078 レベル9と共鳴の魔法
「今回なんだが……どれか一つのスキルだけ『レベル9』にしようと思う。どれを上げたいか各々決めておいてくれ」
これまでレベル8で抑えていたのは、俺からスキルを渡す際に一回の複製で済むからだ。
レベル9を直接渡すと脳に深刻なダメージが残ることは、エルセリオン王国の件で判明している。
そのため、レベル8を八回渡すことでレベル9にする。
すでにレベル8を持っているスキルなら、あと七回複製すればいい。ただし体への負担は大きいため、一日に一つのスキルまでとしておくつもりだ。
その後、八日かけて新しく得たスキルのレベルアップを行った。
昼間は俺・メディア・ルビナ以外がダンジョンへ。ルビナは『ブラスアーム鍛冶工房』へ通っている。
俺とメディアの二人が留守番になるが、問題はない。
メディアの指には、〈賢者時間〉が施された指輪があり、セレナの許可なく外すと〈触手生成〉が発動する仕様が追加されている。
しかもセレナは最初にあえてメディアに外させて体験させるという鬼のようなことをしたため、メディアはもう絶対に勝手に外さない。
昼間の俺は商業ギルドに行き、取り壊し予定の建物を無償で処理して更地にする代わりに、廃材をすべて貰う契約を結んだ。
その後は王都中の取り壊し予定建物を〈亜空間〉に放り込んで回った。
メディアは透明化したまま王都の外へ行き、森の奥で土魔法の練習をしていた。城壁を作ったり、石畳を敷いたり、設計図どおりに建物を建てたりと、本格的だ。
建築に木材も使いたいとのことなので、後で〈植物魔法〉を与える予定だ。
また、全員に空間魔法を与え、俺の〈亜空間〉を共有して使えるようにした。
さっそく〈黎花の翼〉から魔物素材やエルマの料理が届き、こちらからも向こうにない食材を多く送っておいた。
【レベルアップまたは新規に与えたスキル】
◆イレーヌ
〈美容[9]〉、〈モノマネ[8]〉、〈鞭術[8]〉、〈交渉[8]〉、〈騎馬[8]〉
◆リディア
〈盾術[9]〉、〈槍斧術[8]〉、〈騎馬[8]〉、〈合成(空間)〉、〈分解(空間)〉、〈修復(空間)〉、〈バッチ処理〉、〈スキル・称号付替〉
◆ジーナ
〈槍斧術[9]〉、〈舞踏[8]〉、〈空間魔法[8]〉、〈騎馬[8]〉、〈壁面歩行〉
◆セレナ
〈交渉[9]〉、〈騎馬[8]〉、〈光魔法[8]〉、〈隷属魔法[8]〉、〈植物魔法[8]〉、〈呪魔法[8]〉
◆ティア
〈教育[9]〉、〈騎馬[8]〉、〈空間魔法[8]〉、〈魔法付与[8]〉、〈魔法陣付与[8]〉、〈魔法陣生成[8]〉
◆ルビナ
〈鍛冶[9]〉、〈魔物素材加工[8]〉、〈彫金細工[8]〉、〈交渉[8]〉、〈騎馬[8]〉、〈波動魔法[8]〉、〈体術[8]〉、〈バッチ処理〉
◆メディア
〈建築[9]〉、〈騎馬[8]〉、〈空間魔法[8]〉、〈植物魔法[8]〉、〈鑑定[8]〉、〈家政[8]〉、〈合成(空間)〉、〈分解(空間)〉、〈修復(空間)〉
メディアには鉄のインゴットと元素素材を渡し、鉄筋コンクリートの研究も任せることにした。
◇
翌日。
《万紫千紅》への指名依頼、〈誘引無効の指輪〉集めは残り十個。半月もあれば揃う見込みだ。
その後はセレナの所領への移動準備を進める予定である。
俺とエリュシアは朝から旅立ち、リーファリア王国へ向かう前に、グラナフェルムの『石喰いの巣』――通称《鉱石のダンジョン》に寄っていくことにした。ミスリル入手のためだ。飛べば十分ほどで着く。
「ああ、ちょっと待ったエリュシア。その下の森に降りてくれ」
エリュシアに途中の森へ降りてもらう。
「どうしたのさ、アレス。そのまま飛べばもう着いてたぞ」
「ああ、エリュシアにスキルを渡しておく必要があってね」
「ここで!?」
「はい、そこの木に手をついて」
「いや、まだ朝だって……いや、ちょっと待って……!」
俺はエリュシアに〈槌術〉を渡すついでに、彼女が希望していた〈爪〉のレベル8を七回渡して、レベル9にしておいた。これでさらにグリフォンの爪の攻撃力が増しただろう。
……ただ、これは夜にすべきだった。しばらくエリュシアは動けなくなった。
◇
動けるようになったエリュシアに再び飛んでもらい、グラナフェルムに到着後、そのままダンジョンへ向かった。
本来ならギルドで異動届を出すべきだが、今回は成果をギルドに報告しないので、このまま進む。
――『石喰いの巣』。
エリュシアはこのダンジョン初挑戦のため、地下一階から順に攻略していく。
彼女には魔鋼のハンマーを渡し、ゴーレムをひたすら殴ってもらい、採取素材は俺がすべて〈バッチ処理〉で回収する。
順調に進み、その日のうちにミスリルゴーレムが出る一歩手前、地下三十五階まで到達した。
朝の寄り道が響いたため、今日はここまで。セーフルームで野営だ。
「エリュシア、さすがにゴーレムは食わないよな? スキルも持ってないし」
「さすがにアタシもゴーレムは勘弁だね」
まあ、インゴットを食ってるのと大差ないしな。
夜はエリュシアの魔物スキルのレベル上げ。
今回ですべてレベル8まで上げ切った。
今夜のエリュシアはグレートゴート擬人化スタイルだった。
――翌日、地下三十六階。
俺とエリュシアはハンマーをアイテムボックスにしまう。
「ここからは素手でいく。第八階梯波動魔法〈共鳴崩壊〉で試すぞ」
リンファがドラゴンの内臓を粉砕した魔法。ゴーレムにも効くはずだ。
角を曲がると、淡く青い光を帯びた金属の肌――ミスリルゴーレムが立っていた。
前回は何度殴ってもひび一つ入らなかった相手だ。
「最初は俺にやらせてくれ」
ミスリルゴーレムの攻撃を掻い潜るのは造作もない。
重い拳をかわしながら懐へ潜り込み、両手をその身体に触れる。
「〈共鳴崩壊〉!」
簡易詠唱を終えると、空気が一瞬震えた。
ミスリルゴーレムは動きを止め、全身にひびを走らせながら静かに崩れ落ちる。
「よし! これでミスリルが回収できるぞ!」
俺は抑えていた魔力を解放し、全力でミスリルゴーレムを召集する。
エリュシアと二人でひたすらゴーレムを壊しまくった。
もちろん、壊したゴーレムはすべて〈バッチ処理〉で回収済みだ。
本来、第八階梯魔法は膨大な魔力を要し、連発など不可能だ。
だが、俺と魔女化するくらいのエリュシアの魔力量、そして〈魔力常時回復〉があれば話は別だ。
使ったそばから魔力が回復するため、減ることがない。
その日は地下三十六階から三十九階を往復しながら、ミスリルゴーレムをひたすら撃破した。
その夜もセーフルームで泊まり、入手した八千個のミスリルインゴットを共有空間へ収納。
ルビナへ〈念話〉を送る。
『ルビナ、今話せるか?』
『おお、アレス、どうした?』
『ミスリル手に入ったから共有空間に入れておいた。ドルガンさんに必要なだけ渡しておいてくれ』
『おお! ほんとに手に入ったんだ! ドルガンさん、きっと喜ぶよ!』
まずは《万紫千紅》メンバーの武具をミスリル製に更新してもらう。
リディアだけいまだにルビナ鋼一式だったし、俺もロングソードとバトルハンマーを注文した。
作り置きの食事を済ませ、夜。
「エリュシア、どうする? 昨晩ですべてのスキルがレベル8以上になったし、もともと魔力量も十分だから魔力保有量アップをする必要もない。希望するなら、新しいスキルを得るまで別々に寝ても構わないぞ」
「……他のスキルをレベル9にしてもらってもいいか? 〈飛翔(羽)〉とか」
たしかに、エリュシアのスキル数を考えれば、一つずつ上げていくのも悪くない。
「わかった。ただし全部〈脳状態復元〉するから、エリュシアは何も覚えていないことになるぞ?」
エリュシアは顔を赤らめ、俺を睨みつける。
「……なあアレス。わざと言わせようとしてるだろ?」
「さあ、なんのことだか」
「くっ……最初だけ……二倍で普通に……して」
エリュシアの顔は真っ赤で、少し涙目だった。
……ちょっといじめすぎたかもしれない。お詫びに今夜は、頑張ろう。




