127 食料確保と資金確保
翌朝。
俺は〈蒼薔薇の刃〉をエルセリオン王国から呼び出していた。
「急にエヴァルシアへ呼び出してすまない。緊急事態でね。〈蒼薔薇の刃〉には『エヴァルシア迷宮』に潜ってもらいたいんだ」
そう切り出すと、リーダーのカミラが問い返してくる。
「『エヴァルシア迷宮』って、まだ未踏破のダンジョンですよね?」
「ああ。未踏破どころか、地下一階にすら誰も入ったことがない。だが、ダンジョンの構成はこちらで決めたから、どこで何が出るかは把握している。〈蒼薔薇の刃〉には、しばらく地下三十一階から地下四十階で“肉”を集めてほしい」
「……肉、ですか?」
「ああ。その階層はオーク、ミノタウロス、コカトリスが出現する設定だ。効率よく集められるはずだ」
「わかりました。さっそく潜ってきます!」
そう言って〈蒼薔薇の刃〉は『エヴァルシア迷宮』へと向かった。
彼女たちには、ドロップに変えず、死体のまま回収する方法を教えている。十日も潜れば、千人が一年食べられる量の肉は余裕で確保できるだろう。
◇
続いてエヴァルシアに呼んだのは、白虎族のシアと、青龍族のリオナだ。
「悪いな。緊急事態でな。二人にも手伝ってほしいことがあるんだ」
「ま、やってやってもいいぜ、アレス」
「私も構いませんよ」
相変わらずシアはタメ口だ。まあ、今さらだが。
「二人には、『エヴァルシア迷宮』の地下一階から地下九階までで、“珪砂”、“石灰石”、“トロナ鉱石”を採取してほしい」
「はあ!? そんなもん見たことねえよ。わかるわけないだろ!」
「ああ、それは問題ない。この眼鏡をかけると、“珪砂”“石灰石”“トロナ鉱石”が赤く光るようになっている。それを全部、このマジックバッグに入れてきてくれ」
「えー……面倒だなぁ」
まあ、そう言うだろうとは思っていた。だから、対策も用意してある。
「これを十日間やると、ルビナがシアとリオナ専用の武具を作ってくれるらしいぞ! 今や予約すら取れない、大人気鍛冶師だ。まあ、いらないなら他に頼む――」
「やる!」
「やります!」
二人は即答だった。
こうしてシアとリオナも、意気揚々と『エヴァルシア迷宮』へ向かった。
◇
次に俺は、メディアとターリア、エリュシアを連れて、南西の農業区へ向かった。
すでに農家の人たちには、協力を要請してある。
「ターリアとエリュシアには、昨晩〈植物魔法〉を渡しただろう? 今日から十日間、それを使ってやってほしいことがある。まずは見てくれ」
そう言って、俺は一つの畑に魔法をかけた。
「第一階梯植物魔法〈芽生〉。続けて、第二階梯植物魔法〈植物繁茂〉」
畑一面の小麦は、一気に収穫可能な状態まで成長した。
「そして、これを一部残して、根ごと共有空間に回収する」
育った小麦の一部を残し、残りを根ごと、亜空間の共有空間へ送る。畑には一部の小麦だけが残り、土が露出した。
「次に、残した小麦にもう一度〈植物繁茂〉をかけて、種を作る。この種は別で回収する。最後に、第七階梯植物魔法〈土壌改良〉で土を整える。ここまで終えたら畑の持ち主に声をかけてくれ。さっき回収した種をまいてもらう。あとは、翌日また同じことを繰り返すだけだ」
メディアが頷きながら言った。
「なるほど。これを、すべての畑で行えばいいのですね?」
「ああ。それを十日間頼みたい。今は農家が十四軒だが、これから増える可能性もある。その場合は新しい畑も頼む」
「わかりましたわ」
「わかったよ、お兄さん」
メディアとターリアの二人は素直に了承したが、エリュシアだけは少し腑に落ちない様子だった。
「なあ。やるのはいいけど、なんでアタシなんだ? アタシ、魔法職でもないし、〈植物魔法〉を持ってるやつなら他にもいるだろ?」
エリュシアは自分が選ばれたことを不思議に思っていた。
「ああ、これな、俺とか、ここにいる三人なら楽勝でやれるから気づかないと思うけど、普通のヒューマンがやるには魔力が足りないんだ。あっという間に枯渇してしまう。元魔女、もしくは魔女化するほどの魔力がないと無理なんだ」
実際、この作業をこなすには、魔女並みの魔力量と〈魔力常時回復〉が必須だ。
「実際な、《万紫千紅》で所有魔力の高さでいうと、俺の次に高いのはエリュシアなんだぞ? メディアとターリアは魔女化しないように抑え込んでるからなんだけどな。エリュシア頼んだぞ」
「ああ、わかった。任せとけ」
◇
次に俺は、エヴァルシア南東の“生産区”へ向かい、小さな工房を一つ出現させた。
中に入り、魔道具を一気に完成させる。
先ほど共有空間に入れた小麦を分解し、“胚乳部分”のみを抽出した。残りは別の亜空間に格納する。取り出した胚乳は、ある程度水分を抽出して乾燥させたあと、新しく作った魔導石臼ですりつぶし、小麦粉へと加工。完成した小麦粉は、別の共有空間へ収納した。
これら一連の工程を、メディアとターリアから回収している魔力で自動処理するよう〈バッチ処理〉を組み、魔法陣化して魔道具に付与、起動させる。
これで、メディア、ターリア、エリュシアの三人が小麦を共有空間に収穫するたび、小麦粉が自動で生成される仕組みが完成した。
さっそく屋敷の厨房にいたエルマと、宿屋の母娘であるマリサとリナ、食堂の母娘であるアリシアとリサに、足りなくなったらこの共有空間の小麦を使うよう指示を出す。
エルマが目を輝かせて言った。
「すごいじゃないか、アレス! これだけあれば、千人分でも、一か月半は小麦に困らないよ!」
「まだまだその中は増えるぞ。最終的には一年分は余裕で確保できるはずだ。野菜や肉は準備が整い次第伝える。ひとまず小麦だけで頼む」
「ああ、それでも十分だよ! これからも頼むね!」
「了解。また後でな」
俺は厨房を後にし、再び南東の“生産区”へ向かった。
次は酒蔵だ。
◇
「すまない、待たせた」
そこには酒蔵の母娘、カトリナとノエル、そしてエヴァルシア商会会長のオルヴェナが揃っていた。
「使用する瓶は決まったか?」
「ええ。ワイン用がこちら。ブランデーは熟成期間ごと、さらにブドウとリンゴで分けるので、この十種類です」
全部で十一種類か。思っていたより多いな。
「了解だ。ドルガンさんから預かった箱に魔法陣を付与して、魔道具にしてきた。ここに出す。これはワイン七年用。あとはブランデーの五年、十年、十五年、二十年、二十五年用だ。それぞれプレートに記してある」
「わかりました。では、この魔道具はいただきますね。瓶の方は、どうしましょう?」
「ああ、それは二、三日待ってくれ。こちらで準備する。それとオルヴェナ、試飲用の酒をカトリナから受け取って、営業をかけてほしい。価格も任せる」
「承知しましたわ」
「それと、もう一つ頼みがある」
「何でしょう?」
「瓶に貼るラベルなんだが、うちには“絵”に関するスキル持ちがいないんだ。おそらく一日描き続ければ身につくと思うんだが、誰かに覚えさせられないか?」
「覚えたら、私の〈監督〉や〈演出〉のときのように、レベルアップさせてもらえるのですか?」
「もちろんだ」
「でしたら、私が――」
「いや、オルヴェナは他にやることがある。別の者にしてくれ」
結局、商会所属のエルフ十六人に一日絵を描かせ、スキルが発現した者がいれば連絡をもらう、という形で話がまとまった。




