091 土と布の匠と救出作戦の続き
ひとまずエルフ三十三人をリーファリア王国へ転移させる。“アリス”の姿になっている私も同行し、女王フィオレルに引き渡した。
リーファリア王国の文官が三十三人のエルフを別室へ連れていったあと、私はフィオレルに質問した。
「今回のエルフ救出の際に獣人と龍人も救出したんですが、どうすればいいでしょうか?」
「獣人に龍人? 何族なのだ」
「白虎族と青龍族です」
「それはまた、難儀なものを拾ったな。下手したら戦争が起きるぞ」
フィオレルによると、白虎族は獣人の中でも王を輩出することのある上位種族、青龍族は龍人の長にあたる種族だという。
「獣人の国スヴァルシア王国と、龍人が住む国ドランヴァール王国は、今頃血眼になって二人を探しておるだろう。どれ、わらわが両国に確保したことを伝えてやろう。人相書きがほしいのじゃが、ここに連れてこれるか?」
私は少し悩んだ。救出したばかりでまだ落ち着いてもいないし、あまり連れ回したくなかった。
「少しお待ちください」
そう言って私はアストラニア王国へ戻った。
***
五分後、リーファリア王国へ戻った私は、横二十センチ、縦三十センチ――元の世界のA4サイズほどの平らな四角形の魔道具を二つ、フィオレルに渡した。
「これは何じゃ?」
「そこに少しだけ魔力を込めてください」
フィオレルが魔力を込めると、白虎族の女の子と龍人族の女の子の姿が魔道具上に浮かび上がった。
「なんじゃこれは!? ここまで精細な人相書きなど見たことないぞ!」
私は以前作ったビデオ通信の技術を応用し、一瞬の光の情報を記録して再現する魔道具を作ったのだ。元の世界でいうデジタル写真である。今私が持つスキルでは紙にプリントするほうが難しいため、こういう形になった。
「あと、この指輪をつければ、龍人族のように独自の言語で話す相手とも会話できるようになります」
「ほう、それはスキルを魔法陣で施しておるのか」
「はい、そうです」
「であるなら、わらわには直接スキルを授けよ」
要するに、夜の相手をしろということだ。今日は〈黎花の翼〉の番だったので、〈念話〉で帰れないことを連絡すると大ブーイングを食らったが、今晩はフィオレルの相手をすることになった。
◇
翌日。アストラニア王国に帰り、“アレス”に戻る。
ダンジョン班は昨日、無事にダンジョンを踏破した。
その成果として、メディアとターリアは称号と新たなスキルを、ヒカル・リンファ・ミリアは新たなスキルを得た。
【貰った称号・スキル】
メディア
称号:《名匠(土)》 土魔法の効果二倍。土魔法であらゆる建築物を作れる。土魔法で作った建築物の強度が増す。
スキル:〈大地防構〉 耐爆・耐魔・耐震性能を持つ堅牢建築を生み出す。
ターリア
称号:《神匠(服飾)》 この世界で唯一無二の服が作れる。作った服に何らかのプラス効果を付与できる。
スキル:〈神縫〉 神の領域に踏み込んだ縫製技術。奇跡の衣を生み出す。
ヒカル
称号:なし
スキル:〈雷魔法[1]〉
リンファ
称号:なし
スキル:〈飛翔[1]〉 〈体術〉を極めた者のみが扱えるスキル。空を自由に飛べる。
ミリア
称号:なし
スキル:〈騎竜[1]〉
メディアの称号は〈土魔法〉にも影響するため冒険者としても有用だが、ターリアの称号とスキルは完全に服飾の生産職向きだ。今は冒険者をしているものの、いずれ世界一の服飾職人になれるだろう。
ヒカルは《勇者》らしく〈雷魔法〉を、ミリアも《竜騎士》らしく〈騎竜〉を取得。そしてリンファが得たのは――〈飛翔〉だった。
「『〈体術〉を極めた者』って、リンファしかいないじゃないか……」
リンファはキヨシからスキルを奪ったため、〈体術〉はレベル10でカンストしている。
今のところ〈スキル複製(性)〉で“安全に”スキルレベルを10にする方法が無いため、他の者をレベル10にはできない。実質、〈飛翔〉はリンファ専用スキルになる。どうにかして“安全に”スキルレベルを上げる方法を見つけたいところだ。
ダンジョンアタック班は今日は休みにするとのことだった。
エルフ救出の件について、セレナが書類を調査した結果、商業区にある『オルドリン商会』がゼフィランテス帝国の奴隷商人経由でエルフを入手していることが判明した。
おそらくこの商会にもエルフが捕らわれていると思われる。昨日、貴族街エリアのエルフは全員救出したため、今日は商業区を調査する予定で、まず商業区全体を調査し、最後に『オルドリン商会』に入る段取りになっている。
◇
これまでに助けたヒューマンの女性たちは皆セレナの領地に行くことを希望した。
元商人四人、元食堂の母娘、元仕立て屋の母娘、元宿屋の母娘――合わせて十人である。
精神的ダメージは残っているものの、じっとしていても辛い記憶が蘇るだけなので、元食堂の母娘にはエルマの手伝いを、元仕立て屋の母娘にはシルクスパイダーの布を与え、ターリアと服作りをしてもらうことに。
元宿屋の母娘にはリンファとともに馬車内の居室や屋敷の掃除などをお願いした。
残った元商人四人は、セレナと今後どんな商売をするか会議するそうだ。
◇
白虎族のシアと青龍族のリオナは、周りがヒューマンばかりの環境で馴染めずにいた。
そこで、エリュシアが近づき、
「シア、リオナ、ちょっと見ててな」
そう言って〈魔物擬人化〉でギガントボアの擬人化状態に変身した。
俺から見れば猪の耳がついた程度の変化だが、白虎族のシアは目を丸くして驚いた。
「え!? 猪族!? すごい!」
さらにエリュシアが続ける。
「次はこれ」
〈魔物擬人化〉でドラゴンの擬人化状態に変身。竜の角が生え、背に羽も生える大きな変化だが、青龍族のリオナは不満げだった。
「似てはいるけど、尻尾がないじゃない……それに私には羽は無いわよ」
「いや、この服だと尻尾は出せないんだ。裸ならできるんだけど……」
エリュシアが本当は尻尾も出せるのは俺も知っている。ただ、そういう服を持っていないので尻尾だけ出していないのだ。
するとターリアが、
「あ、ちょっと待ってて。リオナみたいな服でいいんだよね?」
そう言って深緑色の布を取り出し、手早くエリュシアの服を作り上げた。
「これ着てからやってみて」
エリュシアは別室で着替え、〈魔物擬人化〉でドラゴンの擬人化――今度は、“尻尾を出して羽を出さない状態”で戻ってきた。
「リオナ、これでどうだ?」
リオナと色違いの服を着た龍人に見えるエリュシアを見たリオナは、何も言わずに抱きついて泣き出してしまった。
「ああ、リオナ……泣かすつもりはなかったんだ……ごめん」
エリュシアは抱きつかれてどうしていいかわからず、あたふたしていた。
遠くまで連れ去られ、これまで誰とも言葉が通じず、ずっと一人で心細かったのだろう。リオナはエリュシアに「ありがとう」と伝えていた。
厳密にいえばエリュシアの竜は西洋の竜、リオナは東洋の龍で本来は大分違うのだが、不思議と擬人化した姿はあまり変わらなかった。
それ以来、エリュシアはシアとリオナに懐かれている。ただし昼間はエルフ救出作戦で不在のため、その間二人はうちの武闘派たちから〈体術〉を教わることになったようだ。
◇
今日はまず『オルドリン商会』を除く商業区全体を調査した。
その結果、一ヶ所に三人のエルフと二人のヒューマンが捕えられており、そのまま救出した。五人とも奴隷にされていたが、救出場所が無人で所有者不明の建物だったため、主人の確保はできなかった。
セレナが五人から情報を集めたところ、主人は『オルドリン商会』の商会長バルタザール・オルドリンであると判明した。
そして『オルドリン商会』だが、そもそも奴隷商の免許を持っていないという。また商会や従業員が奴隷を買った記録も存在しない。
なのでセレナからは「オルドリン商会に奴隷がいたなら、エルフに限らず全員連れてきて」と言われている。
全員で行く必要は無さそうだが、念のため今回も俺・イレーヌ・リディア・エリュシアの四人で向かうことにした。
今回はオルドリン商会でエルフに会わない予定なので、“アレス”のまま行く。
商業区の中心付近にそびえる大きな商会『オルドリン商会』。
石畳の通りを進むと、まず目に入るのは三階建てとは思えないほどの威圧感を放つ堂々とした建物だった。外壁は灰色の切り石で組まれ、日光を受けて落ち着いた光沢を放つ。正面には商会の紋章が刻まれた大きなアーチ状の扉があり、その両脇には屈強な警備員が二人、常に立っている。
建物の窓は大きく、磨き上げられたガラス越しに商人たちが慌ただしく動き回る姿がのぞく。二階には商談室が並んでいるらしく、高級な装飾のカーテンが風にそよいでいた。
「警戒は厳重そうだ。見た感じ、結構稼いでいるようだな」
おそらく“エルフ”で稼いでいるのだろう。その建物は富の象徴のように豪華だったが、俺には欲望で薄汚れているように見えた。




