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役立たず霊能者の私が、警視庁怪異特殊対策室に拾われた話 ~そこはヤンデレだらけのイケメンハーレムだった件~  作者: 季未


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第11話:白銀の蹂躙と、甘すぎる罰

神宮寺は粉砕された壁の隙間からゆっくりと店内へ足を踏み入れた。

右手には前に見た大型の拳銃のような形状をした呪具が握られている。


「よくもまあ、俺の所有物をこんな薄汚い場所に引きずり込んでくれたな」


神宮寺の声音は静かだったが、背後には遊園地を覆う怪異の瘴気すらも凌駕する、底知れないどす黒い怒りが渦巻いていた。


『……ギィ……アァ……』


巨大な肉塊の化け物が、新たな外敵に対して威嚇の呻き声を上げる。

無数の黒い手が、一斉に神宮寺に向かって襲いかかった。


「じ、神宮寺さん、危ない!」


私が叫ぶよりも早く、彼は無造作に呪具の引き金を引いた。


パァンッ!!


乾いた破裂音と共に、銃口から青白い閃光が迸る。

それはただの弾丸ではなかった。閃光は螺旋を描きながら竜巻のように膨れ上がり、迫り来る黒い手たちを一瞬にして消し炭に変えていく。


「たかが雑魚の分際で、俺の物に触れるな」


神宮寺は歩みを止めない。

化け物が放つ瘴気の波をそよ風でも受けるかのように涼しい顔で歩き抜け、肉塊の真正面へと立つ。


『ガァァァァッ!!』


肉塊が巨大な口を広げ、神宮寺を丸呑みにしようと飛びかかった。

だが、彼は微塵も動じず、冷ややかな瞳で化け物を見下ろした。


その瞬間、化け物の動きがピタリと空中で止まった。 怪異でありながら本能が警鐘を鳴らしたのだろう。

目の前に立つただの人間が放つ底知れない呪力と絶対零度の殺気に当てられ、巨大な肉塊がブルリと震え上がったのだ。

悲鳴のような呻き声を上げ、化け物は神宮寺から逃れようとズリズリと無様に後ずさりしていく。


「──遅い」


神宮寺は逃げる獲物を冷酷に嘲笑うかのように、二発目の引き金を引いた。

耳を劈くような轟音。 白銀の閃光が肉塊の中心——怪異の核を正確に撃ち抜いた。

化け物は断末魔の悲鳴を上げる間もなく、内側から激しく膨張し黒い灰となって爆散した。


同時に足元を這っていたヘドロのような影も、ドロドロに脈打っていた建物の壁も、ガラスが割れるような音と共にパラパラと崩れ落ちていく。


「終わったぞ」


赤黒かった空が薄皮を剥ぐように剥がれ落ち、本来の美しい夜空が現れた。

遮断されていた外の空気と、微かな夜風が店内に流れ込んでくる。 狂った夢の国は、完全に崩壊したのだ。


(助かった……)


極度の緊張の糸が切れ、私の足から力が抜けた。 崩れ落ちそうになった体を、強靭な腕がガッチリと受け止める。


「よく耐えたな」


頭上から降ってきたのは、先ほどまでの絶対零度の殺気が嘘のような少しだけ温度を持った声だった。


「神宮寺、さん……」


見上げると彼の端正な顔が至近距離にあった。

高級なシトラスの香りが、腐臭を完全に上書きして私の肺を満たしていく。


「遅いですよ……。すぐに助けてくれるって言ったじゃないですか」


安心した途端、涙腺が緩んで文句が口をついて出た。 私にとっては永遠のように長く恐ろしい時間だったのだ。


「すまん。想定より結界の層が厚かった」


神宮寺は私の背中に腕を回し、そのまま軽々と私を抱き上げた。

お姫様抱っこだ。 だが、今回は文句を言う気力もない。

彼の温もりが、冷え切った体に心地よかったからだ。


「おい、その足首はどうした」


不意に、彼の声が低くドスを効かせたものに変わった。

視線を落とすと、私の足首には、黒い影に掴まれた時の生々しい痣がくっきりと残っていた。


「あ、逃げる時に少し……」

「……」


神宮寺の目が、スッと細められる。 彼は私を抱きかかえたまま屈み込み、私の足首の痣に自分の唇を押し当てた。


「ひゃっ!?」

「動くな。瘴気が残っている」

「で、でも、そんな直接……!」


怪異に掴まれた時の、骨の髄まで凍るような氷の悪寒。

それが、彼の火傷しそうなほど熱い唇の感触と、流れ込んでくる強大な呪力の波によって、一瞬で甘く上書きされていく。

いくら治療とはいえ、足首に素肌でキスされるなんて刺激が強すぎる。


「言ったはずだ。俺以外のモノがお前に痕を残すのは許さん」


神宮寺はゆっくりと顔を上げると、黒い灰となって散った怪異の残骸を親の仇でも見るような冷酷極まりない目で一瞥した。

怪異に対する怒りとは違う、昏くねっとりとした独占欲が渦巻いている。


(この人、やっぱりどこかおかしい……!)


私が彼のヤンデレ気味な執着に戦慄していると、壊れた壁の外から間の抜けた声が聞こえてきた。


「あーあ、神宮寺サン。また派手にやりすぎ! 壁ぶっ壊したら、運営会社に言い訳するの俺なんだけど!」

「おや、これは酷い。いくらお気に入りのおもちゃに手を出されたからといって、空間ごと消し飛ばすなんて大人気ないですねえ」


のんきに歩いてきたのは、タブレットを手にした陸と、ガラス瓶を抱えた九条だった。 日常の風景(この二人も十分異常だが)が戻ってきたことに、私は心底ホッとした。


「だってさ、神宮寺サンの呪力数値、過去最高記録叩き出してたよ? お姉さんに手を出されて、よっぽど頭にきたんだねー」


陸がニヤニヤしながら私と神宮寺を交互に見る。

私は羞恥で顔を赤くしたが、当の神宮寺は全く気にした様子もなく、私を抱き直した。


「あの、さらわれた人たちは……!?」


私が慌てて話題を変えるように尋ねると、九条が白衣を翻して笑った。


「ご安心を。結界が解けたことで、皆さん無事に広場の真ん中で眠っていますよ。命に別状はありません」

「よかった……」

「ただ、あの忌まわしい記憶を持ったままでは社会復帰は難しいでしょう。今から僕が、彼らの脳から『夢の国で楽しく遊んだ記憶』だけを残して、恐怖の記憶を綺麗に切り取ってあげます」


九条の言葉は相変わらずマッドサイエンティストじみていて恐ろしいが、今回ばかりは彼の手腕に感謝するしかなかった。

あの地獄のような光景を覚えたまま生きていくのは、あまりにも残酷すぎる。


「撤収するぞ。陸、事後処理は任せた」

「へーいへい。ブラック上司め。お姉さん、後で俺にもご褒美ちょうだいね!」


陸の軽い口調を背中で聞き流しながら、神宮寺は私を抱えたまま、停めてあるSUVへと向かって歩き出した。


「あの、神宮寺さん。もう歩けますから、降ろしてください……」

「黙って抱かれていろ。お前は怪異の瘴気を吸いすぎている」

「でも、重いですよね……?」

「お前くらい、空気のように軽い。……それに、こうしている方が俺の精神衛生上良い」


神宮寺は私の抗議を完全に無視し、腕の力をさらに強めた。

夜の冷たい空気が頬を撫でる。

彼に抱かれたまま見上げる横顔は、やはり人間離れして美しかった。

月給一〇〇万円の死と隣り合わせの契約。 プライバシー皆無の監視生活。

そして、この傲慢で過保護すぎる上司からの、逃げ場のない執着。


(私、とんでもないところに就職しちゃったな……)


だけど、あの絶望的な暗闇の中で。


彼が壁を壊して現れた瞬間の光を、私はきっと一生忘れない。


極上のシートに降ろされ、彼が運転席に乗り込んでくるのを見つめながら私は極度の疲労から静かに目を閉じた。

意識が深い闇に落ちていく、その寸前。 私の耳元に、熱い吐息と低い声が落ちてきた。


「……もう二度と、俺の目の届かないところへは行かせない。お前は一生、俺の手の中で生きていけ」


それは甘く、そして決定的に逃げ場のない呪いの言葉。


こうして底辺社畜だった私の囮としての怒涛の二日目が、ようやく終わりを告げたのだった。



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