094 女たちの報復と十二人のスキル
俺はすでに魔改造した馬車を二台作っていたので、昼間に暇なのは俺とレオンとレオンの家族だけだった。最近は一緒にソファで寛いで過ごすことが多い。
「アレス、あの地下牢の貴族十六人と商会長はどうするんだ?」
レオンが紅茶を傾けながら尋ねてくる。隣ではレオンの奥さんと娘さんが、エルマの作ってくれたケーキを嬉しそうに食べていた。
「ああ、それなら今日から教育が始まっているはずだよ」
「教育?」
「ほら、あそこにメイドさんたちがいるでしょ」
俺が指さした先には、凛とした元王室メイドのリンファが立っていた。深い黒に銀の装飾が映える、威厳すら漂うメイド服をまとい、背後には彼女と同じ意匠のスタイリッシュな制服に身を包んだメイドたちが静かに控えていた
「ああ、リンファ以外は全員奴隷みたいだな。今日から雇ったのか? 昨日までいなかったよな?」
「あの奴隷、何人いるかわかる?」
「一、二、三……ああ、全部で十七人いるな……あ!? 嘘だろ!? あれ、もしかしてそうなのか!?」
――先日のこと。
俺はセレナに再度確認した。
「セレナ、マジでやるの?」
「当たり前でしょ。女の敵には、とことん罰を与えるわよ」
この貴族たちと商会長は、完全に女性を敵に回したらしい。とりあえず地下牢の面々は放っておくとうるさいので、防音だけは施してある。
「じゃ、本当にやるよ? 〈性別変更〉! 〈年齢調整〉!」
地下牢の貴族十六人と商会長、計十七人を女性化し、二十歳前後の若さに変える。
「じゃあ、セレナ。準備はいい?」
「こっちはいつでもいいわよ」
「〈強制終了〉!」
「〈血契約〉!」
俺が〈強制終了〉をかけ、セレナが〈血契約〉を重ねた。本来、奴隷契約は本人が望まないと弾かれるが、性的に達したときは契約できてしまうという裏技がある。国境付近で指名手配のベリンダが俺に仕掛けてきたのもこれだ。〈蒼薔薇の刃〉も眠らされている間に商会長にこれをやられたのだろう。
〈血契約〉で一度契約してしまえば、他の奴隷契約にも抵抗できなくなる。今回はこの〈血契約〉で十七人全員をセレナの奴隷にした。
さらにセレナが〈隷属魔法〉を上乗せしていく。
「〈服従契約〉」
これは一つしか命令できないが、絶対に破れない契約だ。セレナは、十七人全員に『絶対に他の人に正体がバレてはいけない』という命令を施した。最後に、
「〈隷属刻印〉」
奴隷紋経由で命令を施行できる契約で、破ると動けなくなるほどの強烈な痛みが走る。
そして、ここからが本番だった。
「リディア、リンファ、本当にやるの?」
白い布で体を隠しただけで、中身は何も着けていない二人に最終確認を取る。
俺はこれからの内容に正直かなり引いていた。もともとはセレナの案だったが、俺が「無理だ」と断ると、実行役に名乗り出たのがこの二人だった。夜に強すぎるツートップである。
「ご主人様。大丈夫です。私が一番、女性の甚振り方を理解しています」
「私はキヨシで経験していますから、大丈夫です」
本当にどうってことないらしい……。俺は二人に魔法をかける。
「〈性別変更〉」
リディアとリンファを男性化させる。以前キヨシのときに作った指輪をもう一組作り、二人に持たせておいた。
「ご主人様。まず全てのスキルを奪いたいのですが……こいつらの全身脱毛をお願いしてもよろしいでしょうか」
まあ、準備は必要だよな。さっき〈強制終了〉したから整っているとは思うが……。
俺は十七人を〈部分収納〉で拘束して服を亜空間へ放り込み、一人ずつ全身脱毛していった。
「はい、こいつ終わり」
「では、さっそく」
すぐ横で〈スキル・称号奪取(性)〉が行われている気配を感じつつ、次々と脱毛を進める。防音しているので声は聞こえず、俺もそちらは見ない。処理が終わった者から、男性化したリディアとリンファが交互に〈スキル・称号奪取(性)〉しているようだった。
全スキルの奪取が終わると、今度は〈料理[8]〉、〈家政[8]〉、〈美容[8]〉、〈技巧(性)[8]〉、〈絶倫[8]〉、〈ステータス情報改竄〉を与えていく。――〈スキル複製(性)〉である。
こうして元貴族と商会長の十七人は、セレナに絶対服従の奴隷となった。
――そして現在。
「……ということを施してある」
説明し終えると、レオンはしばらく愕然としていた。しかし――
「ん? 待てアレス。メイドやらせるだけなら、〈技巧(性)[8]〉と〈絶倫[8]〉はいらないだろ?」
レオンもそこに気づいたか。普通はいらないスキルだ。
「ああ、それはね。しばらくはメイドとして使うらしいけど、セレナは“エヴァルシア”に人が集まってきたら娼館を運営するつもりらしいよ」
「うわ……女怒らせるとマジで怖いな……」
「奴隷期間は最長の五十年らしいし、その都度若返らせるらしいから……五十年ずっと、いや、年齢的には死ぬまで娼館だろうね」
「マジか……どれが元男なのか覚えておかないとな」
途端に隣の奥さんの視線が鋭くなる。
「あなた。娼館を利用するつもりなのかしら?」
「いや、冗談だって! 本当に。ジョークだよ……」
レオンはほんの少しだけ残念そうだった。
セレナは元貴族と商会長の十七人それぞれに女性名を付け、〈ステータス情報改竄〉で名前も書き換えさせている。
俺は何があっても“エヴァルシア”で娼館には行くまいと、固く心に誓った。
◇
その日、突然セレナに呼び出された。
元貴族と商会長の件以来、俺はセレナには逆らってはいけないという認識になっている。
「アレス、私欲しいスキルがあるの。それもすぐに、早急に、可及的速やかに」
なんだかセレナの圧がすごい。
セレナが欲しがるスキルといえば魔法だろうか。まだ渡していないのは〈雷魔法〉と〈変身魔法〉か……と考えていたら、少し興奮気味のセレナが早口で続けた。
「元商人の女性たちが持っていた〈調査〉と〈分析〉。これは土地を治める貴族として必要不可欠よ。それとダンジョン踏破で元商人の女性が入手した〈契約眼〉と〈駆け引き〉、元宿屋の娘が入手した〈観察眼〉――」
「ちょっと待て。〈調査〉と〈分析〉はスキルレベル上げするときに彼女たちがすでに持っていたから、俺が複製済みだ。でも、今回のダンジョン踏破で入手したやつは、もう一度彼女たちとしないと入手できないんだぞ?」
「だから、もう一度してほしいの。助けた女性たち全員と」
「いや、十二人いるんだぞ? 毎晩二人ずつだとしても六日かかる。セレナは四日後には“エヴァルシア”へ旅立つだろ。間に合わないって」
「アレス、昼間は暇なんでしょ?」
え? 昼間からやれってことか?
「アレスはダンジョン踏破を終えた女性から順に、スキルを複製しておいて。私が旅立つ前々日までに、彼女たち全員の踏破は終わるはずだから、前日の夜に私へ複製してくれれば間に合うわ」
「いや、彼女たちの都合も――」
「彼女たちには私からお願いしておくわ。アレスは何も気にせず、ただ複製してくれればいいの」
セレナは笑っていたが、目だけは本気で怖い。断ってはいけないやつだ。
「……わかった。複製しておくよ」
こうして俺は、助けた女性十二人からダンジョン踏破で入手したスキルを順に複製することになった。




