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百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~  作者: 凪山キコ
第三章 エヴァルシア開発編

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116 アンデッド迷宮(2) 全滅バッチ

 ――アンデッド迷宮 地下十階 ボス部屋前。


『なあ、アレス。お前らのダンジョンアタックってスピードが速すぎないか? ここまで一時間半くらいしか経ってないだろ?』


「いや、レオン。これでもいつもよりだいぶ遅いんだぞ。普段なら地下十階までは一時間もかからない」


『マジかよ。あと、途中から魔物が全然出てこなくなるのは何なんだ?』


「ああ、あれは俺のスキルと魔法で、フロアの敵を全滅させてるんだ。中盤まではだいたいこれでいける」


『そんな便利なスキル、聞いたことねぇよ……。《万紫千紅》がダンジョン最速クリアの記録を持ってるのは、そういうことか』


 レオンが納得したのを確認して、


「じゃあ、ボス部屋に入るぞ」


 俺たちはそのままの流れで扉を開け、ボス部屋へと足を踏み入れた。


「レオン、見えてるか。スケルトン×2、スケルトンファイター×1、スケルトンアーチャー×1、スケルトンマジシャン×1、スケルトンナイト×1、スケルトンホース×1の構成だ。……あ、討伐後の宝箱の映像も必要か? どうせポーションくらいだと思うが」


『ああ、ガルドが宝箱も見せろって言ってる』


「了解。じゃあ、倒すぞ」


 俺が“死体回収の処理を外した全滅バッチ”を起動すると、すべてのスケルトンに同時に第五階梯光魔法〈光弾(ライトショット)〉が四方八方から降り注ぎ、ボス部屋の魔物は一瞬で消滅した。


『一瞬かよ……』


 カメラ越しに聞こえるレオンの呆然とした声を気にせず、


「イレーヌ、一応宝箱を開けてくれ」


「了解。罠はないみたい」


 イレーヌが宝箱を開けると、中には回復ポーションが二十本入っていた。


「レオン、見えてるか。回復ポーションだったぞ」


『いやいや、アレス。地下十階のボスでポーションが出ること自体はあるが、二十本は聞いたことねぇよ……。ん? 稀にある? あー、ガルドによると、たまに二十本入ってることもあるらしい。普段はあっても五本くらいだぞ』


 ふうん。俺の謎のドロップ率が関係しているのかもしれないな。


 ◇


 その後、地下十一階も引き続き墓地で、出現する魔物もスケルトンだったため、“全滅バッチ”で地下二十階まで一気に駆け抜けた。地下二十階のボス『スケルトンキング』も地下十階と同様に撮影し、〈バッチ処理〉で難なく全滅させた。


「ちょうど昼くらいだな。この先のセーフルームで昼食にしよう」


 ボス部屋の先にあるセーフルームへ移動した俺たちは、テーブルと椅子を出し、エルマの作り置きの料理を並べて食事を始めた。


『なあ、アレス。お前ら、いつもダンジョンでそんな食事してるのか? ダンジョン内にテーブルと椅子を出して、ナイフとフォークで食事する冒険者なんて見たことねぇぞ……』


「まあまあ、レオン。レオンのマジックバッグにも同じ料理が入ってるはずだ。今のうちに食事したら?」


『うお!? 本当だ、入ってた! ありがてぇ……。なんだ、ガルド。お前の分はねぇーよ!』


 すると、レオンからマイクを奪い取ったガルドが、


『うまそうに自分たちだけ食ってんじゃねーよ! 俺にもよこせ!』


 その後しばらくガルドが騒ぎ続けたため、


「はぁ……仕方ないな。セレナ、共有空間から出してやってくれ」


 セレナがガルドにも食事を与えたのか、すぐにガルドは大人しくなった。


「ちなみにガルド。この映像、他でも流れてるし、さっきの声も全部のモニターで流れてるからな」


 マイクの向こう、少し離れた場所から、


『しまったー!』


 という叫び声が響いた。



 ――アンデッド迷宮 地下二十一階。


 これまで墓地だった階層は、突如として石造りの迷宮へと姿を変えた。ただし、いつもの石造りの迷宮とは色合いが違う。足元の感触も、湿り気のない乾いた石へと変わっていた。


「ん? これは……砂か?」


 通路のあちこちに、薄く砂が積もっている。


 (元の世界のピラミッドの内部みたいだな。この世界にもピラミッドがあるんだろうか?)


 通路は直線的で、天井は意図的に低く抑えられている。両脇の壁は巨大な石材を積み上げた造りで、継ぎ目には長い年月を感じさせる細かなひびが走っていた。空気はひんやりと乾き、閉じ込められたような圧迫感が胸を押す。墓地の静けさとは異なる、古代の王の眠りを侵すかのような、重く張りつめた沈黙が支配していた。


 カメラ越しに、レオンの声が響く。


『変わった石でできた階層だな。砂もあるし……ガルド、こういう迷宮に心当たりはあるか?』


 レオンがガルドに確認しているようだ。少し間を置いて、再びレオンの声がした。


『ああ、アレス。ダンジョン構成を決めるとき、階層タイプに“ピラミッド”を選ぶと、こうなるらしい。“ピラミッド”が何なのかは、誰も分かってないそうだが』


 ふむ。大昔、この世界にもピラミッドが存在していたのか、あるいは今もどこかに残っているのかもしれないな。


「じゃあ、レオン。進むぞ」


『おう、任せた』


 どうやら、この階層からは罠も仕掛けられているようだ。しばらく進むと、


『なあ、アレス。イレーヌはさっきから何をしてるんだ? 〈空間転移(テレポート)〉を連発してるみたいだが』


「ああ、罠を解除してるんだ。この階層からは本格的に罠があるみたいでな」


『はあ!? あの速度で解除してんのか!? すげぇな、イレーヌ!』


 イレーヌが次々と罠を無力化してくれるおかげで、俺たちはペースを落とすことなく迷宮を進めていた。


 やがて通路の奥、壁に刻まれた文様の影が揺らぐ中で、それは音もなく立ち上がった。

 人の形をしているが、生者とは決定的に異なる。全身は古びた布で幾重にも巻かれ、裂け目から黄ばんだ肌と黒ずんだ骨が覗いている。漂うのは、乾ききった砂と防腐薬が混ざった、鼻を刺すような匂いだった。


 顔と呼べる部分では、眼窩の奥に冷たい光が宿っている。ただ侵入者を量るかのように、無言でこちらを見据えていた。動きは緩慢だが無駄がなく、一歩ごとに包帯が擦れ、かさり、かさりと乾いた音が通路に響く。その音は、時間そのものが軋むようで、背筋に嫌な寒気を走らせた。


 伸ばされた腕から包帯が解け、意思を持つ蛇のようにうねりながら迫ってくる。かつて王に仕え、死してなお役目を忘れぬ存在。ピラミッドを侵す者を排除するためだけに動き続ける魔物――それが、この階層に巣食うミイラだった。


「やっぱりアンデッドか」


 ミイラを〈鑑定〉してもスキルは確認できなかったが、討伐すると布のようなものをドロップした。


「ん? なんだこれ?」


 〈鑑定〉すると、“呪布”と表示された。どう見ても、ミイラに巻かれていた包帯の一部だ。


「なあレオン。“呪布”ってのを手に入れたんだが、使い道はあるのか?」


 少し間を置いて、レオンから返事があった。


『ガルドによると、呪いを解くときによく使われる触媒らしい。教会が多く所持してるそうだ。あと、その布でローブを作ると、呪いにかからなくなるらしいぞ』


 使い道があるなら回収しておくか。もっとも、呪いにかからないとしても、そのローブを着たいとは思わないが。いずれにせよ、“全滅バッチ”で処理すれば“呪布”も手に入る。ミイラは全滅確定だな。


 その後の階層で追加された魔物は、全長が大型の馬に匹敵し、分厚い外殻が黄褐色の砂岩のように硬く、ピラミッドの石壁と見分けがつかないほど保護色に溶け込んだ『サンドスコーピオン』。全身を淡い黄褐色の鱗に覆われ、壁や床の砂とほとんど同化している『サンドスネーク』。そして――


 (あれは、元の世界のピラミッドの壁画で見たことがあるな)


 人の胴体に獣の頭部を持ち、漆黒の石で彫り上げられたかのような無機質な姿。両腕を胸の前で交差させ、長柄の斧槍を抱える『アヌビス・ガーディアン』。


 これらの魔物も死体回収で問題なく処理できたため、俺たちは“全滅バッチ”で突き進み、地下三十階のボス部屋前へと到達した。

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