表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第一章 アストラニア王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/138

052 リーファリア王国へ

 ――三日後。


 だいたいの研究と開発は終わった。

 指輪については、プラチナ製のシンプルな指輪を全員分“透明化”の指輪にすることにした。万が一、逃げなければならない状況で使うためだ。しかし、これだけ強い彼女たちが、実際に逃げることはそうそうないだろう。あくまで念のための装備だ。

 他の指輪についてはまだ検討中だ。彼女たちが強すぎて、必要性があまりないというのもあって、何を付与するかは未定。ただし、指輪だけは持っていった。


「セレナ! 馬車が完成したから、ちょっと乗ってみてくれる?」


「乗るのはいいけど、御者がいないわよ?」


「ああ、リディアもスキルを持っている。俺も持っているけど」


「なんでそれを教えないのよ。今度私にも……いや、全員に付けて。交代で御者できるように」


「……わかった」


 こうして全員に〈御者〉スキルを付与することが決まった。なぜかルビナもメディアも付けろという。まあいいが、使う機会はあるのだろうか。


 セレナが作った馬車は貴族用の箱馬車タイプ。俺がそれを魔改造した。


「え? キャビンの中が涼しいわ。これ、この前ドレスに付けたやつ?」


 ドレスに付けたのはクーラー機能だけだったが、この馬車にはオートエアコン機能を搭載している。一度設定したキャビン内の温度を自動的に維持するように冷房や暖房が働くようになっている。


「アレス! この馬車、まったく揺れないわよ! どうなってるの!?」


 当然だ。キャビン部分は“浮いている”。車輪からの衝撃は伝わらないようにしてある。馬への負担も軽減されるため、かなり速く走らせることも可能だ。


「どう? 実は他にもできることはあったんだけど、自重したんだ」


「ちなみに、何をつけようとしたの?」


「キャビン内を〈空間拡縮(スペースサイジング)〉で拡張して10LDKくらいにする予定だった。ただそうすると、知らない人は乗せられなくなるからやめておいた」


「そうね。それは別の馬車でお願いするわ……」


 ◇


「ドルガンさん! ちょっと大事な話があるんですが」


「どうした坊主。いきなり来てなんじゃ?」


 俺は今回作った魔道具をドルガンさんに見せた。


「ああ、これはルビナが持ってきた設計図を基にワシが作ったものじゃ。これがどうした?」


「これはですね……ここに鉄鉱石とマンガン鉱石とクロム鉱石を入れて、ボタンを押すと――」


 ボタンを押すと、鉱石は一瞬で消え、複数のインゴットが現れた。


「坊主、こいつはもしかして……」


「はい。ボタン一つで“ルビナ鋼”のインゴットが生成できます」


 俺の亜空間を介してインゴットを生成する魔法陣を組んだのだ。ただ、インゴットに必要なかった成分は、全部俺が元素還元して保管している。


「すげーぞ、坊主! しかし、あと二つボタンがあるようじゃが」


「はい、この真ん中のボタンは同じ材料で押すと“ステンレス”のインゴットができます」


「ステンレス? なんじゃそれは?」


「かなり錆びにくい鋼です。主に包丁などの生活用品に使います」


 ドルガンさんは包丁を作ることはあまりないそうだが、こういう素材があるなら、作ってみるかと乗り気だった。


「最後のボタンはなんじゃ?」


「まだ設定していません。黄銅か高炭素鋼にしようかと……」


「高炭素鋼にしろ! あれで作ったナイフが好評なんじゃ! 絶対に高炭素鋼じゃ!」


 その場で高炭素鋼インゴットが生成できるように設定した。


「しかし坊主、これを持ってきたということは、しばらく王都を離れるのか?」


「ええ、そうなると思います。ルビナは置いていくので、引き続き修行をお願いします」


「あたりまえだろ! あいつは才がある! いずれワシを超えるかもしれんな」


 そこまでなのかルビナ。頑張ってもらおう。


「では、この魔道具おいていきますので、使ってください」


「わかった! 壊れたら修理頼むぞ!」


 そうそう壊れないとは思うけどね。魔法陣以外の部分はドルガンさんが作っているし。



 ――その日の夜、俺はリビングに全員を集めた。


「聞いてくれ。『リーファリア王国』へメディアを送る目途が立った。今日から六日後の朝、()()()()リーファリア王国に向かう」


 リディアがすぐに反応した。


「ご主人様! 私もついていきます!」


「ダメだ。リディアは指名依頼の“誘引無効の指輪”集めの(かなめ)だ。抜けさせるわけにはいかない。それに、セレナたちが領地に行くときには戻ってくる」


 全員がよくわからない顔をしていた。たしかに説明不足だな。


「実は、〈空間転移(テレポート)〉に同じラベルを付けた魔法陣を一対作れば、互いの魔法陣の位置まで転移できる。一応、この屋敷と王都の外で動作確認済みだ」


 やはり魔法陣で、長距離〈空間転移(テレポート)〉ができた。ただ毎回ラベルを考えるのが面倒なので、俺は数字を採番している。


「一応十組の〈空間転移(テレポート)〉魔法陣を作っていて、そのうち一つを俺の部屋に付与しておく。戻る際はそこから帰ってくる」


 セレナが質問した。


「アレス、馬車の荷台に〈魔法陣付与〉すれば、いつでも屋敷と馬車で転移できるんじゃない?」


「ああ、俺も考えたが……一度〈魔法陣付与〉した魔法陣を動かすと無効になる。魔法陣自体が消えてしまう」


 〈空間転移(テレポート)〉魔法陣は一度設置すると動かせない仕様だ。


「だから、俺が一人で国境手前と国境を越えた先に魔法陣を人目に触れないところに設置する。エルセリオン王国内で拠点にできそうな場所があれば、そこにも設置するつもりだ」


 イレーヌが尋ねた。


「なんで国境手前と越えたあとに魔法陣を設置する必要があるの?」


「ああ、法律で〈空間転移(テレポート)〉は国境を跨いではいけないんだ。ちゃんと入国手続きをしてから、再び〈空間転移(テレポート)〉を使うためだ」


 ルビナが尋ねた。


「なぜ六日後なの?」


「夜のローテーション一回分だ。その間に全員に必要なスキルを与えたい。〈御者〉は確定だろ? あと〈全スキル経験値アップS〉は何かのスキルが“生える”可能性が上がるから全員に渡す。メディアには〈回復魔法〉と独自魔法〈魔力譲渡(マナトランスファー)〉を覚えてもらう。潤沢な魔力があれば、誰かの魔力が切れた時に渡せる。あとティアに〈性魔法〉を考えている」


「「「「「「え!?」」」」」」


 イレーヌが割り込む。


「だったらアタシも〈性魔法〉ほしいわ!」


「却下。イレーヌはまともに使うとは思えない」


「じゃ、なんでティアはいいのよ!」


「ティアは復興させる村で司祭をする予定だろ? 教会では〈性魔法〉は普通に使うんだよ」


 イレーヌは少し渋っていたが、なんとか諦めてくれたようだ。


「一応、希望は聞くので欲しいスキルあったら言ってくれ」


 その後六日間でそれぞれ希望のスキルを渡した。


 ◇


 初日、メディアには〈回復魔法〉と〈御者〉と〈全スキル経験値アップS〉を。〈魔力譲渡(マナトランスファー)〉も覚えてもらったので、魔力切れのメンバーを助けることができるだろう。そういう状況にはならないと願いたいが。あと〈土魔法〉の独自魔法を研究してもらうことにした。あれだけ魔力があれば、いくらでも試せるだろう。


 ◇


 二日目、ジーナ。なんと〈槍術〉が欲しいという。リディアのように槍斧(ハルバード)を使ってみたいそうだ。ジーナには〈槍術〉と〈御者〉と〈全スキル経験値アップS〉を追加。槍斧(ハルバード)はドルガンさんに別途オーダーしてもらうことにした。リディアと一緒に槍斧術を研究してもらおう。


 ◇


 三日目、セレナ。セレナに追加したスキルはかなり多い。


「え? 〈性魔法〉もいるの?」


「〈複合魔法〉で有用な組み合わせを調べたいのよ。〈性魔法〉も組み合わせて試したいわ」


 ということで〈闇魔法〉、〈回復魔法〉、〈空間魔法〉、〈性魔法〉、〈魔法陣付与〉、〈魔法陣生成〉、〈御者〉、〈全スキル経験値アップS〉の八つだ。魔法に関して言えば俺が持っている魔法のうち〈聖魔法〉以外はすべて渡したことになる。〈魔法陣付与〉と〈魔法陣生成〉は、複合魔法で有用なものができた場合に魔法陣化できるためだ。


 ◇


 四日目、ティア。ティアには予定通り〈性魔法〉と〈御者〉と〈全スキル経験値アップS〉と――


「え? 〈盾術〉と〈挑発〉?」


 どうやらティアはリディアのタンク役に憧れており、前衛で誰かを守る戦い方を学びたいらしい。戦槌(バトルメイス)と盾を装備した聖女か。後ろで魔法を撃つよりも、前線で戦いたいようだ。


 ◇


 五日目、ルビナ。


「ねぇ、アレス。あたし〈分解(空間)〉と〈合成(空間)〉と〈修復(空間)〉が使いたい」


 なるほど。〈分解(空間)〉と〈合成(空間)〉があれば精錬しなくてもインゴットが作れるし、〈修復(空間)〉があれば、ハンマーを使わずに修理できる。鍛冶師には垂涎のスキルかもしれない。そうなると〈空間魔法〉も必要なわけで。


「魔物とか〈分解(空間)〉するとスキルが手に入るけど、〈スキル・称号付替〉がないと自分のスキルにできないぞ?」


「魔物を〈分解(空間)〉することはないからいらないわ。あたしは鍛冶にしか使わないから」


 ということでルビナには、〈空間魔法〉、〈分解(空間)〉、〈合成(空間)〉、〈修復(空間)〉、〈御者〉、〈全スキル経験値アップS〉の六つを渡した。


 ◇


 最終日、イレーヌとリディア。


「別々の日にしてもよかったんだぞ?」


「もうずっと一緒にしてるから、一人だと逆に緊張する。この方がいいわ」

「私も問題ありません」


 元々二人はかなりスキルが揃っているため追加できるものは限られる。


「〈性魔法〉!」


「却下。イレーヌがまともに使用するとは思えない」


「ご主人様。私は〈空間魔法〉が欲しいです」


 リディアは〈空間転移(テレポート)〉で即座に仲間を守り、〈部分収納(パーシャルストレージ)〉で敵を拘束したいらしい。


「だったらアタシも〈空間魔法〉が欲しいわ」


 イレーヌはクロスボウのボルトを〈空間転移(テレポート)〉で敵の近くに転移させ、遠距離攻撃を可能にしたいとのこと。“アリス”のときに鳥を撃ち落とした方法だ。


 こうして二人には〈空間魔法〉と〈御者〉と〈全スキル経験値アップS〉を付与した。


 しかし、リディアは抱きついたまま泣き始めた。


「ご主人様! 私は、私はご主人様と離れたくありません!」


 イレーヌも何も言わず、反対側から抱きついている。


「リディア、何も一生帰ってこないわけじゃない。たぶん二ヶ月後くらいには帰ってくる」


「二ヶ月も! 二ヶ月もあるじゃないですか!」


 「ご主人様は絶対浮気する」とボソッと言われた。いや、待て。ルビナもそうだが、最近メディアも突然ローテーションに入ったため、どこからが浮気なのか、俺にはわからなくなった。


「火遊びはほどほどにするのよ?」


 イレーヌも浮気確定扱いか。二人が知らない女性相手は浮気認定なのかもしれない。


 俺は二人に抱きつかれたまま眠りについた。



 翌朝。旅立ちの日。


 朝から起きているはずなのに、リディアが抱き着いたまま離れようとしない。頭を撫でながら宥め、ようやく出発の準備が整った。


 全員で朝食をとったあと、


「えーと、まずこれをセレナに預けておく」


 俺は、金の指輪とマジックバッグをセレナに渡した。


「……これは?」


 「一応〈念話〉が届かなかったときの保険でもある。金の指輪で指定したものを俺の亜空間へ飛ばせる。そして俺はそのマジックバッグに送りたい物を入れる。離れていても物のやり取りが可能だ」


 「マジックバッグだけで事足りるんじゃないの?」


 「ああ、例えば復興する村に邪魔な木がいっぱいあって、その木材を建築材料として使いたい場合、伐採した木を金の指輪で送って〈念話〉すれば、俺のスキルで製材して返せる。俺に送る分には無制限だから、ガンガン送って構わない。まあ、同じことはルビナもできるが、ルビナは村に連れて行けないだろう」


 「わかったわ。大事に使わせてもらうわ」


 俺がいない間の執務室はセレナに使わせることにした。叙爵までに使用することもあるだろう。


 「そういえば、どうやって『リーファリア王国』に行くつもりなの?」


 「走っていくよ」


 《嫌悪の魔女》を追いかけて気づいたのだ。〈身体強化〉レベルMAXだと、馬車で行くよりも自分の足で走ったほうが早い。


 「それじゃ、『リーファリア王国』に行ってくるよ。早ければ、セレナたちが領地をもらう前に到着できるはずだけどね。こればかりは行ってみないとわからない」


 「気を付けて行ってくるのよ」


 セレナが代表してそう言ったあと、リディアが駆け寄ってきた。


 「ご主人様! 私は、私は……」


 リディアは言葉にならず、ただ泣いている。


 「二ヶ月なんてすぐだよ」


 俺はリディアにキスをした。この夏で俺の身長はリディアに追いついていた。


 その後、全員とキスをして、


 「じゃ、ちょっと行ってくるよ。お互い元気でな」


 俺は『リーファリア王国』に向かって走り出した。後ろでリディアが大きな声で泣いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ