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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

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061 スキルを増やせない勇者

「その剣は……《勇者》様にしか抜けない剣なのです」


 まさか、そんな剣がこの世界に存在するなんて――想定していなかった。

 しまったな。


「少しお時間いただけませんか。説明させてください」


 俺は〈黎花(れいか)の翼〉の三人にお願いし、このフロアのセーフルームで話をすることにした。


「まず、俺は《勇者》のスキルを持っています。ヒカルと同じ転生者です」


 そう言った途端、ヒカルがとても嬉しそうな顔をした。俺も同じ日本から来た転生者と話すのは初めてだから、正直うれしい。同時期に転生した勇者と聖女は、俺が目覚めたときにはすでに死んでいたし……。


 リンファが質問する。


「では、アレス様も《勇者》様なのですか?」


「いえ。ここはまだ話せない内容が含まれるので詳細は言えませんが、俺は特殊な召喚を受けていて、この身体は元の世界のものではありません。そして《勇者》の称号も、後から手に入れたものです。俺と同時期に召喚された本当の《勇者》は、召喚と同時に死んでいました」


「なるほど。アストラニア王国が勇者召喚に失敗したという話は聞いていましたが、何やら複雑な事情があるようですね」


 リンファはそれ以上、詮索してこなかった。この辺りは、メイド時代に身についた“人の事情を掘り下げない癖”なのかもしれない。


「俺の方も気になっていることがあるんですが、聞いてもいいですか?」


「どうぞ。なんでも聞いてください」


 そう答えるリンファは道着を着てはいるものの、その仕草はまるでメイドのままだった。

 では、さっそく聞いてみよう。俺が気になっていること――それは。


「ヒカルなんだけど……スキル、隠してない?」


 この世界に来たとき、俺も勇者も聖女もスキルを九つ持っていた。

 だが、今見えるヒカルのスキルは五つしかない。俺の予想が正しければ、ヒカルのスキルは――。


 一瞬、ぎくっとした表情を見せたヒカルは、


「やっぱり……勇者のスキルのこと、知ってたのね。今、解除したから〈鑑定〉していいわよ」


 諦めたようにそう言った。〈鑑定〉してみると――



 ヒカル ヒューマン 十八歳

 Cランク冒険者 《勇者》


 所持スキル:

  闇魔法[8]

  性魔法[10]

  鑑定[8]

  スキル・称号奪取(性)

  スキル複製(性)

  全スキル経験値アップS

  アイテムボックスS

  ステータス情報改竄

  全言語理解



 ――やっぱり、そうか。

 このスキル、俺が勇者から“もらった”スキルとまったく同じだ。


 俺はリンファに訊ねた。


「もしかして、《勇者》ってみんな同じスキル構成で転生してくるんですか?」


「そうですよ。ただ、このことを知っているのは各国の上層部と、《勇者》の関係者くらいですけどね」


 マジか。

 ……これ、女の子の勇者には酷すぎないか?

 性交しないと強くなれないなんて。だから弱いままなのか?


 さっきまで嬉しそうにしていたヒカルの表情は、今やすっかり暗い。

 しまったな……こんな流れにするつもりじゃなかった。


 やがて、ヒカルが感情のない声で語り始めた。


 「性交すればスキルが増える」――そのことを知っていた国の上層部は、召喚されて間もないヒカルに、高レベルの〈剣術〉スキルを持つ騎士団長をあてがった。

 しかし、そのとき〈スキル複製(性)〉ではスキルを得られなかった。

 “得るまで続ける”ことになり、一年間続けても結果は同じだったという。


 (おかしい。〈強制終了フォースドターミネーション〉を使えば、絶対に成功するはずだ。どういうことだ?)


 一年後、スキルをひとつも得られなかったヒカルは国王に呼び出され、「今後勇者として扱わないこと」「王城から出ること」「屋敷をしばらく貸すがその屋敷を期日内に買い取れなければ屋敷を出て自分で住むところを探すこと」を通告された。

 期日まであと一ヶ月もないらしい。屋敷にこだわりはないというが、あまりに酷い扱いだ。


 また、勇者の剣『聖剣エルグレイア』を貸与されたままなのは、抜けるのがヒカルだけだからだという。

 さらに剣には、ヒカルが死ねば自動的に王城へ転送される魔法陣が組み込まれているらしい。


 ヒカルは、今でも二週間ごとに騎士団長の相手をさせられているという。そして未だに〈剣術〉スキルは未取得のままだ。


 話しているうちに、ヒカルの顔はどんどん沈んでいった。

 おそらく彼女は、〈剣術〉スキルを得るためだけに、嫌々ながら騎士団長の相手をしているのだろう。


「そういえば、俺が召喚されたとき、《勇者》のほかに《聖女》もいたんだけど、ヒカルのときは一人だったのか?」


 そう聞いた瞬間、今まで冷静だったリンファが大きく反応した。


「一名おりました。武僧(モンク)の男です。現在は地下牢に閉じ込められております」


「え? なんでまたそんなことに」


 ヒカルと同時に召喚されたのは、三十八歳の武僧(モンク)キヨシ。年齢のわりに肌も筋肉も締まり、長身で非常に強そうだったという。

 スキルは〈体術[10]〉と〈回復魔法[8]〉。

 だが召喚直後から、いやらしい笑みを浮かべて女性を眺めるようになった。

 彼は〈催淫[8]〉というスキルも持っていたのだ。


 国は〈催淫〉の使用を禁じたが、初日にメイドへ使用して襲い、その後も毎晩のように繰り返した。

 それでも国は注意するだけで何も処罰しなかったという。

 しかもキヨシは、召喚直後からヒカルに執着しており、とうとう彼女にも〈催淫〉を使った。

 だが《勇者》の効果である〈全状態異常無効〉により、ヒカルには効かなかった。

 逆上したキヨシはヒカルを力ずくで襲おうとし、それを見た騎士団長が激怒して捕縛。

 キヨシは地下牢へと放り込まれた。


 しかし、襲われたメイドの中には自殺した者もおり――それが、リンファの妹だった。


「なぜ、メイドが襲われた時点で捕まえなかったのですか?」


「催淫状態の女性は、同意があったかどうか判断がつかず……。後から訴えても、不同意を立証するのが難しいから――そう言われました……」


 リンファは唇をかみしめていた。

 おそらく、何度も国に訴えたのだろう。それでも国は動かなかった。


「私は元々、ヒカルの専属メイド兼指導係でした。もう一人の妹のように可愛がっていたのです。けれど、ヒカルが王城を追われると聞いて……せめてヒカルだけでも支えようと思い、メイドを辞めました」


 エルマも口を開く。


「あたしはね、リンファと長年の友人で、ヒカルのことは自分の子供みたいに可愛がってたのさ。でも、リンファの妹を自殺させたあげく、ヒカルまで追い出すなんて許せなくてね。一緒に王城を辞めたのさ。――ちなみに、子供どころか結婚したこともないけどね!」


 そう言って豪快に笑うエルマ。

 きっと、少しでも場を明るくしようとしてくれているのだ。ありがたい。


 ……けれど、伝えなければならないことがある。

 また暗くしてしまうけれど、これは放っておけない。


「ヒカル、これから言うことを聞くとショックを受けると思うけど……このままだとダメだと思うから教える」


 「え?」という顔をしたヒカルが身構える。俺は続けた。


「《勇者》のスキルを正しく使えば、〈スキル複製(性)〉で確実にスキルを得られる。……もしかして、〈強制終了フォースドターミネーション〉って魔法のこと、教えられてない?」


「知ってるわよ! 強制的に途中で終わらせる魔法でしょ! だから使うなって――」


「ヒカル、それ誰に聞いた?」


「誰って……騎士団長よ」


 ……最悪だ。

 騎士団長、ヒカルを都合よく利用するために嘘を教えていたのか。


「ヒカル、ショックだと思うけど聞いてくれ。〈強制終了フォースドターミネーション〉は“途中で終わらせる”魔法じゃない。“強制的に最後まで終わらせる”魔法なんだ。だから、〈スキル複製(性)〉のときに相手と自分に〈強制終了フォースドターミネーション〉を使えば、確実にスキルを取得できる」


「……う、嘘でしょ?」


「実際、俺はそうしてスキルを増やしてきた」


 呆然とするヒカル。

 騎士団長に騙されていたことに、ようやく気づいたようだった。


「そっか……だからうまくいかなかったのね。同時に終わるなんて、何回やっても無理なはずよね……」


 そこへリンファとエルマが割って入った。


「アレス様、これ以上はヒカルが可哀想です」

「そうよ、話題変えてやって」


「すみません。このままなのは、さすがに見ていられなくて……。あー、えーと、じゃあ――〈スキル複製(性)〉のもう一つの使い方、教えます!」


「「「もう一つの使い方?」」」


 俺は、〈スキル複製(性)〉を使えば“自分に複製する””だけでなく、“相手に複製する”こともできると説明した。

 それを応用すれば、スキルレベルを効率よく上げられる。

 ただし、レベル8を複製すると脳にダメージを与えることがあるため、俺のような回復手段がないなら、相手に与えるのはレベル7まで。

 そしてそれを自分に複製して、レベル8で止めておくのが安全だと教えた。


 少しだけ空気が和らいだ。そこでエルマが口を開く。


「じゃあアレスに頼んだら、あたしのスキルレベルも上げてくれるの? こう見えて十年前はモテモテだったのよ」


「ええ。問題ありませんよ」


 そう答えると、エルマはおとなしくなった。リンファも、なぜか少し顔を赤らめていた。

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