腕と右脚で体の前面を守る。百邪の全身に切り傷が出来るも、浅い。これは発動が早く攻撃力もそれなりにあるブロウの十八番だが、百邪相手には効果の薄い魔法だ。

 元より百邪に対して肉体へのダメージは直接的には効果が無い。肉体の修復に魔力を使わせる事で消耗を強いる事は出来るが、結局は牽制技だ。


「しゃらくさいわっ!」

「―――どっちが」


 両腕をブロウへ突き出し、百邪が射撃型の魔法を放つ。射角が広く、弾速もある。正に弾幕と言った具合の使い勝手の良さそうな魔法だ。

 しかし、ブロウにその弾丸は一発も当たらない。魔法が放たれた事で発生した気流に乗り、ヒラリヒラリと蝶のように弾幕をかわしていく。

 木の葉の舞。風や空気を使う魔法少女の到達点の一つであり、以前のブロウの技量なら二秒もてば良い方と言う程の高難度技術だ。それをたっぷり数十秒使いこなし、弾幕を全て避け切る事に成功する。


「なっ!?」

「これで決める! エアロメイデン!」


 今度はブロウが右手を百邪に翳し、空中を捻るように握り込む。それに合わせて百邪の周囲の空気が徐々に収束し、渦巻き、球状に百邪を閉じ込めようとする。


「しまっ―――ぐぁあああああああああっ!?」


 百邪がそこから出ようとするも時既に遅し。局地的に風速数百キロの檻と化した空は百邪の脱出を許さず、その身を微塵に切り刻む。

 寸断・撹拌された百邪は意地で片腕を風の処刑器具から突き出すも、魔力切れで肉体の構成を維持できなくなり消滅した。

 風に巻き上げられた百邪の腕は力なく宙を舞い、やがて地上に落ちる前に魔力となって空中へ霧散する。それを見届け、ブロウが小さく溜息を吐いた。

 ……完全勝利、だな。


「な、ん……」

「嘘……」

「すっげ……」


 ブロウと百邪の戦いに集中していた意識を部屋の中に戻すと、クラスの連中がまるで漫画のような表情で固まっていた。

 ……うん、まあ仕方ないだろう。晶子はクラス内では完全にギャルキャラとして認識されていた筈だ。それが変身して空を飛んで魔法を使ったのだから。


 ブロウが先程出て行った窓から戻って来た。部屋の床にゆっくりと着地し、変身が解除される。そこにはいつもの金髪ギャルの姿があった。

 クラスの皆が茫然とする中、突如部屋の中に拍手が鳴り響く。慌ててそちらを見ると、すっかり調子を取り戻したらしいお姫様の姿があった。


「素晴らしい……まさかこのような結果になるとは、私にも予測がつきませんでした。やはり皆様をお呼びしたのは間違いでは無さそうですね」

「あの、私は……」

「ええ、ええ。解っております。恐らく、他の方々ではなく皆様が呼ばれたのはこのせいだったのでしょう。その輝きは正しく東天蒼玉。貴女がお持ちだったのですね。

 ……そして、貴女だけでなく他の皆様も呼ばれたという事。そこにもまた意味がある。私はそう考えます」


 晶子が戻って来るまでの短い時間に考えたのか、中々に無理のある論法でお姫様は話を纏めにかかる。今度は視線ではなく言葉に魔力を乗せているようだった。

 その上で俺達が召喚されたのは晶子のせいだとでも言いたげなその言葉に反論したかったが、反論した所で状況が好転する訳でもないと体にブレーキがかかってしまった。

 ……情けないな、畜生。


「で、でも俺達、あんな変身とかできないし……」

「そうですよ。魔法なんて聞いた事も……」

「ご安心下さい、百邪と戦う術自体は御座います。異世界の勇士たる皆様であればきっと多大なる戦果を上げられますわ」

「……ホントに?」

「はい、私が保障致します」


 虚ろな、不安げな、期待に満ちた無数の目。それを見て、幼い筈のお姫様は薄らと微笑む。もうその顔は直視できない。

 ……その後ろに控える、ランドゲイルと呼ばれた男性が強く唇を引き締めていたのが俺の不安を更に掻き立てていた。



 その後、まずは疲れを癒してほしいと食堂で料理を振舞われ、桶に入れたお湯で汗を流してさっさと寝ろと言われた。

 いや、後半は意訳だけど。風呂ではなく桶で出てきたのは事実だ。どうも百邪の襲撃で人手が足りなくなっているらしい。

 ……調味料が塩しかなかったのもそのせいだよな? 普段からこんな食生活って訳じゃないよな?


「そこん所、どう思うよ」

「え、私ちゃんとした料理だったよ? お風呂も結構広いの使わせてもらったし」

「……まあ、活躍したしな」


 何もしてない奴と殊勲賞持ちが同じ待遇、というのも変な話だろうしな。一緒に行動できないと寂しいだろうから、なんてあのお姫様が考える訳無いし。

 それはさておき情報交換だ。でないと何の為にわざわざ部屋を抜け出して密会しているのか解らなくなる。怪しまれない内に手早く済まそう。


 砦の通路の突き当たり、銃眼の僅かな隙間から零れる月明かり以外は闇に沈んだココは密談には持って来いの場所だった。

 勿論、晶子が魔法で周囲をざっと調べてあるので盗聴されている心配は無い。多分。


「で、まずはここの事だけど……やっぱり13番か?」

「かも、ね。もう少し確信を持てる情報が欲しいけど、まず間違いなく百邪が元々居た世界で間違いないと思う」

「魔法学が発展途上で主力学説が幾つかある世界だったよな? んで、世界の固有名称は無し」

「うん。一応大三角って学説でほぼ決まりになってるってこの世界出身の子が言ってたけど。コタローもそう言ってたし」


 へぇ、アイツ以外のこの世界からの奴も増えたのか。まあ、元々恒常的なゲートがある世界だしな。増えもするか。


「じゃあ次は帰る手段か。俺達を呼んだ部屋が怪しいけど、そう簡単に入れないだろうな……入れても動くかどうか」

「解析はフリージィの担当だからね……魔力は感じたし居るとは思うけど、あのお姫様の様子だとあんまり期待はできないかな」

「……だな。まるっきりアイツが悪役って感じの話になってたし……確かアイツ、帰る時にその辺は何とかするって言ってなかったか?」

「失敗したんでしょ。あの子、どっか抜けてるから」


 違いない。真っ直ぐで良い奴なんだが、どうも要領が悪いと言うか手が掛かると言うか……最後まで箸の持ち方下手だったしな。

 と、久しぶりにアイツの事を思い出していると晶子がこちらをじっとりとした目で見てきた。何だよ。


「じゃあ後は『MGS』からの救援待ちか。どれぐらいで来るかな?」

「んー……まあ、一月ぐらいかな? 私がもうちょっと頻繁に顔出してればすぐ気付いてくれるだろうけど、最近行ってないから……」

「それ言ったら俺なんかアイツがこっちに帰ってきた時以来一回も行ってねーぞ。まあ、それぐらいなら百邪が今まで通り週一で来るなら平気だろ」


 今までの百邪との戦いは、必ず週に一度だけだった。向こうから攻めてこようが偶然会う事になろうが、何故か週に一度だけしか会えないのだ。

 何かそれ絡みの話をMGS――マジックガールズサービス――の先輩から聞いた気がするんだけど……何だったっけ?


「一匹ぐらいなら何とかなるけど、結構強くなってたからなぁ……下級のでもあんまり多いとあの子かアンタが居ないと駄目かも」

「う……そうか。あ、そ、そうだ! 名前と格好が違うんだけど、あれって―――」

「うん、第三段階。最後の戦いの後、結構すぐに変わったよ? ……露骨に話題逸らしたね。別に良いけど」

「そうか、また変わるのか……出来るなら、そうならずに元の世界に戻りたいな」


 俺の脳裏をよぎるのは一度目の変化。皆の装備が豪華でフリッフリになる中、一人だけ極端に布地が減った悪夢が思い起こされる。

 ―――だ、駄目だ! 思い出すな! 俺はもうあの力は使わないと決めたんだ! 俺は変態でもストリーキングでもないんだ!


「……大丈夫? ま、まあ任せてよ。嫌がる子には強要しない、ってのがMGSのルールだしね」

「ああ……悪い。せめてブライトリィ―――佐倉が居れば良かったんだけどな」

「いや、あの子は居なくて正解だったと思うよ? それに下手すればMGSより……いや、やめとこ。それに、もしかしたら自分のせいだって思っちゃうかもしれないしね」

「あー、そうだな。アイツが言い出したんだよな、殺すのは可愛そうだって。そのためにゲート系の魔法まで覚えて……アレ? もしかしてアイツって……」


 俺が知ってる限りでアイツが使えるゲート魔法は敵を異世界、つまりこの世界に送る魔法ぐらいだがブロウィが第三段階になっていたんだ。自在に異世界を行き来する魔法を覚えていてもおかしくない。


「……もしかしたら、MGSの救出班より先にあの子が来るかもね」

「かもな。そしたら久々に四人揃うのか……俺はやりたくねーけど」

「あの子がイギリス行っちゃったのも割とすぐだったからねぇ……あのまま残ってたらどうなってた事か」

「何がだ?」


 なんでもない、と晶子は首を振る。フリージィ―――ヘルマはともかく、アイツとは結構仲が良かったと思ったけど……まあ、女心なんて解る筈も無いか。


「ともあれ、話が大分逸れたけどアンタは力は極力使わないって方針で良いの?」

「ああ、悪いな。お前にばっかり負担が掛かっちまう」

「別に良いよ。手札を無駄に切らずに済んだって考えた方が建設的だしね。今日はあの子も出てこなかったけど、魔力切れじゃしょうがないし」

「……そう言えば、大丈夫か? あのちっこいお姫様、まるでお前のせいで俺達が呼ばれたって言い方してやがったけど」


 多分、俺達が召喚されたのは俺とコイツが居たからだ。一人でも呼ばれるのならイギリスに居る筈のアイツでも良い。

 ……もしかして、アイツ今西天白玉持ち歩いてないのか? いや、変身していなくても多少の能力ブーストはある筈だ。きっと持っているだろう。


「んー、まあ多分大丈夫……かな? それに、状況が変わっても私がやる事に変わりは無いしね」



 ―――根拠は無い筈だ。しかし、自信に満ちたその笑顔の返答は、今の俺には少し眩し過ぎた。



主人公「ヘタレとか言うな」


……しまった、主人公の名前出てない。

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