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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第一章 アストラニア王国編

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017 魔道具店とエルフの店主

 奴隷二人と別れ、一人になってしまった。さて、何をしようか。

 ダンジョンに潜るのも悪くはないが、スキルレベルはイレーヌで上げているし、金も余るほど稼いでいる。「一人で行くのもなあ」という気分だ。どうせ行くなら、イレーヌやリディアと一緒に潜って、Bランクを目指したい。


 そうなると、一気に暇になるわけで。


 「何かないかなあ」とぼんやり考えながら街を歩いていると、ふと視線の先に『ローレリン魔道具店』という看板が目に入った。


「そういえば、あそこは人工マジックバッグを売っているって言ってたな」


 ギルドの受付でマジックバッグの話をしたときに教えてもらった店だ。暇だし、ちょっと覗いてみよう。


「いらっしゃいませー!」


 扉を開けると、目の前に女性が立っていた。

 明るく元気な声をかけてきたのは、二十歳くらいに見える女性。プラチナブロンドの髪をセミロングに伸ばし、美しさと幼さが同居する顔立ちをしている。胸は……Eカップと見た。

 それよりも――耳が長くて尖っている! エルフを初めて見た!



 フィリシア・ローレリン エルフ 百五十五歳

 ローレリン魔道具店店主


 所持スキル:

  火魔法[5]

  水魔法[5]

  生活魔法[5]

  空間魔法[5]

  魔法付与[5]

  魔法陣付与[5]

  魔法陣生成[5]

  料理[3]



 百五十五歳……さすがエルフだ。見た目からはまったくわからない。たしか平均寿命は千年だったはず。

 それにしても、俺以外で〈空間魔法〉を持っている人を初めて見た。〈魔法付与〉と〈魔法陣付与〉は別スキルなんだな。〈魔法陣生成〉もあるし、魔道具を作るには必須の能力なのかもしれない。


「どういうのを探しているの? マジックバッグとかおすすめだよ! とりあえず中へ、中へ!」


 ぐいぐい来る人だな……腕を組まれて、半ば引きずり込まれるように店の中へ。胸が腕に当たっているんですが。

 店内には用途不明の魔道具が並んでいたが、メインはやはりマジックバッグらしい。フィリシアさんはショーケースから一つを取り出した。


「これが今、当店人気ナンバーワン! デザインもいいし、魔石の持ちも従来の一・五倍! さらに使用者権限と時間停止機能付きで三百五十万Gから! どう? お得でしょ!」


 バッグを手渡すときに、俺の手に触れてくる。この人、ボディタッチが多いな。冒険者ギルドのテーブル席で逆ナンしてきた女冒険者ですら、ボディタッチはしてこなかったぞ。


「使用者権限っていうのは?」


「あー、天然のマジックバッグは誰でも使えるじゃない? だから殺して奪おうとかするやつが出てきたりするんだけど、このマジックバッグは、買ったその人しか使えなくできるの!」


 なるほど。人工だとそんな機能まで付けられるのか。


「買った人が事故や病気で亡くなったら、どうなるんですか?」


「その場合は国から盗難品でない証明書をもらってきてくれれば、私が使用者変更してあげるわ。――あ、こっちにもいいのがあるの」


 腰に手を回してくるフィリシアさん。……いやいや、誤解するだろ。いや、誤解させたいのか?


 ふと思い出す。

(そういえば《悲しみの魔女》が言っていた。俺、エルフにモテモテになってるって)


 これがそうなのか? しかし、俺にマジックバッグは必要ない。


「そうですね、もう少しお金を貯めてから出直してきます」


「あら、君なら少し安くしてあげるのに。あ、そうだ! ちょっと待ってて。試供品があるの!」


 試供品? 元の世界だと、香水とか化粧品とかで聞いたことがあるけど、魔道具店で試供品?


「あ、これこれ。『携帯通信機試作版』! これを持っているとね、離れていても会話ができるの」


 へぇ。携帯電話みたいなものかな。でもボタンが一つしかないな。


「これ、誰と会話できるんですか?」


「へっへっへ。私です! 私はフィリシア・ローレリン。あなたは?」


「アレスです。あとで携帯通信機、試してみますね」


「絶対よ! またお店来てね!」


 両手で握手され、名残惜しそうに手を離される。……うん、これはわざと? 天然でやってるなら、それはそれで罪深い。念のため、彼女の気配は覚えておこう。



 店を出た俺は、公園のベンチに腰を下ろし考える。

 《悲しみの魔女》の言葉通りなら、フィリシアさんは俺に好意を持っているはずだ。

 そして俺は、彼女の持つ〈魔法付与〉が欲しい。〈魔法陣付与〉や〈魔法陣生成〉ももちろんだが、それは後でもいい。武器や防具に魔法を付与できれば、戦闘の幅は格段に広がる。準備はしておくに越したことはない。

 ……夕飯にでも誘ってみるか。


 とはいえ、まだ昼を少し過ぎたばかり。夕方まで王都を散策しておこう。



 十八時を回った頃、『携帯通信機試作版』が震え出した。まさかのバイブ機能。ボタンを押すと――


『アレス君! なんで連絡してこないのよ!?』


『いや、仕事中かと思って遠慮してました』


『そう。ならいいわ。とにかく今すぐ店に来て! 絶対よ!』


『わ、わかりました。すぐ向かいます』


 強引だな。けど、俺も食事に誘うつもりだった。ちょうどいい。



 『ローレリン魔道具店』に着くと、フィリシアさんは店を閉めていた。


「よし! ちゃんと来たね! さあ、入って入って」


 また腕を組まれて、半ば引きずり込まれる。胸が当たるのはデフォルト仕様らしい。


「このあと私が夕飯作るから、食べていってね。絶対よ!」


「は、はい。いただきます」


 かなり押しが強い。これで好意がなかったら女性不信になるぞ。


 フィリシアさんは表の扉にかけていた“開店中”の札を“本日は閉店しました”にひっくり返して、店内の魔道具ランプを消すと生活魔法の〈光明(ライト)〉で室内を照らした。


「私の住んでいる家はこの店の裏にあるの。ついてきて」


 ついてきてと言いながら腕を組んで引っ張っていくので、これは連行されていると言っていいだろう。もう流れに身を任せよう。


 店の裏にある建物は石作りの二階建てで、一階はマジックバッグを製作する工房だった。


「ここでマジックバッグ作っているんですか? 一度見学してみたいですね」


「アレス君なら、いつでも見せてあげるわ」


 なんだろう。何もしていないのに好意を持たれるのは、変に罪悪感みたいなのを感じるな。俺が悪いわけではないのだろうけど。


 二階に上ってみると、生活スペースとして利用されていることがすぐわかる部屋があった。綺麗に整頓されているが、各部屋は扉が開け放たれている。もうすぐ三月とはいえ、外の気温はまだ寒いくらいだ。だが、この部屋は暖房の魔道具でもあるのか、とても過ごしやすい。扉を開けていても大丈夫なんだろう。


「じゃあ、ここで座って待ってて。すぐに準備するから」


 フィリシアさんは夕飯を作ると言っていたが、実際はすでに作ってマジックバッグに入れていた料理をテーブルに出していった。クリームシチューのようだ。


「おお! これはおいしいですね!」


 お世辞抜きで美味しい。しかし、フィリシアさんは〈料理〉スキルレベル3だったはずだ。レベル3は普通レベルのはずだが、ここまでおいしい料理を作れるのか?


 一気に平らげて一息ついた俺は、容器の底に何か書いてあるのに気づいた。


「あれ? 底に何か書いて――」


 俺が話している途中で、フィリシアさんは慌てるように容器をマジックバッグにしまった。


「あ、も、もう食べちゃったのね。足りなかったら、まだあるから言ってね」


 なるほど、買ってきた料理か。可愛いところあるな。


 その後他愛もない話をしながら、フィリシアさんはワインを飲み始める。この世界では俺も飲んでいい年齢らしいので、少しだけ付き合ったのだが――

「アレス君。今日は泊まっていくのよ。絶対よ」


 やはりフィリシアさんは強引だった。


「アレス君。泊まったってことは……わかってるよね」


 そして、やはりフィリシアさんは強引なのだった。というか、止まらなかった。ようやく六回戦後、フィリシアさんは俺に抱きついたまま眠った。

 俺は欲しかった〈魔法付与〉、〈魔法陣付与〉、〈魔法陣生成〉を複製できたが、()()()六回戦までした疲れからか、俺もフィリシアさんに抱きつかれたまま眠り込んでしまった。



 朝。目を覚ますと、満面の笑顔で――


「アレス君! おはよ!」


 いきなりキスされた。朝食まで用意され、店が開く前に帰ろうとすると――


「また来てね!」


 再びキスされた。


 ……俺は昨日会ったばかりなのに、いつの間にかこんな関係になっていた。

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