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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第三章 エヴァルシア開発編

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121 アンデッド迷宮(7) 瞬殺

 ――アンデッド迷宮 地下四十二階。


「デカいな、こいつ……」


 その階層から新たに出現したのは、デスナイトだった。

 全高は並の人間を優に二人分重ねたほどあり、大型魔物として分類される存在だ。


 全身を覆う漆黒の鎧は、巨大な体躯に合わせて分厚く鍛え上げられており、城門用の鉄板を思わせるほどの重厚さを持つ。

 兜の奥には肉体らしいものは存在せず、広がっているのは底知れぬ闇だけだ。その中心で、蒼白な鬼火のような光が、こちらを見下ろすように揺らめいていた。


 ただし、俺たちにとっては――ただデカいだけで、脅威ではない。


「あー、コイツの死体は価値がないようだ。消していいぞ」


「了解」

「承知しました」

「りょーかい」


 今日は全員に、〈光魔法〉を付与した武器と〈聖魔法〉を付与した武器を、それぞれ準備しておいた。

 〈聖魔法〉は“アリス”にならないと使えないため、昨晩、撮影していない時間帯に付与してある。〈聖魔法〉の〈不浄消滅(バニッシュ)〉を付与した武器で攻撃すれば、アンデッドはあっけないほど簡単に消滅する。

 デスナイトのような大型魔物であっても、一撃で消えるか、動けなくなって終わりだった。



 ――アンデッド迷宮 地下四十三階。


 新たな魔物が二体同時に出現した。


「リッチかよ」


 それは、死を越えてなお知性を手放さなかった、禁忌の魔導士の成れの果てだ。

 骸骨じみた痩せた身体は黒衣に包まれ、干からびた指先には鈍い魔力の残滓がまとわりついている。眼窩の奥で揺れているのは炎ではなく、冷たい燐光だった。

 最大の脅威は、その圧倒的な魔法運用能力にある。生前に極めた〈闇魔法〉、〈呪魔法〉、〈死霊魔法〉、〈火魔法〉、〈水魔法〉、〈風魔法〉、〈土魔法〉を自在に操り、骸骨兵やアンデッドを前衛として呼び出し、自身は安全圏から致死の術を放つ。


 俺は姿を確認するや否や、〈空間転移(テレポート)〉で一気に間合いへ入り、リッチ二体をまとめて両断した。

 ドロップはなく、死体にも価値がないことを確認する。


「あー、こいつも消去で」


「了解」

「承知しました」

「りょーかい」


 リッチの対処を決めたころ、カメラ越しにレオンの声がした。


『アレス、こっちは冒険者ギルドでガルドとセレナ、それに国のお偉いさん二人と一緒にモニターを見ている。そっちは順調そうだな。今、何階だ?』


「ああ、かなり順調だな。むしろ昨日より楽かもしれない。今は地下四十三階だ」


『今日はダンジョンコアルームに着いたら、こっちの指示通りのダンジョン構成に変えてもらえばいい。それまでは、そっちのペースで好きに潜ってくれ』


「了解。そうさせてもらう」


 俺たちはそのまま先を目指した。



 ――アンデッド迷宮 地下四十四階。


 地を這うような低い唸り声とともに、闇の奥から姿を現したのはヘルハウンドだった。

 犬や狼に似た四足の魔物だが、決定的に異なるのは、その存在そのものが「地獄」を思わせる点にある。


 全身を覆う毛皮は煤にまみれたような漆黒で、ところどころが焼け焦げ、赤黒く硬化している。裂けた皮膚の隙間からは淡い紅蓮の光が漏れ、まるで体内に業火を宿しているかのようだ。

 吐き出す息は白くも黒くもない熱気で、鼻先からは揺らめく陽炎が立ち上っていた。


「コイツの皮は利用価値があるようだ。こいつは“光”のほうで」


「了解」

「承知しました」

「りょーかい」


 それ以降地下五十階まで、新たに魔物が追加されることはなかった。


『なんだお前ら。昨日より楽勝そうじゃねぇか』


「レオン、だからそう言っただろ? 元々俺たちは地下五十階のボスも、最近は瞬殺しているんだ。この辺りは雑魚でしかない」


『〈百花繚乱〉って、そんなにすごかったのか……』


 レオンの呆れた声を聞きながら、俺たちは各フロアの宝箱を開けつつ、地下五十階を目指した。

 途中で昼休憩を挟み、五時間後には地下五十階のボス部屋前へと到達していた。


 ――アンデッド迷宮 地下五十階 ボス部屋前。


 安全地帯にテーブルセットを出し、紅茶を飲みながら作戦を確認する。


「今まで通りなら、地下四十一階以降に出てきた魔物が取り巻きで、一匹だけボスがいる形だろうけど……何がいるかわからない以上、作戦も何もないよな」


 イレーヌが言った。


「まあ、いつもみたいに取り巻きを殲滅してからボスを倒す。それでいいんじゃない?」


「そうだな。基本はそれでいこう」


 特に気負う様子もない俺たちを見て、レオンが呆れたように言う。


『お前らさあ、なんかこう、「緊張してる!」みたいなのはないわけ? 次、ダンジョンボスだぞ?』


「いや、だからさっきも言っただろ。最近はそのボスも瞬殺なんだって。下手したら、今回もそうなるぞ?」


『初見だろ? そんなことあるのか?』


「まあ、相手次第だな。じゃ、ボス部屋に入るぞ」


『なんだよ、その町の定食屋に入るみたいなテンションは……』



 ――アンデッド迷宮 地下五十階 ボス部屋。


「リビングアーマー×4、デスナイト×4、リッチ×4、ヘルハウンド×4……ボスは――〈鑑定〉によると、ドラゴンゾンビだな」


『ドラゴンゾンビ!? 強敵じゃねぇか!』


「いやいや、レオン。エルセリオン王国の王都にあるダンジョンのボスは普通のドラゴンだ。それとたぶん大差ない」


『まさか、お前ら……ドラゴンも瞬殺してるとか言わねぇよな?』


「いや、瞬殺してるぞ。見てて面白くないかもしれんが、今回も瞬殺させてもらう。エリュシア、頼めるか?」


「まかせといて」


 そう言うと、エリュシアはドラゴンゾンビのすぐそばへ〈空間転移(テレポート)〉した。


「第八階梯波動魔法〈共鳴崩壊(レゾナンスクラッシュ)〉」


 ドラゴンゾンビに〈共鳴崩壊(レゾナンスクラッシュ)〉を叩き込むと、エリュシアは即座に〈空間転移(テレポート)〉で戻ってきた。

 俺は崩れ落ちていくドラゴンゾンビを、そのまま亜空間へ収納した。

 その瞬間、取り巻きの魔物たちは、まるで役目を終えたかのように消えていった。


「終わったぞ、レオン」


『なんだそりゃ!? エリュシア、そんな技使えたのか!? 俺、あのとき使われてたら死んでただろ!?』


「エリュシアだけじゃない。《万紫千紅》の前衛は全員使えるぞ。もちろん、俺もな」


『マジか……俺、死にかけてたんだな……』


 レオンが目に見えておとなしくなった。


「そういや、このままダンジョンコアのところに行っていいのか? そこ以外にも、この映像は流れてるんだが」


『あー、ちょっとだけ待ってくれ。今、ガルドと国のお偉いさんが話し合ってる』



 その後、しばらく待ったが、まだ応答はない。


「うーん、待ってる間も暇だし、見てる人も退屈だろ。何か芸でもしてみるか?」


 イレーヌが言う。


「芸? そんなの、やったことないわよ?」


「あー、例えばエリュシアなら〈魔物擬人化〉で変身して見せるとか、リディアなら〈槍斧(ハルバード)術〉の演武とか。イレーヌなら……〈モノマネ〉?」


 俺がそう言うと、エリュシアが早速カメラの前に出てきた。


「じゃあアレス、カメラを持って。変身するから」


 そう言った次の瞬間、エリュシアはサキュバスの姿になった。――そこまではよかったのだが、いつも俺に見せているときの癖で、無意識にセクシーなポーズを取り始めた。


「ま、待て! エリュシア! これ、シアやリオナも見てるんだぞ!」


「あっ! しまった!」


 真っ赤になったエリュシアは、カメラに映らない位置まで一目散に逃げていった。

 その直後、カメラ越しにレオンの声が響く。


『お前ら、何やってんだ……ガルドが大喜びしてんじゃねぇか。で、だ。結論として、この先は公開しないほうがいいって話になった。冒険者ギルドの会議室だけに映す、なんてことはできるか?』


「ああ、できるぞ。じゃあ一度映像を切る。ここまで見てくれた人も、ありがとう。これで今回のダンジョンアタックは終了だ。また機会があれば、こういう形で映像を届けたいと思う。それじゃ、またな」


 そう言って、俺は一度カメラを止めた。

 そして映像の保管先を別の共有空間に切り替えて撮影を再開し、レオンへ〈念話〉を送る。


『レオン、モニターの右下に「2」って書いてあるスイッチがあるだろ? それを押してくれ』


『ああ、わかった』


 少しして、再びレオンの声が聞こえてくる。


『おお、映ったぞ。さっきと何が違うんだ?』


「ああ、気になるならギルドの一階に設置したモニターを見てみるといい。そっちには、もう何も映っていないはずだ」


 さらにしばらくしてから。


『ああ、確かに一階は映ってなかった。だが大騒ぎだったぞ。「続きを見せろ!」とか「エリュシアのファンクラブ作ろうぜ!」とか』


 大変そうだな。

 とはいえ、楽しんでくれていたなら悪くはない。あとはガルドが何とか収めてくれるだろう。


「じゃあ、ダンジョンコアのところに行くぞ」

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