016 体と心
イレーヌ ヒューマン 二十二歳
一般奴隷 Cランク冒険者
所持スキル:
闇魔法[8]
生活魔法[8]
短剣術[8]
弓術[8]
身体強化[8]
気配察知[8]
気配遮断[8]
罠探知[8]
罠解除[8]
鑑定[8]
料理[8]
美容[8]
窃盗[8]
技巧(性)[8]
絶倫[8]
アイテムボックスS
ステータス情報改竄
無詠唱
魔力常時回復
「うーん……付けすぎたかなあ」
元々イレーヌが持っていたスキルに追加していったら、だいぶ増えてしまった。
物理攻撃主体で戦いたいというので攻撃魔法は与えていないが、デバフ用の〈闇魔法〉と生活に便利な〈生活魔法〉は持たせた。
イレーヌのメイン武器はナイフなので、大型の魔物相手になると火力不足になりそうだ。常に前衛として戦うのは難しいだろうと考え、〈弓術〉も渡してある。「アタシ、弓とかまったく触ったことないんだけど?」と言われたが、その点は考えてあるので大丈夫。
〈料理〉はしてくれてもいいのよ? という淡い期待を込めている。
〈技巧(性)〉は渡したらどうなるんだろう? という個人的な興味です。そうなんです。実験みたいなものです。
〈絶倫〉は俺のスキルレベルを9にするため。イレーヌには内緒で、俺のスキルレベルを9にしていく予定。こういうのを付けると必然的に〈ステータス情報改竄〉が必要になるわけで。
あとは便利スキルを詰め込んだ。やっぱり多いかもしれない。
朝起きてきたイレーヌに
「今のイレーヌ、たぶんSランク上位の強さだと思うよ」
「え!? 本当に!?」
ギルドの受付で雑談レベルでしか聞いていないが、Sランクパーティには、有用なレベル8スキルを持つメンバーが複数所属していることが多いらしい。イレーヌのようにすべてのスキルがレベル8の冒険者は、世界でも数えるほどしかいないだろう。
「身体が慣れるまでは使いこなせないかもしれないけど、今のイレーヌを倒せる人はほとんどいない。安心して生活できると思う」
「おおー! ちょっと楽しくなってきたわ! アレス、やるじゃない!」
背中をバンバン叩かれる。あれ? これは主人を害するに入らないのか? 入らないのか。
実は、昨晩イレーヌをやっつけたあとの夜中に、王城に忍び込んできた。
イレーヌからもらった情報を渡すためだ。イレーヌが頑張って書いた書類の束、イレーヌと特定できそうな部分は〈修復(空間)〉で跡形もなく消してある。俺はあまりこの情報に興味はなかったんだが、
- イレーヌは地下組織で、盗賊が誘拐した非合法の奴隷をゼフィランテス帝国へ送る仕事をしていた。
- 非合法奴隷の売買には大手商会も関与している。
- 賄賂を渡している役人に見逃してもらっている。
- 組織は今後、この国に麻薬を広める予定。すでに最初の分は運び込まれており、販売ルートと開始タイミングが決まれば、即座に販売可能。
ざっくり言うとそういうことだったので、国に丸投げしようと思い、以前見つけたでっかいベッドの部屋に忍び込んだ。どうやら王様の部屋だったらしい。
十人は余裕で寝れる大きいベッドに一人眠っている王様の真横に書類の束を置いて退散。情報を信じるか、組織を潰すかもすべて丸投げ。好きにしてほしい。
朝食を作っていると、イレーヌがリディアを連れてきた。
長い銀髪を後ろで一つに束ね、静かに歩いているが、四肢をすべて再生したせいか、歩き方がまだおぼつかない。背が高く、立っているだけで目を引くほどの美しさだ。肌は透き通るように白く、しなやかな姿には優雅ささえ感じられる。
「お、おはようございます、ご主人様。イレーヌから事情は聴きました……治療していただきありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしてくれるリディア。どこかの奴隷とは随分違うな。
しかし、俺と目が合うと、彼女は目をそらしてしまう。肩を少し丸め、息を整えようとするその様子には、ほんの小さな緊張が滲んでいた。
「ああ、気にしないで。俺が治療したくてやっただけだし。とりあえずそこに座って」
身体がうまく動かせないようなので手を貸そうとした瞬間、
「!」
リディアは驚いたように、俺から離れてしまった。
「アレス……リディア、まだ男を怖がってるみたい。許してあげて」
……身体の傷しか治せていない。そこに思い至らなかった自分が情けない。
その後三日かけてリハビリを行った結果、リディアは人並みに動けるようになった。
俺はというと、リディアを怖がらせたくないので、朝食を食べたら、ソロでダンジョンに行くようにしていた。イレーヌとリディアは留守番だ。
髪の毛もイレーヌが切ってあげていたが、まるでプロが切ったかのように綺麗にまとまっていた。さすが〈美容[8]〉。
日中、イレーヌはたくさんリディアに話しかけ、心の傷を癒す方法を探していると言っていた。そこで少しだけ聞き出せたのだが、リディアは十七歳のときに戦争の捕虜になってから十年以上も捕虜として捕まっていたらしい。戦争の終盤で四肢を斬られ、戦争が終わったらそのまま奴隷商館に売られた。
「できることなら、人生をやり直したい」
とリディアは言っていたそうだ。十七歳から、今は三十二歳か。一番楽しい時期をずっとひどい目にあって過ごしたのか。
夕方、ダンジョンから帰ってきてこの話を聞いた俺は、リディアを呼び出した。
「リディア、少し用事があるので、こっちにきて」
びくっとするリディアを見てイレーヌが
「アレス! リディアはまだ男が怖いの! 無理させないでよ!」
「いや、必要なんだ」
リディアを対面のソファに座らせる。
「リディアには今日から新しい人生をやり直してもらう」
「……?」
「まあ、すぐにわかるよ。――第九階梯性魔法〈年齢調整〉」
禁書に書いてあった魔法の一つ。年老いた時に自分を若返らせるために使うくらいだろうなと思っていたが、まさか人に使うことになるとは。ちなみにこれは寿命が延びるわけではなくて、見た目が若返るだけだ。それでも十分凄い魔法なんだが。みるみるリディアが若返り、十七歳くらいの見た目になった。
「な、なんなのよアレス、その魔法は! そんなのあるなんて聞いてないわよ! アタシにもかけなさいよ!」
「いや、イレーヌは必要ないでしょ。二十二歳が若返っても大差ないし」
「あるのよ! つべこべ言わずにかけなさいよ!」
「十分美人だし、俺は今のままの方がいいと思うけど」
イレーヌが少し赤くなって黙った。しばらくして「やっぱり、かけなくていいわ」とだけつぶやいた。
***
その日の夜、リディアのことについて話があるとイレーヌに言われた。
「リディアなんだけど……冒険者をやらせてみたらどう?」
まあ、たしかに俺は元々パーティを組むために奴隷買おうと考えていたから、リディアを冒険者にするのは自然な流れではある。たしかリディアは戦闘スキルも持っていたはずだ。
「やっぱり、ずっと家にいるのはよくないわね。外で体を動かした方が気も紛れるし」
「まあ、イレーヌのいう通りだね」
「じゃ、明日武器屋に行って、それからギルドね」
「ああ、わかった。」
「それと」とイレーヌにしては珍しく言いにくそうな感じで言ってきた。
「しばらくアタシとリディア、二人で生活してみてもいいかしら?」
「あー、男から離れたいってことね」
外で会う分には問題ないだろうとイレーヌは言う。同じ屋根の下に男がいるのがダメなのだ。
ただ、奴隷を買ってすぐに奴隷だけで生活させるのはどうだろう? ちゃんと生活費を渡せばいいのか?
しかし、リディアの心の傷を癒す方法は思いつかないので、いろいろ試すしかない。
「わかった。俺はしばらく宿暮らしするから、この家で二人で生活してみてくれ。生活費を渡しておくから、無駄遣いするなよ?」
「アタシに任せといて」
当面の生活費をイレーヌに渡し、ちょっとだけスキル上げさせてもらって記憶を消した。
――次の日。
朝から、リディアの冒険者の服、靴、他普段着や下着など買い揃えたあと『ブラスアーム鍛冶工房』へ。
「おう坊主。久々に来たと思ったら別嬪二人の奴隷付きかよ」
「ああ、ドルガンさんお久しぶりです。今日はこの二人の武器と防具を見に来ました」
ちなみに、イレーヌには俺の持っていた高炭素鋼ナイフを渡してある。結局俺は使わなかったし。
リディアだが、なんと選んだのはランスとタワーシールドとフルプレートアーマーという重装備だった。完全にタンクの装備だ。
ただ、リディアはEランクからなので、最初からフルプレートとタワーシールドはいらないだろうということになった。最初は薬草採取がメインなので、しばらくは鋼のショートランスでがんばってもらう。ランスとタワーシールドとフルプレートアーマーは高炭素鋼でオーダー。
そして、イレーヌだが
「これ、本当にアタシが使うの?」
飛竜のクロスボウ 七十万G
鋼製のボルト×100 三十万G
高い……さすが金持ちの武器と言われるだけのことはある。ボルト一本で宿屋に一晩泊まれる。イレーヌにも〈アイテムボックスS〉を渡してあるし、ボルトの収納は問題ないだろう。
あとは俺の武器として、高炭素鋼のロングソード、高炭素鋼のバトルハンマー、それとイレーヌ用の高炭素鋼のボルト×100をオーダー。高炭素鋼のインゴットが七十個も必要になった。残り十個。
計百八十五万G。かなり豪快に使ったが、これでもインゴット持ち込みなので、かなり安くなっている。
「ドルガンさん、お願いしますね」
「おお、任せとけ!」
ドルガンさんの店を出たら、二人を連れて冒険者ギルドへ。
扉を開けるといつもの大注目――だが、
「おい、〈夢魔〉が〈黒猫〉連れてるぞ!」
「ちょっとまて! 〈黒猫〉、奴隷になってるじゃねぇか!」
「〈夢魔〉が〈黒猫〉を奴隷にしてやがる!」
「もう一人の背の高い美人も奴隷だぞ! 〈夢魔〉、羨ましすぎるだろ!」
どうも俺たちのことを言っているようだ。〈黒猫〉はまあイレーヌのことだろうとわかる。イレーヌはどっちかというと猫っぽい顔をしているし服も髪も黒だし。しかし、そうなると〈夢魔〉は俺か? 〈夢魔〉ってなんだっけ? ……思い出した! 淫魔じゃないか! インキュバスのことだろ! サキュバスの男版のやつ! 誰だ! こんな名前を付けたの!
拳を握って震えていると、イレーヌに「まあ、落ち着いて」と宥められ、ギルドの受付に連れて行かれる。くっ、とにかく用事を済ませよう。
リディアの冒険者登録はすんなり終わり、俺たち三人のパーティ登録も済ませておいた。パーティ名は後からでもいいということなので、今は付けていない。
「この二人の奴隷だけで冒険者活動をすることってできますか?」
「ええ、問題ありません。ただし、奴隷が不祥事を犯した場合は主人の責任になりますので、そこだけご理解ください」
「承知しました」
ふむ、問題ないようだ。
「どうするイレーヌ。さっそくダンジョンに行ってみるか?」
「ええ、時間があるから行ってくるわ」
「じゃ、リディア、今日からしばらくイレーヌと二人でよろしくな。詳しくはイレーヌに聞いてくれ」
「わ、わかりました、ご主人様……」
この場で二人と別れ、しばらく俺は宿暮らしかな。ただ、ヘレナさんのところに戻る気はないので、違う宿を取ることにした。




