表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第一章 アストラニア王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/139

018 アレスとアリス

 まだ店が開く前に外に出たので、王都とはいえ、人影はまばらだった。

 今は二月下旬だが風もなく、柔らかな朝陽を浴びながら、近くの公園のベンチに腰を下ろす。


「この時間帯はジョギングやウォーキングをしている人がいるんだな」


 昼間には見かけない、動きやすい服装で走ったり歩いたりする人々の姿が目に入る。

 異世界でも健康に気を遣う人は一定数いるのだなと感心した。


「さて、これからどうするか……」


 リディアのために家を空けてはいるが、イレーヌがうまくやれているのか気になる。

 もっとも彼女は「男は近づけたくない」と言っていたし――。


「あ、男じゃなければいいのか!」


 イレーヌたちがダンジョンに出かけたのを見計らい、借りている家へ戻る。

 彼女が「絶対必要」と譲らなかった姿見が、まさかここで役立つことになるとは。


 禁書でこの魔法を見つけたとき、「使うことはないだろう」と封印を決めていた。だから存在すら忘れていたのだが……。今こうして使おうとすると、どうにも背徳感が拭えない。進んではいけない道に足を踏み入れるような、そんな感覚がある。


「ええい、覚悟を決めろ! ――第十階梯性魔法〈性別変更(ジェンダーシフト)〉!」


 ◇


 身長は変わらないが、髪は伸び、顔立ちは女性らしくなっている。骨格・肉付きが女性的になったせいか、服はぶかぶかで、気を抜けばズボンも下着も落ちそうだ。これは女性用の服を揃えねばならない。


「……自分で言うのも変だけど、結構可愛いかもしれない」


 そう呟きながら鏡に映る姿を見て、思わず「変態だな俺」と心の中で突っ込む。

 だが映っている女の子は、紛れもなく可愛かった。声も高く澄んでいて、余計にそう思わせる。


「ちょっと服を脱いでみよう」


 確認する必要はあるだろう。あるのだ。


「胸、結構あるな」


 ヘレナさんやティアさんほどじゃないが、イレーヌやリディアよりあるかもしれない。

 ただ触っても「自分の肉」という感覚しかなく、特別な感動はない。むしろ鏡を見たほうが、元の世界でもここまで可愛い子がヌードになったことは無いよなという感動があった。変な感覚だ。


 もう一度、男のときに着ていた服を身に着ける。腰回りがぶかぶかだが、紐で無理やり絞る。


「さすがにノーブラはまずいな」


 これはセクシーすぎるだろう。上に何か羽織れば隠れるか。



 前にもお世話になった古着屋『時のほつれ屋』で冒険者時に着る服、下着などを3セットと靴を買う。よく見たら足のサイズも小さくなっていた。

 そして下着だが、なんとこの世界にはスポーツブラとスポーツショーツと呼ばれるものがすでに存在した。以前の女性勇者が作らせたことがきっかけらしい。勇者って女性のときもあるのか。

 俺は迷わず、そっちにした。セクシー系の下着はまったく必要ない。男を相手にする気はこれっぽっちもないのだから。

 ブラを買う際にサイズを測ったらFカップだった。俺にここまでの胸は必要ないのだが。


 その場で着替えて外に出たが、一度家に戻ることにする。

 〈性別変更(ジェンダーシフト)〉の欠点に気づいたからだ。


「これ、女から男に戻るとき、裸じゃないと無理なんじゃないか」


 即座に男に戻らなければいけないとき、いちいち裸になっていられない。男から女へ変わるときでも、ノーブラでズボンを持ちながら現れるのもまずい。

 ということで〈バッチ処理〉を組んだ。


 透明化

  ↓

 着ていた下着・服をすべて亜空間収納して〈洗浄(クリーン)

  ↓

 女性化

  ↓

 指定した女性用の下着・服を亜空間収納から装着

  ↓

 聖魔法と聖女をセット

  ↓

 透明化解除


 〈バッチ処理〉組んでいて気づいたが、女になった状態であれば、〈聖魔法〉と《聖女》が使えるのだ。これは思わぬ収穫だった。


 これの男に戻るバージョンも作り、〈バッチ処理〉で即座に男と女を切り替えられることを確認した。

 透明化前に光らせたらヒーローの変身シーンみたいだなと思ったが、生活魔法の〈光明(ライト)〉だと光量不足のようなのであきらめた。むしろ光らないほうが有用だと後で気づいたが。


 そして、女性になって冒険者ギルドへ。

 この見た目で「アレスです」というのは無理があるので、別名で登録しようと考えたのだ。


「名前は……アリスでいいか」


 “アレス”と一文字違いくらいが、自分でもわかりやすいと思い、冒険者名は「アリス」で登録した。またEランクからになるが。

 少し意外だったのは、“アレス”のときに比べると注目されなかったこと。テーブル席の女性陣は一切見てこなかったし、ナンパしている男たちもチラッと見たくらいで、ナンパのほうに集中していた。ただ、新人冒険者に見える男の子たちは色めき立っていたが、声をかけてくることはなかった。


 登録が終わればダンジョンへ。アイテムボックス内は“アレス”のときのままだから、このままダンジョンに入っても何の問題もない。さっそくイレーヌとリディアを探してみよう。


 動いてみて気づいたが、胸にかなり違和感がある。これって重さどれくらいあるんだろ……“アレス”のときと体感バランスというか重心が違うのか、歩くだけでも変な感じがする。あと、腕も足も細くなった分、〈身体強化〉なしだと筋力がだいぶ落ちている感じだ。


「話し方も直さないとな……」


 どうしても“俺”といいそうになるところを頑張って“私”に変えてみても、全体的に男が話している言い方になってしまう。女装した感じを意識すればいいのかな? 声はそのまま女性だから、気持ち悪い感じにはならないだろうし。ただ、慣れるまで恥ずかしいだろうな。


 ダンジョンに入り、一階層ごとに〈気配察知〉で確認する。さすがにイレーヌとリディアの気配ならわかる。

 そういやイレーヌが〈気配察知〉を使ったら、私が“アレス”って気づくんだろうか。ちょっと興味があるな。


 地下六階で二人の気配を見つけた。やはり地下一階から地下五階のスライムエリアは、薬草リポップ待ちで埋まっていたんだろう。私のときと同じようにゴブリンエリアで採取しているようだ。

 ただ、相変わらずスライムもゴブリンも私に向かってくるので、なかなか鬱陶しい。全部〈風刃(ウィンドエッジ)〉で倒している。剣を使わないのは、まだこの身体に慣れていないから。ようやくイレーヌとリディアが見える位置まで着いても、私はひたすらゴブリンを倒さないといけなかった。


 イレーヌは「変な女がいる」みたいな眼で私を見ていた。それまでリディアに話しかけながら、薬草採取をしつつゴブリンを警戒していたのだろうが、全部のゴブリンが私に向かっていくので、楽にはなったが「なんで?」という疑問符もついただろう。

 私も様子を見に来たのに、頻繁に現れるゴブリンにうんざりしていた。


 リディアは元々口数が少ないほうだからなのだろうが、一方的にイレーヌが話しかけているように見える。何を話しているかまでは聞こえないが、イレーヌの声とイレーヌの笑い声が時折聞こえる。あいつ頑張ってるなあ。リディアも私が見ていたときよりは、ほんのちょっとだけ柔らかい表情をしているかな。順調なのかもしれない……って、またゴブリン! 瞬殺してやる!


 ちらちらと見ていたら、場所を移動するようだったので、ついていく。次の採取エリアに着いたとき、イレーヌはあからさまに私を警戒していた。たしかに同じタイミングで同じ場所に移動してきて、ちらちら見られたら警戒するか。ここは退散しよう。警戒させたかったわけじゃないし。


 ◇


 冒険者ギルドに戻り、今日の収穫を提出する。そういや以前〈バッチ処理〉で採り過ぎて、収納に入れたままのやつがあったなと思い出し、不自然にならないくらいに今日の収穫に足して提出した。


 そして、帰ろうとしたとき、


「ねぇ、君、ひとり?」


 なかなかイケメンの男の子の冒険者に声をかけられた。同い年か年下かな。


「ええ、今日冒険者になったばかりなの」


 自分で話していてすごく違和感があるが、慣れよう。


「そう。だったらさ、俺と――」


「お前はヘレナさんがいるだろー!」


 もう一人の男の子が割って入ってきた。え? ヘレナさん?


「ヘレナさんって、もしかして『翠風亭』の?」


「あー、やっぱり知ってたか……〈新人喰い〉のヘレナさんのこと。今、俺そこに宿取ってて……」


「こいつ『二階』に泊まってんだぜ!」


 え? もしかして冒険者には有名なのか、ヘレナさん。


「数年前にギルドに注意されてから、最近まではおとなしかったらしいぜ! 最近、すごく妖艶になってきて、誰か捕まえたに違いないって先輩が言ってた!」


 先輩か。私、先輩とそんなに関わってないからなあ。〈迷宮の薔薇〉くらいか。でもこの手の話なら、知ってそうなのは男の先輩のほうか。


「ヘレナさん、最初はよかったんだけど、最近不満言い出してきたんだよな。前はもっとよかったって」


 (……ごめん、名前も知らない男の子。それ多分私のせいだ)


 放置してもよかったが、彼が今、ヘレナさんの相手をしているんだったら、少しは手助けしてあげよう。


「あの……これは人から聞いた話なんだけど、ヘレナさんには弱点があってね……」


 女の私がこんなことを言うのはどうなんだと思ったが、役に立つ情報のはずだ。


「おー! 今夜試してみるよ! サンキュー! で、さっきの話だけど――」


「ごめんね、私は組む予定の人たちがもう決まっているの。それじゃ」


 それだけ言って足早に去った。男に興味はないのだ。ヘレナさんで頑張れ。

 というかヘレナさん、常習犯みたいじゃないか。まあ、次を見つけていたから、私としてはよかったのかな。


 ◇


 夜。アレスに戻り、イレーヌとリディアが眠ったころを見計らって、借りている家に帰る。リディアには〈熟睡(ディープスリープ)〉をかけ、イレーヌを起こす。


「ごめん、ちょっと話がある」


 二階のダブルベッドだけ置いてある俺の部屋へ。


「なによ急に。まだ二日目じゃない」


「ああ、とりあえずこれを見てくれ」


 そう言って、俺はアリスに変わる。


「は!? ダンジョンにいた子!? アンタだったの!?」


「そう。魔法で女性になってみた」


 まじまじと私を見るイレーヌ。


「ほんとに女性になっているの? ちょっと服を脱いでみて」


 まあ、女装しただけって思われてもしかたないか。脱ぎましょう。


「どう? ちゃんと女性でしょ?」


 私の周りを一周回りながら観察していたイレーヌは、突然胸を掴んできた。


「ちょ! 何するの!?」


「言葉遣いは気を使ってるのね。……にしても、なんでこの胸はアタシやリディアより大きいのよ!」


 と言いながら揉み始める。


「ちょっと待って! イレーヌ! 胸の大きさは私が決めたんじゃないんだって! まだこの身体慣れてないんだから……ちょっと! 弄るな! 触るな!」


「へぇ、いいこと聞いちゃった。もしかして、この辺弱いんじゃ?」


「ちょ、やめろ! イレーヌ! あとで仕返しするぞ!」


「じゃあ、今は仕返しできないのね。ふふふ」


 まずい! この身体だとイレーヌに負ける! 早く男に戻らねば!


「ふふ。何も考えられないようにしてあげる」


「うわぁぁぁ!!」


 ……散々弄られて、ダウンしたら解放してくれた。ようやく男に戻る。


「いや、こんなことしたくて女性になってみせたんじゃない!」


「そんなに怒んなくていいじゃない。毎回私がどんな目にあってるか少しはわかったんじゃないかしら」


「ぐっ……」


 だいぶ本題からずれたな。


「で、さっき女性の姿、アリスっていうんだけど、しばらくアリスでイレーヌたちと一緒に行動しようと思って」


「なるほどね。たしかにもう一人いてくれると助かるわ。会話の幅も広がるし」


「そっか、じゃ明日から合流でいい?」


「そうね。ダンジョン前で落ち合いましょ」


 イレーヌの許可も貰ったので、明日からアリスで合流しよう。


「そうだ、イレーヌ。最近新しいスキルを手に入れたんだけど、レベルがまだ低くてね……さっきはよくもやってくれたな?」


「さっきのは冗談みたいなものじゃない! 何マジになってんの!? ちょっとからかっただけでしょ!? ちょ! 悪かったわ! 待って!……」


 今日は〈魔法付与〉だけレベル9にしておいた。その後イレーヌにせがまれて朝まで一緒に眠った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ