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国家観

外伝  父として、貴族として

作者: たまみつね
掲載日:2026/04/12

この作品は、生成AIを使用して作成しています。




この作品は、「婚約破棄を宣言した王子、国家レベルで止められる」の外伝、公爵視点の物語です。


本編を必ず先にお読みください。

その報告を受けたとき、私はしばらく言葉を失った。


「……もう一度、言え」


 ようやく絞り出した声は、思っていたよりも低く、硬かった。


「王太子殿下が、舞踏会の場にて婚約破棄を宣言なされました」

 淡々とした口調。

 だが、その内容は淡々と受け止めてよいものではない。


「公の場で、か」

「はい」

 報告官は視線を伏せたまま答える。

 それだけで十分だった。


(愚か者が)

 内心で吐き捨てる。


 だが、それは王太子に対してだけではない。

 それを止められなかった宮廷全体に対してもだ。

 そして。

(……いや)


 自分自身に対しても、だ。

 私は立ち上がる。


「馬を用意しろ。王宮へ向かう」

「はっ」

 命じながら、すでに思考は先を走っている。


 婚約破棄。

 それ自体は、あり得る。


 契約である以上、解消もまた制度の内だ。

 だが。


(“公での宣言”は別だ)

 これは単なる破棄ではない。

 侮辱であり、契約の踏み荒らしであり――


(戦争の火種だ)


 胸の奥で、冷たいものが広がる。



 王宮に着いた時、すでに事態は“処理されつつ”あった。

 王太子は別室へ連れ出され、舞踏会は再開。

 そして。

 私が呼ばれたのは、その別室ではなかった。


「……遅かったな、公爵」

 宰相が、静かに告げる。

 その表情を見て、すべてを悟る。

(もう、終わっている)

 いや。

 正確には――

(終わるところだった)


 卓上に置かれた二つの杯。

 その意味を理解するのに、時間はかからなかった。

「これは……」

「王妃殿下のご判断だ」

 宰相の声は、いつも通り冷静だ。

 だが、その奥にある緊張は隠しきれていない。


 改めて王妃と王子、そしてエリシアのいる別室にはいる。

 視線を向ける。


 私の娘が、そこに立っていた。

 背筋を伸ばし、乱れ一つなく。

 まるで、何事もないかのように。

 その所作に、揺らぎはない。


 だが。

 そこに置かれているものは。

 明らかに、“日常のもの”ではなかった。


「婚約破棄に伴う、機密流出のリスクを排除するため」

 言葉としては、理解できる。

 理屈としても、通っている。


 何かが、内側で軋んだ。

(父として)

 叫びたかった。

 ふざけるな、と。

 それは私の娘だ、と。

 そんな理由で、命を奪ってよいはずがない、と。


 だが。

(公爵として)

 その言葉を、飲み込む。


 理解している。

 この判断が、どれほど冷酷で、どれほど正しいかを。


 娘は、知りすぎている。

 王太子妃教育を終えた以上、国家の中枢に触れている。


 それを外に出すことは。

(国の死に繋がる)

 だから。

 王妃は、もう一つの杯を手にしているのだ。

 当然のように。

 娘一人の死では、足りない。

 公爵家が動く。

 貴族が割れる。

 内乱になる。

 それを防ぐために。

 王妃自身が死ぬ。

(ここまで考えているのか)


 理解する。

 そして同時に。


(ここまでやるのか)

 戦慄する。


 視線を、娘へ戻す。

 エリシアは、静かにそこにいた。

 恐怖も、動揺も、見えない。

 いや、目には、微かに感情の動きが見える。


 ああ。

 そうだ。

 この子は、そういう子だ。


 幼い頃から。

 理解が早く、判断が正確で。

 そして――

(決断が、早すぎる)


 もっと、泣けばいい。

 もっと、縋ればいい。

 父に助けを求めてもいい。

 だが、この子は。

 そうしない。

 なぜなら。

 それが、“正しくない”と知っているからだ。


 だから、私が口を挟むことは、二人の覚悟に泥を塗ることになる。

 何も、言えなかった。


 エリシアが、こちらを見る。

 ほんの一瞬だけ。

 ほんのわずかだけ。

 その瞳に、“娘”の色が宿る。


 私は、理解した。

 この場で、父であることを優先すれば。

 この子の“覚悟”を、踏みにじることになる。


 拳を、強く握る。

 爪が食い込む。

 血が滲む。

 それでも。

 私は。

 何も言えなかった。


 それは、父としての敗北であり。

 公爵としての、選択だった。



 その後のことは、語るまでもない。

 王太子は崩れ、婚約破棄は撤回され、毒杯は下ろされた。

 すべては、“未遂”に終わった。


 だが。

 あの瞬間、確かに。

 私は、娘を失いかけた。


 屋敷へ戻った夜。

 私は、書斎に一人こもった。


 机に向かい、何もせず。

 ただ、じっと座っていた。

(私は、何をした)

 問いが、繰り返される。


 娘を守らなかった。

 助けなかった。

 止めなかった。


 それでも。

(あれが、最善だった)

 もう一つの声が、否定する。


 どちらも、正しい。

 どちらも、間違っている。

 だからこそ。

 苦しい。


 ふと、扉がノックされる。

「お父様」

 その声に、息が止まる。


「……入れ」

 扉が開く。


 そこに立っていたのは。

 変わらぬ姿の、娘。

「お戻りでしたか」

 何事もなかったかのように。

 そう言って、微笑む。

 その顔を見た瞬間。

 胸の奥に溜まっていたものが、崩れそうになる。


 だが。

 私は、笑った。

「……ああ」

 短く答える。

「戻った」

 それ以上は、何も言わない。

 言えない。


 この子はもう。

 ただの“娘”ではない。

 国を背負う者だ。


 だから私は。

 父であることを、少しだけ脇に置く。

 その代わりに。


「……よく、やった」

 それだけを、告げた。


 エリシアは、一瞬だけ目を見開き。

 そして、静かに頭を下げた。

 それでいい。


 それしか、できない。

 娘を差し出すということは。

 きっと、こういうことなのだ。


 そして私は。


 その重さを。

 これからも、背負い続ける。

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