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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第二章 リーファリアへの道編

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055 宿の夜と空の彼方

「エリュシア、野営と宿、どっちがいい?」


「アタシは……宿に泊まってみたい」


 エリュシアは宿に泊まったことがないという。

 ベリンダは常に野営だったらしい。――強盗で指名手配されていたなら、まあそうなるか。

 というわけで、一度リュオルドへ戻って宿をとることにした。


 宿の食事はまあまあだったが、エリュシアは感動したように目を輝かせながら食べていた。

 よほどまともな食事をしてこなかったのだろう。

 食事をとりながら、昨晩も少し聞いた“人造魔人になった経緯”を改めて尋ねた。


 ――エリュシアは『ゼフィランテス帝国』の田舎の村の農家に生まれた。

 生まれながらに莫大な魔力を持っていたが、あまりに田舎だったため、覚えられた魔法は〈生活魔法〉のみ。結局、その魔力を活かす場もなく育ったという。


 二十二歳のとき、突如“魔女化”を発症した。

 腕や足に黒い斑点が浮かび、それがただれて水泡を生み、やがて破れて膿を流す――焼けるような痛みに耐えながら、彼女は周囲の嫌悪の目にもさらされた。

 限界を迎えたエリュシアは森に入り、ひっそりと死のうとしていた。

 そのとき出会ったのが、《悲しみの魔女》だった。


 《悲しみの魔女》は言った。


 「魔女化を治療できるが、人ではなくなる。それでもいいか?」


 エリュシアは、このまま死ぬくらいならと頷いた。

 魔女は彼女の魂をケルベロスの魔石に移し、それを身体に埋め込んだ。

 結果、魔女化の症状は消えたが、存在としては“魔物”と分類されるようになってしまった。

 見た目はヒューマンと変わらないが、鑑定されれば一発でバレる。

 以来、百年以上、森に隠れて生きてきたらしい。


 〈捕食変生〉というスキルはケルベロス固有のものだと、《悲しみの魔女》が教えてくれたという。

 《悲しみの魔女》は俺以外でもこういった魔女化治療の実験を行っているようだ。


「なるほどな……」


「自分で話してても信じがたいけど、アレスは信じてくれるんだな」


「そりゃ、俺も《悲しみの魔女》に会ったことがあるからね」


「えっ!? 本当か? いつ?」


 ――しまった。《悲しみの魔女》に会った話、誰にもしてなかったんだった。


「あー、そのへんはまた今度話すよ。とりあえず俺が《悲しみの魔女》に会ったってことは、内緒で頼む」


 《悲しみの魔女》の話は“天空人”と繋がっている。

 エルフ以外にはまだ話せない内容だ。もう少し天空人について情報を集める必要があるな。



 夜。

 エリュシアは“俺の奴隷”扱いだから、当然部屋は同室だ。


「アレス……やっぱり恥ずかしいから、命令してくれると助かる」


 昨晩、“命令しろ”と言っていたのは、こういう意味か。


「命令はしない」


「くっ……アレス、アタシが恥ずかしがるのがそんなに楽しいのか!」


 赤くなって頬をふくらませるエリュシア。強そうなのに、やっぱり可愛い。


「実は昨晩のことは、エリュシア自身は半分も覚えてないんだ。記憶を戻してるから」


 昨晩渡したスキルは、半分以上レベル8スキルの複製だった。

 そのとき〈脳状態復元(ブレインリストア)〉をかけている。エリュシアが覚えているのはレベルのないスキルと〈超再生(魔)[5]〉を複製したときだけだ。


「え? どういうこと?」


「今回はスキルレベル上げも伴う。本番は今からだ。昨晩より……たぶん凄い」


 レベル7相当の快楽倍率1440倍――スキル一つをレベル8にするなら、それを7回繰り返す必要がある。予定ではレベル8にするスキルが五つある。1440倍だけで三十五回だ。


「昨晩でも相当だったぞ!? 嘘だろ……」


 困惑するエリュシアの服を亜空間に収納し、そのままベッドへと運ぶ。


「ま、待て! 心の準備が――」


「大丈夫。すぐに慣れるよ」



 ――翌朝。

 エリュシアに追加・強化したスキルは以下の通り。


  空間魔法[8] ※NEW

  爪[8] ※NEW

  飛翔(羽)[8] ※NEW

  羽根弾[8] ※NEW

  風刃(羽)[8] ※NEW

  超再生(魔)[8] ↑UP


 〈空間魔法〉は飛行中の空気抵抗を軽減するため、〈空架障壁(スペースシールド)〉と組み合わせて使えるようにした。また、〈空間転移(テレポート)〉も戦闘中に有効だ。今後、他の近接職メンバーにも渡しておこう。

 〈爪〉・〈飛翔(羽)〉・〈羽根弾〉・〈風刃(羽)〉は、アストラニア王国の王都にある王城の地下迷宮・地下五十階のボス“グリフォン”のスキルだ。レベル8まで上げているので、あのグリフォンより速く飛べるかもしれない。

 〈超再生(魔)〉はトロール由来のスキルだ。レベル8なら、ほとんどの傷は瞬時に回復するだろう。


 ちなみに最初にスキルを渡した日に、エリュシアには〈絶倫[8]〉も付与していたのだが……最後はへろへろだった。

 もしかしてイレーヌ並みに弱いのかもしれない。



 朝、起きてきたエリュシアは妙に平然を装っていた。

 顔は真っ赤だが、目は絶妙に俺と合わない。

 ――“なんてことなかった”風を装いたいらしい。やっぱり可愛い。


「そういえばアレス。他にも魔物のスキル、持ってないの?」


「あるにはあるけど……使いづらいのが多いんだよ」


 石化は素材を台無しにするし、炎は冒険者にはご法度。

 牙は噛みつかないといけないし、嘴の攻撃は見た目がアレだしな。

 今はグリフォンとトロールのスキルで十分だ。

 今後、新しいスキルを手に入れたら、その都度検討しよう。



 宿の“まあまあ”な朝食を済ませ、街の外へ出る。

 エリュシアに渡したスキルの実戦テストだ。


「アレス! もう試していい?」


「まだ街に近いって。もう少し我慢」


 エリュシアは飛びたくてうずうずしている。

 どうやら“飛べる”確信があるらしい。

 しばらく走って、街が見えなくなるほど離れた森に着いた。


「まだ? アレス!」


「焦るな。まずは〈爪〉からだ。この木を〈爪〉で攻撃してみて」


 エリュシアは無言で指先を鋭い鷲の爪に変化させ、目の前の木を軽く薙いで、すぐにこちらに振り返る。

 ――次の瞬間、背後で木が真っ二つに倒れた。


「おお、すごいな。普通の剣より切れるんじゃないか?」


「アタシはそーゆーのどーでもいいから、飛びたいの!」


「はいはい、順番にね」


 はやるエリュシアを宥めつつ、他のスキルも試す。

 〈羽根弾〉は白い羽をマシンガンのように射出し、しばらくすると羽根が再生した。

 〈風刃(羽)〉は羽ばたきと同時に無数の風の刃を放つ。範囲攻撃としても優秀だ。


「もういいだろ、アレス!」


 とうとう怒り気味になったので、飛行許可を出す。


「いいけど、最初はゆっくりな。高く上がりすぎると気圧差でやられるかもしれん」


「わかった。じゃ、行ってくる!」


 そう言って、エリュシアは背中に白い鷲の翼を展開し――

 次の瞬間、姿が掻き消えた。


「……速っ!?」


 空を見上げると、凄まじい速度で飛び回るエリュシアの姿が。

 “飛べた感動”より、“言ったそばから全力かよ”という呆れの方が勝つ。


『アレス! 目が開けてられない!』


 飛行中のエリュシアから〈念話〉が届く。

 あの速度なら、風圧で当然だ。


『もっとスピード落とせ。あと対策教えるから、ゆっくり降りてこい。地面に激突とかすんなよ』


『わ、わかった!』


 ようやく減速して降りてきたエリュシアに、俺は〈空架障壁(スペースシールド)〉の使い方を教える。

 空気の流れを受け流すよう、流線形にシールドを展開する方法だ。

 実演して見せると、エリュシアもすぐにコツをつかみ、同じように再現した。


「もう一回、行ってくる!」


 再び空へ。今度はさっきよりもさらに速い。

 あれ、何キロ出てるんだ……? 車どころじゃないぞ。


『アレスー! これ、すごい気持ちいい! 飛んでみる?』


『どうやって? 俺、羽ないけど?』


『アタシが抱えるし!』


 俺は自分に〈重量軽減(ウェイトリリーフ)〉をかけ、軽くなってエリュシアに抱えられる。


「じゃ、飛ぶね!」


 次の瞬間、景色が弾けるように流れた。

 ――元の世界の新幹線よりも速い。もはや風景が流線形に歪んで見える。


「このまま王都まで飛べるか?」


「え? いいけど、アレス、国境越えるんじゃなかったのか?」


「ああ、そのつもりだったが予定変更だ。このスピードで飛べるなら、一度王都に戻ろう」


 エリュシアを仲間に紹介し、冒険者ランクも上げておきたい。


 俺たちは念のため透明化をかけて、王都アルトヴィアへと飛んだ。

 俺が六日かけた旅路を、エリュシアは――わずか一時間で駆け抜けた。

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