074 巨獣と魅惑の夜
――エルセリオン地下迷宮・地下四十一階。
「これまでと違って、通路がかなり広いな」
これまで四、五メートルほどだった通路が、このフロアでは十メートル以上もある。その分、フロア全体も格段に大きくなっているようだ。
石造りの薄暗い通路を慎重に進むと、前方の影がもぞもぞと動いた。
その姿は一般的な山羊の比ではなく、体高は三メートルほど。背中の隆起した筋肉が光を受けて鈍く輝き、角は太く鋭くねじれ、岩をも突き破れそうな威圧感を放っていた。四本の蹄は重厚で、踏み込むたびに石床に鈍い響きを残す。
「あれが、グレートゴートか」
その名の通り、ただの魔物のはずだが、瞳には知性の片鱗が宿っていた。敵意を示すというよりも、慎重にこちらを観察する目は、地下迷宮を生き抜いた猛者のようだ。
耳をぴくりと動かし、角を振りかざして威嚇する。体躯の割に動きは素早く、筋肉の連動も見事で、次の瞬間には跳躍して攻撃してくる光景が容易に想像できた。
薄暗い地下四十一階の空気に、ゴートの低いうなり声が響く。鉄の匂いと冷たい石の湿気が混ざる空間に、グレートゴートは溶け込み、獲物を待ち構えていた。
「デカいな。角先まで合わせたら五メートルくらいになるんじゃないか」
ここまで大きいと、タンクもリディアのような重騎士の装備でないと攻撃を受け止めるのは難しいだろう。ミリアには無理に盾で受けず、避けるか受け流すように伝えた。
ただ、このパーティには剣の化け物がいる――ヒカルはグレートゴートの突進を軽くかわしつつ、一振りで首を切断していた。……これ、もしかしてヒカルひとりで何とかしてしまいそうだな。
――地下四十二階。
通路の先で、低く唸る地鳴りのような音が響いた。
――ここからはグレートゴートに加え、新たな魔物が出現する。
巨大な猪――ギガントボアは、普通の猪の概念を軽々と超えていた。
グレートゴートと変わらぬ体躯は灰褐色の毛と筋肉の塊で覆われ、四本の太く短い脚が地面を蹴るたびに振動が伝わる。
鼻先は湿って光り、立ち上る匂いは地下迷宮特有の湿気と混ざって、野生の獰猛さを感じさせた。獲物を探すように地面を嗅ぎ、時折小さく鼻を鳴らすその音は、威嚇にも好奇心にも似ている。
そして何より恐ろしいのは、頭部に生えた二本の巨角だ。長さは一メートル以上、先端は鋭く尖り、角度によっては一撃で岩壁を削れそうな迫力を持つ。体を低く構え、角を振り上げる姿は、攻撃態勢というよりも、本能的な支配力の誇示のようだった。
「ギガントボア……こいつもデカいな」
大きさはグレートゴートとさほど変わらないが、肉が詰まり体重は倍以上ありそうだ。これが一気に突進してきた。
俺たちは一斉に避ける――
「ふっ」
気づけばヒカルの剣が一閃していた。これも瞬殺だ。ヒカルは突出して強くなってしまったようだ。
ただ、同時に数匹出てきた場合でも、リンファもミリアも負けじと倒していた。ヒカルが突出しているが、他のメンバーも苦戦していない様子だ。
俺もエリュシアも、近づいてきた魔物を普通に倒していた。
――地下四十三階。
ここから急に天井が高くなった。二十メートルはありそうだ。
しばらく通路を進むと、空気の振動が耳に届いた。
――翼の音か。
暗がりから現れたのは、鋭い爪とくちばしを持つ獰猛な鷲の魔物――バーサークラプター。全長二メートル超、背中の羽は光を受けて黒光りし、鋭利な羽先が小さな石片さえも切り裂けそうな威圧感を放っている。
鋭く光る目がこちらを捉え、獲物を見定めるように首をゆっくり傾ける。胸元の筋肉は跳躍と高速飛行に耐えるため隆起しており、翼を広げれば五メートルをゆうに超えていた。
空の魔物と言えばエリュシアだが、ここはエルマがやると言う。
「〈水弾〉!」
杖の宝石の影響で、凄まじい速度で発射される水弾。
空中のバーサークラプターは避けようとするが、
「え?」
エルマの放った〈水弾〉は追尾して着弾、一撃で倒してしまった。
「すげー! 自動追尾!? どうやるのアレ!?」
俺は大興奮だった。簡易詠唱であんなことができるとは。後で教えてもらおう。
――地下四十四階。
最後に追加される魔物は、細長くうねる巨大な蛇――グレートサーペントだ。
全長十メートル以上、床を這うたび石の床を揺らすほどの圧迫感を放つ。体表は光沢のある鱗で覆われ、薄暗い階層の光を反射し、不気味に煌めいた。鱗一枚一枚が硬質の鎧のように頑丈で、物理攻撃を受け止める防御力の高さを感じさせる。
頭部は三角形に尖り、牙は長く湾曲して獲物を逃さない。舌を伸ばし、空気中の匂いを探る動作からも狩猟本能の鋭さが伝わってくる。
毒や石化攻撃は持たないが、巻きつかれ、締め上げられるだけで全身が複雑骨折必至。
だが、俺たちからすれば、この程度は首を切ればいいだけの魔物だ。今のメンバーなら何の苦労もなかった。
その日は地下四十七階まで進み、そのフロアのセーフルームで野営することにした。
ここまでの宝箱で拾えたものは
四十一階 聖鋼のロングソード
四十二階 聖鋼のブレストアーマー
四十三階 催淫無効の指輪
四十四階 魔鋼のショートソード
四十五階 猛撃の腕輪
四十六階 叡智の腕輪
四十七階 毒無効の指輪
聖鋼と魔鋼は、ルビナ鋼より堅いようだ。相談のうえ、装備分配は
聖鋼のロングソード → ミリア
聖鋼のブレストアーマー → ミリア
催淫無効の指輪 → エルマ
魔鋼のショートソード → リンファ
猛撃の腕輪 → リンファ
叡智の腕輪 → エルマ
毒無効の指輪 → 売却予定
となった。
セーフルームで食べる作り置きの料理は、すべてエルマの手作りだ。
俺はテーブルセットを出して食事場所を準備する。やはりエルマの料理は美味しい。
「この階層は俺やエリュシアがいなくても、四人で全然いけそうだな」
「うん! みんなかなり強くなったよね!」
そういうヒカルが突出して強くなっているんだけどね。
食後、俺は隣でエリュシア用の魔物の肉を焼いていた。
バルログの皮とグレートゴート、ギガントボア、バーサークラプター、グレートサーペントの肉と――
「え? サキュバスも食べるの?」
これまで食べなかったのに、エリュシアが急に食べると言い出した。
「リディアさんに『サキュバスは絶対食べろ』って言われた」
と言うので、仕方なくサキュバスの尻尾先のハート型部分を焼いてみた。これ食えるのか? エリュシアは平然と飲み込んでいた。
ちなみに、いつの間にかエリュシアはリディアだけを“さん”付きで呼ぶようになっていた。何があったのかは、知らない。
今日の夜はエリュシア担当。ようやくいくつかスキルのレベル上げができる。
テント内で、エリュシアに食べた肉の成果を見せてもらった。
◆バルログ――黒い悪魔の羽が生えた。
◆グレートゴート――頭に山羊の角が生えた。
◆ギガントボア――変化はなかったが、筋肉の質が変わった。
◆バーサークラプター――黒光りし鋭利な羽先を持つ鷲の羽が生えた。
◆グレートサーペント――変化なし。
バルログの悪魔の羽は格好良く、一番似合うようだ。
ギガントボアは見た目の変化はないが、筋肉の質が変わり、力が増して防御力も大幅アップ。普通の刃物なら弾き返せそうだ。
そして――
◆サキュバス――肌は白く髪は黒くなり、筋肉質だった身体は女性的で魅惑的に。細い尻尾が生え、先はハート型、背中にも小さな黒い羽が生えた。
「え? エリュシア、これって弱くなってない?」
「これは戦うためのものじゃない。対アレス用」
実際食べて変身してみるまで、どうなるのかエリュシアもわからなかったみたいだが、結果的にはこれでいいらしい。
――コスプレかよ! リディア、何指示してんだ……グッジョブだが。
そして、
「リディアさんからやり方を指示してもらったから、今日は任せて」
そう言うとエリュシアは俺の目の前に立ち、
「アレス様……今夜は私を可愛がって、ね」
急にかわいい声を出し、セクシーなポーズを取り始める。顔は真っ赤だ。騎士団長の部屋の前で大声出すより断然恥ずかしいのに、リディアの指示だとやるのか。何があったんだ。
しかし……やられた。これは止められない。
そして、サキュバスの特性を顕現したエリュシアは――夜の生活に関して、大幅に強化されていた。
その夜は捗り、いつもより多くエリュシアのスキルレベルを上げた。
エリュシア ヒューマン(※人造魔人を改竄中) 二十四歳(※百二十歳を改竄中)
一般奴隷(※従魔を改竄中)
所持スキル:
生活魔法[8]
空間魔法[8]
波動魔法[8]
鞭術[8] ※NEW
体術[8]
魔糸操術[8]
威圧[8]
身体強化[8]
気配察知[8]
気配遮断[8]
料理[8]
美容[8]
技巧(性)[8]
絶倫[8]
全スキル経験値アップS
アイテムボックスS
ステータス情報改竄
無詠唱
強靭
念話
魔力常時回復
捕食変生
壁面歩行
所持魔物スキル:
爪[8]
牙[8] ↑UP
毒(牙)[8] ↑UP
突進(角)[8]
岩弾(口)[8]↑UP
岩皮防御[8]↑UP
枝の鞭[4]
根の拘束[4]
飛翔(羽)[8]
羽根弾[8]
風刃(羽)[8]
飛翔(虫羽)[8]
魅了の鱗粉(虫羽)[8]
超再生(魔)[8]
猛毒霧(魔)[8]
麻痺毒霧(魔)[8]
地鳴り(魔)[6] ※NEW
咆哮(魔)[6] ※NEW




