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054 捕食変生と魔物の力

 エリュシア ヒューマン(※人造魔人を改竄中) 二十四歳(※百二十歳を改竄中)

 一般奴隷(※従魔を改竄中)


 所持スキル:

  生活魔法[8] ↑UP

  体術[8] ↑UP

  威圧[8] ※NEW

  身体強化[8] ↑UP

  気配察知[8] ↑UP

  気配遮断[8] ※NEW

  料理[8] ※NEW

  美容[8] ※NEW

  技巧(性)[8] ※NEW

  絶倫[8] ※NEW

  全スキル経験値アップS ※NEW

  アイテムボックスS ※NEW

  ステータス情報改竄 ※NEW

  無詠唱 ※NEW

  強靭 ※NEW

  念話 ※NEW

  魔力常時回復 ※NEW

  捕食変生

  超再生(魔)[5] ※NEW



 かなりスキルを渡したように見えるが、実際には最近《万紫千紅》のメンバーに渡している標準スキル群から〈御者〉を外した程度だ。

 変わった点といえば〈超再生(魔)[5]〉だろう。これはトロールが持っていたスキルで、俺が着けてもグレーアウトして有効化されなかった。だが、エリュシアに着けても同じようにグレーアウトした……あれ?


 朝。裸のまま俺に抱きついて眠るエリュシアを眺める。見た目はヒューマンと変わらないように見える。ただ、二十二歳のときに人造魔人になって以来、寿命がわからないらしい。

 ステータスを見ると百二十年も生きているのに、今も若いままだ。ちなみに昨晩、年齢をいくつに改竄するかで少し揉めた。俺としては見た目が二十六歳くらいに見えるから二十六歳にしようと言ったのだが、エリュシアは「二十二歳から変わってない」と主張して譲らない。結局、間を取って二十四歳に落ち着いた。


「ん……」


 エリュシアが目を覚まし、俺と視線が合う。頬を赤らめたその仕草は、強そうな見た目に似合わず可愛らしい。


「昨日のはなんだ? あんなの初めてだぞ」


 エリュシアは目をそらしてそう言った。

 まあ、それはよく言われる。スキルを渡すときは、快楽にも倍率がかかるからね。


「あ、ベリンダ様はどうした?」


「ああ、そこに拘束したままだよ。昨晩から何も見えないし、何も聞こえないようにしてあるから安心して」


「そこまで聞いてない!」


 真っ赤になったエリュシアは、慌てて眠る時にかけていた布に潜り込んだ。……本当に可愛いな。


 しばらくして、まだ顔を赤くしたまま、少しふくれた表情で布を身体に巻きつけながら座り直す。


「服、返せ」


 そういえば、亜空間に入れたままだった。

 はい、どうぞ。


「え? 新品?」


「ああ、スキルで新品に“修復”しておいた」


 エリュシアが身につけていたものは、〈修復(空間)〉で全て新品同様にしておいた。


「あとこれもね」


「え? アタシのチョーカー? いつ外したんだ?」


「そりゃあ、エリュシアが情熱的だったときに」


 顔が真っ赤になったエリュシアは、俺から新品のチョーカーを奪い取って、背を向けたまま素早く装着した。



 朝食時。作り置きの料理とは別に、トロールの皮を試しに調理してみる。ほんの少し食べるだけで〈捕食変生〉が発動するらしいが、皮は固い。……これ、食べられるのだろうか?


「エリュシア、これ食べられる? トロールの皮なんだけど」


「あー、たぶん食える」


 渡すと、エリュシアはそのまま一気に飲み込んだ。噛まなければいけるらしい。


「エリュシア、なにか変化あった?」


「少しだけ身体全体に変化があった気がする。でも魔物の特徴は顕現できないみたい」


 〈鑑定〉してみると、〈超再生(魔)[5]〉が有効化されていた。なるほど、魔物のスキルを使うには“その魔物を食べる”必要があるらしい。


「あー、ちょっと痛いけど、このナイフで指先を少しだけ切ってみて」


 俺は野営用の高炭素鋼ナイフを渡した。


「あー、構わないよ」


 エリュシアは思いきり指を切った。いや、“少しだけ”って言ったのに……。


「おー! アレス、すごいぞ! 一瞬で傷が塞がった!」


 よし、これで魔物スキルの有効化を確認。今後は魔物のスキルもレベル上げ対象だな。



 野営道具を片付けて出発。ベリンダはロープで拘束し直して大きな袋に入れ、第八階梯生活魔法〈重量軽減(ウェイトリリーフ)〉で軽くしてある。それをエリュシアに持たせた。


「おー、軽いな。風で飛んでいきそうだ」


「ああ、本当に強風で飛ぶくらい軽くしてあるから気をつけてね」


「そういやアレス、リュオルドまでどうやって行くんだ?」


「走って、だよ」


 エリュシアは一瞬きょとんとしたが、いざ走り出すと、自分の速度に驚いていた。普通に俺のペースについてきている。そりゃあスキルレベル上げたからね。



 道中で昼になったので、街道から外れた場所で昼食。作り置きの食事と別に、ブラックミノタウロスの肉を焼く。これは普通に美味しい。


「どうだエリュシア。なにか変化あったか?」


「朝のトロールの皮と似てるな。身体全体が少し変化した気がする。魔物の特徴は出せないけど……明らかに力は増してる」


 見た目の変化はないが、筋肉の質が上がっているようだ。ブラックミノタウロスなら、鉄の武器でも通らない身体になっているかもしれない。



 昼食を終え、一時間ほどで国境の街リュオルドに到着。


 街に入るとすぐに衛兵詰め所があり、念のためエリュシアは透明化、俺だけがベリンダを抱えて衛兵へ引き渡した。


「おお! お兄さんお手柄だな! こいつは最近この辺を荒らしまわってた強盗犯だ。眠ってるのか?」


 騒がれるのを避けるため、ベリンダには〈熟睡(ディープスリープ)〉をかけてある。


「一時間もすれば起きると思います。ところで、ベリンダは奴隷を連れていたのですが、奴隷の扱いはどうなりますか?」


「ああ、奴隷は無罪だよ。主人の命令で動いてるだけだからね。ただ、普通は一緒に殺されるけどな。生きて捕まえてるなら、ベリンダの犯罪証明書を出すから、奴隷商館で売るといい」


「なるほど。……奴隷は逃がしたので大丈夫です。では、ベリンダをお願いします」


「ああ、捕縛証明書を冒険者ギルドに出せば賞金がもらえるから、忘れんなよ」


 証明書を受け取り、ギルドへ向かう途中でエリュシアの透明化を解除した。


「よかったな、エリュシア。お咎めなしだって」


「まー、アタシは見張りくらいしかやってないし」


 エリュシアは人を殺したことはないらしい。全部ベリンダがやっていたそうだ。

 ベリンダはもともと隣国ゼフィランテス帝国の奴隷商人で、貴族と揉めた時に誤って殺してしまい、森を逃亡中にエリュシアと出会い、そのまま二人で国外逃亡してきたらしい。


「あれ? じゃあエリュシアもゼフィランテス帝国出身なの?」


「そーだよ。アタシは田舎育ちだし、百年以上森にいたから国のことはほとんど知らんけど」


 百年以上森にこもっていたのなら、そりゃ世間知らずにもなる。エリュシアがキョロキョロしているのは、見るものすべてが新鮮だからだろう。俺はできる限り彼女の「あれ何?」に答えながら、冒険者ギルドへ向かった。



 冒険者ギルドではまずエリュシアの冒険者登録を済ませる。褐色肌で白髪の美人――当然、目立つ。声をかけようとする冒険者も多かったが、エリュシアが睨むと一瞬で引き下がった。

 その後、俺も金色の冒険者カードを出し、エリュシアの〈百花繚乱〉への加入手続きを進めると――


「え! 《百花征く剣》のアレスさんですか!」


 受付嬢が目を丸くして叫んだ。……マジか。まさか国境の街にまで二つ名が知れ渡ってるとは。

 ただ幸いなのは、“数多の戦場で”の意味で登録されていたこと。ガルド、空気読んだな。

 握手を求められた数人と軽く応じ、ベリンダの賞金も受け取ってギルドを後にした。


「アレス、これからどうすんの?」


「ああ、国境付近に転移魔法陣を設置しに行く。ついてきてくれ」



 エリュシアを連れ、街を出て森の奥へ。街道を外れ、人目のない場所を探す。魔物の気配もわずかに漂う。


「この辺りでいいかな」


 俺は土魔法で地下室を作り、直径二メートルほどの転移魔法陣を設置した。

 設置後、地下室全体を透明化して隠す。


「よし、完了。さて、おやつでも食うか」


 普段はおやつなんて食べないが、今日はエリュシアに食べさせたいものがある。

 表面をパリッと焼き上げ、香ばしい香りが立つ。脂の旨味も濃い。塩と香草を振るだけで、酒の肴になりそうだ。


「アレス、それ美味そうだけど、何の肉?」


「これはグリフォンの皮だ」


 二人で出来たてを食べる。うん、普通に美味い。


「エリュシア、なにか変化ある?」


「見てて」


 エリュシアの背中から白い鷲の羽が生えた。さらに手に力を込めると、指先の爪が鋭い鷲の爪へと変化する。

 その姿だけで、何かを容易く切り裂けそうだ。


「すごいな。その羽、動かせるのか?」


「動かせるけど……飛べない」


 エリュシアは少し残念そうに声を漏らした。だが、それはスキルが足りないだけだろう。

 今夜、グリフォンのスキルを渡すことにした。――もしかすると、明日にはエリュシアは空を飛べるかもしれない。

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