007 高炭素鋼とバッチ処理
「どんな使い方したら、一日でこんなことになるんじゃー!」
朝からドワーフのドルガンさんに怒鳴られた。正確には五時間くらいでそんなになりました。
力任せに振っていたせいで、刃がまともにゴブリンに当たっていなかったのだろう。頭は砕け散っていたし。
「これなら戦槌を渡せばよかったわい」
そう言われたが、俺はどうしても剣を使いたい。
「仕方ない。鋼のを使え。それと剣術を習え。紹介状は書いてやる」
俺がメイスではなく剣を、と食い下がった結果、ドルガンさんは「剣術を学ぶこと」を条件に、鋼の剣を売ってくれることになった。
アストラニア霞鳴流剣術。風のように舞い、幻のように斬る――スピード重視で、剣への負担も少ないらしい。なるほど、いいかもしれない。
そうだ、もう一つ頼みがあった。
「ドルガンさん。インゴットがあるんですが、剣を打っていただけませんか?」
「インゴットだあ? どれ、見せてみろ、坊主」
高炭素鋼のインゴットを渡すと、ドルガンさんは上から下まで眺め、軽く叩いて音を確かめ、挙げ句の果てに〈鑑定〉スキルで調べ始めた。
「坊主、これを叩いてみてもいいか?」
熱してもいないのにわかるのか疑問だったが、「どうぞ」と答える。
ドルガンさんは大振りのハンマーで思い切り叩きつけ――そして目を見開いた。
「これは……鋼か? いや、こんな硬い鋼は初めてだ。坊主、どこで手に入れた?」
「私のスキルで作りました」
「スキルで作ったじゃと!? そんなスキルが……いや、それはどうでもいい。なるほど、不純物をまったく感じん。これは久々に腕が鳴るわい!」
腰に手を当て豪快に笑い「任せとけ!」と言うドルガンさん。頼もしい。そこで、ショートソードとナイフをこのインゴットで打ってもらうことにした。高炭素鋼インゴット四個と四万G――これでも格安だという。よほど気に入ったのだろう。
完成まで五日かかるというので、その間使う鋼のショートソードを九万Gで購入した。……数打ちのほうが倍以上するとは。武器って本当に高いね。
ドルガンさんと別れ、紹介された剣術道場へ向かう。道場は居住区にあるようだ。
賑やかな商業区から、閑静な居住区へ。大通りを渡り居住区エリアに入ると、馬車をほとんど見なくなり、呼び込みの声もしなくなる。ただ石畳の道の上で遊ぶ子供たちの声が遠くで響いていた。エリアが変わると雰囲気もガラッと変わるものだ。
拠点にしている宿からは少し距離はあるが、約束は約束だ。きっちり学ばせてもらおう。
辿り着いたアストラニア霞鳴流剣術の道場は、日本屋敷のような佇まい。素振りのときの掛け声だろうか、十人くらいの揃った声が敷地の中から等間隔で聞こえていた。
門をくぐると、どこか剣道場に似ている板張りの床の稽古場が見える。戸は開け放たれていて、今、その稽古場には誰もいないようだ。
少し辺りを見渡すと、近くで掃除をしていた人がいたので声をかけた。
「ごめんください。入門希望なのですが、どちらへ伺えば?」
「ああ、入門希望の方ですね。紹介状はお持ちですか?」
「はい、こちらに」
紹介状を渡すと、あっさり入門が認められた。どうやらドルガンさんは顔が利くらしい。
案内されたのは板張りではなく、土の踏み固められた広場。ここで稽古をするようだ。
「ではまず、上下素振りから」
木剣を渡され、素振り開始。大きく振りかぶり、大きく振り下ろす――だが意外と難しい。止めるのに力を使い、真っ直ぐ振ったつもりが右へ逸れる。力の入れすぎらしい。
〈身体強化[10]〉があるから余裕だと思っていたが、何も考えないと力が入り過ぎるという欠点があった。そうか力みすぎだったんだ。
ただ今回は、ゴブリンの頭を吹き飛ばしていたときと違って〈短剣術[4]〉がある。その道を十二年修行した人が得るスキルレベルだ。そのおかげか、コツをつかむとみるみる上達していく。天才にでもなった気分だ。
指導員も面白くなってきたらしく、素振りの後は打ち込み稽古、さらには「試合稽古してみます?」とまで言ってきた。さすがに初日で試合は遠慮した。型を習ってこの日は終了。
明日からは午前を道場、午後をダンジョンに充てることにした。
夕方、宿に戻ると夕食はヤツメウナギの蒲焼定食。なんとなく精がつく料理のような気がする……。
部屋に戻り、自分に〈洗浄〉をかける。風呂は入っていないが、服ごと綺麗になるからつい魔法で済ませてしまう。……たまには風呂に入りたいな。服は気持ちの問題だろうが、着替えておこう。
そして読書タイム。「スキル習得入門」を開いてみる。
◇
なるほど、そのスキルに関連する行動をとると、スキルレベル1が「生える」ことがあるのか。
剣を使っていれば〈剣術〉、鍛冶をしていれば〈鍛冶〉。変わった例では、生活魔法〈着火〉を使っていると〈火魔法〉が、〈浄水〉を使っていると〈水魔法〉が生えることもあるという。
〈生活魔法〉は生活の中で自然に覚える人が多く、田舎ならほとんど全員が使えるという。だからこの世界には〈火魔法〉や〈水魔法〉持ちが結構いる。
ただし冒険者は火魔法をほぼ使わない。ダンジョン内は酸素の問題で厳禁。森では延焼の危険があり、素材は燃えると価値を失い、燃やすと臭いのひどい魔物もいる。だから火魔法しか使えない冒険者は皆無なのだ。むしろ戦争向けの魔法で、火を得意とする者は王国の魔術師団に所属しているらしい。
「俺も火魔法は使わないようにしないとな」
独り言をつぶやいたところで、部屋の扉が優しくノックされた。
「今日も……お願いしていいかしら?」
昨日より艶やかな雰囲気をまとったヘレナさん。断る理由など、あるはずもない。もちろん〈料理〉スキルのためですが、なにか?
――そして五日後。
午前は剣術、午後はダンジョン、夜は〈料理〉スキルゲットを繰り返した結果、火・水・風・土はレベル4に。〈短剣術〉と〈弓術〉は5、〈技巧(性)〉は天才レベルの6だ。ちなみに〈料理〉も4になった。
今日、ついにドルガンさんから高炭素鋼のショートソードとナイフを受け取り、試し斬りにダンジョンへ。……ただ、俺ナイフ使わないんだよな。ドルガンさんから「地上の魔物の剥ぎ取りに使うんじゃ」と言われたが、よく考えてみれば、俺には〈分解(空間)〉があった。まあ予備武器ということにしておこう。
剣を打った際に余った高炭素鋼は、ドルガンさんが「自分でもインゴットを作ってみたい」と言っていたので、そのまま譲ることにした。
あと、俺としても鉄をもう少し入手しておきたいので、どこかないか聞いたところ、王都から馬車で1日の場所にあるダンジョン『石喰いの巣』でアイアンゴーレムを倒すとたまにドロップするとのこと。バトルハンマーくらいしか有効な武器がないので不人気ダンジョンらしい。いずれバトルハンマー作っとかないといけないかな。
さて、着いたら早速ダンジョンアタック。
スライムエリアに用はないので、地下六階までダッシュで。最近は地下六階まで一時間かからない。スライムさえ襲ってこなければもうちょっと時間短縮できるんだけどね。エンカウント率は相変わらず。
そして第一ゴブリン発見! もうあの頃の俺とは違うのだよ。
駆け抜けざまに横一閃。首を落としたゴブリンが後ろに転がった。
「おお、綺麗に斬れたな」
もはや魔物を殺すことに何の躊躇もなくなった俺は、切断面を見て感動していた。
「おっと、収納っと」
ゴブリンの死体を収納し、もう何匹か試し斬りする。問題ない、かなり斬れるなこの剣。作りも明らかに数打ちの剣と違う。ドルガンさんが本気で作った業物といえるだろう。
今日はさらに試したいことがある。
この前気づいたのだが、〈空間魔法〉で作った魔力空間内なら、俺から離れていても収納できる。つまり階層全体を魔力空間で覆えば、エルン草を一気に回収できるわけだ。ただし採取中の冒険者の分は横取りしたくない。
そこで登場するのが、以前使い道がなく放置していた〈バッチ処理〉。条件式やループと複数の魔法やスキルを組み合わせ、一つの処理として登録できる。
薬草採取用のバッチは――
「魔力空間を階層いっぱいに広げる。以下の処理を〇・一秒間隔でループする。『〈空間把握〉で見つけた“エルン草”との直線の位置の間に迷宮の壁が無い状態で、アレスを除く冒険者が存在するか〈空間把握〉でチェック、もし一人もいない場合は、採取して亜空間に収納する』」
これを実行すると……黙っていてもエルン草がどんどん収納されていく! 楽ちん!
さらにさきほどの〈バッチ処理〉のループの中に『〈空間把握〉で見つけた“ゴブリン”との直線の位置の間に迷宮の壁が無い状態で、アレスを除く冒険者が存在するか〈空間把握〉でチェック、もし一人もいない場合は、第四階梯風魔法〈風刃〉で首を刎ね、その死体を亜空間に収納、さらに〈分解(空間)〉で魔石とスキルを分離し、残りの死体は元素へ還元する』を追加すると……黙っていてもゴブリンの死体が亜空間収納で分離されて、魔石とスキルと元素の素材が貯まっていく! ――ここまでやると俺の出番がない。暇だ。
とりあえず〈バッチ処理〉を動かしたまま進む。新しいフロアに到着した瞬間、そのフロアのゴブリンは全滅し、エルン草は根こそぎ採取される。歩いていようが走っていようが関係ないので、ダッシュで地下九階へ。
「これは想像以上にやることがないな」
目の前にエルン草がポップしても、〈バッチ処理〉が〇・一秒以内に採取するし、ゴブリンの姿なんて一度も見ない。
仕方がないので、人の来なさそうな場所を選び、剣術の素振りや型の練習をしたり、本を読んだり、スキルの研究をしたり。果ては王城から持ってきたテーブルと椅子を並べ、紅茶を飲みながらまったりと過ごした。
その日の収穫は普段の三倍にもなったため、ギルドには三分の一だけ提出し、あとはストックすることにした。




