家はもらいますね? 貴方達のことは家族と思えないので。
「これから君に防御魔法のコツを教える」
授業を終え、迎えた放課後。
王立魔法学園の裏庭。
「……はい?」
一週間後、戦場へ向かうことが決まっていた幼馴染は突然そんな事を言い出したのだった。
***
私にはヴィクターという幼馴染がいた。
彼と私は互いに思っていた。
ヴィクターは奥手で積極的にアプローチをするタイプではなかったけれど、私を想ってくれている事は、日頃の振る舞いからよく伝わっていた。
けれど、成長し、学園へ通うようになっても、私と彼が結ばれる事はなかった。
理由はいくつかある。
そもそも貴族の婚約に恋愛感情は関係しないという事。
そしてそれとは別に二つ。
一つ、私の妹、コリンナがヴィクターを気に入っていた事。
コリンナは女性らしい愛らしい容姿を持っていた上に、甘え上手だった。
そして他者の印象操作が得意。
この特技を利用したコリンナは、両親からの愛情を独占し、両親はコリンナを可愛がって私を嫌った。
幼い頃から、両親はコリンナが私に擦り付ける言い掛かりや冤罪を全て信じ込み『出来損ないの娘』という偏った見方でしか私を認識してはくれなかった。
ヴィクターは辺境伯家の三男。
侯爵家の私の家と充分釣り合いが取れる立場にあった。
そんな彼を婚約者にしたいと、コリンナが望んだのだ。
両親は私とヴィクターが親しい関係を築いている事を勿論知っていた。
しかしコリンナが望んだからという理由で、前もって『お前と彼を婚約させるつもりはない』と断言されていたのだ。
我が家とヴィクターの家が血の繋がりを持つとするならば、それは愛娘コリンナを介してでなければ。
そんな考えを両親は持っていた。
彼女はヴィクターの美しい顔立ちを気に入っていた。
そして彼が私に向ける優しさを欲し、『自分ならば嫌われ者の姉よりもより愛されるはずだ』と考えた。
しかし幼い頃から長年、ヴィクターへ猛アプローチを仕掛けるも、コリンナの努力が報われる事はなかった。
痺れを切らしたコリンナが両親を使って婚約の申し出をヴィクターの家に出したらしいが、それは彼によってきっぱりと断られたそうだ。
こうして、ヴィクターとコリンヌが婚約する道も断たれたのだった。
これが、我が家が私とヴィクターの婚約を認めない理由だ。
そして同様に、ヴィクターの方にも、私へ婚約を申し出られない理由があった。
――彼の家に生まれた嫡男以外の男児は若くして亡くなる。
社交界では有名な話だった。
必ずという訳ではないが、歴史を振り返れば殆どの男児が成人から三十になるまでに亡くなっている。
これには情勢的な問題が大きく関わっていた。
この世界は強力な人類の敵、魔王という存在がいる。
古代に人の地を侵略し始めた魔王軍との戦は今も続いている。
そして魔王軍の脅威が人里へ降り掛からぬよう、食い止めているのが、魔王軍に侵略された地と我が国の境界を守るヴィクターの家なのだ。
辺境伯家に生まれた男児は、世継ぎとなる嫡男以外は剣や魔法の腕を磨き、やがて軍を指揮して最前線に立つ使命を負っている。
これが、辺境伯家が『生まれた男児は若くして亡くなる』と囁かれる理由だ。
彼のご先祖様や、共に戦う戦士たちのお陰で魔王の進行は食い止められており、領土の奪還にも成功しつつある。
けれど最前に立つ以上、そして生きている限り戦場に立つ事を約束されている以上、どうしたって危険に晒され続ける。
ヴィクターが婚約を申し出ないのも、私に想いを告げようとはしないのも、これが理由だった。
彼は誓い未来、自分が命を落とす可能性を危惧しているのだ。
残された私が悲しむだろうと思っての判断だった。
だから私達は互いの想いに気付きながらも、愛を告げることが出来なかった。
そして、ある日の事。
両親達の決定により、私の婚約が決まった。
相手は悪い噂の絶えない公爵、ベネディクト様。
ふくよかな体つきに、女癖が悪く暴力的という評価で囁かれ、私とは三十程歳が離れているベネディクト様。
彼との婚約は、公爵という強固な地位の影響を両親達が求めた結果だった。
公爵の婚約相手として愛娘を選ばなかったのは……彼がまともな人間ではないという事を両親も理解していたからだろう。
そしてそれからすぐに、魔王軍の動きが活発化した。
これにより、ヴィクターは戦場へ向かうことが決まったのだ。
***
一度戦場へ赴くようになれば、帰還までには時間を要するし、仮に生きて帰ってもまたすぐに戦場へ戻らなければならなくなる。
彼にとっては二度と手には入らないかもしれない、一週間という、自分に残された短い日常。
戦に向けた支度なり、残り少ない平穏を謳歌するなりいくらでも選択肢がある中で、ヴィクターは何故か私に魔法を教えると言った。
「何を言っているの、ヴィクター」
「君に防御魔法を教えると言っている」
「いや、そうではなくて……。貴重な時間なのよ? どうしてこんな時期に魔法を教えるだなんて……」
尚も真剣な面持ちで話す彼の考えが読めず、私は困り果てる。
魔法を極める時間があるならば、そうすべきなのはどう考えたってヴィクターの方だというのに。
確かに彼は剣も魔法も他社より秀でた技術を持っていた。
けれどそれが油断していい理由にはならない。
戦場に立つ機会などない令嬢に身を守る術を教えるくらいならば、少しでも自分の生存確率を上げた方が良いに決まっている。
そう思い、私はヴィクターを咎めるように見つめる。
するとヴィクターは私の顔に触れた。
私の頬を撫でる彼の手に、おしろいが付く。
「……本当はもっと早く、そうしておくべきだった」
悲しそうに目を伏せるヴィクターの顔を見て、私はハッと思い当たる。
触れられた箇所に慌てて触れながら思い出すのは、おしろいに隠されていた痣だった。
昨日、コリンナに謂われない罪を着せられ、父から打たれた時に残ったもの。
「気付くのが遅すぎてすまない。……せめて、今からでも出来る事をさせてくれないか。傍で守ってやる事は出来ないから、代わりに、俺が居なくても君が傷つかないで済む手助けがしたい」
『居なくても』。
そんな言葉は聞きたくなかった。
彼が帰れない未来を受け入れているようで、本当にそんな未来が来てしまいそうで恐ろしかった。
「貴方の代わりだとでも言うのなら、必要ないわ。私が上手く隠し過ぎたせいなのだし、貴方が気にする事でもない」
「アレクシア」
彼が私の名を呼ぶ。
彼は真っ直ぐと私を見ている。
譲る気はない、と瞳が訴えていた。
「このままでは君の事が気掛かりで戦に集中できない」
「な」
「俺を死なせないでくれ」
「な……ッ」
とんでもない強請り方をし始めたヴィクターの言葉に、私は唖然とする。
私がヴィクターをどれだけ想っているのか。それを彼自身も理解している。
だからこそ、この状況で自分の意見を押し通すだけの術を彼は持ち合わせていた。
「ず、ずるいわ……っ!」
「君が頑ななのが悪い」
私達はじとりと睨み合う。
思い通りになってくれない相手を恨みがましく見つめてみるけれど……わかっている。
どちらも、相手を想っているからこその発言だって。
私達はどちらからともなくプッと吹き出して笑った。
「……言う事を聞けば、きちんと帰って来てくれるのね」
「当たり前だ」
意外だった。
彼は嘘が苦手だ。不確かな事には言葉を濁すような人間だ。
けれどこの時ははっきりと断言した。
ヴィクターが笑みを深める。
「必ず戻るさ」
自信に満ちた笑みとその言葉が、とても嬉しい。
私は溢れそうになった涙を何とか堪えるのだった。
……彼が自分の運命を受け入れているかも、など。
どうやら杞憂だったようだ。
それから一週間、私達は放課後に裏庭で防御魔法の訓練に勤しんだ。
何故裏庭かと言うと、下手な噂が広まらない為だ。
私は一応婚約した身。
どんな理由であれ、異性と二人きりでいる事を不審に思ったり、面白おかしく言いふらすような者が現れてもおかしくはない。
故に、ヴィクターが私に直接触れたのも防御魔法の指南を申し出たあの時だけ。
婚約者がいない時ならばもっと気楽に過ごせたであろう関係も、変わってしまっていた。
そして一週間の時を経て、私は拳や蹴りなどの物理的な攻撃程度であれば全く痛みを感じない程度の防御魔法を会得した。
「一先ず、形にはなったかしら」
「欲を言うなら魔法を防ぐくらいの質があった方が安心ではあるんだが……」
「私を何と対峙させようとしているの?」
いくら何でも、認められた場所以外で魔法を人に向けるのはほぼ殺人未遂だ。
両親が私を嫌悪しているとはいえ、流石に魔法を使って殺そうとしたりはしない。
大真面目に心配しているヴィクターが面白くて、私は声を上げて笑った。
それから私達は他愛のない話を交わす。
日が暮れ始めても裏庭にいたのは、他の生徒が帰る機会を窺っていたのと、あとは……別れが名残惜しかったから。
「……そろそろ帰るか」
そう言いだしたのはヴィクターだった。
それに同意し、私達は馬車まで向かう。
並んで歩く私達の手はすぐ傍にあって、少し伸ばせば簡単に触れる事が出来ただろう。
けれどそれはしなかった。
私達は婚約者ではなく、私には別の相手がいたから。
「それじゃあ」
「ええ」
馬車に乗る私をヴィクターが見送る。
私達は見つめ合った。
「……待っているから」
暫く沈黙が訪れてから、私は言葉を絞り出した。
溢れそうになる涙を必死に堪え、笑みを浮かべる。
「必ず帰って来て」
「……勿論。必ず、俺から君に会いに行く」
その言葉を最後に、ヴィクターが馬車の扉を閉めてくれる。
ヴィクターが悲しそうな笑みと共に窓に手を合わせた。
つられるように、私も窓へ手を伸ばす。
窓越しに手を重ねて、互いに強い願いを込めて視線を交わす。
暫くそうした後、ヴィクターは馬車から離れていく。
やがて馬車が走り出しても、彼はその場に留まり続けて私を見送った。
私もまた、遠ざかる彼の姿見続けた。
やがてヴィクターの姿が見えなくなってから。
堪えていた涙が溢れ出す。
嗚咽を必死に堪えながら私は目を擦る。
ヴィクターは必ず帰って来ると言った。
ならば私はそれを信じるしかない。
……自分に出来る事をして。
再会を果たした時、彼と心から笑い合えるように。
「一先ずは、幻影魔法を学ぶところからね」
***
それから二年。
私は時折両親達から暴力を振るわれたが、痛がるふりをする内心は非常に心穏やかであった。
これもヴィクターの教えのお陰である。
コリンナが両親の影で私を嘲るようにニヤニヤとしていたが、それに対しても別に何とも思わなかった。
寧ろちょっと得意げになったし、気味が良いとすら思った。
私の演技力はコリンナを騙せる程度には高かったようだから。
また、ベネディクト様に関しても噂通りのお人で、少しでも気に入らない事があると彼は私に良く当たった。
髪を引っ掴まれる事もよくあったが、毛根は勿論無事である。
私に暴力を振るう人々は鬱憤を晴らせてすっきりし、私は無傷。
以前とは比べ物にならないくらい生きやすい毎日となっていた。
そんな折。
国を……いや、世界を賑わす大きな報せが舞い込んで来た。
――魔王が討伐された、と。
***
「此度の戦、ご苦労であった」
魔王討伐に於いて大きく貢献した数名が国王の前に跪く。
その先頭に立つ青年を国王は見つめた。
「此度の功績を鑑み、貴殿には褒美をやろう。爵位と財……他に、望む事があれば申してみよ」
「過分なるお言葉、ありがたく拝受いたします」
青年は顔を上げる。
国王を見据える目は真っ直ぐで、迷いはない。
「それでは――」
***
世界の英雄たちが集う謁見の間。
そこへ呼び出されたのはとある侯爵夫人とその愛娘。
彼らは国王と英雄の前で深々と頭を下げる。
格式ばった挨拶を交わした後、国王が告げる。
「此度の戦の功労者については聞いているであろう。その褒美として、貴殿の娘との婚姻を彼は望んでいる。異論はないか?」
「も、勿論でございます! このような大変喜ばしい事――」
「陛下」
侯爵が頷きを返すが、それを英雄は遮る。
「どうした?」
「彼女ではありません」
英雄は侯爵夫妻の愛娘――コリンナを冷ややかな目で見た。
「私は確かに、アレクシア嬢をと」
「ああ、そうか。彼女は妹の方であったか。私は確かにアレクシアを呼べと申したはずだが」
「お、お言葉ですが、あれは国の英雄ともあろうお方のお傍に立たせるにはあまりに不出来でして」
「……私や、陛下の決定に物申したいと?」
「め、滅相もございません! しかし……」
「…………私はアレクシアを連れて来いと言ったのだが?」
気前よく英雄の望みを叶えようとしていた手前、自分の顔に泥を塗られたと思ったのだろう。
国王の声には明らかに不機嫌な色が混じる。
「ヒッ、も、申し訳……」
「彼女は家にいるのか?」
「はい」
「良い。ならば遣いを出そう」
国王の発言はどうやら、侯爵夫妻やコリンナにとって都合の悪いもののようであったが、既に気を悪くしている国王へ反発する勇気はないようだった。
こうして王宮から遣いが出され、アレクシアは国王と英雄の前に姿を現す事となった。
***
謁見の間の扉が開く。
私はコツコツと踵を鳴らしながら、堂々たる足取りで私は進む。
瞬間、周囲からはざわめきが起こった。
それもそもはずだ。
私の体には――傷や痣があちこちに残っていたのだから。
「な……ッ、ど、どういう事だ! 侯爵!」
「そ、そのっ、不出来のアレクシアには躾をと……ッ!」
「これが躾だと? 罪人へ行う体罰と何ら違いはないではないか! それも年若い女性の顔と体に」
国王は激昂した。
私が『英雄』の褒美として捧げるにはあまりに酷い状態だったからだろう。
一方、『英雄』――ヴィクターもまた、唖然としている。
けれどこちらは私の痛々しい怪我に胸を痛めると言ったものではなく――
――『そんな事は教えていないが?』という顔であった。
久しぶりの、それも喜ばしい再会であるというのに。
そして彼は世界一の英雄となった名誉ある人物であるというのに。
あまりにも間抜けな顔をしている彼が可笑しくて、私は笑いを堪えるのに必死になるのだった。
***
その後、事情を語るよう国王陛下から促された私は、これまで自分が受けた仕打ちを赤裸々に話した。
家での扱い、妹コリンナによる悪意ある印象操作と両親からの虐待、また婚約者ベネディクト様による暴力についても。
これらを聞いた陛下は私に同情した。
そして同時に、このような行いが野放しにされていた事に大きな憤りを見せた。
遅れて呼び出されたベネディクト様も加えた空間で、怒りに顔を真っ赤にする陛下へ、ヴィクターはある提案をする。
「このような者達が広大な土地を治めている事実、民の税で暮らしている事実……こんなものは認めたくありません。私達は彼等の為に、戦場を駆けたのではない。ですから、どうでしょう。もし陛下がお許しくださるのであれば――」
心を痛めるふりをしながらも、彼の瞳は鋭く光っていた。
「彼らが持つ地を、私達に任せてはいただけませんか」
「な……ッ!!」
「ひ、酷いです! ヴィクター様!」
『私達』というのは、彼の傍に居る戦友たちの事だろう。
彼の発言を聞き、両親やベネディクト様が声を上げ、コリンナはヴィクターへ涙を見せる。
しかし国王がどんな判断を下すのか。
それは、陛下のお顔を見れば、あまりにも明らかであった。
***
その晩、私はヴィクターと共に両親と妹を我が家の門の外へと追い出した。
ガシャン、と音を立てて正門が閉まる。
「な……っ、何をする、アレクシア!」
「酷いわ、お姉様!」
「陛下からのお話を聞きましたでしょう? 貴方達は今日から……貴族としての地位を剥奪された、ただの平民です。家族でも何でもない。二度とこの家には戻れないものと思いください」
私は三人を冷笑する。
「私達、家族でしょう! 助けてくれようって気持ちがないの!?」
母がヒステリックに叫ぶ。
高く大きな声は不快感が強く、単なる暴力よりも質が悪いかもしれないと思った。
「家族? 陛下がお怒りになる程の暴力を振るっておいて……?」
「あれは躾だと……ッ」
「私は」
反論しようとする父の声を遮る。
「とっくの昔に――家族などとは思っておりません」
貴方達の事はね。
そう続けてから私は三人へ背を向ける。
三人はまだ喚いていたが、正門に立つ騎士達によって黙らされる事となった。
***
爵位の剥奪。
それが私の家族とベネディクト様に下された判決だった。
四人は減刑を懇願したが、すっかり憤ってしまった陛下はそれを覆さなかった。
これまで好き勝手生きて来た妹と、彼女の口先だけの言葉を信じてしまうような浅はかな両親、そして自制が一切できない体型を誇る傲慢な元婚約者……彼らがまともに生きていく事は出来ないだろう。
どこかで野垂れ死ぬか、もしくは奴隷になるか……最終的に行きつく運命はそんなところだと思う。
さて、そんなこんなで、私が王宮についてから何もかもがトントン拍子に進み、私の平穏な日常が確約された。
我が家と、保有している領地は全てヴィクターが継ぐことになった。
要は――私達は籍を入れる、という事だ。
家族を追い出し、漸く一息吐けた頃。
私はヴィクターを一先ず客室へ連れて行った。
何もかもが急だった為、彼が住む為の準備など出来ていないのだ。
「本当に泊っていくの? 実家に帰らなくても……」
そんな私の声は途中で途切れた。
腕を引かれたかと思えば――彼の唇で口を塞がれたのだ。
優しい口づけに、私の頬はあっという間に火照っていく。
「俺がどれだけ君に会いたかったと思っているんだ。遠ざけようとされたら、流石に拗ねるぞ」
「そ、そんなつもりじゃあ」
恥ずかしくなってしまい、視線を泳がせていると彼は私の頬に触れる。
「……念の為聞くが、怪我はしていないんだよな」
「あ、うん」
そこで私は思い出した。
自分に……幻影魔法を施している事に。
私は魔法を解く。
すると見る見るうちに傷が消えていく。
「暴力を振るわれていたのは事実だけど、怪我はしてないよ。振るわれる度に怪我を負っているように見せかけていただけ」
「…………そう、か」
ヴィクターは私の体を観察し、怪我がなさそうな事を確認してから息を吐いた。
「全く、俺は身を守る術しか教えてなかったって言うのに」
「どれだけ殴っても怪我をしないってなれば怪しまれるし、ムキになってもっと酷くなるのが目に見えていたもの。それに……貴方が体を張って戦っているのに、私だけやられっぱなしで待ち続けるなんて、出来なかったわ」
「……いつの間にこんなに逞しくなったんだか」
私達はプッと笑い合う。
それから互いの熱を感じ合うように、抱きしめ合った。
……別れ際は触れることが出来なかった。
でもこれからは、あの寂しさを覚える事もない。
「愛してるわ。ヴィクター」
ヴィクターが目を瞬かせる。
それから彼は目尻を下げて、ふにゃりと気の抜けるような柔い笑みを見せた。
「……俺もだ。アレクシア」
……偉業を成し遂げた英雄が見せる顔にしては、あまりに威厳がない、甘すぎる微笑みだった。
それから、遅れて湧いてきた再会の実感と喜びのせいで涙を流してしまう私の頬を、彼が優しく拭ってくれてから。
――長年の溜め込んだ想いを余すことなく伝えるように、長く深い口づけに溺れるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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それでは、ご縁がありましたらまたどこかで!




