042 罠と宝箱の階層
ルビナが『王城の地下迷宮』に潜るのは初めてなので、まずは地下一階から入る必要があった。
スライムやゴブリンは、いつもの“階層全滅バッチ”で片づけ、そこからひたすら地下二十一階まで走り抜ける。
《万紫千紅》クランのメンバーは全員〈身体強化〉レベル8以上。走る速さは馬よりも速く、二時間ほどでオークが出現する地下二十一階層に到達した。
「ここからはフォーメーションを組んで戦おう」
前衛 リディア、アレス、ジーナ、ルビナ
中衛 イレーヌ
後衛 セレナ、ティア
Sランク級の前衛が四人もいれば、戦闘は一瞬で決着する。三時間ほどで地下三十階のボス部屋に到着するまで、俺はすっかり忘れていた。
「あ。オークキングじゃん……」
「任せて」と女性陣に押し切られ、戦いを任せてみた。すると彼女たちはオークキングを囲み、少しずつ傷をつけていく。「何をしてるんだ?」と尋ねても返事はなく、ただチクチクと攻撃を重ねるばかり。案の定、オークキングが部屋一面にピンクの煙を撒き散らしたため、俺が首をはねて仕留めることになった。
――こいつら、わざと〈誘引(性)〉を食らったな!
〈念話〉だけで打ち合わせされると、俺には気づけない。まさかこんな使い方があるとは……。
〈誘引(性)〉にかかった六人は、以前はもっと恥ずかしがっていたはずなのに、遠慮なく迫ってきて、結局六人まとめて相手する羽目になった。なお、〈強制終了〉の使用は全会一致で却下された。
その日の帰りにギルドでオークキング討伐を報告して、ルビナはBランクへ昇格した。二つ名は《紅槌の鍛冶師》となった。
――翌日。
この日は三十一階、ミノタウロスの階層から開始。昨日と同じフォーメーションで突き進む。
ルビナがハンマーでミノタウロスを壁まで吹き飛ばす。……拾うのは俺だから構わないけれど。
ちなみにミノタウロスもオーク同様、多くの肉の部位(サーロイン、リブロース、肩ロース、ウデ肉、モモ肉、バラ肉、タン、ハラミ、レバー、ミノ)をドロップする。そのため、ドロップに変わる前に収納し、〈分解(空間)〉したほうが得だ。皮も使えるしね。
三時間ほどで四十階層のボス部屋に到達。そのままの勢いでミノタウロスキングも撃破した。この顔ぶれなら余裕だ。
――地下四十一階。
ここからは未知の領域。
この階層以降は道中に罠があり、その代わり宝箱が配置されるようになる。そのため、階段へ直行せず、〈空間把握〉で宝箱の位置を割り出し、必ず回収する方針をとった。
「イレーヌ、頼むよ」
「任せといて! 問題ないわ!」
ようやくイレーヌの〈罠探知〉と〈罠解除〉が活躍する場面だ。
この階層から天井は五メートルほど。出現するトロールに合わせて設計されているのだろう。トロールの身の丈は三メートルを超え、灰緑色の肌は岩のようにごつごつとしている。迷宮の石壁と同じ色をしているせいか、暗がりではまるで石像のように見えた。再生能力の高い魔物だが、俺たちからすれば大きいだけ。ドロップは「トロールの皮」。高級革製品に使える丈夫な素材なので、もちろん収納して〈分解(空間)〉しておく。
イレーヌを先頭に罠を解除しつつ、トロールを瞬殺しながら進む。
「その角を曲がった先の部屋に宝箱がある」
そう告げると、
「はい! はい! あたしが開けたい!」
とジーナが元気よく手を挙げた。だが、
「いや、罠があるかもしれないから開けるのもイレーヌで」
「わかった」とイレーヌが答える横で、ジーナはしょんぼり。治療できるとはいえ、無駄に痛い思いをさせたくはない。我慢してもらおう。
宝箱から出てきたのは「猛撃の腕輪」。物理攻撃力が一・五倍になる優れものだ。
「ジーナ、着けておいて」
「いいの!? ありがとう!」
これで機嫌が直るなら安いものだし、戦力も上がる。
――地下四十二階。
「あれがコカトリスか」
全長二メートル近くの鶏の魔物。嘴で攻撃し、稀に石化を引き起こす。石化を治せるのは聖魔法か光魔法のみで、この場では“アリス”しか対応できない。最悪の場合は〈性別変更〉を使うことになるが、一応石化解除の万能薬も用意してある。
「石化も厄介だが、問題はドロップだな」
コカトリスも多くの肉(もも肉、むね肉、ささみ、手羽、皮)をドロップするほか、「卵」も落とす。しかし収納・〈分解(空間)〉では卵だけ入手できない。悩んだ末、
「よし、そのままドロップさせよう」
俺の異常なドロップ率に賭けることにした。
コカトリスの攻撃は〈身体強化〉で十分回避でき、難なく撃破。宝箱からは「剛腕の腕輪」が出土。力が一・五倍になるため、ルビナに渡した。
――地下四十三階。
ここからはトロールとコカトリスに加え、“バジリスク”が出現する。
体長五メートルほどの巨大な蛇で、眼から石化光線を放つ。これが厄介だ。
対処法は複数ある。イレーヌのクロスボウで眼を潰す、俺の魔法で拘束する、セレナの高階梯氷魔法で一撃、あるいは低階梯魔法で動きを鈍らせる……。試してみた結果、
「どれでもよさそうね」
セレナの結論はそれだった。Sクラス上位の実力者ばかりなので、この程度で苦戦することはない。
宝箱からは「鉄壁の腕輪」が出現。防御力が一・五倍になるので、タンク役のリディアに渡した。
――地下四十四階。
天井が高くなり、新たに“飛竜”が出現する。竜ではなく亜竜らしいが、空を飛ぶ魔物は初めてだ。滑空しながら嘴や爪で襲いかかってくる。
しかも地上にはトロール、コカトリス、バジリスクも健在。組み合わせとしてはかなり厄介だ。
「イレーヌとセレナはワイバーンを。残りはコカトリスとバジリスクを優先。トロールは余裕があるときでいい」
イレーヌとセレナならワイバーンは瞬殺できる。コカトリスやトロールも問題ない。ただ、バジリスクの石化光線だけは警戒しておく必要がある。
「イレーヌ! 手が空いたらバジリスクの眼を潰して!」
「了解! 任せなさい!」
正直なところ、全員が本気を出せば拘束すら不要だろう。やや安全策を取りすぎたかもしれない。
宝箱からは「叡智の腕輪」。魔法の威力が一・五倍になる。まずはセレナに装備させ、二つ目が出ればティアに渡す約束をした。
――地下四十五階。
ここで新たに“キマイラ”が登場。獅子の頭、山羊の体、蛇の尾を持ち、空を飛んで火を吐く。
「……さらに面倒だな」
空から火を浴びせられるのは防御が厄介だ。地上の魔物と戦いながらではなおさらだ。
「イレーヌとセレナはキマイラとワイバーンを頼む!」
戦術は四十四階と同じだが、キマイラの炎だけは俺が〈空架障壁〉で防ぐ必要がある。
最初こそ手こずったものの、慣れてしまえば安定して対処可能だった。
コカトリス、バジリスク、ワイバーン、キマイラはレアドロップで万能薬を落とす。そのため収納はせず、自然にドロップさせるようにしている。
攻略法は固まった。ワイバーンとキマイラはイレーヌのクロスボウとセレナの氷魔法で撃破。コカトリスは速攻で頭を飛ばすか潰す。バジリスクは即殺できなければ〈空架障壁〉で囲い、隙間から首を落とす。トロールは余裕があるときについでに処理。この方針でぐっと楽になった。
***
そのまま地下四十七階まで進み、この日はそこのセーフルームで野営することにした。
これまで各階層の宝箱からは必ず一つずつアイテムが出た。
途中で拾ったのは「鷹眼の腕輪」。遠くの敵を見通せるようになり、命中率が一・五倍になる。これはイレーヌに装備させた。
さらに「石化無効の指輪」も手に入った。名前通りの効果で、回復役のティアに渡す。ちなみに俺は《勇者》の称号により「全状態異常無効」なので不要だ。
そして、もう一つ――
「『魔封じの腕輪』って呪われてたりする?」
「いいえ、そんなことはないわよ。犯罪者を拘束する際に使うものよ」
セレナが即答してくれた。今のところ使い道はないが、アイテムボックスにしまっておく。
食事は事前に用意しておいたレベル9の料理を提供。やはり大好評だった。
就寝は全員が個人用のテントを使用。だが――
夜中、イレーヌとリディアが俺のテントに忍び込み、『防音すれば絶対にバレない』と囁いてきたので、結局相手することになった。
翌朝、〈気配察知[8]〉を持つジーナに当然のようにバレていて、二人は「屋敷でのローテーション一回飛ばしの刑」に処された。




