窓口
わたしの仕事は、説明することだ。
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総合受付の、いちばん左の窓口にいる。
初診の方はこちら、と書いた札が立っている。
朝の八時半から、十一時半まで。そのあいだに、六十人から八十人が来る。
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最初に聞くことは、決まっている。
「紹介状はお持ちですか」
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持っている人は、そのまま通す。
持っていない人には、次のことを言う。
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当院は紹介状をお持ちでない方の初診について、保険診療とは別に、七千七百円をご負担いただいております。
税込みです。
診察代とは別にかかります。
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これを、一日に三十回か四十回、言う。
十四年、言っている。
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同じことを一日に四十回言うと、言葉が形になる。
息継ぎの位置が決まる。七千七百円、のあとで一拍置くと、聞き返されにくい。
税込みです、を先に言うか後に言うかでも、反応が違う。先に言うと、金額のほうが耳に残る。
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わたしは後に言うようにしている。
そのほうが、説明として通りがいい。
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窓口のガラスには、小さな穴が並んでいる。
その穴の高さが、ちょうど座った人の口の位置に来る。
立ったまま話す人の声は、少し上から降ってくる。
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一日の終わりには、喉が痛い。
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朝、椅子に座って、まず名札を確認する。曲がっていると、直される。
それから、電卓と、判子と、例外の一覧を、同じ位置に置く。
十四年、同じ場所に置いている。
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制度の名前は、初診時選定療養費という。
国が決めたもので、病院が勝手に決めた金額ではない。
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対象になるのは、大きな病院だ。
特定機能病院と、二百床以上の地域医療支援病院。それから、紹介受診重点医療機関というものに手を挙げた、二百床以上の病院。
うちは、三つ目にあたる。
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金額には下限がある。
医科の初診なら、七千円以上。再診なら三千円以上。消費税を含めた額だ。
うちは七千七百円にしている。
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この負担は、病院が「もらってもいい」ものではない。
「もらわなければならない」ものだ。
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患者さんに支払う義務があって、病院に徴収する義務がある。
だから、まけることはできない。
言わないでおくこともできない。
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わたしに裁量はない。
これは、楽なことでもある。
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怒る人はいる。
聞いてない、と言われる。どこにも書いてない、と言われる。
書いてあります、と言って、壁の掲示を指す。指すと、たいてい黙る。
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黙ったあとに、二つに分かれる。
払う人と、帰る人だ。
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帰る人のほうが、静かだ。
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わたしはどちらにも同じことを言う。
本日はご案内のみとなります。お大事になさってください。
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お大事に、というのは、便利な言葉だと思う。
何も約束していない。
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なぜこんな制度があるのか。
研修で習ったし、自分でも調べた。
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軽い症状の人まで大きな病院に来ると、本当に必要な人が診てもらえなくなる。
外来が混めば、医師も看護師もそちらに取られて、入院している人への手が薄くなる。
だから、まず近くの診療所にかかってもらう。そこで必要だと判断されたら、紹介状を持って大きな病院へ来る。
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これを、外来機能の分化という。
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正しい仕組みだと思う。
いまでもそう思っている。
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うちの病棟は、いつも満床に近い。手術の待ちも長い。
窓口で止めなければ、もっと長くなる。
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わたしは、止めるための場所に座っている。
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止めた結果は、目に見える。
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わたしが来る前、この病院の外来は朝から人で埋まっていたと聞いた。
いまは、九時の時点で座れる。
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紹介状を持ってきた人は、待たされない。
紹介のある人の枠が、別に取ってあるからだ。
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この前、紹介で来たおばあさんが、こんなに早いんですね、と言った。
わたしは、そうなんです、と答えた。
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制度が効いている、というのは、そういうことだ。
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誰かが待たずに済んでいるのは、誰かが来なかったからでもある。
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例外は決まっている。
他の医療機関からの紹介状を持ってきた人。国の公費負担医療の対象者。地方の公費の対象者の一部。労災や公務災害。
それから、緊急でやむを得ない場合。
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一覧は、手元に貼ってある。
毎日見ているので、見なくても言える。
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この一覧に、お金がない、という項目はない。
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一覧は、上から順に条件が書いてある。
国の公費。地方の公費の一部。障害の医療費助成。特定の疾患。労災。公務災害。救急車で来た場合。
どれも、書類か、事実で確認できるものだ。
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確認できないものは、例外にできない。
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それは、そのとおりだと思う。
自己申告でよければ、誰でも言える。
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制度というのは、確認できることだけで組み立てる。
組み立てられないものは、最初から入らない。
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去年の十一月に、男の人が来た。
六十代の後半に見えた。ひとりだった。
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紺色の作業服の上に、ジャンパーを着ていた。
手に、市販の胃薬の箱を持っていた。
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箱は、角が潰れていた。
ポケットに入れて持ち歩いた形だった。
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その人は、窓口の前に立つとき、腰に手を当てた。
立ち方を探しているように見えた。
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声は低くて、はっきりしていた。
ただ、話しはじめるまでに、一拍あった。
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紹介状はお持ちですか、と聞いた。
持っていない、と言われた。
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わたしは、いつもの説明をした。
初診で紹介状がない場合、保険診療とは別に七千七百円がかかること。税込みであること。診察代はこれとは別であること。
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その人は、少し黙ってから、聞いた。
「それは、診てもらう前に払うんですか」
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お会計のときに、診察代と一緒にお支払いいただきます、と答えた。
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「じゃあ、全部でいくらくらいになりますか」
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これは、よく聞かれる。
わたしは決まった答え方をする。
検査の内容によって変わるので、はっきりとは申し上げられません。ただ、七千七百円は必ずかかります。
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その人は、うなずいた。
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それから、こう言った。
「近くの医院でも、同じことが分かりますか」
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この質問にも、決まった答えがある。
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まずお近くの医療機関を受診していただいて、必要と判断されればご紹介いただけます。その場合、この負担はかかりません。
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わたしは、そう答えた。
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嘘ではない。
制度の説明として、どこも間違っていない。
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その人は、ありがとうございます、と言った。
それから、出ていった。
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わたしは次の人を呼んだ。
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次の人は、紹介状を持っていた。
その次の人も持っていた。
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午前中に、七千七百円の説明をしたのは、その日は十一回だった。
そのうち、そのまま受付を通った人が七人。
帰った人が四人。
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数えていたわけではない。
午後に集計する欄があって、そこに書く。
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帰った人の数を書く欄は、ある。
なぜ帰ったかを書く欄は、ない。
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十二月に、同じ人がまた来た。
今度は紹介状を持っていた。
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封筒を出す手が、前より痩せていた。
顔の色が、紙みたいだった。
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わたしは受け取って、番号札を渡した。
その日は、七千七百円の説明をしなくてよかった。
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番号札を渡すとき、その人がわたしを見た。
覚えていますか、という顔ではなかった。
誰の顔も見ていない、という感じの目だった。
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紹介状の封筒には、近くの医院の名前が入っていた。
窓口から歩いて十五分ほどのところにある、古い医院だ。
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封筒の口は、糊で留めてあった。
わたしは中を見ない。見てはいけないことになっている。
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いつ書かれたものかは、封筒の表に書いてあった。
十二月のはじめだった。
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十一月の終わりに、うちに来ている。
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あいだが、どれくらい空いたのかは、数えれば分かる。
数えなかった。
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あとのことは、看護師の人から聞いた。
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その人は入院して、年が明けて、二月に亡くなった。
もともと、見つかったときには手が打てない状態だったという。
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いつからそうだったのかは、わたしには分からない。
十一月の時点でどうだったのかも、分からない。
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医者ではないので、判断できない。
判断してはいけない立場でもある。
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分からないのに、考えてしまうことがある。
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十一月に、あの人がそのまま受付を通っていたら。
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その日に検査をして、結果が出て、入院になっていたら。
一か月、早い。
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一か月で何が変わるのかは、分からない。
何も変わらなかったかもしれない。
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分からないというのは、便利な言葉だ。
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わたしは、便利な言葉をいくつも持っている。
はっきりとは申し上げられません。
必要と判断されれば。
お大事になさってください。
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どれも嘘ではない。
どれも、何も引き受けていない。
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十四年かけて、そういう言い方だけがうまくなった。
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あとで、思い出したことがある。
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あの人は、近くの医院でも同じことが分かりますか、と聞いた。
わたしは、必要と判断されればご紹介いただけます、と答えた。
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答えていない。
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聞かれたのは、近くの医院で分かるかどうかだった。
わたしが答えたのは、紹介の手続きのことだった。
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もっとも、分かるかどうかは、わたしには答えられない。
それを答えるのは、医療行為の判断になる。
事務がやってはいけないことだ。
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だから、あの答え方が正しい。
研修でもそう習う。
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正しい答え方をした。
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この制度で、病院は儲かっているわけではない。
定額負担をもらう患者さんについては、保険から支払われる点数のほうが差し引かれる。
初診なら二百点。再診なら五十点。
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つまり、七千七百円を受け取る代わりに、別のところが減る。
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この制度は、金を集めるためのものではない。
人の流れを分けるためのものだ。
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そして、分けるという意味では、きちんと機能している。
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あの人は、分けられた。
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制度が悪い、と言いたいのではない。
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この制度がなかったら、うちの外来はまた埋まる。
埋まれば、いま手術を待っている人の順番が、もっと後ろになる。
誰かが待たされる。誰かが手遅れになる。
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どちらにしても、誰かが後ろに回る。
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制度は、後ろに回る人を決めるためにある。
うまく決まっている。
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うまく決まっていることと、決まった先で何が起きるかは、別の話だ。
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後ろに回った人がどうなったかを、制度は見ていない。
見る仕組みがないからだ。
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わたしにも、見る仕組みはない。
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窓口には、一日に何十人も来る。
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説明を聞いて、そのまま受付を通る人がいる。
電話をかけに行く人がいる。
家族と相談します、と言って出ていく人がいる。
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出ていった人が、そのあとどうしたかは、分からない。
近くの医院に行ったのかもしれない。
行かなかったのかもしれない。
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記録は残らない。
受付をしていないのだから、カルテもできない。
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来なかった人のことは、どこにも残らない。
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四月に、後輩が入った。
覚えが早くて、説明もはっきりしている。
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この前、その子が聞いてきた。
「あの、もし、お金がなさそうな方だったら、どうしてます」
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わたしは答えた。
決まっていることなので、そのままお伝えします。例外には入りませんので。
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「はい」
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いい返事だった。
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その子は、もうひとつ聞いた。
「そのあと、あの、どうなったかって、分かるものなんですか」
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分からない、とわたしは答えた。
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「そうですよね」
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その子は、少し笑った。
安心したような笑い方だった。
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わたしも笑った。
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分からない、というのは、教える側にとっても便利だ。
教わる側を、そこで止められる。
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その子は、いまも同じ説明をしている。
わたしが教えたとおりの言い方で。
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正確で、丁寧で、間違いがない。
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窓口というのは、受け付ける場所のことだ。
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辞書を引いたら、もうひとつ書いてあった。
外部との応対にあたる人のこと、と。
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わたしは、応対にあたっていた。
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受け付けては、いなかった。
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長い作品も読みたい方へ
代表作『善き隣人』(全13章)があります。
築四十年の団地。壁の向こうの泣き声。記録をつけはじめた女の話です。
https://ncode.syosetu.com/n0138ms/
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なお、本文の執筆には生成AIを使用しています。構成・設定・事実確認・最終稿の判断は著者が行っています。




