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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第一章 アストラニア王国編

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019 アリスとリディア

 翌日。イレーヌとリディアが目を覚ます前に家を出て、昨日と同じ公園のベンチに腰を下ろした。

 違うのは、昨日は“アレス”だったが、今日は“アリス”であるということ。


「早朝から若い女の子が一人で座っていたら、やっぱり目立つかな」


 周囲の視線を感じる。特に男の視線が胸に向けられているのがわかるようになってきた。顔を見てから胸をちらり、あるいは胸を見てから顔に戻す――大体どちらかだ。女から見た男の視線というのは、こういうものなのだろう。まあ、私自身もつい見てしまうので責める気にはなれないが。


 ジョギングやウォーキングしている人を眺めながら、早朝から開いていた露店で買った、ホットドッグのようなものを食べる。この世界、食事に関しては「知識チート」した転生者が過去にいたんじゃないかと思う。元の世界の食べ物そのものや似たものが多いからだ。


「でも、科学知識は広めなかったんだよね。不思議」


 過去に博識な人が何人か転生してきていたようで、蒸気機関、火薬、肥料、製薬、金属加工、人体の仕組みなど様々な知識を、図解や模式図を交えて分かりやすく書いている禁書が二冊あったのだ。〈タクオの書〉と〈トミサクの書〉というその本の中身は、すべて『日本語』で書かれていて、この知識をこの世界の人々に教える気がなかったと思われる。この世界でわざわざ『日本語』で書くのはかなりの集中力が必要で、意識しないとこちらの世界の文字になってしまうのだ。これをミスすることなく全て手書きで書いたのは、もはや執念だろう。でも何のために?


「広めないほうがいい理由が何かあるんだろうね」


 未来の転生者のために書いた本、そういう風に見える。私はその知識をむやみに広めるつもりはない。何か理由があったんだろうと思うと、気軽に広めるのは危険かもしれないし、その必要も今のところない。ただ、金属加工の欄にあった鋼の成分は非常に役に立っている。高炭素鋼もここから知ったので、この辺りの知識は自分たちのために使っていくつもり。


 簡単な朝食を終え、いい時間になったのでダンジョンの前へ向かう。だが“アリス”の姿はやはり目立つようで、冒険者の男たちの視線が胸に集中して鬱陶しい。女性は皆、これに慣れてしまっているのだろうか。


「早く来ないかな、イレーヌたち」


 たまにいやらしい視線を向けてくる男に殴りかかりたい衝動を抑えていると、十分ほどしてイレーヌとリディアが現れた。


「ども! イレーヌ!」


「……なんだか気安いわね。私たち、そんな仲だったかしら?」


「細かいことは気にしない! 今日からよろしくね、リディア!」


「え? ……イレーヌ、この方は?」


 やや急ぎすぎたが、イレーヌが「アレスのいとこ」と紹介してくれたおかげで、今日から一緒に活動できることになった。

 “アレス”のときに強張っていたリディアの表情も、“アリス”相手なら自然だ。同い年くらいに見える姿にしているが、リディアのほうが背が高く、守ってくれるお姉さんのように見える。騎士らしい雰囲気もあり、安心感があった。



 さっそくダンジョンへ。


「なんだか、アリス様に魔物が集中している気がするのですが」


 私に魔物が集まるのはいつものことだ。


「リディア、“様”はいらないよ、アリスでいいよ!」


「いえ、そういうわけには参りません。ご主人様の従姉であられるアリス様にはご主人様と同様の敬意を――」


「堅いなあ。そんなの気にしなくていいのに」


 何度も呼び捨てでいいと言ったのに、リディアは敬語を使うことを決してやめなかった。


 ここまでのリディアを見ていると、ほとんど自然な表情で何も問題なさそうに見える。だが、イレーヌによれば――


「なかなか笑ってくれないのよね」


 イレーヌは何度も笑わせようとしたが、まだ成功していないらしい。


「それはイレーヌの笑いのセンスの問題――」


 と言っている途中で、イレーヌは私のお尻を音がするほど思いっきり引っ叩いた。


「いったー!」


「小娘が生意気な口をきくんじゃないわよ!」


「二十七歳のおばさんには冗談も通じないの? ほんとこれだから――」


「二十二歳よ! よし、その喧嘩買った! 相手してやる!」


 掴みかからんとイレーヌが突っ込んできたので、華麗に躱す。


「〈身体強化〉、レベル8とレベル10だと、スキル経験値で言えば七十二倍の差があるのよ。イレーヌに私は捕まえられっこないわ。残念でしたー。べー」


「小娘、いい度胸じゃない……後悔させてやるわ!」


 リディアの周りをぐるぐる逃げ回る私とそれを追いかけるイレーヌ。しかし、七十二倍の差があるはずなのに、まだこの身体に慣れていない私は全力で走るとバランスを崩すのだった。


「あらあら。もうちょっとで捕まりそうよ。しっかり逃げなくていいのかしら」


「くっ……七十二倍の差があるはずなのに生かせない……」


「ほら、つっかまーえた!」


「ぬおっ!」


 なぜ胸を鷲掴み!? 負けじとこちらもイレーヌの胸を掴む。


「〈技巧(性)〉、レベル8とレベル9だと、スキル経験値で言えば八倍の差が――」


「二十二年女をやっている私に勝てると思っているの!? 小娘!」


「やってやる! 八倍の差を思い知れ!」


 ***


「ううっ……すみませんでした、イレーヌさん……」


「わかればいいのよ。今後は調子に乗らないことね」


 くそっ。夜は雑魚のくせに。


「なにか言ったかしら?」


「いえ、なんでもないですー。年取ると空耳でも聞こえるんじゃないですかー?」


「ちょっと! 全然わかってないじゃない! もう一度やるわよ!?」


「……すみませんでした」


「フフッ」


 リディアが少し笑った! 私とイレーヌはお互い目を合わせ「これだ!」と思った。

 と言っても、特別なことをするわけじゃない。ほとんど素の状態でイレーヌとやり合うだけだ。


 その後数回やり合ったが全敗だった。


 ただ一つ解せないことがある。


 イレーヌは私の奴隷である。

 これは「主人を害していることにならないのか?」ということ。イレーヌによると


「“アレス”と結んだ契約だから“アリス”に対しては無効っていう可能性が一つ。ただ、この可能性は薄いわね。“アレス”と“アリス”は同じ血のはずだもの。〈血契約(ブラッドオース)〉である以上、どちらでもこの契約は有効であると考えられるわ。そうなると、もう一つは……」


「もう一つは?」


「アンタが『害された』と思っていないからよ」


 そんなバカな!


「だって昨晩もさんざん弄ったけど、何もなかったじゃない。もしかして、またやってほしいとか思ってるんじゃないの?」


「思ってない!」


 〈隷属魔法〉ゆるすぎない? でも罰を与えたいとまで思っていないのは事実だ。痛い目を与えたくはない。夜に仕返しすればいいのだ。



 少しずつ笑ってくれるようになってきたリディア。この調子でいこう。

 帰りは一緒に借りている家へ。“アレスの許可を得た”ことにして、アリスの姿のまま自分の部屋を使った。


「まだレベルが低い新しいスキルがあるんだよね」


 その夜はイレーヌにきっちり仕返ししておいた。



 一週間後。

 オーダーしていたリディアの武器と防具だけ先に完成したので、アレスで受け取りにいき、アリスで家に戻ってアレスから預かってきたことにして、リディアに渡す。なかなかこの設定が面倒くさい。


「おお。重騎士だ! かっこいいね! リディア!」


「いえ……そんなに見られると少し恥ずかしいです……」


 冒険者でフルプレートアーマーにタワーシールドはあまりいない。しかも女性だと、今まで見たことないかもしれない。


「重いでしょ? 動くのつらくないの?」


「大丈夫です。十五年ぶりにはなりますが、筋肉も戻ってきましたし、身体も若くなったので、この重さにはすぐに慣れると思います」


 そうだった。リディアは人生の半分近くを捕虜と奴隷として過ごしてきた。戦うのも久々だろう。


「じゃ、今日はリディアに慣れてもらうためにゴブリン討伐をメインにしよう」


「そうね。薬草採取ばかりじゃ飽きるし」


「承知しました、アリス様」



 ダンジョン地下六階へ。

 前衛でリディアはタンク、中衛でイレーヌはクロスボウ、後衛で私は魔法。剣を振るうと、まだ慣れないこの身体だとバランスを崩すので、“アリス”では魔法に徹することにした。


 だが――


「ねぇ、ゴブリンが全部アンタに向かうのどうにかなんないの?」


「今のところ……無理」


「私は楽なので構いません」


 リディアにタンクをさせてあげられないのは申し訳ない。ひたすら〈風刃(ウィンドエッジ)〉で倒しまくり、もうゴブリンは煙に変わる前に収納する意味もあまりないので、そのまま放置してゴブリンを魔石に変わらせる。


「なんだかアンタがいるとドロップ率も変じゃない? 地下五階までで、スライムゼリーが山のように貯まったわよ」


「それも最初からそうだったから……理由はわからない」


「得しているのですから、いいではないですか」


 リディア、ありがとう。

 結局リディアはタワーシールドを使う必要がなくなったので、イレーヌから借りているマジックバッグにタワーシールドをしまうと、私に向かってくるゴブリンをランスで殲滅することにしたようだ。フルプレートなのに意外と身軽に動けるんだね。


 さすがに地下六階から地下九階のゴブリンは相手にならず、そのまま地下十階のボス部屋まで来てしまった。


「もうボスも倒しちゃう?」


「いいんじゃないかしら。楽勝だと思うわよ」


「承知しました、アリス様」


 いざ、ボス戦へ。


 ボス部屋に入るとゴブリンファイター二匹、ゴブリンアーチャー一匹、ゴブリンマジシャン一匹、そしてこの階層のボスのホブゴブリンが一匹いた。


「へえ、こんな構成だったんだ」


「アンタ、ここ初めてだったっけ?」


「いや、前は瞬殺だったから、何がいたのかすら確認してない」


「?」


 リディアだけきょとんとしている。その顔可愛い。


「じゃ、やりますか。リディア行ってみる?」


「お任せください」


 そういうとリディアは単身ゴブリンたちに突っ込んでいった。

 いつの間にか装備していたタワーシールドで、矢や魔法を弾きながら、一気に距離を詰めたリディアは、近づいてきたファイター二匹をタワーシールドで殴りつけるように吹き飛ばし、アーチャーとマジシャンの頭部をランスで一刺しずつで倒すと、未だに倒れていたゴブリン二匹の頭を刺して、あっというまにホブゴブリンと一対一になった。


「リディア、強いね」


「フルプレートでランスとタワーシールド持ってあの動きは凄いわよ」


 振りかぶったホブゴブリンが、こん棒を全力でリディアに叩きつけようとするが、リディアはタワーシールドでそれを受け流し、態勢を崩したホブゴブリンの頭をランスで貫き、ボス戦はあっという間に終わった。


「凄いね、リディア! 圧勝じゃん!」


「いえ。まだ全盛期ほど動けていないのは自分でもわかりました。もっと鍛錬が必要です」


「そんなに急がなくてもいいからね。少しずつ戻していこう」


「かしこまりました、アリス様」


 リディアは大分笑顔が見られるようになってきた。

 これで少しずつ心も回復できればいいな。


 その日は地下十階ボス部屋の先のワープポータルで帰ることに。今日待っていた男娼は三人……毎回人数違うよね。


 こうして、私とリディアはDランク冒険者になった。


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