表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/138

081 その上のレベルと掻き消える巨影

「アレス、ちょっとこれ見てよ!」


 珍しく怒りをあらわにしたヒカルが、一通の封書を俺に突き出してきた。

 すでに封が切られている封蝋のついた封筒は、それだけで高価なものだとわかる代物だ。中の手紙を読ませてもらう。


「ふーん。この国、やっぱ頭おかしいだろ」


 急激に強くなったヒカルの噂を、王城側がかぎつけたらしい。内容をまとめれば――「勇者として再び迎え入れてやるから、一週間後に王城へ来い」ということだ。


「どうするんだ、ヒカル」


「行くわけないでしょ」


 当然だ。ヒカルがこの国から受けた仕打ちは、あまりにも酷い。


「でね、アレス。相談があるんだけど……私たち、この国を出ようと思うの」


 ヒカルを含め、〈黎花(れいか)の翼〉の四人は国を出るつもりでいるようだ。


「なるほどな。それなら、アストラニア王国の王都アルトヴィアに向かうといい。《万紫千紅》の屋敷もあるし、そこのダンジョンを踏破すれば新しいスキルも手に入る」


 俺とエリュシアは四日後にリーファリア王国へ旅立つ。同じタイミングで〈黎花(れいか)の翼〉はアストラニア王国に向かうことになった。


 ◇


 その後三日間、昼間は取り壊し予定の建物の回収を行い、夜は四人を一人ずつ相手し、希望するスキルを一つだけレベル9に上げていった。


 リンファは〈身体強化〉、ミリアは〈剣術〉を希望したので、それぞれレベル9に。


「え? 〈技巧(性)〉?」


 ヒカルが選んだのは、まさかのそれだった。確かにもう十分強く、魔法も第九階梯など使う機会はまずないのでレベル9にする必要がない。戦闘以外のスキルを選ぶのはわかるが……よりによってそれか。


「だめ?」


 上目遣いで言われ、断れるはずもない。


「……わかった。渡す」


 こうしてヒカルは誰よりもテクニシャンになった。ただ、知識量ではリディアが圧勝しているので、総合的には互角かもしれない。


 そして、エルマは――


「〈料理〉? もうトータルでレベル10だぞ?」


「うーん、なんとなく“その上”がある気がするんだよね」


 エルマの〈料理〉はレベル8だが、〈秘伝調理〉の効果で+2されており、〈鑑定〉では『〈料理[10]〉』と表示される。


「ああ、確かにさらに〈鑑定〉すると『〈料理[8+2]〉』って出るな。……上げられるのかもしれない」


 試しに〈料理〉をレベル9にしてみると――


「〈料理[11]〉……まさか本当に“その上”があるとは」


 レベル10がMAXだと思っていたが、エルマの持つ〈秘伝調理〉のような他のスキルのレベルを上げるスキルさえ手に入れば、トータルで10以上も可能らしい。

 もっともその種のスキルは、今のところダンジョンクリア報酬でしか入手できないので、完全に運任せだ。



 ――そして四日後。


 〈黎花(れいか)の翼〉の馬車は、俺が魔改造しておいた。一見ただの箱馬車だが、〈空間拡縮(スペースサイジング)〉で内部を拡張してあり、中は20LDK+風呂トイレ付きという贅沢仕様。荷物もすべて積み込まれ、屋敷の中は空だ。


 屋敷の地下室には転移魔法陣を設置し、屋敷全体には他人が入れないよう魔法陣も付与しておいた。


「この銀の指輪を着けていれば屋敷に入れる。それぞれ専用だから他の人の指輪では開かないからね」


 グラナフェルムでエリュシアに渡したものと同じ指輪を、四人に渡す。

 するとエリュシアが一歩前に出てきた。


「あ、あのさ、渡すタイミングがわかんなくて今になっちゃったけど……これ、グラナフェルムのお土産」


 なんと、エリュシアは〈黎花(れいか)の翼〉の四人にお土産を買っていた。そういえば、俺が地下室を作っているときに一人で出かけてたな。そのとき買ったのだろう。真っ赤な顔で無造作に袋ごとヒカルに渡したエリュシアは、すぐに俺の後ろに隠れた。

 袋の中にはネックレスが四つ。それぞれダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの宝石がついていた。


「ありがとう! エリュシア!」


 俺の後ろに隠れていたエリュシアにヒカルが抱きつくと、リンファ、エルマ、ミリアもお礼を言いにやって来た。


「て、てきとーに選んだやつだから、気に入らないかもしんないけど……」


 エリュシアの顔は相変わらず真っ赤で、百年以上も森でひとりきりだった影響からか、他者とのコミュニケーションに戸惑いを見せるところがあると俺は感じていた。自分でもどうにかしようとしているのだろうと考えると、そうした不器用さがひどくかわいい、と俺は思う。


 それぞれがネックレスを選んで落ち着いたころ、


「今度はいつ会える?」


 ヒカルが見上げてくる。


「リーファリア王国の王都セレニアまでは今日中に飛んでいける。帰りには追いつくさ。三、四日後には会えると思う」


「……うん。待ってるね」


 ヒカルは俺にキスし、ぎゅっと抱きついた。

 続けてリンファ、エルマ、ミリアともキスとハグを交わし、俺たちは屋敷の前で別れ、それぞれ旅立った。


 ◇


「じゃ、エリュシア頼むよ」


「ああ、任せとけ」


 王都西門から外へ出て人目を避け、透明化して飛び立つ。――が、すぐにエリュシアが何かを見つけた。


「アレス、あれ何だ?」


 高速飛行の最中、エリュシアが指差す先に巨大な影があった。


「エリュシア、あそこに向かってくれ」


「りょーかい」


 近づくと、高さ四メートルほどの城壁に囲まれた町。そして、そのすぐ外側に――壁の倍以上の巨体を持つ単眼の怪物、サイクロプスが立っていた。


「バカな! ここは王都からさほど離れていないはずだぞ!」


 灰色の肌は岩壁のように荒れ、盛り上がった筋繊維が縦横に走っている。こんな魔物がなぜこんな場所に?


「〈空間転移(テレポート)〉!」


 サイクロプスの後頭部へ転移し、首へ向けロングソードを横薙ぎに――


「……え?」


 刃が届く直前、サイクロプスの姿は掻き消えた。


「サイクロプスが〈空間転移(テレポート)〉……?」


 周囲を探るが、すでに気配はない。


「どういうことだ……?」


 代わりに、城壁の陰に小さな気配がひっそりと隠れているのを察知した。


「アレス、何があったんだ?」


 降りてきたエリュシアと合流し、


「わからん。だがサイクロプスはいなくなった。それと……あの陰に誰かいる」


 二人で近づくと、五、六歳ほどの少女が震えて隠れていた。


「無事か? どうしてこんなところに?」


「お、おそとに出ようとしたら、でっかいまものに会っちゃって……こ、こわかった……」


 少女の名はターリア。木の実を集めるため、ときどきこっそり外に出ていたらしい。



 ターリア ヒューマン 六歳

 孤児


 所持スキル:

  生活魔法[3]



「ターリア、とりあえず町に戻ろう。俺たちも一緒に行く」


「ありがとう、おにいさん」


 ターリアは町にある孤児院の子らしい。「このあとぜったいおこられる!」と泣きそうに言うので、孤児院まで同行することになった。まあ、俺たちが同行したところで、怒られるのは変わらないと思うが。



 町の中は先ほどのサイクロプスのせいで閑散としていた。

 慌てて反対側の門から非難した人たちもいるようだが、多くは建物内に隠れているらしい。

 外にいるのは武器を持った町の衛兵たちだけで、サイクロプスが突然消えたため、警戒を解いていいのか判断がつかない様子だった。


 人の少なくなった町の中を進んで辿り着いた孤児院は、町の教会の敷地内にあった。


「ターリア! どこに行ってたの!」


 年配の女性僧侶が飛び出し、厳しい顔で怒鳴る。


「また外に行ったんじゃないでしょうね!」


「ごめんなさい、せんせい! もうしないから!」


 俺とエリュシアは完全に置き去りで説教が始まる。もう帰っていいだろうか。


「じゃ、俺たちはこれで」


 終わる気配がないのでそのまま去ろうとすると、


「ああ! お待ちください! ターリアを助けてくださって、本当にありがとうございます!」


「いえ、俺たちは何もしていません。連れてきただけですので、お気になさらず。それでは」


 それだけ言い、軽く会釈して立ち去った。


 孤児院を立ち去る頃には町も落ち着きを取り戻していた。

 町の人の話では、サイクロプスは突然現れたらしい。あれほどの巨体なら遠目でもわかるはずだが、その気配もなく、気づいたら外壁のそばにいたという。


 町の人に話を聞いた俺たちは、そのまま町の外に出た。このままこの町にいても何もできないからだ。

 するとエリュシアがおそるおそる俺に聞いてきた。


「なあアレス。アタシの気のせいじゃなければ……あのターリアって子、一瞬だけすさまじい魔力を持ってた気がするんだけど」


 やはりエリュシアも気づいていたか。サイクロプスが消えた瞬間ターリアが現れ、その瞬間の魔力は俺以上だった。


「だろうな。おそらく――あの子は魔女だ。《驚きの魔女》だろう」


 ここは王都から馬車で二時間ほどの牧場の町『フォルデン』。

 王都で起きた“裸の王女”や“大きな目玉の魔物”の件も、全部ターリアの仕業だろう。

 ここから王都までなら〈身体強化〉がレベル8あれば、走って一時間ほどだ。


 〈鑑定〉では〈生活魔法[3]〉しか持っていないと表示されたが、おそらく〈ステータス情報改竄〉でステータスを書き換えているだろう。

 そして魔女ならば“魔女化の症状を抑える皮膚”、いわゆるミイラのような見た目のはずだ。今のターリアの姿はありえない――“変身できるスキル”を持っているのではないかと推測している。


「アレス、どうしてそのまま帰したんだ?」


「今のところ、誰も被害を受けていない。ただ驚かせただけだ。……捕まえる必要があるのか、俺には判断できない」


 人を驚かせているだけの魔女を拘束すべきかどうか――大迷惑ではあるが、喫緊の課題というわけでもない。

 ひとまずターリアには干渉せず、本来の目的であるリーファリア王国へ向かうことを優先した。

 ただし念のため、《万紫千紅》へ〈念話〉で魔女の存在を伝えておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ