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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

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065 黎花の翼と万紫千紅

 〈黎花(れいか)の翼〉は明日から三日間の休みに入るという。その間、俺とエリュシアも屋敷に泊まっていってほしいと勧められ、ありがたくそうさせてもらうことにした。


 彼女たちが暮らしているのは、王都の一角にある元貴族の屋敷だ。

 石造りの外壁には蔦が絡み、門の上には今も消えかけた紋章が残っている。かつては名門貴族の邸宅だったらしいが、いまは持ち主も変わり、〈黎花の翼〉が借りている。

 屋敷の中はとにかく広い。部屋は三十を超え、大広間は天井が高く、声を出すと少し響くほど。廊下もやたらと長く、魔法を使わずに掃除をすると半日がかりになるという。

 古い建物のはずなのに造りはしっかりしており、どこか上品な気配がある。

 ときおり風が抜けるとカーテンがゆらめき、まるで遠い昔の笑い声が聞こえてきそうな――そんな、不思議な静けさを湛えた屋敷だった。


 リビングに通され、ソファに腰を下ろしたところで、俺は言った。


「この屋敷を手放すのはもったいないですね。……もしよければ、俺が買い取ってもいいですか?」


 リンファが少し考えたあとで言う。


「おそらく、アレス様は関係者とはみなされませんので、この屋敷が正式に売りに出されてからでなければ購入できません」


 なるほど。だが、それなら――。


「そういうことであれば、俺のクラン《万紫千紅》に入りませんか? 〈黎花(れいか)の翼〉が買い取ったことにして、《万紫千紅》の屋敷としてくれるなら、代金は俺が出します」


「なるほど、クランね。アレスの仲間になるのは問題ないわよね?」


 エルマがリンファとヒカルに視線を向ける。三人とも特に反対はなく、了承してくれた。

 明日にでも買取手続きに向かうことが決まった。


「あ、《万紫千紅》の仲間にも伝えておきます」


 俺はその場でセレナに〈念話〉を飛ばした。


『セレナ、今話せるか?』


『ええ、大丈夫よアレス。今はエルドラスあたり?』


 俺は、冒険者はその国のダンジョンを一つ以上踏破していなければ、他国への通行許可証が出ないこと、そして現在は王都エルドラスのダンジョンを攻略中であることを伝える。


『アレスとエリュシアの二人で大丈夫なの?』


『ああ、こっちで仲間を見つけたんだ。〈黎花(れいか)の翼〉というパーティだ。《万紫千紅》に入れることにした』


『それについてはアレスに一任するわ。ただ、《万紫千紅》に入れるなら、アレスは〈黎花(れいか)の翼〉に敬語使っちゃダメよ』


 ……え。マジで? リンファとエルマに敬語なしは、ちょっとハードル高いんだけど。


『アレスの敬語禁止は絶対だからね。いつか紹介してちょうだい』


『わかった。また連絡する』


 〈念話〉を切ると、俺はふぅと長い溜息をついた。


「アレス様、〈念話〉って便利ですね。隣の国まで届くんですね。お話のほうはどうでしたか?」


「いや……クランに入れるのは問題なかったんだけど、俺が〈黎花(れいか)の翼〉に敬語を使ってはいけないって言われた」


「ああ、たしかにアレス様はクランマスターですから、私たちに敬語を使うのはおかしいですね」


「あたしも別に敬語じゃなくていいわよ」


 リンファとエルマがそう言う。ヒカルはもとからタメ口だったので問題ない。


「わかり……わかった。これからはリンファとエルマにも敬語なしで話すよ」


 その後、《万紫千紅》の仲間たちのことを話しているうちに夕食の時間になった。

 夕飯はエルマが作るという。


 食卓に並んだ料理は、どれも特別な素材を使っているわけではなかった。

 鶏肉のクリーム煮、焼きたてのパン、野菜のスープ、そして小さな焼きりんご。

 見た目だけなら、どこにでもある家庭料理だった。


 だが、一口食べた瞬間に違いがわかる。

 火の通し方、香草の香り、塩の加減――すべてが絶妙だ。

 柔らかく煮込まれた鶏肉は舌の上でほどけ、スープの奥には幾重もの旨味が潜んでいた。


 作り手は、元王城の料理人。

 派手さも贅沢さもないが、丁寧に積み重ねられた技だけが皿の上に息づいていた。


「すごいな。これはスキルレベルだけの味じゃない」


 エルマの〈料理〉スキルはレベル7。俺は9だが、この味はとても出せない。やはり本職には敵わない。


 エリュシアは無言で食べていたが、がっつくわけではなく、一つ一つを大切に味わっていた。たしかに、この料理はそうやって食べたくなる味だ。



 食後、紅茶で一息ついていると、お風呂の時間になった。

 〈黎花(れいか)の翼〉では入浴の習慣があるらしい。これは嬉しい。

 全員が一度に入れるほどの大きな風呂で、まずヒカルが一人で入る。そのあとリンファとエルマが一緒に入るそうなので、エリュシアも同行させてもらうよう頼んだ。

 たぶん、エリュシアはこういう風呂の入り方に慣れていないからだ。


 ヒカルが先に入ったあと、リンファとエルマが俺のほうへ近づいてきた。


「アレス様、お願いがあります」

「アレス、あたしたちの願いを聞いてほしい」


 話を聞くと、二人は本格的にスキルレベルを上げ、もっと強くなりたいという。ヒカルを支えるには、まだ力が足りないと感じているらしい。


「しかし、スキルを渡すには――あの方法しかないんだぞ?」


「問題ありません」

「アレスが相手なら、あたしは大丈夫」


 二人の覚悟は固かった。

 希望を聞いたうえで、俺は順にスキルを与えることにした。

 今夜はリンファ、明日の夜にエルマの予定だ。



 大きな風呂を堪能し、自分にあてがわれた部屋のベッドに腰を下ろした。今日はエリュシアにも部屋が与えられたため、一人だ。……にしても、ベッドはダブルなんだな。


 しばらくすると、扉が軽くノックされた。


「アレス様、リンファです」


 俺は無言でドアを開け、リンファを部屋に招き入れる。

 彼女は普通のパジャマ姿だったが、姿勢とスタイルのせいで、布越しにも体のラインがなんとなくわかってしまう。


「こ、こういうの慣れてなくて……あまり見ないでもらえると助かります」


 顔を赤らめたリンファは、いつもの凛とした雰囲気とは違い、どこか恥じらいを帯びていた。


 ベッドに並んで座り、希望のスキルを聞く。

 リンファは体術を基本とする武闘家だが、今後は剣も扱いたいとのこと。ショートソードを希望したため〈短剣〉スキルを授けることにした。

 ただし、すぐに実戦で使うのは難しい。しばらくは俺が「アレス流剣術」を教えることになる。


 まだ起きていたルビナに〈念話〉で、ルビナ鋼のショートソードを依頼。

 さらにセレナには、〈猛撃の腕輪〉〈迅疾(じんしつ)の腕輪〉〈叡智の腕輪〉を予備を含めて二つずつお願いしておいた。


「リンファ、まずは永久脱毛から始めよう。そのほうが恥ずかしくなくて済むと思う」


 ……まさかイレーヌのときに、遊び半分で作った〈バッチ処理〉がこんなに役立つとはな。



 リンファ ヒューマン 二十六歳

 Bランク冒険者


 所持スキル:

  回復魔法[8] ↑UP

  生活魔法[8] ↑UP

  空間魔法[8] ※NEW

  波動魔法[8] ※NEW

  短剣術[8] ※NEW

  体術[8]

  身体強化[8]

  気配察知[8] ↑UP

  気配遮断[8] ※NEW

  罠探知[8] ※NEW

  罠解除[8] ※NEW

  家政[8] ↑UP

  美容[8] ※NEW

  全スキル経験値アップS ※NEW

  アイテムボックスS ※NEW

  無詠唱 ※NEW

  強靭 ※NEW

  念話 ※NEW

  魔力常時回復 ※NEW



 戦闘中に〈空間転移(テレポート)〉を使えるよう〈空間魔法〉を、近接戦闘と相性のよい〈波動魔法〉を追加。

 さらに、罠を力づくで突破していたので〈罠探知〉と〈罠解除〉も与えた。あとはいつものセットだ。

 エッチなスキルは付けていないため、〈ステータス情報改竄〉は無し。


 翌朝。裸で俺に抱きついて寝ていたリンファは、俺の気配で目を覚ます。


「アレス様……やはり、まだ恥ずかしいですね。すぐに支度して自分の部屋に戻ります。ヒカルには、あまり見られたくないので」


 ……いや、新しいスキルを使った時点でヒカルにはバレると思うけど。

 まあ、見られたくないなら協力しよう。


 第三階梯空間魔法〈空間規制スペースレギュレイション〉を使って透明化する方法を教えると、リンファは透明化したまま自室へ戻っていった。



 朝はエルマの朝食をいただく。トーストにハムエッグ、サラダと野菜スープ。どれもシンプルだが驚くほど美味い。

 この味に慣れたら、他の料理が物足りなく感じそうだ。


 朝食後、屋敷を購入するため、〈黎花(れいか)の翼〉と一緒に商業ギルドへ向かった。

 すでにリンファにお金は預けてある。支払いも問題なく、手続きは淡々と完了した。


 続いて冒険者ギルドへ行き、《万紫千紅》クランに〈黎花(れいか)の翼〉を正式に加入させる手続きを終えた。

 ついでにリンファとの練習用に木剣を購入した。


 昼食は評判の食堂でとったが――やはりエルマの料理のほうが美味かった。

 完全に舌が贅沢になってしまったな。


 食後、俺とリンファは屋敷に戻り剣術の練習を。残りの三人はショッピングを楽しむとのことで、そこで別れた。

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