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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第一章 アストラニア王国編

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024 二つ名とドレス

「Bランク昇格、おめでとうございます!」


 王都の冒険者ギルドで緊急クエストの達成報告を済ませようと扉を開けた瞬間、受付嬢のサフィラさんに声をかけられた。どうやら報告はすでに届いていたらしく、昇格も決定しているようだ。


「ギルド長がお待ちです。こちらへどうぞ」


 挨拶もそこそこに、私たちは二階の廊下を奥へ進み、突き当たりの無骨な扉をノックして中へ通された。


「おー、大活躍だったそうじゃねぇか、お前ら。とりあえず、そこのソファに座れ」


 そこにいたのは以前、買い取りカウンターで受付してくれた体格のいい男性職員だった。ギルド長だったのか。


「俺はここのギルド長のガルドだ。たまに買取の手伝いしてっから見たことあるかもしれんな」


「Cランク冒険者のアリスです。同じくCランク冒険者の……こちらがイレーヌとリディアです」


 二人は一応奴隷なので、私が紹介しておく。


「イレーヌとリディアは“アレス”の奴隷のはずだが? アリス、何故お前と一緒にいる?」


 やっぱり突っ込まれたか。他人の奴隷と行動するのは不自然だよね。


「アレスは私のいとこで、今回のゾンビ討伐に前衛役として二人を貸してもらったんです」


「なるほどな。アレスも一緒に参加していればBランクに上がれただろうに、もったいないことをしたな」


「そうですよね。本人にもそう伝えておきます」


 なんとか“いとこ設定”で切り抜けられた。


「では改めて――Bランク昇格おめでとう。今回の活躍で三人はBランク冒険者になったわけだが、Bランクになると“二つ名”がギルドに登録されるのは知ってるか?」


 二つ名? 必要なのか? 自分で決めていいのかな?


「慣例としてギルド長が決めることになってっから、俺が考えた二つ名で登録しておくぞ」


 えー!? 勝手に決められるの?


「まずイレーヌ。《掃滅の黒猫》だ」


 なるほど。彼女は以前から一部の冒険者に《黒猫》と呼ばれていた。ただ、“掃滅”はちょっと大げさな気もするけど……まあいいか。


「次にリディア。《疾駆の戦鎧》だ」


 これは今回のゾンビ討伐でのインパクトが強すぎたからだろう。フルプレート、タワーシールド、ランスとフル装備の重騎士が、馬車より速い速さでゾンビを弾き飛ばしながら走り回ってたからね……あんな早く動ける重騎士、他にいないんじゃないだろうか。


「そして最後にアリス。お前は――《屍滅の聖女》だ」


 『屍』!? 思いっきりゾンビじゃん!


「ギルド長! 『屍』はなんとかならないですか!? たとえば……『鬼』とか!」


「諸事情で『鬼』は絶対無理だ!」


 何故だ! どんな諸事情があるというんだ!……いや、あるね。かなりあるね。

 結局、いくら食い下がっても譲ってもらえず、「一年後の活躍次第で変更の可能性もある」と言われて諦めるしかなかった。



 無事(?)Bランクの銀製のカードを受け取った私たちは、家に帰り、今日は一日休みにすることにした。私も“アレス”に戻る。


「アンタ、王城に着ていくドレスどうすんの?」


「ドレス? 必要なの?」


「必要に決まってるでしょ! 表彰のあと、王家主催のパーティがあるのよ!」


 そういえばギルド長が言っていた。二ヶ月後、王城で開かれる大会議のあと、表彰式とパーティがあるらしい。


「二ヶ月も先だし、暇なときに作れば……」


「そんなこと言ってたら間に合わないわ! 今日休みにするんだったら、今日行きましょ! すぐ! 今!」


「えー……戻ったばかりで眠いんだけど」


「リディア! アンタもドレス作りたいわよね?」


 視線を向けられたリディアは、もじもじしながら答えた。


「ご主人様がお疲れでしたら、無理には……」


 リディアもか。仕方ない、付き合うか。俺はまた“アリス”に戻った。


「わかったよ。ドレス作りに行こう」


 どこに行けばいいんだ? と思っていたら、イレーヌがこっちこっちと手を引っ張って連れて行く。すでに頼む店は決めていたようだ。



「ようこそ。当店は初めてのご利用でいらっしゃいますか?」


 店構えも接客も、明らかに高級店。イレーヌ、容赦ないな。


「二ヶ月後の王城の表彰とパーティに備えて、三人分のドレスをお願いしたいのです」


「かしこまりました。まずは採寸を」


 採寸自体はすぐに終わった。イレーヌに聞くと、ここは最近評判のお店らしく、流行の最先端のドレスを作ってくれるらしい。ドレスの流行ねぇ……違いがよくわかんない。


 そしてドレスのデザインを決めるのが、とーってもとーっても時間がかかる。おそらくイレーヌは今ここにあるドレス、全部見る気だ。これ、今日中に終わるのか?

 イレーヌはがっついているのでわかりやすいが、リディアはおとなしそうに見えて、よく見たら真剣にデザインを見比べている。女性ってドレス選ぶの時間かかるよね。元の世界で結婚披露宴のドレスの試着を三ヶ月間、ほぼ毎日してた人を知ってる。

 私はソファに座り、出された紅茶を一人飲みながら、ぼーっと二人を眺めているのだった。


「ねぇアリス! こっちのドレスとこっちのドレス、どっちがいいと思う?」


 イレーヌが右手と左手に別々のドレスを持って、私に見せてきた。

 あー、その質問知ってる。私が答える前にすでに自分で答え決まってるやつね。元の世界で、私はこの二択を大抵外していた記憶がある。


「左手に持っているほうが、イレーヌに似合うんじゃない?」


 根拠はない。二択だからなんとなくこっちという勘で答える。真面目に考えても外すときは外すのだから。


「えー、左手のほうは少しセクシーすぎない? やはりここは若さを強調するデザインがいいと思うのよ。やっぱり右手のほうよね」


 やっぱり。この質問のやり取りって男にとっては全く意味がない。でもこのやり取りをしたってことが重要と聞いたことがある。意味がわかんないけど。


「アリス様。こちらとこちら、どちらがいいと思われますか?」


 リディアもか。女性でこの質問しない人っていないのかもね。


 ちなみに私は、「じゃ、これで」と最初にデザインを即決したのだが、「三人のドレスのバランスも大事!」とイレーヌが言うので、結局イレーヌたちがドレスを決めてくれないと私のも決まらない。面倒だが、それを顔に出してはいけない。



 お昼前にお店に入って、昼ご飯も食べずにぶっ通しでドレス選びをする二人に呆れている。すでに夕方だ。


「イレーヌ、リディア。次の休みにまた来ればよくない? 今日はこれくらいにしといて」


「そうね。一日じゃ決められそうにないわ」

「承知しました。アリス様」


 ようやく帰れる。お腹空いた。



 家に帰り、“アレス”に戻る。


「さすがに腹減っただろ。急いでつくるから、テーブルの上片付けといて」


「あ、お昼食べるの忘れてたわ。急にお腹空いてきた」

「私も夢中になってしまいました……」


 やっぱり、そうだったか。でもお腹空いたと声かけづらい雰囲気だったから、何も言わなかったのだけど。

 今日はミノタウロス丼。元の世界でいう牛丼だね。高級肉で作る牛丼だから、ちょっと元の世界のとは違うけど、これはこれで美味いのだ。


 ようやくお腹が落ち着いたところで、


「ご主人様、新しいスキルを入手されたのですよね。レベル上げをなさいますか? お手伝いいたします」


 とリディアから提案が。イレーヌは信じられないものを見る目で


「な、何言ってるのリディア!? 自分からあれをやるなんて!」


「私はご主人様のお役に立てるなら、何でもしたいのです」


 本気でそう言っているのが伝わると、イレーヌは黙り込んだ。


「じゃあ、今晩はリディアにお願いしようかな――」


「ちょっと待って! 私もやるわ!」


 結局その夜は、リディアとイレーヌを交代で相手することになった。


 そしてこの日を境に、イレーヌはリディアに強い対抗心を抱くようになる。

 ただ彼女はまだ知らない――夜のリディアが、とんでもない“化け物”であることを。


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