表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/139

092 オルドリン商会と剣鬼

 ――王都、オルドリン商会。


 俺たちは透明化したまま入口へ近づき、そこに立つ屈強な警備員二人を〈部分収納(パーシャルストレージ)〉で拘束しつつ、〈空間規制スペースレギュレイション〉で防音と透明化を施した。他の人の邪魔にならないよう、人の身長より高い位置に拘束しておく。


 そのまま入口のドアを開けて侵入する。ここからの会話はすべて〈念話〉だ。

 〈魔力感知〉を使うと、地下に二十人分のエルフの反応がある。まだこんなにいるのか。ほかに十人ほど、エルフ以外の反応もある。救出対象かどうかは、現場を見ないと判断できない。


『イレーヌ、リディア、地下は任せた』


『了解』

『承知しました』


 今回、地下のエルフ救出はイレーヌとリディアが担当し、俺とエリュシアは商会長バルタザール・オルドリンの捕縛を受け持つ。

 二手に分かれ、俺たちは三階の商会長室を目指した。透明化しているため、誰にも気づかれないが、途中で遭遇した従業員や用心棒は全員眠らせておく。


 順調に進んでいたが、商会長室まであと少しというところで――突如、四人の剣士が俺に襲いかかってきた。


(透明化していても気づいたということは、〈魔力感知〉持ちか。だが襲ってくるまでの間合いが速い。連携も取れているな)


 襲いかかる剣をすべて捌き、相手を確認する。全員、首に奴隷の印である黒いチョーカーをつけている。しかし――


「なぜ、あなたたちが奴隷に」


 そこにいたのは、以前ともにオークキングを倒した〈蒼薔薇の刃〉の四人だった。


 俺は透明化を解除する。


「あ、アレス君!? 逃げて! 私たち、奴隷契約でここに近づく相手を殺すよう命令されてるの! 自分で止められないの! お願い、逃げて!」


 叫びながらも、赤いボブカットの美人剣士カミラが二本のブロードソードで俺に斬りかかってくる。俺はその〈二刀流〉の剣を躱しつつ、第七階梯隷属魔法〈上書契約(リバインド)〉で、カミラに施された“命令部分だけ”を白紙にした。


「え?」


 急に体の自由を取り戻したカミラは動きを止める。

 同時にエリュシアも、白いショートヘアでボーイッシュな美人ヴァレリアと、小柄で金髪ロングのイザベルに〈上書契約(リバインド)〉を施し、命令を解除する。

 最後に俺が、金髪ロングで真面目そうな僧侶――しかしロングソードを振るうリシェルの命令も解除し終えた。


「これで皆さんの命令部分は白紙です。自由に動けるはずです。急いで地下のイレーヌとリディアと合流してください。助けます」


 俺がそう告げると、〈蒼薔薇の刃〉のリーダーであるカミラが代表して答える。


「あ、ありがとうアレス君! このお礼は必ず!」


 四人は地下へ駆けていった。

 それを見送ってから、俺とエリュシアは商会長室と思われる豪華な扉の前に辿り着いた。


「さて、ボスだけど……すんなり捕まってくれるかな」


「アレス、まだ誰かいるみたいだぞ」


 〈気配察知〉では、部屋の中に二人の反応。


「気を抜くなよ、エリュシア。一応警戒だ」


「りょーかい」


 エリュシアはドラゴンの爪だけを顕現させて構える。

 俺たちはアイコンタクトし、同時に扉を押し開けた――その瞬間、空気が裂けた。


 反射的に身を引かなければ、青銀白の軌跡――ミスリル製のロングソードが喉を断ち切っていた。


 刃を振り抜いたのは、一目で“場慣れした戦士”とわかる黒髪の男。

 鋼製の金属鎧を全身にまとい、鋭い黒い瞳がこちらを射抜く。顎には無造作に伸びた黒い髭。近づくだけで肌が粟立つほどの威圧感を放っている。


 年の頃は三十後半。だが“中年”という言葉では到底足りない。

 積み重ねた修羅場が、肉体は岩のように鍛え上げられていた。剣を握る腕には縄のような筋が浮き、振り下ろされた一撃の重さだけで机を真っ二つにできるだろう。


 冒険者然とした風貌だが、普通の冒険者ではない。放たれる殺気は、熟練の傭兵か暗殺者のもの。俺たちが言葉を発するより早く、再びミスリルの刃がわずかに動いた。


 問答無用。

 この男は最初から“殺しにきている”。


「レオン! さっさとそいつらを片付けろ!」


 奥の机に座る小太りの男――商会長バルタザール・オルドリンが怒鳴る。そして“レオン”と呼ばれた男は――



 レオン ヒューマン 三十八歳

 Aランク冒険者 《剣鬼》


 所持スキル:

  生活魔法[4]

  剣術[8]

  身体強化[5]

  気配察知[5]

  罠探知[4]

  月牙乱舞



 〈剣術〉スキルレベル8。天性の剣士か。

 だが称号《剣鬼》とは――〈鑑定〉。


《剣鬼》

 力・敏捷が上昇し、一部状態異常を無効化(毒・睡眠・混乱・魅了・催淫・誘引)。

 相手の武器が剣の場合、相手の〈剣術〉スキルレベルを2下げる。


「うそだろ……スキルレベル下げてくる称号なんてあるのか」


 レオン相手だと、俺の〈剣術[9]〉は〈剣術[7]〉扱いになる。レオンは〈剣術[8]〉。つまり――


「く、くそ! まったく太刀打ちできない!」


 俺は防御するだけで精一杯だった。別の武器も練習しておくべきだったと痛感する。


「アレス! こいつ強いよ!」


 とはいえエリュシアの〈爪〉はスキルレベル9。剣ではないので《剣鬼》の影響は受けない。ただしレオン自身の強化と経験の差があるため、互角に(そよ)ぐのが精一杯らしい。


「何をもたもたしているレオン! さっさと殺れ!」


 商会長が怒鳴る。しかしレオンは涼しい顔で、


「おとなしく待ってろ。こいつらは強い。まあ、素人にはわからんだろうが」


 と言い放つ。再び鋭い剣撃が俺たちに迫り、俺とエリュシアは完全に防戦一方となった。


 そこにイレーヌから〈念話〉が入る。報告を聞いた俺は、突如叫んだ。


「レオン、ちょっと待った!」


「はあ? 戦闘中に待ったとかあるか!」


 呆れた声を返しつつも、レオンは剣を止めた。


「あ、ちょっとこれ見て。もしかして人質取られてない?」


 俺はアストラニアとエルセリオンの屋敷を繋いだ“ビデオ通信”魔道具の小型版を取り出す。片方をイレーヌに渡していた。


 映した地下の映像をレオンに見せる。


「これはこの屋敷の地下の状況。もう制圧済みだ。ここにいれば、保護されているはずだ」


「……妻と娘だ。地下にいたのか……どうりで見つからんわけだ……」


「なら、地下に行って会ってこいよ」


「ああ、そうさせてもらう」


 レオンが出ていこうとすると、商会長が慌てて止める。


「待て! レオン! わしを守らんか!」


「妻と娘が保護されている以上、お前に従う理由はない! なんならこの剣の錆にしてやろうか!」


 レオンに完全に見放された商会長バルタザール・オルドリンは抵抗を諦めたのかおとなしくなった。俺は〈熟睡(ディープスリープ)〉をかけて拘束する。


『こちらアレス。商会長は確保した。そっちは?』


『こちらイレーヌ。エルフは全員屋敷に転移させたわよ。それと〈蒼薔薇の刃〉と、捕まってたヒューマンとレオンっていうおっさんも転移させていいのよね?』


『ああ、頼む。あとで屋敷で合流しよう』


 〈念話〉が切れると、エリュシアが確認してくる。


「アレス、この商会の建物内にあるやつ、全部収納でいいの? 普通の商品もあるみたいだけど」


「ああ、全部収納でいい。元々この商会は潰すつもりで来ている」


 エリュシアに全て収納させ、俺たちは透明化して商会を脱出し、屋敷へ戻った。


 ◇


 屋敷へ戻ると女性だらけだった。今日はダンジョン班が休みなので、いつもよりさらに多い。

 商会長を地下牢に入れ、レオンたちの対応はセレナに任せる。俺は“アリス”になり、二十人のエルフを連れてリーファリアへ転移した。


 文官へエルフを引き渡すと、女王フィオレルが口を開いた。


「アリス、白虎族のシアと青龍族のリオナの件は、それぞれの国へ連絡しておいたぞ」


 フィオレルによれば、各国の王と直接会話できる魔道具があるらしい。

 シアの家族はスヴァルシア王国から、ドランヴァール王国を経由してリーファリアへ迎えに来る予定。しかし今来ると、リーファリアに着く頃には冬に入り、道が雪で覆われて春まで帰れなくなる可能性が高い。そのため、シアの家族は春までリーファリア滞在となるようだ。


 さらにフィオレルに「泊まっていけ」と言われたが、後処理が残っているため断り、俺はアストラニアの屋敷へ戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ