021 涙と微笑み
リディア・アイスフォール ヒューマン 三十二歳(見た目は十七歳)
一般奴隷 Cランク冒険者
所持スキル:
生活魔法[8]
回復魔法[8]
槍術[8]
盾術[8]
身体強化[8]
気配察知[8]
気配遮断[8]
鑑定[8]
料理[8]
美容[8]
技巧(性)[8]
御者[8]
絶倫[8]
アイテムボックスS
ステータス情報改竄
無詠唱
強靭
魔力常時回復
「うーん……やっぱり付けすぎたかなあ」
イレーヌのときもそうだったが、今回も気がつけばスキルを盛りすぎてしまった。もっとも、リディアが元から持っていたスキルに、イレーヌにも与えていた便利系を足しただけのつもりではある。
最初だけ2倍(リディアは〈強靭〉があるので実質等倍)で普通にして、あとは〈強制終了〉。それでも三時間以上かかった。
まず最初に、レベル2(2倍)から順にレベル8(1万80倍)まで試した。リディアの〈強靭〉でもレベル8はさすがに堪えるらしい。ただ脳へのダメージはなかったので、単純にきついだけのようだ。念のためレベル8のときには〈脳状態復元〉を施した。
その後もリディアが「まだ大丈夫」と毎回言うので調子に乗って続けてしまい、途中まで数えていたが、俺が貰ったスキル、リディアに与えたスキルと上がったスキルレベルから逆算すると……九十三回したことになる。異常な回数だ。誰だ優しくすると言っていたのは。反省しよう……たぶんこの記録を抜くことはこの先ないだろう。
一度で無理でも、この方法が効果的なのであれば、継続して試すつもりだ。隣で俺に抱きついたまま、幸せそうに眠るリディアの髪を撫でながら祈る――どうかうまく上書きできますように。
それからしばらくすると、リディアが目を覚ました。
「おはよう、リディア」
「お、おはようございます、ご主人様。昨晩は……はしたない姿を晒してしまい、申し訳ございませんでした……」
「何を言ってるんだ。とても魅力的だったよ」
リディアの頬が一気に真っ赤になる。そこで、少し言いにくいことを切り出した。
「ああ、それと……ちょっと騙していたみたいで悪いんだけど、今のうちに打ち明けておくね」
俺はその場で“アリス”に変身した。
「あ、アリス様!」
「リディアが男を苦手にしていたから、この姿で一緒に行動していたの。騙す形になって、ごめんね」
「ご主人様……だったのですね」
そう言って、リディアは私を強く抱きしめた。
「ありがとうございます……私は……私は……あなたに救われました……」
リディアは私を抱きしめたまま、静かに泣いていた。
そこへ、ノックもせずにイレーヌが入ってきた。
「アンタら、いつまで寝てんのよ……って、なに? 女同士で裸で抱き合ってんの!? アンタ、まさか……そっちに目覚めた!? え!? アタシのせい!?」
「落ち着け、イレーヌ」
リディアから離れた私は〈バッチ処理〉で“アレス”に戻り、同時に服を装着する。
「で、リディアのほうはうまくいったの?」
「やるだけやったけど、どうだろうな」
二人でリディアを見ると――
「あ、あの……ご主人様……足腰に力が入りません……」
また顔を真っ赤にしている。
「アンタ! ちょっと! やりすぎでしょ!」
「いや、上書きってどの程度やればいいかわからないだろ? だから“やるだけやった”」
「アンタ馬鹿でしょ!? 絶対馬鹿でしょ!」
「イレーヌ……少しお仕置きが必要みたいだね」
“アリス”のときとは逆で、イレーヌが逃げて、俺が追いかける。
ベッドをグルグル回っているが、すぐに決着がつく。
「言ったはずだぞ。七十二倍の差があるって。この身体だったらイレーヌに負けるわけがない」
「ちょっと、離しなさいよ! ちょっとしたジョークでしょ! 何マジになってんの!」
「ふふ……あはは」
リディアが眩しい笑顔で笑った。
しばらくしてリディアが歩けるようになったものの、この日のダンジョン探索は休みにした。
あとでイレーヌに聞いたところ、リディアは「あそこまでやるとは思わなかった」とか「あれはもはや違う何かだ」と言っていたそうだ。それは、良かったの? 悪かったの? どっちだ?
ただ、その後のリディアは何か吹っ切れたようで、自然な表情を見せるようになった。そして少しずつ、自分の生い立ちや家族、国のことを語ってくれた。中でも戦争捕虜時代の話は凄惨を極めた。
リディアは『ゼフィランテス帝国』と国境を接する小国の将軍の娘だった。
初陣で父と共に戦場に立ち、帝国軍と戦ったが、味方を逃がすために殿を務めたことで、帝国軍に捕まってしまう。十七歳のときだった。
将軍の娘ということで、殊更に帝国の男たちの相手をさせられ、父の籠城している城塞都市の前で、目立つように凌辱されることもあったという。
それでもリディアの国は帝国に対して十年以上もの間抵抗し続けた。だが、戦争の終盤には王都ひとつを残すのみとなり、総力を挙げて籠城していた。最後の抵抗は凄まじく、帝国は王都を攻略できないでいた。中でもリディアの父である将軍は手強く、帝国も手を焼いていた。
そこで帝国はリディアを“使う”ことにする。王都の門前で、リディアの四肢を斬ったのだ。
すぐさまリディアは血止めをされたが、切り落とした手足はその場で燃やされ、〈完治〉でも簡単には復元できないようにした。
だが、それでも王都の籠城軍には動きがなかった。そこで帝国はリディアを裸にし、性的な魔道具を身体中に付けて、王都の民にも見えるよう壁を越える高さに磔にして晒した。
ここまで耐え抜いた父も、娘の尊厳を奪われ続けて抵抗しても国に未来がないと悟り、帝国に投降。自らの命と娘を交換すると申し出、命じられるまま、自らの剣で自らの首を落としたという。
「むごすぎる……人は戦争でここまで非道になれるのか……」
リディアは淡々と語ったが、イレーヌは泣きながら彼女を抱きしめていた。
「……四肢以外の怪我は、戦争が終わってから?」
「はい。私は戦争が終わった後、奴隷商館に売られたのです」
聞けば、髪を引き抜いたり下半身を大火傷させたのは、奴隷商館でリディアを買った最初の主人だったという。従順でないことに業を煮やし、結局また奴隷商館に捨てられたのだ。
「何てことを……その主人とやらに同じ目を――」
「ご主人様、もうよいのです。私は今、心からお慕いできるご主人様に出会えましたから」
「そ、そうか……」
そう言われると、なんだか恥ずかしいな……なぜイレーヌはそこで睨む?
その後は、俺が持つスキルの説明や、イレーヌと出会った経緯の話、イレーヌがリディアに化粧を施したり、一緒に料理するなどして、穏やかな時間を過ごした。
そして、しばらくはリディアとイレーヌを同室にして様子を見ることにしたが――
「ご主人様、お願いがございます。今宵……夜伽をさせていただけませんか」
「え!?」
「リディア! 昨日の今日でしょ!? 大丈夫なの!?」
なんとリディアは今後は“普通”にしてほしいと言ってきた。すると、イレーヌも便乗して“普通”にしてほしいと言ってきて
「じゃあ、イレーヌも等倍でいいんだよね?」
「……2倍で」
一度経験したら戻れないやつ? 〈感度調整〉で倍率は変えられるから問題はないが。ちなみに〈強靭〉持ちのリディアは3倍で落ち着いた。




