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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第三章 エヴァルシア開発編

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123 白亜の屋敷と抜け道

 冒険者ギルドでの用事を終えた俺たちは、建物を後にした。

 その際、ガルドから「頼むから、そのまま置いていってくれ」と懇願されたモニター二台を、俺は見事に無視して回収した。


「どうしても欲しいなら、エヴァルシア商会と交渉してくれ」


 そう言い残して、ギルドを去った。


「そういや、レオンはいつ頃エヴァルシアに引っ越すんだ?」


「ああ、それなんだが……できれば、しばらくは王都の屋敷から転移魔法陣で通うかたちをとろうと思っている。妻も娘も都会っ子でな。まだ発展途中のエヴァルシアは、住みづらいと思うんだよ」


「そうか。まあ、そのあたりはレオンの自由にしてもらっていいよ」


「ああ、ありがたい。助かるよ」


 エリュシアは、シアとリオナの顔を見てからエヴァルシアへ戻るという。

 そのため、俺、イレーヌ、リディア、セレナの四人で先にエヴァルシアへ戻ることになった。


 ◇


「セレナ。このあとは、この屋敷に住むのか?」


 エヴァルシアの転移魔法陣は、メディアの持つ技術の粋を尽くして建てられた屋敷の地下に設置されている。

 すでに外観も、地下室まで含めた内部構造も確認済みだ。


「そ、そうね。今日から住もうかしら。慣れるまでは、ものすごく落ち着かない気がするけど……」


 改めて俺たちは、メディアが造り上げたセレナの屋敷を外から眺めた。


 白亜の外壁は陽光を跳ね返し、屋敷はまるで宮殿のように街の高台にそびえ立っていた。

 三階建ての巨躯は左右に大きく翼を広げ、正面中央には重厚な観音開きの玄関扉が据えられている。

 磨き抜かれた白い石材は一切の汚れを許さず、貴族の威光と財力を誇示するかのように輝いていた。


「どう見ても、騎士爵が住む屋敷じゃないよな……」


 屋敷の内部には、五十を優に超える部屋が用途ごとに巧みに配置されていた。

 玄関の大扉をくぐった先に広がる大広間は吹き抜け構造となっており、天井から下がる水晶のシャンデリアが、昼夜を問わず柔らかな光を落としている。

 床には幾何学模様の大理石が敷き詰められ、足音ひとつでさえ格式ある音色に変わる。


 一階には応接室や舞踏会用の広間、そして料理人たちが腕を振るう広大な厨房が並ぶ。

 二階へと続く白石の階段は緩やかで、その壁面には当主の肖像画を飾るための空間が設けられていた。


 二階は居住区だ。

 当主とその家族の私室、書斎が設けられ、厚い扉と分厚い絨毯によって外界の喧騒は完全に遮断されている。

 窓から差し込む光だけが、穏やかな時間の流れを演出していた。


 最上階である三階には、客間や宝物庫、そして街を見渡せる展望室がある。

 そこから望む景色は、庭園の緑、街並み、そして遠くの山々までを一望でき、まるで世界そのものを掌中に収めたかのような錯覚を与えた。


「もはや宮殿だな。セレナ()()


「アレス……次、その呼び方をしたら引っ叩くからね」


 セレナの睨みを受け流しつつ、俺たちは二階の一番奥の部屋へ向かう。


「じゃ、アレスの部屋はここね」


「え? ここ、主寝室じゃないか? 主人であるセレナが使う部屋だろ?」


「実質、ここは《万紫千紅》の屋敷なのよ。アレスが使うべきよ」


 そうなのか。

 まあ、セレナが言うなら従っておくか。


「とりあえず、今は仮屋敷に住んでいる《万紫千紅》のメンバーも、この屋敷に引っ越す必要があるわね。仮屋敷の荷物をどかさないと、子供たちが“孤児院”に引っ越せないもの」


 それもそうだ。


 その後、夕方までかけて引っ越し作業を行った。

 俺は教会を作り終えたメディアと合流し、屋敷の周囲に各地で集めてきた木々や花を、相談しながら植えていった。

 残りのメンバーは孤児院に新しい家具を運び込み、子供たちの受け入れ準備を進めていた。


 今日から夕食も、新しい屋敷で取ることになった。


「いやあ、ここまで設備の整った厨房は、そうそうないだろうね。まあ、あたしが王都で買い揃えたんだけどさ」


 料理を担当してくれたエルマによると、エルセリオンの王城でも、ここまでの設備はなかったらしい。

 ここなら何でも作れる、と胸を張っていた。


「そういや、アレス。農業区での品種改良は一通り終わったよ。もう秋まきの種は蒔いたみたいだけど、大丈夫だったよね?」


「ああ、問題ない」


「あ、それと春まきの種も品種改良して渡しておいたよ。あとね、酒蔵の母娘が、試しに作った酒を試飲してほしいって言ってた」


 その瞬間、女性陣の目が輝いた。

 中でも、リディアの反応が一番大きかった気がする。


「あれ? リディアもお酒好きなの?」


「え、まあ……たしなむ程度ですが」


 いや、あの目の輝き方は、どう見ても“たしなむ程度”じゃなかった。

 だが、あえて突っ込むのはやめておいた。


「エルマ、蒸留酒のことは何か言ってたか?」


「ああ。仕込みまではスキルで時間短縮できるけど、そのあと寝かす時間までは短縮できないってさ。飲めるようになるのは数年先だって言ってたよ」


 やっぱりそうなるよな。普通なら。


「そういや、蒸留酒を飲んだことがある人って、ここにいる?」


 聞いてみたが、誰もが首を横に振った。代わりにセレナが答える。


「蒸留酒は高級品だから、貴族かドワーフくらいしか飲まないわよ」


 そうか。俺自身、今の俺の身体が蒸留酒の味をちゃんと理解できるかと聞かれると、自信はない。

 するとメディアが思い出したように口を開いた。


「あ、ドワーフといえば。明日、ドルガンさんが城壁の門を設置しにエヴァルシアへ来るそうです。最優先で作ってくれたみたいで、総ミスリルの門らしいですよ」


「総ミスリルって……」


 たしかにミスリルは余るほど渡していたが、城壁の門を丸ごとミスリルで作るとは思わなかった。それだけで、とんでもない価値になりそうだ。


「じゃあ、ドルガンさんに蒸留酒の試飲もお願いするかな」


 酒の話が一段落したところで、リディアが静かに口を開いた。


「そういえば、アレスさま。地下牢にいる男たちは、どうなさるおつもりですか?」


 そうだった。

 人身売買組織の男が四人、違法奴隷商が四人。全員、屋敷の地下牢に入れたままだ。


「まず奴隷商のほうなんだが、リーファリアの女王も言ってたんだ。エヴァルシアの近くに、密かに国境を越えられる場所があるんじゃないかって。その情報を引き出せたら……あとはセレナの奴隷にしてしまっていいかな?」


「ええ。元貴族たちと同じ扱いにしようかしら」


 生涯娼婦コースか。こえぇ……。

 すると、リディアが少し考え込むような表情を浮かべて言った。


「アレスさま。もしかしたらですが……一つ、思い当たるものがあります」


「教えてくれ」


「カリスティア王国がゼフィランテス帝国と戦争状態に入ってすぐ、秘密裏に国民を逃がすための計画がありました。カリスティア王国からアストラニア王国へ向けて、トンネルを掘る計画です。ただ、そのトンネルはグラント山脈を貫く難工事で、魔法を使っても完成まで八年ほどかかる見込みでした。もし、そのトンネルが完成しているのなら、本来の国境を越えずにアストラニア王国へ入ることが可能になります」


 リディアによると、そのトンネルは旧カリスティア王国の王都セラフィードの西側から掘り始める計画だったらしい。そのまま掘り進めば、ちょうどエヴァルシアの東あたりに辿り着くのだという。

 馬車で通るだけでも二日かかるほどの長大なトンネルだ。本当にそんなものが掘れるのだろうか。


「一応、奴隷商から情報を聞き出したほうがよさそうだな」


 そう言うと、リディアが一歩前に出た。


「それは、私にお任せください」


 自ら立候補してきた。


「あ、もしかして……アレ、やる気?」


「ええ。女の甚振り方なら、私が一番よく知っていますから」


 ……そうか。アレをやるのか。

 考えてみれば、最終的にセレナの奴隷にするなら結局やる必要があるし、先に奴隷にしてしまえば、情報を引き出すのも容易になる。


 その後、セレナと、大きな白い布を一枚だけ巻いたリディアを連れて地下牢へ向かった。

 牢に入っていた全員を女性化し、年齢も二十歳前後に揃えたうえで、


「〈強制終了フォースド・ターミネーション〉」

「〈血契約(ブラッド・オース)〉」


 のコンボを叩き込み、全員をセレナの奴隷へと変えた。

 さらに〈服従契約サブミッション・コントラクト〉と〈隷属刻印(スレイブ・マーク)〉まで施し、仕上げにリディアを男性化し、スキルをすべて奪ったあと、必要なものだけを複製して与えた。


 こうして、全員が従順なセレナの奴隷となった。


 奴隷になった“彼女”たちは、驚くほど素直に、何でも答えてくれた。

 まず奴隷商のほうだが、やはりリディアの予想どおり、グラント山脈を貫くトンネルはすでに完成していた。


 二日かけてトンネルを通過し、旧エヴァルシア村の跡地で野営する。

 それが、いつものパターンらしい。


 だが、現在その周囲は一辺五キロメートルの城壁で囲まれている。今まさにトンネルを抜けてきた奴隷商たちは、野営地を失い、途方に暮れていることだろう。


 一方、人身売買組織の男たちは下っ端ばかりで、持っている情報は少なかった。

 自分たちが属する組織は国の南半分を管轄しており、本部は港町ローヴァンにあるらしい――それくらいしか分からなかった。他の子供たちも、どこかに捕らわれているとしか知らず、有益な情報は得られなかった。


 リビングに戻り、その話をすると、イレーヌが即座に言った。


「明日、アタシが調査してくるわ。本部が港町ローヴァンにあるなら、何とかなるでしょ」


 マジか。その程度の情報で探しに行く気なのか。


「こういう連中ってね、隠れる場所はだいたい同じなのよ。街を少し見て回れば、すぐ見つかると思うわ」


 ……頼もしいにもほどがある。


「じゃあ、リディアは明日、俺と一緒にトンネルの調査に付き合ってくれ。午前中は酒蔵の手伝いをするから、午後になると思う」


「承知しました」


 ――あ、そういえば。


「セレナ。さっき奴隷にした連中は、どうした?」


「ああ。リンファに預けようと思ったんだけど、リンファも明日からこっちに住むって言ってたから、また牢屋に戻しておいたわ」


 ……扱いが雑すぎないか?

 本来、奴隷の扱いってこんなものなのか?


 その後、メディアが思い出したように聞いてきた。


「他に、建てる建物はありませんか?」


「ふむ。そういうことなら――」


 俺は酒蔵、織布と染色の工房、それから俺が建てる予定だった冒険者ギルドをメディアにお願いした。

 翌朝は、俺が酒蔵の手伝いをする予定だったため、メディアと一緒に酒蔵建設予定地へ向かうことに決まった。



 その日の夜、なぜかSランク昇格祝いだと言って、イレーヌ、リディア、エリュシアが集まった。

 イレーヌの〈美療〉スキルをレベル8まで引き上げ、エリュシアの〈覚醒進化〉スキルを複製させてもらったが――


 リディアは、やはり新たに得たスキルについて、何も語ろうとはしなかった。

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